バトルスピリッツ――Reincarnation――   作:ショウ.

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1章 創設バトスピ部
第1TURN  バトスピ部を作ろう


 翌日。入学したての一年生にとって高校生活二日目。まだまだ慣れない新入生達は今日も適度な緊張と共に登校していた。

 

 そんな新入生達の教室の一つ、1年2組の教室で自席に座る顔の緩みきった少女。昨日の不貞腐れた彼女を知る人からすれば驚くほどの変わり様だ。

 

 「おぉ、おぉ、まさかとは思ったけどヤバいなあのにやけ面は」

 

 「まぁ、昨日みたいに落ち込んでるよりだいぶマシじゃないの」

 

 「でもあれがずっとなのも気味が悪いよ」

 

 登校し、教室に入るや絶賛浮かれ中の少女――シオリに目がいく三人。アカリ、コユキ、チサの三人は鞄を片すとそのままシオリの席に。

 

 「……あ、みんなおはよ~」

 

 「おは。で、その緩みきった顔はどしたんだよ」

 

 「うみゅ~……やめてよぉ」

 

 シオリの顔をこねくり回すアカリ。それを眺めながら机に顎を乗っけるチサが、

 

 「それで昨日の話はどこからどこまでが本当なの」

 

 「ひどい! 最初から最後まで実話だよ!」

 

 「疑うつもりはないんだけど……」

 

 「あまりにも都合よすぎてなー」

 

 シオリは昨夜、みんなと別れてから起こった事全てを四人のLINEグループで話ていた。

 その時はみんな『おめでとー』と返していたが実際はどこまでが本当なのか半信半疑だった。

 

 「私の話の何処が都合がいいのって感じだよ!」

 

 「そりゃあ自分と同じ廃部を知らない勘違い生徒がいないか確かめに行ったら本当にいて」

 「それも経験者で」

 「しかも正体が憧れのアポロだったなんて」

 「「「いくらなんでも都合よすぎ~」」」

 

 声を揃える三人にシオリは肩を震わしBSカードを取り出した。

 

 「ほんとだって! これ証拠の一つ!」

 

 「という冗談は置いといて」

 

 「冗談だったの!?」

 

 ぽんぽんとシオリの頭に手を置くアカリは苦笑混じりに見つめ、

 

 「ま、出来すぎた話だとは思うけど」

 

 「シオリンが私たちに嘘つく方がありえないからね~」

 

 笑い合う三人にシオリは少しぷくーっと頬を膨らませた。

 

 「悪かったって。それで、初めてのバトスピはどうだった」

 

 「……うん、とっても楽しかったって感じだよ!」

 

 弾ける笑顔と共に答えるとそのままシオリは昨日の出来事を事細かに、一部拡大解釈された状態で語ったのだ。

 

 

 

 「――――――――で、最後にしたバトルは何もできずに負けたんだ」

 

 語り終えたシオリは満足げな顔をして一息ついた。

 

 「本当、聞けば聞くほど不思議な話ね」

 

 「私も話していて凄い偶然だなって感じだよ」

 

 三人が疑いたくもなるなと改めてシオリは実感した。

 

 「でもまさか私たちのクラスにあのアポロンがいたなんて驚いたなぁ」

 

 「知った時は私もビックリしたよ。タイヨウがアポロだったなんて」 

 

 「タイヨウ、ねぇ……」

 

 再びタイヨウと会った時の事を話すシオリの顔は嬉しそうで、昔のアポロの事を話しているときと同じ表情だった。

 同一人物だったのだから当然かもしれないが、アカリ達から見るタイヨウを話すシオリはアポロの時より舌の回りがよく、表情も輝いていた。

 そしてなにより――。

 

 「ほんと幸せそうでごちそうさま」

 

 「え、なにそれ。どういうこと」

 

 アカリの口から出てきた言葉に戸惑うシオリに他二人に視線を移すとアカリの言葉に同意を示すように頷いていた。

 自分だけ理解できていないことに驚くシオリにコユキは困惑を隠しきれない。

 

