桃太郎は鬼の絶滅を嗤う   作:技巧ナイフ。

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合同任務

「我妻善逸くんとの合同任務なんだってさ。彼の容態は今のところどう?」

 

「……」

 

「ねぇ、蟲柱さん?聞いてる?」

 

「…………」

 

「もしもし?ねぇってば」

 

「………………」

 

「え、何?『蟲柱』だけに『無視』っていう高度なボケ……痛たたたたたっ!」

 

「よくもまぁ、あの空気を残したまますぐに戻ってこれましたね⁉︎」

 

 自身の()()()にいるしのぶに側頭部を拳でグリグリされ、百太郎は思わず悲鳴を上げる。とてつもなく痛い。

 

 つい先程それとなく彼女への気持ちを匂わせつつも、ハッキリしない曖昧な態度で蝶屋敷を出た百太郎は、3分と経たずに戻ってきていた。

 理由は百太郎の足元で退屈そうに後ろ足を使って頭を掻く犬……ではなく狼。この子が鬼殺の任務を持ってきたからである。

 吉備乃家は鎹烏の代わりにキジを使うが、実を言うとそれだけではない。他にもイヌ、サルと地形によって伝達に使われる動物が異なるのだ。

 今回は周囲にも民家が多いので、目立つキジではなく、イヌ()()()()()で育てられた狼のイヌ山イヌ太郎くん(メス)が来てくれた。ちなみにイヌではなく狼の理由は、鎹犬用に育てるつもりの子犬の中に、何故か混ざってしまっていたらしいとのこと。鬼を狩ること以外は大して細かいことを気にしない吉備乃家。『別に犬も狼も形は似てるから良いか』ということで、特に差別されることなく元気に育てられた。

 そして、しのぶが百太郎の肩の上に乗っている理由は至極単純。彼女は全身から毛の生えた生き物が苦手なのだ。

 

 端から見れば、桃色の羽織を着た男の肩に容姿端麗な美女、足元には狼という大変情報量の多い絵面だ。どちらも女の子なので、『両手に花』ならぬ『上下に花』だな、ととてつもなくどうでもいい言葉が頭に浮かぶ百太郎であった。

 

「この状況で、普通は会話しませんよね?どうして貴方はいつもいつもこちらの事情を考えないのですか?」

 

「いや、そう言われても……。とりあえず任務優先かな、と」

 

「この場合優先すべきは、まずその狼を外にやることです!」

 

「だとさ、イヌ太郎。ちょっと外に出ててくれるかな?」

 

 その辺の犬とは比べ物にならないほど大きいが、犬として育てた甲斐あって、挙動は犬そのもののイヌ太郎。意外にも円な瞳を、これでもか寂しそうに向けてくる。思わずモフモフしようとしゃがむが、しのぶの拳が再度側頭部に当てられたのでやめた。今度存分に甘やかそう。

 外まで出て行ったことを気配で確認したしのぶは、ようやく百太郎の肩から降りる。肩を回しながら、気付いたことを聞いてみる。

 

「また体重軽くなったんじゃない?」

 

「女性に対して体に関する数字を言及するのは失礼だって、昔教えましたよね?」

 

「ちゃんとご飯食べてる?」

 

「………………」

 

 気まずそうに目を逸らされた。まるで叱られた子どものようだ。

 

「……怒ってますか?」

 

「いや別に」

 

 彼女の決意は理解している。その経緯も知っている。結果がどうなるかも分かっている。だが、止める気はなかった。

 

「ハァ……。で、善逸くんとの合同任務でしたね?」

 

「うん。彼、一応怪我人だよね?病室でめちゃくちゃ騒いでアオイちゃんに叱られてたけど」

 

「問題ありませんよ。彼は上弦を倒した子達の中でも軽傷なほうでしたから」

 

「えっ、善逸くんって上弦を倒した新人隊士の内の1人なの?」

 

 表情にこそ出ないが、驚愕であった。病室での様子を見る限り、むしろ何故鬼殺隊に入ったのか謎な印象だったのだが。

 

