不思議の国の■■■   作:Feles

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王様は、この世界全てが劇であると言いました。

アリスを帰す為だけの、大掛かりな舞台であったと。

アリスには、二つの選択肢が与えられています。


謁見の間

泣き声が止み、小さな寝息が聞こえ始めた頃。

 

「…ジャック」

 

「はい」

 

「部屋まで、運んであげて」

 

「かしこまりました」

 

女王を抱えたジャックは足音も立てずに素早く退室していった。

 

「ごめんアリス、ボクも女王様が心配だから…」

 

「いってらっしゃい」

 

「うん、いってきます」

 

白ウサギも、静かに後を追いかけて行った。

 

「…さてと」

 

王様が部屋を見渡す。

 

「ごめんねみんな、集まって貰って悪いんだけれど」

 

「裁判はこれでお終い、気を付けてお家に帰ってね」

 

一人、また一人と国民達が大扉から出て行く。

後に残ったのは、自分と王様だけ。

 

「ようこそ、アリス」

 

「ハートランド城へ」

 

「待っていたよ」

 

「…どういうことだ?」

 

「僕たちは君を待っていた」

 

「僕は君の目的を知っている」

 

「そして、それがクイーンにしか叶えられないことも」

 

「クイーンが目覚めるまで、お茶でも如何かな?」

 

「どうぞ、こちらへ」

 

「うわ」

 

いつの間にか戻ってきていたジャックが椅子を引き、待ち受ける。

テーブルの上には既に紅茶が淹れられ、お菓子が並べられている。

王様が席に着いた。

 

「さぁ、座りなよ」

 

「…失礼します」

 

恐る恐る椅子に腰掛けた。

王様と対面する。

ジャックはそのすぐ後ろに待機している。

 

「君に話したいことが、沢山ある」

 

「でも君にも聞きたいことがあるだろう?」

 

「まずは、君の質問を受け付けようか」

 

「何から聞きたい?」

 

「…」

 

少し考えてから、質問をした。

 

「待っていたっていうのは、どういうことだ?」

 

「言葉通り、僕らは君がこの城に辿り着くのを待っていた」

 

「僕らっていうのは?」

 

「僕とジャック、そして白ウサギ」

 

「白ウサギは分かるが、なんでお前らも」

 

「さっきの茶番劇、どうだった?」

 

「…え?」

 

「シナリオ通りに進まなくて白ウサギ、悲しそうだったね」

 

「ね、ジャック?」

 

「そうですね」

 

急な話について行けない。

 

「…シナリオって、なんだよ」

 

「裁判に参加したアリスは、理不尽なジャックへの判決に女王へ抗議する」

 

「女王の不興を買ったアリスは、トランプ兵達を差し向けられ、襲い掛かられる」

 

「聞き覚えは?」

 

「不思議の国のアリスの、ラストか?」

 

「その通り」

 

「そうして、アリスは夢から覚めるはずだった」

 

「でも、実際はどうだった?」

 

「王様が登場し、女王は懺悔し、アリスは未だに夢の中」

 

「物語をぶち壊したのは、誰?」

 

「誰って…」

 

お前じゃないのか。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいよね」

 

「他に聞きたいことはある?」

 

「…じゃあ、お前らは知ってて、裁判を受けたのか」

 

「その通りでございます」

 

少しも気にした様子もなくジャックは答えた。

 

「危うく、死にかかったんだぞ」

 

「ジャックって死刑になるの何回目だっけ?」

 

「6回目でございます」

 

「はぁ?!」

 

あまりに、多すぎる。

 

「まぁ、そういうこと」

 

「そ、そうか」

 

「あぁ言っておくけど、クイーンが本気じゃない訳じゃないよ」

 

「しっかりジャックは5回死刑を受けた」

 

「なっ…」

 

「そして、クイーンに望まれて、今もここにいる」

 

「ど、どうやって」

 

それは死んで、生き返ったということになる。

 

「だから、クイーンがそう望んだんだ」

 

「ジャックは比較的、そうなりやすい」

 

「帽子屋は流石に、逃がしたけどね」

 

「そう望まれないから、か?」

 

「そうそう」

 

女王は絶対的な力を持つ、ということだろうか。

それでは、まるで。

 

「クイーンの言うことは、絶対だ」

 

「よくそれで、反乱が起きなかったな」

 

「起きないさ、トランプ兵は全て人形だし」

 

「何より、この国を」

 

「電気を、魔法を、世界を創ったのは」

 

「他でもない、クイーンだから」

 

「なぁ?!」

 

「全ての国民に無償で、平等に、永遠に、与えられる」

 

「クイーンの機嫌さえ損ねなければね」

 

「そんな馬鹿な…」

 

一体どうやって、こんな理想郷を実現させているというんだ。

 

「もう質問はいいかな?」

 

「あぁ…何故クイーンが元の世界に戻せるのかも、よく分かった…」

 

「そう、そうだね」

 

「元の世界」

 

「元の世界に帰ることが、君の目的だね?」

 

「あぁ…」

 

「本当に?」

 

「…え?」

 

疑問にすら思ったことが無かった。

帰って当然だと、思っていた。

それを今、揺るがされた。

 

「な、何を言って」

 

「どうして君は元の世界に帰りたい?」

 

「な、なんでってそりゃ、家族が」

 

「家族なら、居るじゃないか」

 

「…は?」

 

「君の大切な、大切な家族が」

 

「ど、何処に」

 

「わざわざ、もう一度迎えに来てまで元の世界に連れて帰ろうとした」

 

「白ウサギが」




王は女王のことが大嫌い(だいすき)です。

両親の愛を独り占めした女王が。

どんな時も、何をしても、付き纏う女王が。

手にした全てを分け与えてくる女王が。

自分にだけ綺麗な笑顔を見せる女王が。

(あくま)を見てくれる女王(てんし)が。

(あくま)を愛してくれる女王(てんし)が。

(いとし)くて(いとし)くて堪りません。

だから。

(あくま)の居ない世界で、不幸(しあわせ)になって欲しかった。
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