バトルスピリッツ――Reincarnation―― 作:ショウ.
放課後。タイヨウはデッキを用意するため一度家に帰り、シオリ達はカードショップで待つこととなった。
「ふーん。ここがカードショップねー」
学校から二十分弱歩いた所にあるカードショップ『時皇』。
昨日、タイヨウと一緒に来たシオリのカードバトラーデビューをした思い入れあるショップ。
とんでもないトラブルに見舞わられたがそれも含め通い詰めたいカードショップNo.1だ。
「ねぇ、中に入らない? ここで立っていると他の人に迷惑掛けるよ」
「そだねぇ。あ~なんかドキドキしてきた」
踏み入れたことのない店舗。浮き足立つ三人に手で口を覆うとシオリが先頭の形で店に入った。
「ふーん、いい雰囲気じゃん」
店内は変わらず落ち着いた雰囲気に包まれ、客足も減った様子はなく、中央でバトルする子供たちは笑顔に溢れていた。
「よかった……」
昨日の影響が全くないことに安堵するシオリ。
もし昨日のことがトラウマになり来なくなる子がいたらと不安だったが杞憂だったようだ。
だがシオリが気付いていないだけでこのお店は昨日の影響を一部受けていた。
「――あ、お姉ちゃんが来たぞ!」
「ほんとだ!」
バトルを横で見ていた少年の一人がシオリに気が付くと連鎖するように子供たちの視線がシオリに集まる。
「え、なに!?」
「はやく昨日のつづきをやろうよ」
「今日こそはぼくのジークが勝つから」
「あー! さきにバトルするのは私からだよ」
十数人の視線に戸惑うシオリに畳み掛けるように子供たちはシオリの下までかけより腕や制服を掴んでは引っ張り、後ろに回って腰を押したりした。
「そーいえばお姉ちゃん、今日はカレシと一緒じゃないの」
「か、彼氏って……私とタイヨウはそんな関係じゃないよ!」
「お姉ちゃん顔が真っ赤だよ」
「ジークフリードみたいに真っ赤っか」
憤るシオリを気にすることなくにやける子供たちはシオリをテーブルまで連れていってしまう。
「なーにが知らない人とバトルするのが不安だよ。メチャ好かれてんじゃん」
「本当、あっという間にここのカードショップの人気者になっちゃって」
置いてかれ呆然とする三人の横に筋肉の鎧で覆われた二メートル超の巨体が並んでいた。
「わっ!」
「あら可愛い声。驚かせてごめんね」
滅多に上げない悲鳴を上げてしまったアカリは驚愕と羞恥の感情が入り交じり居心地の悪さだけが残る。
「えっと……あなたは」
「アタシはここの店長のマリアよ。気安くマリアって呼んで」
「は、はぁ……」
見た目と口調のダブルインパクトに圧倒されるアカリとコユキ。しかし小柄なチサは表情を変えず淡々と、
「ならマリアンだね」
「おまっ、さすがに少しは自重しろよ」
慣れない場所でも、大人でも関係ない。チサのチサワールドは常に平常運転だ。そして――。
「マリアン、いいじゃない! とっても気に入ったわ。あなたの名前は」
「私はチサ」
「んまぁ! とてもいい名前。じゃあアタシはチーちゃんって呼んじゃおうかしら」
「おー、マリアンそれベリーキュートだよ」
マリアもまた同じ波長の持ち主。波長の合った二人はすぐ意気投合し笑いあっていた。
「なんかもう帰りたいわ」
「まあまあ」
すでにこのノリについていけそうにないアカリはため息をつき、うんざりしていた。
「改めていらっしゃい。カードショップ『時皇』にようこそ、チーちゃんにアカリちゃんにコユキちゃん」
シオリが子供たちに拉致られ途方に暮れていた三人を見つけたマリアは諸々の説明をするためカウンター前へと移動していた。
ちなみにシオリは絶賛バトル中だ。
「みんなはシオリちゃんのお友達?」
「ええ、はい、そうっす」
初見時のマリアのインパクトは中々だが慣れてしまえば優しい普通のおに――お姉さんだ。
「今日は何しに来たのかしら。シオリちゃんの付き添い? それともバトスピをしに来たの?」
「一応バトスピをしに来ました。でもまだデッキを持ってなくて」
「タイヨンがデッキをくれるから来るまでここで待ってるの」
事情を説明するとマリアは目を丸くするが何か悟ったように目尻を下げた。
「そうなのね。……タイヨウちゃんってばシオリちゃんっていう可愛い彼女がいるのに他の女の子にも手を出すなんて意外とプレイボーイなのね」
