アイツが変わったことを俺だけが知っている   作:波津木 澄

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第2話 理由

 衝撃の事実が発覚してから大体二週間が経った。

 この二週間、あいつのことを変に意識したりもした。

 しかし、結論から言おう。

 

 アイツは、俺の幼馴染は……本当に、俺の知っている通りの幼馴染だった。

 何一つとして、変わってなんていなかった。

 俺がしり込みしてしまうようなことに対して何も考えずに突っ込んでいくところも。

 何かに失敗してしまった時にすぐに俺に言いに来て、俺が手伝ってできたことをまるで自分の手柄のように誇るところも。

 ふとしたときに見せる子供のようなわかりやすい、嬉しそうな笑顔も。

 全部、俺の知っている幼馴染のままだった。

 

 ――変わってなんか、いなかったんだ。

 

 いっそ、変わってくれていたらそれでよかったんだ。

 変わっていたのなら"俺の知っている幼馴染"と、"目の前にいる幼馴染"を別人としてみることだってできただろう。

 変わっていたのなら俺はきっと"俺の知っている幼馴染"ではない"目の前にいる幼馴染"を好きになれたんだろう。

 けれど、変わっていなかった。

 

 この"目の前にいる幼馴染"は、どこまでも"俺の知っている幼馴染"でしかなかった。

 

「連、どうしたの?」『連、どうかしたのか?』

 

 俺の知る幼馴染と、目の前にいる幼馴染が俺の目の前に現れる。

 訳得だなんだと言っておいてなんだが、俺は相当に欲深く、面倒な人間らしい。

 

 自分の知っている幼馴染だから、俺の知っている幼馴染の顔が浮かんでどうにも好きになり切れない。

 俺の知らない面があることに、なんだかとてつもない違和感を覚えてしまう。

 結局、どこまでも俺が我儘なせいで、どこまでも自分勝手なことだ。

 

「連、本当に大丈夫?」『連、大丈夫なのか?』

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

 違う。本当は大丈夫なんかじゃない。

 ずっと俺はこの幼馴染を幼馴染として見れていないし、きっと態度だって"これまでの俺"と比べたら違うものになっている。

 俺の幼馴染はきっと気づいている。だからこうして俺に聞いているのだろう。

 

「ねぇ、連……もしかして、なんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

 俺の幼馴染はアホだがバカではない。

 俺がこれだけ分かりやすく上の空という事もあったんだ。もう核心を突いていてもおかしくは――

 

「来週末が付き合ってからの5周年ってことに気付いて何かしようとしてる……?」

 

「……………………」

 

「あー! 何も言わないってことはやっぱりそうなんだ! ムフフ、ボクは気づいてるんだよ!!」

 

 シリアスを返せよ馬鹿野郎。

 いや野郎じゃねぇけど。野郎じゃなくなってるけど!! だからって酷いだろうこれは……。

 

「変わんねぇな、やっぱり」

 

「え!? 何が!? ねぇねぇ何が変わってないの!? まさかボクの身長が低いことをバカにしてる?」

 

「さて、どうだろうな。……と言うか身長まだ気にしてたのか」

 

「むー! 何さその言い方、ひーどーいー!!」

 

 二人で話していれば、それだけでどんどんと盛り上がっていく。

 

「ははは、いやなに。随分と引きずってるからさ」

 

「……ふふ、ようやく笑ってくれた。連ってばここのところずーっと眉間にしわ寄せてるんだもん。おじいちゃんみたいになっちゃうよ?」

 

「…………なんだ、気づいてたのかよ」

 

「気づかないわけがないでしょう? だってボクの大好きな人のことなんだからさ」

 

 …………ああ、まったく。

 やっぱり、俺の幼馴染はアホだ。

 

 ――だが、バカじゃない。

 

「ボクを助けてくれたヒーローのことくらい、ちゃんと見ててあげないとね」

 

「ヒーローって……俺はそんなこと言われる人間じゃねぇっての」

 

「ううん、ヒーローだよ。連は、ボクにとっての」

 

「違うと思うんだがなぁ……」

 

 俺がヒーローだっていうのなら、きっと人間はみんなヒーローになれるだろうさ。

 だから、俺はヒーローじゃない。ヒーローってのは誰もを救う特別な奴なんだから。

 

「――最初はさ、別に何でもなかったんだよ」

 

「おい、何だよ急に。なんで急にシリアス始めようとするんだよ」

 

「ボクは、引っ込み思案で、いっつも連の陰に隠れてた」

 

「ねぇ、人のシリアス邪魔するくせに自分はシリアス押し通そうとするのやめようぜ?なぁ、聞いてる?」

 

「それでさ……5年前、覚えてる?」

 

 ……ほんとにやめる気ねぇなこいつ。

 そんなことを思いはしたが、俺だって5年前のことは覚えているさ。

 5年前、中性的な容姿をしていたこいつは変質者に襲われそうになったことがある。俺と遊んでいる途中だったから、気づけて助けに入ることはできたが……。

 あの時俺が居なかったらと思うとゾッとする。

 

「連が、助けてくれたんだよ」

 

「俺は結局何もできなかっただろうが。ただわめいて、たまたま大人が来ただけだ」

 

「それでも、連はボクを助けようとしてくれた」

 

 "その後だよ"、と俺の幼馴染は続ける。

 

「キミがボクを守るって、そう約束してくれたじゃん」

 

「確かに言ったが……守れてるのかは怪しいよな」

 

「ふふ……。キミがそう言ってくれて、いっつも一緒に居てくれた。最初は何とも思ってなかったのに、段々連にドキドキしちゃうようになってさ……」

 

 俺の幼馴染の独白は続く。

 

「ボクは、ボクのヒーローである連に落とされたんだよ」

 

「……そうかよ。ほら、お前の家着いたろ。さっさと行け」

 

「全くもう。照れちゃって可愛いなぁ」

 

「……うっせ」

 

 なんとなく気まずくて、そっぽを向く。それがまた照れ隠しをする子供みたいでみっともなく思えた。

 けれど、そんなこと思った次の瞬間に俺の頬に柔らかいなにかが当たる。

 

「な、な……!」

 

「ちょっと早いけど5周年記念だよ。ありがたく受け取ってね。……じゃ!」

 

 顔を赤く染めた幼馴染がドアの向こう側へと消える。

 俺は一人頬に手を当てて立ち尽くしていたが、少ししてようやく頭が動き出す。

 

「……何が変わってねぇだよ。滅茶苦茶変わってんじゃねぇか…………」









シリアスとギャグを細かく分けて温度差で風邪をひかせに行け(季節の変わり目は怖いから気をつけような!!)
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