 「もしかしてだけどシオリ、さっきからバトスピの話じゃなくてタイヨウくんの話になっているの気付いてない?」

 

 「え……?」

 

 言うか言わないか迷った末に恐る恐る聞かれた言葉にシオリはポカーンと口を開けた。

 

 「あれ、本当に無自覚だったの」

 

 てっきり意識的に話してるものだと思っていた二人は無意識に話していたシオリに驚いていた。が、アカリはやれやれといった感じにシオリの頭に手を置いた。

 

 「ほんと昔から変わんないね。シオリのそういうところ」

 

 「私そんなにタイヨウの話してた? ずっとバトスピの話をしてたと思うんだけど」

 

 「バトスピの話もしてたけど九割タイヨウの話をしてたぞ」

 

 そうかなー、と話してた内容をシオリは思い返していたが思い当たる節はないようで頭を捻っていた。

 

 「なにはともあれバトスピを楽しんでてなんか安心したよ」

 

 「その言い方まるでお母さんみたいだよ」

 

 「ちっげーし、誰がお母さんだよ」 

 

 「ママァー」

 

 「誰がママだよ――って、この引っ付くな」

 

 チサが悪ふざけにアカリに甘え抱きつくのを二人は笑いながら似たようにアカリに「お母さーん」とふざけては「うっせー」と頬をつつかれた。

 

 

 「ねえ、この機会に三人も一緒にバトスピをやろうよ」

 

 ふざけすぎてアカリが疲れ始め段階。一息つく三人の顔を見渡したシオリは嬉々としてそう提案した。

 

 「バトスピね……」

 

 「興味がない訳じゃないけどぉ……」

 

 歯切れの悪いコユキとチサ。アカリもシオリの付き合い程度でバトスピに触れてみるのも悪くはないと思っているが如何せん――。

 

 「シオリと違ってデッキを持ってるわけじゃないし。用意するにしてもウチらもどのデッキを使えば分かんないしね」

 

 シオリのように自分が使いたいと思う理想のデッキを持っていなければどんなデッキを使いたいかすら分からない。それに、

 

 「シオリの事だから純粋にウチらを誘ってくれてんだと思うんだけどもう一つ理由があるんじゃねーの」

 

 「そう! さすがアカリって感じ! 私、バトスピ部を復活させたいんだけどみんなも協力してくれない」

 

 誤魔化すつもりはなく素直に本音をぶちまけ両手を合わせてお願いする姿は見ていて清々しいものだ。けど三人の答えは既に決まっている。

 

 「「「ごめん。無理」」」

 「えー即答!?」

 

 断るにしてももう少し悩んでくれてもいいんじゃないかと瞳を潤めるシオリにめんどくさそうにアカリはため息をついた。

 

 「シオリがそう言うのは予想つくから昨日から答えは決まってんの」

 

 「ごめんね。私達も気になる部活があるから」

 

 「そ、そうだよね……でも私そんなに分かりやすいかな」

 

 首を捻るシオリ。バトスピをしてる最中はどうなのか三人は知らないが日常生活に置いてシオリほど喜怒哀楽がハッキリした単純思考な人間は他に知らない。

 

 「そんなに落ち込まなくてもタイヨンならバトスピ部に入ってくれるんじゃないの」

 

 昨日、シオリと同じ廃部を知らないでバトスピ部の部室前まで来たタイヨウなら可能性はある。彼が帰宅部以外の部活動に興味がなければだが。

 

 「そうかな……ううん、そうだね。タイヨウなら一緒にバトスピ部をやってくれるよ!」

 

 簡単に立ち直れる姿にやっぱ単純思考じゃんと内心思いつつアカリは、

 

 「ウチらが変に一緒にいるよりタイヨウと二人でいる時間の方がシオリもいいだろ」

 

 「べ、別にそんなつもりで部活動なんてしないよ! そりゃあタイヨウと一緒に入れれば嬉しいけどゴニョゴニョ――私、三人と一緒にいるのも楽しいよ!」

 

