桃太郎は鬼の絶滅を嗤う   作:技巧ナイフ。

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蝶屋敷と“あいすくりいむ”

 百太郎は手に沢山の紙袋と手桶を持って門を潜ると、すぐに庭へと回る。

 ここは蝶屋敷。現在では蟲柱がこの屋敷の家主であり、その名の通り、多くの蝶がふわふわと周囲を絶え間なく飛んでいた。

 蟲柱は薬学に通じ、それも高じてか、ここでは任務によって怪我を負った隊士の治療も請け負っている。もちろん百太郎も幾度となくここで世話になり、時には蟲柱と共に今は亡き花柱の稽古を受けたこともあった。

 

 百太郎が持つ荷物の甘い香りに誘われて群がってくる蝶を追い払いつつ、庭で真っ白に洗ったシーツを干している2つ結びの少女へと声をかける。

 

「アオイちゃん」

 

「え?きゃっ!」

 

 突然声をかけられた少女———神崎アオイが振り向くと、鼻がつきそうな距離に百太郎の顔があった。

 思わず飛び上がった拍子に洗ったシーツが手から溢れるが、それは地面に落ちる前に受け止める。ちょっとした悪戯心で彼女の仕事を増やすわけにはいかない。

 

「び、びっくりした…。百太郎さま!驚かさないでください!」

 

「あはは、ごめんね」

 

「もう…。それで、本日はどのような御用向きで?」

 

「蟲柱さんに作ってもらった毒ついて報告をね。あとアオイちゃん、ちょっと目を閉じて口を開けて?」

 

「何故ですか?」

 

「いいからいいから」

 

 キビキビした受け答えが特徴的なアオイが眉間にシワを寄せて怪訝そうな顔を作ってきた。ある事情があって彼女は鬼退治の現場に出向けないが、それでも鬼殺隊の一員。柱の自分の言葉には素直に従ってくれた。

 持っていたシーツを片手で物干し竿へ掛け、手桶の中身を匙で掬って彼女の可愛らしい口の中へ入れる。

 

「っ⁉︎冷たい!……けど甘い?」

 

「美味しい?」

 

「は、はい…。もしかしてこれって」

 

「“あいすくりいむ”だよ。あとこっちは玉露とカステラとキャラメル。こっちは羊羹と練り切りね。これは食パン三斤入ってるから切って食べて。断面を軽く炙るのがおすすめ」

 

 目を開けたアオイに手桶と紙袋をそれぞれ渡し、中身を告げていく。全てのお土産を渡し終わると、彼女の手はもう何も持てない状態になっていた。

 

「またこんな高級品ばかりを!」

 

「まぁまぁ、いいじゃん。みんなで食べてよ。もし余ったら患者の隊士にもあげて構わないから」

 

「いや、そうではなくて…」

 

「ほらほら、早く行かないと“あいすくりいむ”溶けちゃうよ〜」

 

「でも洗濯物が!」

 

「僕が干しとくから大丈夫」

 

 アオイの背中を押して縁側に追いやり、すぐさま百太郎は洗濯物を干し始めてしまう。

 そこまでされれば、彼女も台所に荷物を置きにいくしかない。

 テキパキと仕事をこなす百太郎に後ろ髪を引かれる思いながら、アオイは屋敷の中へと戻っていった。それを見送り、素早く、しかし丁寧にしわを伸ばしてシーツを干していく。

 洗濯物はシーツだけに留まらず、今入院している隊士の隊服やら下着も多分に混ざっている。その量から推測するに、今はさほど患者が多いわけではないらしい。

 

「そういえば、上弦の睦を倒したんだっけ。その隊士のかな?」

 

 ほんの2ヶ月ほど前にまだ新人とも言える隊士3人と音柱が上弦の睦と交戦。見事討伐を果たしたとキジ太郎から聞いていた。

 上弦の鬼討伐はここ100年近くなかったことなので、鬼殺隊はひどく沸いたらしい。しかし、その戦闘で音柱は引退を余儀なくされるほどの怪我を負った。鬼殺隊側の損失もかなり大きい。

 

「あとで病室覗いてみよう、と」

 

