不思議の国の■■■   作:Feles

6 / 9
到着した城では、ついさっき別れたジャックが裁判に掛けられていました。

ハートの女王様にアリスが減刑を求めるものの、聞き入れられず死刑が執行される、その時です。

現れたハートの王様が真実を語り始めます。


裁判場

「白ウサギ、待ちくたびれました、早くこちらに来なさい」

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、女王陛下」

 

到着したハートランド城の謁見の間では、裁判が行われているようだった。

入るなり、白ウサギが女王に呼び出された。

 

「ごめんね、アリス、ちょっとだけ行ってくるよ」

 

「うん、何するのかは知らないけど、いってらっしゃい」

 

白ウサギは、トランプの兵士から紙を受け取り、女王の前に立った。

女王が話し始める。

 

「これより、裁判を始めます」

 

「始めてちょうだい、白ウサギ」

 

「はい、では」

 

「今回の裁判において、原告は女王陛下、被告は宮廷執事のジャックさんです」

 

「被告の罪状を、読み上げます」

 

「被告は、原告が15時に食べるはずだったタルトを盗んだ罪に問われています」

 

「原告より、死刑判決を求められています」

 

「被告から、反論はありますか?」

 

「…」

 

「沈黙は肯定とさせていただきます」

 

「続いて、証拠調査に移ります」

 

「第一証人、帽子屋さん、前へ」

 

「はい」

 

「え」

 

女王に国を追われたはずの帽子屋が何故ここに居るのだろうか。

女王は、ほくそ笑んでいる。

 

「証言を、どうぞ」

 

「…」

 

「…帽子屋さん?」

 

「何を黙っているのですか、早くしなさい」

 

女王が苛立った様に言う。

 

「…はは、いえ、ワタシはしがない帽子屋ですから、何もお答えすることはありません」

 

「…そうですか」

 

「トランプ兵達、連れて行きなさい」

 

帽子屋がトランプ兵達に、囲まれる。

考える前に、体が動いた。

陪審員席から飛び出そうとした…が、腕を掴まれてしまった。

 

「やめて」

 

「眠りネズミ…!」

 

「キミまで捕まるだけだよ」

 

「…でも!」

 

「動くな、黙れ」

 

腕を掴む力が強くなった。

痛い…!

そうしてる間に、帽子屋はトランプ兵達と共に消えた。

 

「裁判を続けます」

 

「第二証人、宮廷料理人、前へ」

 

「はい」

 

「証言を、どうぞ」

 

「はい、私は、この目で見ました」

 

料理人は震えた声で答えた。

 

「何をですか?」

 

女王は微笑みながら問い掛ける。

 

「…ジャックが、調理場からタルトを持ち出し、自室のある城の西側に向かうところを、です」

 

料理人は絞り出すような声で、証言した。

 

「よろしい」

 

「お下がりください」

 

料理人は青ざめた顔で退室した。

 

「続けます」

 

「第三証人、アリスさん、前へ」

 

「え?!」

 

「どうぞ、証言台まで」

 

「は、はい!」

 

証言台の前に立つ。

何も聞いてないぞ!?

 

「アリスさん、落ち着いてください、私が聞くことに対して、“はい”か“いいえ”で答えるだけで結構です」

 

「わ、分かりました」

 

「それでは、お聞きしますが」

 

「貴女は、この国に訪れた際に怪しげな会話を耳にされましたね?」

 

「えっと…」

 

怪しげな会話…?

 

“はい、後はタルトだけです”

 

「アレ、かな…?」

 

「あるんですね?」

 

「は、はい」

 

「内容をどうぞ」

 

聞いた言葉をそのまま、話した。

 

「さて、これは、貴方ですね?ジャックさん?」

 

「…」

 

「沈黙は肯定とします」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「お下がりください」

 

「は、はい」

 

陪審員席に戻った。

と同時にトランプ兵達が帰ってきた。

 

「どうでしたか?」

 

「はっ、執事長室にて、タルトは発見できませんでした」

 

「そう…」

 

帽子屋を連れて行った後に、ジャックの自室を調べに行っていたようだ。

 

「それでは、ここまでの証拠を整理いたします」

 

「まず、料理人にジャックさんはタルトを、自室のある城の西方面へ持ち出す瞬間を目撃されています」

 

「ですが、執事長室でタルトは発見されませんでした」

 

「しかし、アリスさんがジャックさんと怪しげな人物の会話を聞いています」

 

「ジャックさん、貴方は一体、誰にタルトを渡されましたか?」

 

謁見の間の全ての目がジャックへと向く。

 

「…」

 

「お答えください、ジャックさん」

 

「いいえ、結構です」

 

女王は、そう言い放った。

続けて、話し出す。

 

「既に彼が盗んだことは確定しています」

 

「はい」

 

「よって、今すぐ斬首刑です」

 

「分かりました」

 

「トランプ兵達」

 

「はっ」

 

「なっ」

 

確かにそうだが、まだ事情とかそういうのがあるだろ!?

