アリスは、ある日手招きをするウサギと出会います。
ウサギに誘われるままに、好奇心のままに、アリスは不思議の国へと招かれたのでした。
「アリス起きて、アリス」
体を揺する感触、女の子の声が聞こえる。
「んぅ…」
「おはよう、アリス」
体を起こし目を開くと、見慣れたうさ耳が見えた。
「アリスは寝坊助さんだね」
うさ耳を生やした白髪の少女だ。
「…だれ?」
「まだ寝惚けてるの?」
「いや、本当に誰…?というか、何処だ?ここ…」
見回してみるに、木造の家のシングルベッドに自分は寝かされていたらしい。
「ここはボクのお家、そしてボクの名前は白ウサギさ、アリス」
そう言って、微笑みながら頭を撫でてくる。
「白ウサギ…?」
「そうだよ」
「…いや、ちょっと待てアリスって、アリスのことか?…あれ」
自分のことをアリスと呼んでしまった。
「その通りさ」
「え、いやだって、アリス、は…」
金髪が視界に入った。
自分の髪は、こんなに長かっただろうか。
自分の声は、こんなに高かっただろうか。
自分は…
「アリスは、誰なんだ…?」
「わぁお、記憶喪失のテンプレだね」
「鏡…」
「大丈夫さアリス、落ち着いて、姿見はすぐそこにある」
「さぁ、手を取って」
紳士の様に差し出された手を取ると、優しく立ち上がらせてくれた。
そのまま、鏡の前まで手を握ったままエスコートしてくれる。
鏡に映っていたのは…
「これが、アリス…」
「そう、この非の打ちどころのない金髪美少女がアリスだよ」
「そんな…アリスは男…」
「…あれ?可笑しいな…いつもなら、喜ぶなりもっと褒め称えろなり言ってくるんだけど…」
「そうだ」
胸を鷲掴みにした。
…嘘だ、無乳だったから、掴むところはない。
ならば…
「わー!ちょっとアリス何してるの!?」
「何って、調べてるんだよ!」
「何を!?」
「性別をだよ!」
胸が駄目なら、聞く場所は一つだろう!?
「アリスは女の子だよ!?というか人の家で何しようとしてるのさ!?」
「はっ!」
そうだ、こんな美少女の前で急に脱ぎ始めるとか男だったらアウトだ!
いや、女の子でもアウトだ!
「ご、ごめん」
「あ、はは…本当にも~」
今更、正気に戻って顔が真っ赤になる。
今までのやり取り全部、恥ずかしすぎではないだろうか。
「混乱しているね、アリス」
「でも大丈夫、きみが今すべきことを、ボクは教えてあげられる」
「すべきこと…?」
「そう!まずは着替えよう、とびっきりおめかししようね」
「…え?」
「さ、まずはその男の子みたいな服を脱ごうか」
「え、ちょ」
「さぁさぁ」
「待っ!?」
手慣れた様子で脱がされた。
さっき脱ごうとしてたのを止めていたのは何だったのか。
そのまま縞々のストッキングを履かされ、エプロンドレスを着せられ、リボンカチューシャを付けられた。
「これで完璧だね」
「まるで、不思議の国のアリスだな…」
「これが、きみの正装だよ」
「正装?」
「そう、この世界での正しい服装」
この世界…?
「さ、じゃあ行こうか」
「何処に」
「もちろん、お茶会にさ」
「ちょっと最初から説明してくれない?」
「じゃあ、そうだね」
「きみはお茶会に招待され、この世界に訪れた」
「この世界って?」
「ワンダーランドだよ」
「より一層、不思議の国のアリスだな…」
「だから、きみは友達のボクの家で一旦合流してから、お茶会に向かう予定だった」
「うんうん…」
「ところで、今の時刻は15時」
「うん?」
白ウサギが懐中時計を取り出し、盤面を見せながら言った。
「お茶会は15時からだよ」
「なんで起こしてくれなかったのさ!?」
「あっはっは」
「もう!」
「大丈夫、みんな優しいから…」
「そういう問題じゃないだろ!?」
出口と思しき扉まで駆ける。
「いってらっしゃーい」
「白ウサギも行くんだよ?!」
「えー、だって怒られたくないし…」
「さっきと矛盾してるぞ!」
さっきまで抱いてたミステリアス美少女な印象を返せ!
「しかも案内役無しにどうやって会場に行くんだよ!」
「あーそっかー」
やれやれと言わんばかりの動きでこちらを向く。
「仕方ないなぁ」
「元はと言えば、白ウサギが起こさなかったのが悪いんだろがー!!!」
「そうカッカしないで、さ、行こっか」
「誰のせいだと!」
「こっちだよ」
そう言って白ウサギは鏡の中に姿を消した。
「…」
「えーーーーー!?」
鏡を見つめたまま、暫く呆然とするのだった。
白兎にとってそれは、ただの好奇心でした。
自分が居なくなったら、どんな反応をするのだろうと。
必死に自分を探す声が、近づくのが分かりました。
白兎は、観念して姿を見せようとしましたが。
足を踏み外し、崖から落ちてしまいました。
最後に見たものは、手を伸ばしながら自身の名前を呼ぶ───