 それほどの隊士ならば、一度くらい挨拶をしておきたい。もし目が覚めていれば、であるが。

 全ての洗濯物を干し終わり、空になった洗濯籠を持って百太郎も蝶屋敷へと入っていく。

 

 

 

 

 場所は変わって蝶屋敷の食卓。そこではアオイと3人の少女が百太郎の買ってきた“あいすくりいむ”に舌鼓を打っていた。

 しかし、その顔はあまり明るいものではない。

 

「あれ?もしかして気に入らなかった?」

 

 病室に行くついでに“あいすくりいむ”も配ろうと考えて立ち寄ったのだが、まさかこんな葬式みたいな雰囲気で食べているとは思わなかった。

 少しお土産選びの自信を無くしてしまう。

 

「あ、百太郎さん。ごちそうさまです」

 

「とっても美味しいです」

 

「私、“あいすくりいむ”なんて初めて食べました」

 

 すみ、きよ、なほ。アオイよりさらに年下である3人の女の子が口々に礼を述べてくれるが、やはりどこか表情に影がある。いつもならお土産の甘味に、全身を使って喜びを表現してくれるような天真爛漫さがあるのに。

 だが、お礼を忘れないところはいつもと変わらず、原因が分からないのでこれ以上は考えてないでおく。

 

「病室の患者さんにも渡したいんだけど、今そういうお菓子類を食べちゃダメな隊士はいるかな?」

 

「今起きている方々は皆さん大丈夫です。あの…そういった雑務は私達でやりますので」

 

「いや、こういう事こそ僕がやらないと。一応個人的な思惑もあるからさ」

 

「思惑…ですか」

 

「うん。思惑」

 

 なんとかアオイには納得してもらえるよう頼む。片目を瞑り、茶目っ気を出して極力“桃柱”という権力には頼らないよう心がける。

 

「ハァ…わかりました」

 

 柔らかな口調とは裏腹に、そこそこ頑固な百太郎。こうやってアオイが根負けする光景は蝶屋敷では珍しくなかった。

 彼女から現在の患者の人数を教えてもらい、台所から人数分の器と匙を持ち出して病室へ向かう。

 

 

 

 

 換気の為に開いたままになっている病室の扉をコンコンコンと叩く。別に誰かが許可を出すわけでもないが、最低限の礼儀だ。

 病室に入ると、音に気付いた隊士達がこちらを見ていた。

 

「こんにちは。皆さん、傷の具合はどうですか?」

 

 にっこり微笑むが、大半の隊士は自分が誰かわかっていない様子であった。

 それも無理はない。いくら“桃柱”とはいえ、百太郎は吉備乃家の人間だ。鬼殺隊の中では、合同任務であっても基本吉備乃家は吉備乃家の人間としか組むことがない。それは様々な要因があるが、1番の理由はやはり、吉備乃とそうでない者との価値観の違いが大きい。

 吉備乃の人間は鬼を殺すことが第一であり、人助けはその結果の副産物としか考えていない。逆に他の隊士はそれぞれ差異があれど、人命第一を旨としている。

 この違いはかなり大きい。なにせ、鬼退治の為ならば自分の命すら布石の1つとして勘定するような連中が、人命第一として出される命令を聞き入れるはずがないのだ。一応最低限の理性を持つ者にしか鬼殺隊に入る為の最終選別に行く許可は出していないが、それでも狂人と常人の隔たりは相互理解が及ばないくらい大き過ぎる。

 その結果、吉備乃家の人間は鬼殺隊の中でも浮いた存在だ。無論悪い意味で。たまに普通の隊士と吉備乃家の者が組むと、必ずと言って良いほど揉め事が起こる。そして全ての苦情は現当主の百太郎に集中するのだ。

 なので、百太郎のこういった蝶屋敷での行動は、ドン底に落ち切って余りある吉備乃家の好感度を、なんとか上げようという涙ぐましい努力と言える。

 

「“桃柱”の吉備乃百太郎です。皆さんに差し入れを持ってきました。アオイちゃんからの許可は貰っているので、遠慮しないでくださいね」

 