 途中小声で聞き取れなかったが何を言っていたのかは大体の想像はつく。

 

 「安心しな。たとえタイヨウと付き合ってもウチらの友情は変わらないからさ」

 

 「もぉぉおおおお!!! アカリ!!!!!!」

 

 トマトのように顔を真っ赤にしてポカポカとシオリは叩くもアカリが痛がるわけがなく、さっきの仕返しと言わんばかりに鼻で笑った。

 

 「そういえばタイヨウくんはまだ来てないのかしら」

 

 時折、教室に入る生徒を見ていたコユキは一向にそれらしい人物が入ってこないことに疑問を抱いていた。

 

 「シオリと違ってまだクラス全員の顔と名前を覚えてる訳じゃないからもしかしたらもう来てるのかもしれないけど」

 

 そう言われたシオリはアカリから離れ室内を見渡すと廊下側、壁に面してる席にスマホを弄りながらタイヨウが座っていた。

 

 「居たよ。ほらそこに」

 

 「ん? あれがタイヨウねー。しかもウチの席と隣か――おいおいシオリ嫉妬するなって。ウチだって狙った訳じゃないんだから」

 

 「別に嫉妬なんてしてないよ」

 

 ぷい、と顔を背けるシオリにチサは興味津々に、

 

 「ねぇねぇ、話しかけに行ってみようよ」

 

 「そうだな。シオリのバトスピ部設立の話もしないといけないしな」

 

 と、シオリの心の準備が整う前に三人は強引にシオリ手を、体を引っ張りタイヨウの前まで運ぶ。

 

 

 「――――? あぁ、シオリか。おはよう」

 

 シオリに気付いたタイヨウは開ききってない半ば閉じた瞳で見つめながら挨拶をする。

 

 「う、うん。おはよう――」

 

 なんの変哲もない挨拶。昨日も普段通りに『さよなら』を言えたのに妙にこの挨拶は緊張した。

 それは一日経って昨日の出来事がタイヨウの中で風化されてないかの不安。そして後ろで互いに名前呼びをする二人にテンションを上げる友達の目。

 

 「それで……後ろの人は――友達?」

 

 「あ、うん。アカリにコユキにチサだよ」

 

 紹介された三人はそれぞれ簡単に挨拶をし、タイヨウも会釈で返すと無言でシオリをじっと見つめる。

 おそらく何の用で話し掛けたかシオリの会話待ちなのだが当の本人は急に真っ直ぐ見つめられたせいであたふたして言葉が出ない。

 

 「落ち着いて。もう時間もないんだから手短に」

 「タイヨンって部活何するか決めたの?」

 

 コユキがシオリを落ち着かせてる間を潜りヒョコっとタイヨウの前に顔を出したチサが早くも距離感ゼロで話しかけていた。

 

 「タイ……ヨン……?」

 

 「おまっ、そこは空気読んでシオリが聞くところだろ。しかも早くもあだ名に疑問符抱かれてるぞ」

 

 全く呼ばれ慣れないあだ名に困惑するタイヨウにアカリはシオリの背を叩き、この状況改善を任せた。

 

 「驚かせてごめんね。チサは名前呼ぶときに、~ンって付けるの」

 

 「あ、ああ……そうなんだ。変わってるね」

 

 「分かってないなタイヨンは。そこは『可愛い趣味してるね』って言うと――」

 「一旦ストップよチサ。これ以上タイヨウくんを混乱させたらダメだよ!」

 

 初対面の相手にいきなりのチサワールドは荷が重い。

 慌てて言葉を遮りチサを引き離すコユキを見送りながらシオリは気持ちを切り替え、今のやり取りを無かったことにして、

 

 「それでタイヨウは部活もう決めたの?」

 

 「綺麗に流したけどいつもあんな感じなの。まぁ部活は興味ないしたぶん帰宅部じゃない」

 

 シオリ達からすればいつものやり取りにタイヨウは引っ掛かりながらも質問に答えた。

 願い通りの帰宅部志望。しかも他の部にも興味を示していないならシオリの誘いにも乗るかもしれない。

 