「あれでも元鳴柱の下で修行を積んでたらしいですよ。正直なところ、才能はピカイチかと」

 

「それなら安心だね。上弦と戦って生き残ってるなら自衛も申し分ないだろうし」

 

「やはり、弱い隊士とは組めませんか?」

 

「組めなくはないけど、極力避けたいかな。弱い人はすぐ死んじゃう」

 

 隊士が死ぬところを見たくない、というわけではない。

 正確には、自分(吉備乃)と組んだ任務で死なれると、また吉備乃が隊士の命を使って鬼を狩ったという噂が立つからだ。一応百太郎は、同じ吉備乃家の人間以外を肉壁やら囮やらに使ったことはない。今のところ。

 そういった事実を含ませながらも、敢えて本音を伝わりづらく言語化するのも狂人の処世術と言える。

 

「ま、頑張ってみるよ。ちょうどさっき“あいすくりいむ”もあげたから、印象は悪くないだろしね」

 

「そうですか。貴方に限ってはないと思いますが、くれぐれも善逸くんを肉壁にしないように」

 

「もちろん」

 

 鬼を前にして逃げるようなことが無ければ、できるだけ協力して鬼退治していくつもりだ。

 逃げたら……まぁ、その時はその時である。

 

 

 

 

 病室へ行くと、未だにアオイが厳しい表情で善逸を叱りつけていた。

 百太郎は扉を3回叩き、2人の注意をこちらに向けてもらう。

 

「アオイちゃん、ちょっといいかな?」

 

「あ、ほら!アオイちゃん呼ばれてるよ!早く行かないと怒られちゃうんじゃない?」

 

「いや、用があるのは君なんだ。我妻善逸くん」

 

「「 えっ? 」」

 

 アオイと善逸の目が丸くなる。2人からすれば、急に戻ってきた桃柱が突然名乗ってもいない相手を指名したのだから当然だろう。

 

「お…俺?なんで桃柱が俺に?」

 

「うん」

 

「…………」

 

「……?」

 

「いぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ⁉︎」

 

 突然頭を抱えて汚い高音で悲鳴を上げる善逸。

 

「いぃぃぃやあぁぁぁぁいぃぃやぁぁぁぁ!えっ!なに⁉︎柱の1人ともあろうお方が俺になんのご用ですかぁぁ⁉︎」

 

「…………」

 

「ねぇなんなの⁉︎柱の用事とか絶対ロクなことじゃないじゃん!俺知ってるよ!だってつい2ヶ月前にもこんなことあったものぉぉ!!」

 

 その言葉に、アオイは苦しげに眉を歪めた。

 そういえば、2ヶ月前…いや、潜入任務だったのでもう少し前だ。上弦の陸が潜んでいた場所が遊郭ということで、見つけ出すための要員として音柱は最初にアオイを選んだと聞いた。しかし、ほぼ誘拐同然に連れて行こうとしたのを無視できなかった新人隊士三名が、その代わりを務めると言い出したらしい。

 つまり、善逸はアオイを庇った1人。その彼が目の前で件の事例を引き合いに出せば、アオイも後ろめたい気持ちになってしまうだろう。

 彼女には百太郎も世話になっている。吉備乃家の自分に対して分け隔てなく接してくれる数少ない人間だ。不可抗力とはいえ、彼女の悲しむ顔を見るのは心苦しい。

 

「……我妻善逸くん」

 

「は、はいぃぃぃ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!うるさくしてごめんなさい!でもね!もう柱とかイヤなの!とてもイヤなの!!」

 

 そこで、百太郎は1つ名案を思い付いた。善逸をこの病室から連れ出し、尚且つ関係を良好に深める素晴らしい案だ。

 

「———ご飯、食べに行こうか」

 

 

 

 