腕を組み、頬に手を添え、ため息をつくマリアにアカリは「あー」と盛大な勘違いをしているなとコユキの肩を叩いて説明をパスする。
「もう、こういう時ばかり私に押し付けて。――あのマリアさん。別にシオリとタイヨウくんは付き合ってないですよ。デッキをくれるのも私達にバトスピを布教したいだけですから」
「そうなの? やだわ、アタシ早とちりしちゃったわ」
話が拗れることなく素直に誤解が解けたことにコユキは胸を撫で下ろす。
「みんな、置いていってごめん」
と、一歩来るタイミングを間違えていれば話がややこしくなっていたであろうシオリが戻ってきた。
「別に気にしてないけど、バトルはいいの」
「今はね。みんなには少し待ってもらっているの」
シオリから視線を外し後方のテーブルの方を見ると子供たちは最初のようにバトルをして盛り上がっていた。
「タイヨンが来るまでバトルしてても私たち気にしなかったよぉ」
「無理。マリアさんと何か話してるの見たら気になってバトルに集中できないよ」
一瞬、タイヨウの事を話していたのが聞こえてたのかとドキッとしたが、たぶんそうかもしれないと思い込んだだけだ。
シオリが遠目で見て気になる話が出るとすればタイヨウのことぐらいで他の会話では気にしたりなんてしないはずだ。
「あらあら、せっかく子供たちに大人気なのに」
「シオリは妙に子供に懐かれるよね」
中学時代に行ったインターンシップで児童施設に行ったときや遠足で遊園地に行ったときなど決まってシオリは子供に懐かれていた。
アカリからすれば懐かれないほうが不自然なほどらしい。
「それでなに話してたの」
「今日なにしに来たか少しね。それで今からこの子達にBSカードを作るか聞こうとしてたところよ」
そう言ってカウンター裏から人数分の書類とペンを取り出した。
「BSカードってシオリが昨日作ったあれか」
「そう、バトスピ法に同意したカードバトラーの証だよ」
鞄の中からケースを取り出し学生証とは別の水色のカードを抜き取りアカリたちの前に掲げた。
BSカードにはシオリの名前と証明写真。最低ランクの【F】のマークが記されている。
「このカードがないとバトルフィールドは使わせられないの。もちろん登録しなくてもあの子達みたいにバトルフィールドを使わず遊ぶこともできるわ」
マリアは軽く説明すると一人ずつにバトスピ法が書かれた用紙だけ配りアカリはそれに目を落とす。
「ほーん、これがバトスピ法ね。法って言うぐらいだからメチャクチャ数が多いもんだと思ってたけどそうでないんだ」
全七つの項目しかないバトスピ法。数は少ないが一つでも足りなければモールトのようなカードバトラーがもっと蔓延っていたはずだ。
子供にも理解できるように簡潔に書かれたそれを読み通した三人はそれぞれ思い更けていた。
「それで、BSカードは作る?」
「んー……ウチはパス」
「えー! どうして!」
用紙をカウンターに置き、拒否したアカリにシオリは嘆く。よく見れば他二人もアカリのように用紙を返していた。
「これ作らなくてもバトスピは出来るんでしょ。なら厄介ごとに巻き込まれそうなカードを作らない方がいいっしょ」
厄介ごととは昨日シオリの身に起こったことを言っているのだろう。アカリの言う通りもしシオリがBSカードを作っていなければ、モールトから自身を賭けの対象に選ばれることは無かった。
「あらら、昨日の話を聞いてたのね。確かにBSカードを作るとそういうことに巻き込まれる可能性は少なからずあるのよね」
はぁ、と嘆くマリアはそのままバトスピで遊ぶ子供たちの方に目線をやり、
「そういう理由であの子たちも全員がBSカードを作ってる訳じゃないからね」
BSカードの発行は高校生以上なら本人の判断で作れるが中学生以下なら保護者の同意も必要。
トラブルに巻き込まれるだけでなく、バトルフィールドにおけるライフダメージによる身体の負担も保護者が同意しない理由の一つでもある。
「そのためのレベル調整なんだけどね。まあ、また気が向いたらいつでも声をかけてちょうだい。BSカードの発行はいつでも、無料で受付中だから」
アカリ達の意見をしっかり聞き入れ明るく対応してくれるマリアに三人は頭を下げた。
シオリとしては一緒にバトルフィールドでバトルしたり、誰が先に上のランクに行くか競ってみたい気持ちもあったがアカリやマリアのもっともな意見に黙るしかなかった。