 「それならタイヨウ。私と一緒に――」

 

 タイヨウが見つめてくる中、シオリは考えをまとめ自分の想いをハッキリと口にする。

 

 「バトスピ部を作ろうよ!」

 キーンコーンカーンコーン

 

 SHRの始まりを知らす学校のチャイムと重なるという締まりの悪い中で。 

 

 

▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

 

 

 「はぁ……」 

 

 「ん――おかりー。先生なんて」

 

 浮かない顔で教室に戻ってきたシオリと後ろで大量のパンを抱えたタイヨウを見たアカリは口に加えた卵焼きを飲み込むと二つの空いた席まで手招いた。

 

 

 時間は少し経ち昼休み。学生達はそれぞれ高校前からの友達、新しく出来た友達、静かに一人で、と居心地のいい環境・友達と共に昼食を摂っていた。

 その中で異様に目立つは教室の端。

 早くも五人という人数で昼食を摂るグループ。

 一見すれば先ほど述べた内の二つもしくはその複合に当てはまるグループだが目を引くのは人数ではない。

 

 「で、先生になんて言われたんだ」

 

 「その顔だとあんまり良くない返事だとは思うけどぉ」

 

 弁当を食べる手を一旦止めたアカリとサンドイッチを両手で持ち、ハムスターのように食べるチサは表情が晴れないまま昼食の準備をするシオリの返事を待った。

 

 「やっぱり条件が揃ってないとダメだって」

 

 「まあ、そうだろな」

 

 昼休みが入った瞬間、ダメ元でタイヨウを連れてバトスピ部の元顧問だった先生にバトスピ部の再創設を訴えに言ったところあえなく撃沈。 

 

 「まず人数が足りないって。バトスピ部は最低でも三人はいるらしいの」

 

 「でも校則の規定では新しい部の創設には最低でも五人だからまだ優しい方だよね」

 

 「先生が言うにはバトスピ部は大会に参加する条件が一チーム三人だからそれに合わせてるらしいの」

 

 三人というまだ集められる余裕のある条件だがシオリが落ち込んでいるのは人数ではない別の条件だ。

 

 「でも問題はそこじゃないの」

 

 「人数以外にもなんかあんの」

 

 慣れた手つきでアカリは自分の卵焼きとシオリの卵焼きを交換する。

 遊志高校では部を作るのは難しい話ではない。

 部員五名以上に活動内容をまとめたレポートを提出し校長先生の認可が下りることで設立が完了する。

 ここの生徒なら誰でも知れる、知っている条件だがシオリの落ち込み具合から+αの条件を出されたのは明確。

 

 「お、シオリの今日の卵焼きは中々いい塩梅の甘さじゃん」

 

 「アカリのも私好みのふわとろって感じだよ」

 

 「それで他の条件はなんなの」

 

 卵焼きを誉められて少し機嫌を良くしたシオリにチサは聞き返した。

 

 「それがね……何かしらの実績は持ってないとダメみたいなの」

 

 「実績? それって、えっと……タイヨウくんだけじゃダメなの?」

 

 唯一、周りの視線に気付いているコユキは視線の原因であるタイヨウを見た。

 

 「大会に出る場合、二人勝たないと進めないから実力ある二人――この場合ショップバトルの優勝かランクが【C】以上だって」

 

 と、四個目となる購買のパンを食べたタイヨウは五個目のパンに手を伸ばす。

 

 視線が集まる原因はこれだ。

  

 まだ同性グループが多い中の異性グループ。しかも女子四人の中に男子一人とハーレム状態。しかもその状態を気にすることなく見た目に反しての大食い。

 コユキがタイヨウの立場だった場合、昼食どころかこの場から離れたくなるがそういう性格なのかタイヨウは視線も女子四人との昼食も一切気にしない。

 男子からは羨望の眼差しが、女子からは驚きの眼差しが大半。自分ではないと分かっていてもこれだけの人に見られてはおにぎりも喉を通らない。

 