 

「待って!」

 

眠りネズミの拘束を振り切り、前に出た。

 

「どうされました、アリスさん」

 

「しょ、証言します」

 

「結構です」

 

「クソっ!」

 

即座に女王に切り捨てられた。

白ウサギに目を向けるが、いつに無く冷たい目をしている。

目の前で斬首刑見せられるとか、絶対嫌だ!

 

「クイーン」

 

突然、女王を呼ぶ声が部屋に響いた。

声の方を向くと、女王にそっくりな赤髪の少年が立っていた。

そのすぐ後ろに、死にかけた顔をした、ついさっき退室した料理人が壁に凭れ掛かっていた。

 

「キング!」

 

今までの、冷たさが嘘のような嬉し気な声。

年相応な表情を浮かべた女王が居た。

キングということは、彼がハートランドの王様だろう。

 

「これは、どういうことかな?クイーン」

 

「キング!聞いて!ジャックが私達を虐めるのよ!」

 

「ジャックが?」

 

不思議そうな表情を浮かべたキングと呼ばれる少年の声を聞いて、思い出した。

 

“準備は順調かな?”

 

あの声だ。

 

「女王様」

 

「…なに?」

 

「証言をする」

 

「さっき言わなかった?結構ですって」

 

「タルトを盗んだ犯人が分かった」

 

「…え?」

 

「…タルト?」

 

タルトと聞いて王様の表情が険しくなる。

 

「そうだ、タルトを盗んだのは、お前だな?王様」

 

「なんですって?!」

 

「盗んだ?」

 

「後で説明してやるから、今は質問に答えてくれ」

 

「分かった」

 

「お前の部屋に、そこの料理人が作ったタルトがあるな?」

 

「うん」

 

「え!?」

 

女王が驚きの声を上げる。

 

「王様、お前が料理人にタルトを作らせた」

 

「うん」

 

「そして、お前はジャックに部屋まで運ぶように頼んだ」

 

「うん」

 

「ついでに部屋に何かしらの準備も頼んでたな?」

 

「飾り付けをね」

 

「なるほど、誰と一緒に食べる予定だったんだ?」

 

「クイーンとね」

 

「…え」

 

女王が固まった。

 

「王様、女王様に詳しく説明してやってくれ」

 

「良いよ」

 

王様は、とても優し気な声で話し始めた。

 

「クイーン、今日が何の日か、覚えているかい?」

 

「…分からないわ」

 

「今日は僕らの誕生日だよ、クイーン」

 

「だから、僕は宮廷料理人に、君の大好きな苺のタルトを頼んでおいたんだ」

 

「それからジャックに、部屋の準備を頼んで、僕は城下町に出掛けた」

 

「プレゼント、頑張って考えてみたよ」

 

「後は、僕は部屋で待機して、ジャックが君を呼ぶのを待つだけだった」

 

「突然、扉が乱暴に開け放たれて、転がり込んできた料理人が僕を抱えて、ここまで運んできたんだ」

 

「そして、今に至るわけだね」

 

「…」

 

王様は女王様の頭を撫でながら続ける。

 

「クイーン、何がどうしてこうなったのか、言ってごらん」

 

「…わ、私、苺のタルトを見つけて、欲しくなったの」

 

「うん」

 

「一人で全部食べるのを想像して」

 

「うん」

 

「寂しかった」

 

「…うん」

 

「キングと一緒に食べたいって思って」

 

「うん」

 

「だから、これは私の物にするわ、誰にもあげちゃ駄目よって」

 

「うん」

 

「楽しみにしてたのに」

 

「うん」

 

「アイツが、ジャックが部屋に持っていったって言うから」

 

「うん」

 

「まただって、ジャックはアイツらになったんだって」

 

「キングを虐めるアイツらに!」

 

「だから!だから…」

 

「うんうん、大丈夫、大丈夫」

 

王様が女王様を抱きしめ背を擦る。

 

「ご、めんなさい…」

 

「僕も、ジャックも、怒っていないよ」

 

「わ、私のこと嫌いにならないで!」

 

「嫌いになったりしない」

 

「私を置いて行かないで!」

 

「置いて行ったりしない」

 

「私を一人にしないで…」

 

「一人ぼっちになんてしない」

 

謁見の間に女王のすすり泣く声が響き続けた。




女王は王のことが大好きです。

どんな時も一緒に居たかった。

どんなことも一緒にしたかった。

どんなものも共有したかった。

ある日、王は姿を消しました。

ほんの少し目を離した隙に。

どれだけ待っても帰ってきませんでした。

置いて行かれてしまったのです。

捨てられてしまったのです。

だから、女王は要らないものを捨てました。

何もかも、全て。

自分すらも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。