 “桃柱”と“吉備乃”という単語に病室の空気が笑えないくらい重くなるが、ここは爽やかな笑顔でなんとか乗り切るしかない。

 なにせ、吉備乃家の連中はどいつもこいつも『揉めるな』と言っても聞かないのだ。もちろん、自分だって同じ立場なら聞く気は毛頭無いので仕方ないのだが。

 なので、もう他の隊士の好感度を上がるしかない。これほど『徒労』という言葉が似合う行為はあるだろうか。

 

「はい、早く元気になってくださいね」

 

 なんとか笑顔を保ち、それぞれ1人ずつ手渡しで“あいすくりいむ”を渡していく。

 扉側から順に奥へ渡していくと、最奥の一角にやたらと目立つ3人がいることに気付いた。

 1人は金色の髪。1人は何故か猪の頭を被って寝ている隊士が1人。さらに1番奥は同じく眠る赤味がかった髪の少年で、脇には子どもが1人くらいは入れそうな木箱が置いてある。

 

「えっ⁉︎待ってこれ“あいすくりいむ”じゃない!嘘⁉︎本当に!お兄さん何者⁉︎そしてありがとうございます!!」

 

「あ、うん。どういたしまして」

 

 金髪の少年が無駄に汚い高音で礼を述べてくるので、なんとか笑顔で対応した。

 奥の2人はまだ眠っているが、全身包帯だらけなので任務中に大怪我を負ったのだろう。もしかしたらまだ任務以降一度も目を覚ましていないのかもしれない。とりあえず、1番奥の赤髪の少年の横に座る少女にも器を渡す。

 

「はい、カナヲちゃん」

 

「…………」

 

「どうぞ」

 

「…………」

 

「……?」

 

 少女———栗花落カナヲは百太郎の持つ器を見て、どうしようか迷った顔をしていた。その変化に、百太郎は首を傾げる。

 カナヲは蟲柱の継子———柱直々の弟子であり、とある事情で自己選択ができない。なので、いつもはニコニコと笑うだけで命令しない限りは一切行動を起こさないか、銅貨の表裏を利用した二択に頼るのだが、何故か今彼女は()()()()をしている。

 蝶屋敷で過ごした期間がある百太郎は、もちろん彼女ともその期間同じ時を過ごしたが、このような顔を見たのは初めてだ。しばらく会わないうちに随分と人間味が増したな、と少し感慨深くなってしまった。

 器をベッドの脇にある花瓶の横へ置き、百太郎はニヤリとからかうような笑みを浮かべる。

 

「カナヲちゃん、もしかしてその男の子のこと好きなの?」

 

「えっ……?いや…えっ…⁉︎違っ…炭治郎は…」

 

「あ、わかった。もうわかった」

 

「えぇぇ⁉︎カナヲちゃん炭治郎のこと好きなの⁉︎えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎……許せねぇ‼︎女の子に!好かれる!炭治郎は!とおぉんでもねぇ炭治郎どぅあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「違うの…私は別に……!」

 

 ここは病室だというのに、金髪の少年はまたもや汚い高音で騒ぎ出した。元気があって大変よろしい。

 

(それにしても、カナヲちゃんがね……)

 

 初めて会った時は、無機質という言葉を体現したかのような女の子だった。恋心どころか、当たり前の愛情すら注がれず育ったのだと聞き、自分と同じだなと思ってしまった。

 しかし、自分には吉備乃家の呪いとでも言えそうな幸福への道標があった。

 対してカナヲには本当に何も無かったのだ。伽藍堂の心をそのまま投影する瞳は、まるで石ころのようだった。それが今は恋心を知って原石へと変わっている。そして、いつか宝石へ———。この変化はきっと喜ばしいものなのだろう。

 

「その彼、早く元気になると良いね」

 

「……はい」

 

「ねぇやっぱりそうなの⁉︎カナヲちゃん、炭治郎にお熱なのぉぉぉ!」

 

「ウルセェェェェェェ!!」

 

 騒ぎ続ける金髪の少年へ、猪頭が野生動物のような俊敏さで飛び蹴りをぶちかました。どちらも病人とは思えないほど元気があり余っている。 

 しかし、やはりここは病室。これだけ騒げば、当然怒られるわけで———。

 

「善逸さん!また騒いでるんですか!」

 

「ア、アオイちゃんんんん〜!伊之助か蹴ってくるよぉぉぉ!」

 