 「タイヨウは【S】ランクで全国大会も優勝してるから問題ないとして肝心のあと一人が」

 

 「うぅぅ、私が【C】ランク以上だったらな」

 

 視線を集める要因を作ったアカリが最後まで言い切る前にシオリは頭を抱えて項垂れた。

 

 「仕方ないよ。シオリンは昨日始めたばかりなんだからぁ」

 

 「そうだね。まだショップバトルで優勝するのでもいいなら四人の内、誰か一人が優勝すればいいんだから難しい条件でもないでしょ」

 

 五個目も食べ終わり六個目に差し掛かろうとするタイヨウの発言にアカリ達三人が、ん? と疑問符を浮かべる。

 

 「――あれ、どうかしたの」

 

 「えっと……凄く自然な流れで私達も巻き込まれてたけど……」

 

 「え、もしかして既にショップバトルで優勝してるとか?」

 

 コユキとタイヨウの間で会話が成立していない。

 アカリ達はバトスピ部には入らないとシオリに言っている。それなのにタイヨウが入ると勘違いしてるということは――。

 

 「おいシオリ。お前もしかして言ってないのか」

 

 「そういえば言ってなかったような……」

 

 記憶力がいいのに自身の発言がうろ覚えな時点でそれはもう言っていないということ。

 呆れるアカリに事情を知らないタイヨウは首を傾げた。

 

「ごめんね。タイヨウにはまだ話してなかったんだけど――」

 

 申し訳なさそうに話を切り出すシオリの言葉を購買パンをもぐもぐ食べながら聞き、話し終えたのと六個目のパンが無くなったのは同時だった。

 

 「……理解はした。三人の言うことも納得するけど問題はシオリ」

 

 「はい――!!」

 

 七個目のパンに伸ばす手を止め、冷たい眼差しを向けられるシオリは昨日のバトルで感じた背筋が凍える感覚が蘇る。

 

 「よくその状況でバトスピ部を作ろうと思ったよね。まだ三人からだったからよかったけどもし五人だったらどうするつもりだったの。ここから三人集めることになるんだよ」

 

 「……はい」

 

 説教を受け体を小さく丸めていくシオリに三人は意外で、面白い光景に顔の筋肉が緩む。

 

 「タイヨウって無口系だと思ったけどそうやってはっきり言いたいことは言うんだ」

 

 「黙ってたら付け上がる人が多かったからね」

 

 それは過去、タイヨウがバトスピを離れた原因の一つであろう。

 詳しい話は聞いていないがタイヨウが口にした断片的な情報だけでもシオリは何となく察している。 

 その話を知らない三人だが、あまり深くは追及はしなかった。

 

 「それでバトスピ部の設立はどうするの。一人ぐらいなら勧誘はできるかもしれないけど肝心の実績は……」

 

 「実績はもうシオリに取ってもらうしかないね。幸い明後日に『弥琉弩(ビルド)』ってショップでショップバトルがあるからそこで優勝して部員一人見つけたら条件設立。簡単でしょ」

 

 「おお、完璧なプラン! ……え、明後日?」

 

 タイヨウはスマホで店舗情報を確認し分かりやすいシンプルな計画を立てるが、

 

 「うそ、明後日!? そんなに急なの!!」

 

 「こういうのは早い方がいいと思うからね。大丈夫、シオリの腕なら優勝できる可能性は高いから」

 

 「そうは言っても私まだバトル経験少ないし、バトルした相手も赤と白ばっかりだよ」

 

 昨日のタイヨウとバトルするための待ち時間。暇を持て余す子供たちとシオリは何回かバトルをしていた。

 シオリとしてはタイヨウのバトルをずっと見ているのも悪くはないのだがせっかくのカードショップだ。バトルを挑まれ受けないのはカードバトラーではないと子供相手に全戦全勝をした。その時バトルしたデッキが赤か白の二色のデッキだった。

 