 共に食卓を囲むことは、良好な関係構築の補助に有効だ。

 食事をする時にお喋りする習慣がある者は多いし、なにより『好きな食べ物』という、誰もがあるだろう話題で盛り上がれる。

 あの瞬間、すぐさまここまで思い至った自分の頭脳に拍手喝采な百太郎であった。

 

 百太郎は入院着から隊服に着替えた善逸を引き連れ、蝶屋敷から少し離れた街に来ていた。ここはしのぶ行きつけの薬種問屋がある街で、百太郎も何度か来ているので土地勘がある。食事処も一通り把握しているので、相当ハイカラなものを要求されない限りは事足りるだろう。

 

「いや〜吉備乃さんめちゃくちゃ良い人なんすね〜」

 

 善逸の要望は『うなぎ』であり、そこそこ良い値段するのだが、百太郎が少し甘い態度を見せるとすぐさま遠慮を捨て去った。人はここまで図々しくなれるものなのかと、ちょっぴりビビった。

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。おかわり、いる?」

 

「はい!いただきます!」

 

 店員に頼む速度も恐ろしく早い。もはや蝶屋敷での怖がりようが嘘のようである。

 

「あとさ、吉備乃はやめてくれる?鬼殺隊に吉備乃って何人かいるから、ごっちゃになっちゃうんだ」

 

「そうなんですか。兄弟とか?」

 

「う〜ん…まぁそんな感じ。名字以外ならどんな呼び方でもいいよ」

 

「じゃあ……百太郎さん、って呼んでもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 要望しただけあり、うなぎが好物な様子の善逸は、嬉しそうにおかわりを作っているであろう厨房を、今か今かと眺めている。

 最低限、吉備乃の異常性が出ないように気を付けていた百太郎。今の会話で分かったが、どうやら彼は吉備乃家について知らないようだ。柱をも務めた育手ならば、普通は教えそうなものだが…。

 そのような思考は一旦脇に置き、善逸に向けて至極真面目な表情を作る。気配を察したらしく、彼は厨房に向けていた視線を百太郎に向けてくれた。

 

「さて、じゃあ本題に入ろうかな。僕が君に用があるって言った理由はなんとなく察してるね?」

 

「……………………………………はい」

 

「うん、めちゃくちゃ長い間。そんなに嫌だ?」

 

「そりゃ嫌ですよ!だって俺、とんでもなく弱いんですよ⁉︎今までだって炭治郎とか伊之助とか正一くんが守ってくれたからなんとか生きてるものの、本当なら今頃その辺で仏様かお星様になっちゃってるような弱味噌ですもの!!」

 

「あ、うん……」

 

 そんな南蛮銃の連続掃射みたく捲し立てられても困る百太郎であった。

 

「でも、一応君は上弦の陸を倒した隊士なわけでしょ?」

 

「みんなそう言いますけどね!全然記憶にございませんから!いつの間にか上弦の鬼の頸が斬れてたみたいだけどさ、俺なんて両足の筋ズタズタで瓦礫の下に埋まってただけだからね!なーんにもしてないの!」

 

「記憶にない?」

 

「はい!ついでに言えば、俺鬼と戦った覚えもありませんから!」

 

 とても元気に返事をされ、口がへの字になる。

 だいぶ奇妙な話なのでその辺りを問い詰めようとすると、おかわりのうなぎが来る。それによって善逸の意識はうなぎに向いてしまい、会話を続けるような空気ではなくなってしまった。

 

(妙だなぁ……)

 

 仮に上弦の陸との戦闘中、彼がずっと瓦礫に埋れていたとしよう。その間に仲間が鬼の頸を撥ねた。鬼殺隊的にどうかと思うが、別にあり得なくはない。

 しかし、これまでにも善逸は鬼と対峙してきただろう。なのに鬼と戦った覚えがないとはどういう意味なのか。鬼殺隊は誰もが一度は単独任務に出たことがあるはずだ。

 

(まぁ、任務に行けばわかるか)

 

 残念な結果にならないことを祈るばかりである。






はい、いかがでしたか? 善逸くん、好き。
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