「おいアカイ!腹減った!何か食い物寄越せ!」

 

「ア・オ・イ・で・す!食事はさっき取ったでしょ」

 

 流石にうるさ過ぎたのか、アオイが眉を吊り上げて駆け込んで来た。

 他の患者が『やれやれ』という顔をしているので、この光景はどうやら珍しくないようだ。病室としてそれは良いのだろうか。

 とりあえずここでの用は済ませたので、百太郎が部屋を出ていこうとすると、袖を掴まれた。カナヲだ。

 

「うん?どうかした?」

 

「あの…“あいすくりいむ”、ご馳走さまでした」

 

「美味しかった?」

 

「はい」

 

 本当に彼女は変わった。たとえ挨拶だとしても、自発的に話し掛けてくることはなかったというのに。お礼すら、花柱や蟲柱の彼女達から促されなければ言えなかったというのに。

 

(君が変えたのかな?)

 

 善逸と伊之助、そう呼ばれた2人の隊士がアオイにお説教されている、そのさらに奥。包帯でグルグル巻きの少年に目を向け、感謝の目礼を捧げておく。

 

 

 

「———というわけで、蟲柱さんが調合してくれた毒のおかげで人質の女性は死ななくて済んだよ」

 

「なるほど、わかりました。しかしその鬼は、どうやって百太郎さんの位置を把握していたのでしょう?考えられるものとすれば、水の反射ですが」

 

「別にどうでもいいんじゃない?ちゃんと退治したし」

 

 次に百太郎が訪れたのは蝶屋敷にある研究室。ここで鬼殺隊で同じく柱の1人にして、蝶屋敷の主である胡蝶しのぶへと今回の鬼退治の報告を行う。

 

「そういうわけにもいきません。似たような血気術を扱う鬼がこれからも現れるかもしれないでしょう?その時、隊士の命運を分けるものになるかもしれませんから」

 

「ふぅん」

 

 実を言うとキジ太郎を使って今回の報告書は提出しているのだが、彼女はそれ以上のものを要求してくる。

 確かに書面で読むよりも実際に戦った者の直感的な感想を聞いたほうが情報としては上だろう。だが、正直面倒であった。

 

「わかったよ。それじゃあ後で紙にまとめておくね」

 

「はい、お願いします。それと毒のことですが」

 

「うん?」

 

「具体的に、鬼へ効き始めたのは何秒ほど経過してからですか?」

 

「確か1秒もかかってないよ。具体的に、って言われると困っちゃうけど」

 

「十二鬼月ではない鬼に1秒未満ですか……。百太郎さんの私見で良いので、どの程度の強さか教えてもらえます?」

 

「う〜ん……以前交戦した鬼に十二鬼月から落とされた奴がいたんだけど、それくらいかな。少なくとも、体の強度は負けてなかったよ。さすがに下弦の弍よりは柔らかかった」

 

 毒を塗った鎧通しが貫いたうなじの感触を思い出し、慎重に答えていく。

 鬼の体の強度に対する感想は個人差があるので、多くの鬼を基準に論理立てなければならない。なにより、しのぶにとっては“斬る”ことより“突く”時の感触の方が伝わりやすい。そういう意味では、今回の殺し方は正解だった。

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

「伝わったかな?」

 

「はい。わかりやすかったですよ」

 

「それは良かった。あの毒、正式に吉備乃家に卸してもらっていい?もちろん材料費やら諸経費は全部ウチが持つよ」

 

「了解しました」

 

 ニコリと、今は亡き彼女の姉を彷彿とさせる笑顔で了承をもらう。

 元々『肆の実』で使う毒は吉備乃家が大量の藤の花をガリガリと適当に擦り潰して使っていたが、即効性は低かった。そこで試しに彼女へ即効性の高い毒を調合してもらった結果、素晴らしいものが出来上がった。

 もっと早く頼めば良かったと後悔したくらいである。

 

 仕事の話は終わり、百太郎は屋敷の台所でお茶を汲んでしのぶへと渡す。ここからは友人としての時間だ。

 

「そういえばアオイちゃん達が元気なかったけど、何かあったの?」

 