 「……確かにバトル経験が足りないのは不安要素だけど何事もやってみないと始まらない。たとえ優勝できなくても来週になれば別のショップでショップバトルしてるはずだから優勝するまで何度もチャレンジするだけだよ。ま、バトスピ部を作りたいならだけど」

 

 一通り言い切ったタイヨウは止まっていた手を伸ばし七個目のパンを食べ始める。

 タイヨウの言っていることは最もだ。シオリがバトスピ部を作りたい以上自分の手で頑張るしかない。そのためにも回数を重ねてでもショップバトルに参加するしかない。

 分かっている。分かっているのだがどうしても始めて二日目のシオリにはバトル経験の少ない状態でショップバトルに参加するのが不安なのだ。

 

 「私たちがシオリのバトル相手とかになれればよかったのかもしれないけど……」

 

 「デッキが無い以上ガンバレーって応援するしかねーしな」

 

 「なら僕の使ってないデッキをあげようか」

 

 一瞬の無が訪れた。

 あまりにも自然な流れで放たれた一言に四人は固まりタイヨウを見つめる。

 

 「ま、待って。私の聞き間違いじゃなかったらだけど、今デッキをあげるって言った?」

 

 「言った」

 

 「そ、それって私たち三人にってことぉ? さすがにそれは――」

 

 「デッキは大量にあるから大丈夫。なんなら使いたいデッキを選べるよ」

 

 「けどウチらバトスピ部に入らねーんだぞ。長続きするかもわかんねーし」

 

 「別に。僕は三人がバトスピに興味があるなら遊べるように手助けするだけ。違うなら断ってくれたらいい。それだけだよ」

 

 淡々と三人の困惑を切り捨て、購入したパンも折り返し地点に入る。

 タイヨウは基本的に初心者に対しては優しく、ティーチングバトル(手加減するかどうかは相手次第)やデッキ構築に悩む子供にデッキのテーマを崩さないアドバイスを送っていた。

 だからデッキ未所持な人にデッキを渡すのもその感覚なのだろう。タイヨウが大量のデッキがあるのも上位ランクの利点の一つである公式から贈られるカード。そして長年やっている積み重ねだろう。

 

 「いい機会だからやろうよ。みんなバトスピに興味持ってたんだから。ね、ね」

 

 「確かに興味はあるけど……」

 

 身内にバトスピ仲間を増やさんと躍起になるシオリは揺らぐ三人の心を見逃さなかった。

 

 「なら、試しにバトスピ体験をするっていうのはどう?」

 

 「バトスピ体験?」

 

 シオリの提案に三人は怪訝そうに聞き返した。

 

 「うん、こういうのはやってみないと面白さなんて分からないよ」

 

 やらずに判断するよりもやってから判断するのがいい。それがシオリの持論だ。

 

 「そうだね、そうしよう。つまらなかったらデッキを返してくれればいいし、面白いと思えばデッキはそのまま譲る。これならどう?」

 

 シオリの案にタイヨウも指をならし、中身をさらに具体的に明確化させた。

 それでも三人はすぐには答えが出せず迷っていたが、シオリの期待に満ちた純粋な瞳を見てアカリは口許を綻ばせた。

 そんな目で見られては断る選択肢なんて最初から無くなってしまう。

 

 「仕方ない。いっちょ体験でもしてみますか」

 

 「じゃあ私も。楽しそうだしぃ」

 

 肩を回し快諾するアカリとバトスピ憧れが強かったチサ。そして皆の視線は自然と答えを出していないコユキの方に向く。

  

 「みんなもこっち見ないでよ。二人がやるなら私もやるに決まってるでしょ! 私だけ断るのも空気悪いから」 

 

 場の空気に流された答えだが本人のやりたい意志は感じられる。

 これで全員がシオリ案のバトスピ体験に参加することとなった。

 

 「やったー! みんなでバトスピできるなんてとっても楽しみって感じ!」

 

 「そうだな。シオリと一緒なら退屈なんてありないな」

 

 「それでそのバトスピ体験はいつするの? 明日?」

 

 明日明後日と学校は休み。シオリのショップバトルが明後日にあるため予定が明日になるのは必然だが、

 

