不思議の国の■■■   作:Feles

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捨てられた国のアリス。

忘れ物を見つけに来た。

その忘れ物の名前すら忘れてしまったけれど。


捨てられた国

「アリス、この世界で暮らさないかい?」

 

「…なんでそうなるんだ?」

 

「だってさ、本当に君に帰る場所があるのかなって思って」

 

「君の“家族が待っている”という認識は、きっとこの世界によって設定された気持ちなんじゃないかな」

 

「アリスには少なくとも、姉が居る」

 

「そういう話だった」

 

「でも、君の本当の家族は、白ウサギはこの世界にいる」

 

「だからさ…」

 

「それでも、分かんないだろ」

 

「白ウサギが俺の何かはちょっと分かんないけど、たぶん妹だとして」

 

「外には父親と母親が待ってるかもしれないじゃないか」

 

「…はは、そうだね」

 

王様は可哀そうなものを見る目をして、こちらを見た。

長い沈黙の後、悩むような顔で話し出した。

 

「…今から話すのは、別に真実とかじゃない」

 

「僕の妄想だと思ってくれていい」

 

「あぁ、分かった」

 

「じゃあ、話すけど」

 

「この世界は“捨てられたもの”で出来ている」

 

「最初に捨てられたのは、僕」

 

「僕は、この世界をゴミでできた国、捨てられた国と呼んでいた」

 

「最初は、捨てられた物だけでできた国だった」

 

「そんなところに流れ着いた僕、心当たりもある」

 

「だから、元の場所に帰るなんて、少しも考えなかった」

 

「偶然だった」

 

「この世界の心臓を見つけたのは」

 

「最初は何に使うのかも分からずに、ただ持っていただけだった」

 

「今はクイーンが持っているよ」

 

「それで何が出来るか、は言わなくてもいいね」

 

「ハートランドが出来て」

 

「捨てられた者は、住人に」

 

「捨てられた物は、資材になった」

 

「そう、君たちも例外じゃない」

 

「本当に、君たちに帰る場所があると思うの?」

 

「そ、れは…」

 

何も、言い返すことは出来ない。

これが真実だとするならば、だが。

 

「君に“は”帰る場所があるよ」

 

「え…?」

 

「白ウサギはそう言った」

 

「だから、君だけを帰したのさ」

 

「どうして戻ってきたんだい?」

 

「君のせいで白ウサギは苦しんでるよ」

 

「これだけ大掛かりなお芝居をセッティングするのも、協力者を集めるのも大変だったろうね」

 

「君を帰す為だけに」

 

「しかも、失敗しちゃった」

 

「どうするのさ、アリス?」

 

「連れ戻すの?」

 

「一緒に暮らすの?」

 

「連れ戻すとして、帰る場所は作ってきてくれたんだよね?」

 

「まさか、一緒に居たいから、なんて理由だけで戻ってきたわけじゃないよね?」

 

「僕らは、一緒に暮らす準備は出来ているよ」

 

「歓迎するよ」

 

「ねぇ、アリス」

 

自分、は───

 

「アリスを虐めないであげてよ」

 

「…はぁ、白ウサギ」

 

今は、顔を合わせたくなかった。

振り返れない。

後ろから、抱きしめてこないで。

 

「ね、アリス」

 

「ボクは迎えに来てくれて、嬉しかったよ」

 

「あの時も」

 

あの時…?

 

「でもね、ごめんねアリス」

 

「ボクは帰れないんだ」

 

何故。

 

「ボクには帰る場所がない」

 

自分が作る、だから。

 

「それにね」

 

「ボクはこの世界の住人だ」

 

「そうクイーン(世界)は認識している」

 

「本来なら、君たちは双子のアリスとして、この世界に落ちてくるはずだった」

 

「まだ元の世界に帰る意志があるのなら、世界はアリスとして迎え入れるはずだから」

 

「…ボクは、最初から白ウサギだった」

 

「だから、クイーンは帰す気がないだろうね」

 

「そして、ボクも帰る気が無い、のかな」

 

「そ、んな…」

 

白兎にとって、元の世界がそんなものだったなんて知らなかった。

いつだって一緒だったのに、気付けなかった。

 

「寂しいんだね、アリス」

 

「…うん」

 

「あっちにも、こっちにも大切なものがあって、選べないんだね」

 

「…うん」

 

「ごめんねアリス、ボクのせいだね」

 

「違うっ!」

 

「ボクはあの世界に要らないと思ってた」

 

「ボクが居なくても一人で立てると思ってた」

 

「アリスって、思ってたより弱いんだね」

 

「ボクの記憶がないはずなのに、もう一度この世界に来るなんて思わなかったなぁ」

 

そうなのか、全部、無意識だったのか。

 

「じゃあさ、こうしよっか」

 

「一緒に帰ろう」

 

「え…?でも」

 

「大丈夫、裏技があるんだよ」

 

「ね、陛下?」

 

王様の方に目を向けると、ふてくされた様な表情でこちらを見ていた。

 

「王様はどうしたんだ…?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「いいよ、もう、好きにしなよ」

 

「陛下、機嫌直してください」

 

「ふーん」

 

「いくら怒っても、可愛いだけですよ」

 

「君はもっと怒らせに来てるよね…?」

 

「ちょ、白ウサギ!?」

 

「陛下はね~、腹黒に見えていい子でね~、ボクの為に必死にアリスを引き留めてね~」

 

「今回の演目、不思議の国のアリスを台無しにしたのもわざとだろうね~、陛下?」

 

「…はいはい、悪かったね」

 

「まぁ、今日は休んだらどう?」

 

「部屋はいくらでもあるし、好きな部屋を使いなよ」

 

「…ただし、二人で一部屋ね」

 

「ほらね」

 

「可愛い仕返しだなぁ」

 

何かが刺さる音がした。

顔のすぐ横にスプーンが突き刺さっている。

 

「ぴょッ!?」

 

「ふん、ジャック、片づけておいてよ」

 

「かしこまりました」

 

この世界の住人、どいつもこいつも自分にだけ容赦なさすぎる…!




王と女王。

アリスと白兎。

置いて行った者と置いて行かれた者。

彼らはよく似ていました。

残された者たちが仲良しになるのは必然でした。

アリスが帰ってきたことを知った王。

それを伝え聞いた、白兎。

王は、アリスを繋ぎ止める為に。

白兎は、アリスを帰す為に。

二人は協力し、女王を誘導して。

舞台を作り上げたのでした。
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