アリスを帰す為だけの、大掛かりな舞台であったと。
アリスには、二つの選択肢が与えられています。
泣き声が止み、小さな寝息が聞こえ始めた頃。
「…ジャック」
「はい」
「部屋まで、運んであげて」
「かしこまりました」
女王を抱えたジャックは足音も立てずに素早く退室していった。
「ごめんアリス、ボクも女王様が心配だから…」
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます」
白ウサギも、静かに後を追いかけて行った。
「…さてと」
王様が部屋を見渡す。
「ごめんねみんな、集まって貰って悪いんだけれど」
「裁判はこれでお終い、気を付けてお家に帰ってね」
一人、また一人と国民達が大扉から出て行く。
後に残ったのは、自分と王様だけ。
「ようこそ、アリス」
「ハートランド城へ」
「待っていたよ」
「…どういうことだ?」
「僕たちは君を待っていた」
「僕は君の目的を知っている」
「そして、それがクイーンにしか叶えられないことも」
「クイーンが目覚めるまで、お茶でも如何かな?」
「どうぞ、こちらへ」
「うわ」
いつの間にか戻ってきていたジャックが椅子を引き、待ち受ける。
テーブルの上には既に紅茶が淹れられ、お菓子が並べられている。
王様が席に着いた。
「さぁ、座りなよ」
「…失礼します」
恐る恐る椅子に腰掛けた。
王様と対面する。
ジャックはそのすぐ後ろに待機している。
「君に話したいことが、沢山ある」
「でも君にも聞きたいことがあるだろう?」
「まずは、君の質問を受け付けようか」
「何から聞きたい?」
「…」
少し考えてから、質問をした。
「待っていたっていうのは、どういうことだ?」
「言葉通り、僕らは君がこの城に辿り着くのを待っていた」
「僕らっていうのは?」
「僕とジャック、そして白ウサギ」
「白ウサギは分かるが、なんでお前らも」
「さっきの茶番劇、どうだった?」
「…え?」
「シナリオ通りに進まなくて白ウサギ、悲しそうだったね」
「ね、ジャック?」
「そうですね」
急な話について行けない。
「…シナリオって、なんだよ」
「裁判に参加したアリスは、理不尽なジャックへの判決に女王へ抗議する」
「女王の不興を買ったアリスは、トランプ兵達を差し向けられ、襲い掛かられる」
「聞き覚えは?」
「不思議の国のアリスの、ラストか?」
「その通り」
「そうして、アリスは夢から覚めるはずだった」
「でも、実際はどうだった?」
「王様が登場し、女王は懺悔し、アリスは未だに夢の中」
「物語をぶち壊したのは、誰?」
「誰って…」
お前じゃないのか。
「まぁ、そんなことはどうでもいいよね」
「他に聞きたいことはある?」
「…じゃあ、お前らは知ってて、裁判を受けたのか」
「その通りでございます」
少しも気にした様子もなくジャックは答えた。
「危うく、死にかかったんだぞ」
「ジャックって死刑になるの何回目だっけ?」
「6回目でございます」
「はぁ?!」
あまりに、多すぎる。
「まぁ、そういうこと」
「そ、そうか」
「あぁ言っておくけど、クイーンが本気じゃない訳じゃないよ」
「しっかりジャックは5回死刑を受けた」
「なっ…」
「そして、クイーンに望まれて、今もここにいる」
「ど、どうやって」
それは死んで、生き返ったということになる。
「だから、クイーンがそう望んだんだ」
「ジャックは比較的、そうなりやすい」
「帽子屋は流石に、逃がしたけどね」
「そう望まれないから、か?」
「そうそう」
女王は絶対的な力を持つ、ということだろうか。
それでは、まるで。
「クイーンの言うことは、絶対だ」
「よくそれで、反乱が起きなかったな」
「起きないさ、トランプ兵は全て人形だし」
「何より、この国を」
「電気を、魔法を、世界を創ったのは」
「他でもない、クイーンだから」
「なぁ?!」
「全ての国民に無償で、平等に、永遠に、与えられる」
「クイーンの機嫌さえ損ねなければね」
「そんな馬鹿な…」
一体どうやって、こんな理想郷を実現させているというんだ。
「もう質問はいいかな?」
「あぁ…何故クイーンが元の世界に戻せるのかも、よく分かった…」
「そう、そうだね」
「元の世界」
「元の世界に帰ることが、君の目的だね?」
「あぁ…」
「本当に?」
「…え?」
疑問にすら思ったことが無かった。
帰って当然だと、思っていた。
それを今、揺るがされた。
「な、何を言って」
「どうして君は元の世界に帰りたい?」
「な、なんでってそりゃ、家族が」
「家族なら、居るじゃないか」
「…は?」
「君の大切な、大切な家族が」
「ど、何処に」
「わざわざ、もう一度迎えに来てまで元の世界に連れて帰ろうとした」
「白ウサギが」
王は女王のことが
両親の愛を独り占めした女王が。
どんな時も、何をしても、付き纏う女王が。
手にした全てを分け与えてくる女王が。
自分にだけ綺麗な笑顔を見せる女王が。
だから。