 「予定がないなら今日でいいんじゃない」

 

 「え、今日なの!?」

 

 「明日ちょっと用事があるし」

 

 予定があるなら仕方のないこと。デッキ提供者であるタイヨウが参加出来なければ始まらないバトスピ体験。

 幸い三人は放課後からの予定はないため今日でも問題ない。

 

 「けどタイヨウくんは自分のデッキしか持ってきてないんでしょ」

 

 「学校から家まで遠くないから取りに帰る。シオリの特訓のためにもデッキを取りに帰る必要があったからちょうどよかったよ」

 

 学校からタイヨウの家までの距離は知らないが家からカードショップまで行くことも考えるとかなりの手間と時間をかけることになる。

 いくらなんでもタイヨウにそこまでの負担をかけることを四人は良しとしない。

 

 「言いづらいんだけどウチらのためにそこまでやってくれるのは嬉しいけど、ぶっちゃけタイヨウにメリットないっしょ」

 

 「私たち、タイヨンに何もしてあげられないよぉ。やってくれるのは嬉しいんだけど申し訳ないというかぁ」

 

 言い方は遠回し。だがタイヨウを気づかってのこと。

 しかしシオリは遅れて思い出す。タイヨウが気づかわれるのを嫌がっていることを。タイヨウが見返りや損得で動かない性格を。

 

 「別に何かしてほしいからしてる訳じゃないよ。ただバトスピを好きになってくれる人が一人でも多くいてほしいから経験者の僕が準備をしてるだけ。そう、僕がそうしたいと勝手にやっているだけだから」

 

 気をつかわれるのが嫌なくせして三人が遠慮しなくてもいいように気の使った言い回しをしているのがシオリには可笑しく見えた。そんなところがタイヨウの好きなところでもありはするが。

 

 「ならタイヨウの好きなジュースを奢らせて。あ、私が勝手にそうしたいだけで気を使ってるって感じじゃないから」

 

 不満を漏らしかけたタイヨウをシオリは素早く同じ言い回しで遮った。

 本当ならもっと違う形でお礼をしたい。でもまだタイヨウの好みや趣味など知らないことも山ほどある。

 無論、知らないまま放置せず時間をかけてどんどん知っていく所存だ。

 だから今、このような形でしかお礼の仕方しかないことに歯痒い気持ちになるが何もせずおんぶにだっこ状態よりかはましだった。

 

 「なるほどね。ならウチもジュースを奢ってやるよ」

 

 「あ、じゃあ私もぉ~」

 

 「そうね……ジュース四本もあれだけどそれだけ食べるなら問題ないかな。うん、私も奢るわ」

 

 シオリの考えを察し、アカリ達も今できる範囲のお礼をしようと満面に微笑みを浮かべた。

 

 「……」

 

 パンを咥えたまま目を丸くしたタイヨウはそれを食べきると唇についたソースを拭った。

 

 「喉も乾いてたしみんなにはコーラを買ってもらうことにするよ」

 

 「って、コーラ以外飲まないんかい」

 

 「タイヨウってコーラ好きなんだ」

 

 軽快につっこむアカリに、新たに一つ新しい事を知れて微笑むシオリ。笑い合う四人にタイヨウも筋肉が弛緩し温かな気持ちで一杯になっていた。




~バトスピ小ネタ劇場~
《みんなの関係》
タイヨウ「みんな仲良いいんだね」

アカリ「ん? まあ付き合い長いからな」

シオリ「私とアカリは小学生からの付き合いでコユキとチサは中学生からなんだ」

コユキ「シオリはともかくアカリとここまで仲良くなるとは思わなかったわね」

アカリ「あ、それどういうことだよ」

シオリ「そういうところよ」

タイヨウ「ほんと、仲良さそうで少し羨ましいよ」

チサ「タイヨンは友達とかいなかったのぉ」

タイヨウ「いたけど中学に上がる前ぐらいに遠くに行っちゃったんだよね……」

四人「…………」 
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