「あぁ〜、えぇ…まぁ。上弦の陸を倒した話はご存知ですよね?」

 

「うん」

 

「その倒した隊士の中に、あの子達が随分と懐いてる子がいまして。未だに目を覚さないので、心配しているのだと思います」

 

「目を覚さない隊士……。もしかして、赤味がかった髪の男の子?確か炭治郎って呼ばれてた」

 

「えっ……もしかして会ったことあります?」

 

「いや、さっき病室で見た。あの子だったんだね」

 

「はい。……百太郎さん、貴方の家の人間に彼との間に接近禁止令が出ているのは知っていますか?」

 

「え?初耳」

 

 首を傾げて答えると、しのぶが眉間を揉み解し始めた。何やら面倒事があるようだ。

 

「はぁ……。そうですか」

 

「あっでもね、当分の間ウチの一族が蝶屋敷に行っちゃダメとは聞いてるよ」

 

「はい、その通りです。なのに貴方は普通に来ましたね。えぇ、もう当たり前のように」

 

「報告があったからね。それにみんなにも会いたかったし」

 

「…………」

 

 激しくイラっと来た様子で笑顔が向けられる。昔なら腹パンが飛んでいただろう。

 

「まぁいいじゃん。僕、柱だし。その権限で特別に、ね?」

 

「『ね?』じゃありません。可愛く言ってもダメです。そもそも同い年の殿方が可愛い子ぶっても鳥肌ものなのでやめて下さい」

 

「辛辣過ぎない?」

 

「事実ですので」

 

 これでも昔は共に稽古場で汗を流した仲であるのに、ひどい言い草である。とはいえ、()()()()になってからここまで素をだす相手は自分だけだ。自分以外には張りぼての笑顔で接している。

 ため息代わりにお茶を一口飲み、話を続ける。

 

「それで、どうして接近禁止なの?またウチの人間と揉めた?」

 

「いえ。そういうわけではないのですが……すみません。理由は言えません。言えば貴方は彼に会いに行く」

 

「……なるほど。吉備乃家ならではの理由か」

 

「はい。ご理解いただけますね」

 

 恐らくこの詳細は知らない方が良い。知った時点で、ここまで自分の知らないところで手を回した多くの人の苦労が水泡に帰す。そして、それに対して自分は何も思わない。良心の呵責は生まれず、後悔もしないだろう。

 ならば、今後自分もあまりここには近付かない方が良い。今この時、炭治郎と呼ばれる少年が目を覚ますこともありえるのだ。

 

「わかったよ。だったら、とりあえず当分は僕もここに来ない。それでいいでしょ?」

 

「くれぐれもお願いします」

 

 それはつまり、炭治郎少年が存命の間は蝶屋敷の敷居が跨げないということだ。一時期は自分の家とも呼べる場所だった。仕方ないと割り切れるが、思うところはある。

 そんな感情が吉備乃の自分に現れていると自覚した時、百太郎は少し驚いた。蝶屋敷は、自分が思っている以上に気に入っているようだ。

 

「———ですが」

 

「うん?」

 

「私の友人として、カナヲの兄弟子として、アオイや、すみ、きよ、なほにお土産を渡したい。そういった理由であれば一報ください。相応に準備くらいはします」

 

 退室しようと背を向けていた百太郎は思わず振り向く。

 

「貴方は私達のことを特別扱いしてくれますが、私達にとっても貴方は特別なんですよ。それを忘れないでくださいね———()()()

 

「君から呼び捨てにされるのは、だいぶ久しぶりな気がするな。また来るよ———()()()

 

 それは、彼女の姉が死んでから置き去りになった記憶。その中で自分達は確かにそう呼び合っていた。






はい、いかがでしたか?ほのぼのとした蝶屋敷のお話でした。

Q.これは一体なんの話だったの?

A.オリ主が“あいすくりいむ”片手に蝶屋敷を徘徊するお話。

蝶屋敷の面々を特別扱いはするが、決して“特別”にならない百太郎。
百太郎が特別な人間ではあるが、決して“特別扱い”はしないしのぶさん。
似ているように見えて、お互いの関係はこのように相反しています。それはそれぞれの事情によるものがあります。察してもらえると嬉しいです(╹◡╹)
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