「あー、拗ねんなって。後で一回ぐらいはバトルしてやるから」
優しくポンッと頭に手を置かれたシオリはアカリの慰めに嬉しく思いつつも、
「……普通そこは、毎日バトルしてあげるじゃないの」
「まだハマるかもわかんねーのにそんな約束出来るわけないだろーが!」
わしゃわしゃと頭に置かれた手を激しく擦られ、セットした髪を乱されたシオリは思わぬ反撃に取り乱した。
「仲いいのね」
「意外と、ですね」
「ふふ、素敵なことだわ。――あら?」
微笑ましい二人のやり取りに和んでいるその時だった。お店の自動扉が開き軽やかな鈴の音が来訪者を歓迎する。
「タイヨンかな」
「さすがにまだ早いんじゃないの」
コユキの言う通りどれだけ早くタイヨウが来たとしてもまだ十分以上の時間が掛かる。
つまり今のは知らないただの一般客。
一瞥してタイヨウではなく少女だった時点でみんなはため息をついたが何故かその少女から目を離せない。
およそ中学生ぐらいの幼い顔立ちの少女だった。
背中まで伸びる黒い髪はサラサラで赤い花の髪飾りが美しい髪を際立たせるも白と紫を基調としたワンピースの雰囲気と些か色合いが合っていない。
それを気にすることなく穏やかな表情で日傘を折り畳む姿は優雅。
背後に黒いスーツを着こなす長身のボディーガードが二人立っていたが、そのインパクトよりもみんなの視線は少女に行くほど――。
「キレイ……」
「あんなお嬢様みたいな子でもバトスピをしに来たりするんだな」
自然と漏れでた言葉にシオリも頷いて同意する。
「マリアさん、あの子もこのお店の常連とかだったりするんですか。……マリアさん?」
呼び掛けても返事のないマリアにシオリは少女からマリアに視線を移すとマリアは両目を見開いていた。
「……! ごめんなさいね。二日連続で大物カードバトラーが来たから驚いちゃったわ」
「大物ってことは名の知れたバトラーって感じですか!」
「ええ、《炎神》に続き《
「《剣姫》……! それって確か【S】ランクの!」
マリアから教えてもらった五人の最強カードバトラー達。一度しか聞いておらずタイヨウの――アポロだった頃の二つ名《炎神》しか覚えてないが、【S】ランクの中に剣の名を持つバトラーがいたのをうっすらと記憶している。
マリアの反応からそうだと決めつけ、ワクワクとドキドキが心の奥底から溢れ出てくるが――。
「残念ながらあなたが言っているのは《剣聖》の事で人違いですわ」
穏やかなサウンドだけが聞こえる店内に少女の落ち着いた声色がシオリの耳に入り振り返る。
こちらまで移動をしていた少女は今の話を聞いてたらしくクスクスと上品に口元に手を添えて笑うのを隠していた。
「オリビアさんと間違われるのは悪くない気分ですが私、まだまだ【D】ランクなので少々申し訳ないですわ」
「え、【D】ランク?」
マリアから《剣姫》と呼ばれ、名の知れたバトラーの割にはランクが低い。
【B】ランク、もしくは【A】ランクぐらいと踏んでいたシオリは首を傾げて悩んでいる間に少女はマリアと向き合いペコリと頭を下げた。
「お久しぶりです、マリアさん。こうして会うのも二年前の世界大会以来かしら」
「そうね。成長期なのかしら、二年しか経ってないのに背がかなり伸びたわね」
「マリアさんが言うと皮肉に聞こえますわ。マリアさんも二年で二回りも大きくなってるじゃないですか」
中々に聞き捨てならない会話内容に耳を傾けながら過去に面識のある二人は久々の再会に談笑していた。
そのまま二人には思出話に華を咲かせてもらいたいところだが少女について何も知らないシオリ達はそろそろ紹介をしてほしい気持ちだった。
「あら、ごめんなさいね話し込んで」
「気にしてないんで大丈夫。んで、マリアさん。このいかにもお嬢様みたいな子は何者なん?」
「この子はアンナ・バーミリオン。世界チャンピオン、ユリウス・バーミリオンの妹よ」
「はじめまして。気軽にアンナと呼んでください」
スカートの裾をつまみ、少し上げると腰を曲げ、深々と頭を下げた美しいお嬢様のお辞儀。
噂に聞くカーテシーの所作にシオリは感動のあまり手を叩いていたが遅れて入ってくるアンナの紹介に手を叩く勢いは落ちる。
「えっ!? チャンピオンの妹!」
「気付くの遅すぎでしょ!」
珍しく手の出たコユキのツッコミがあんぐりとしたシオリに刺さる。
世界チャンピオンの妹。今までアポロのバトルしか観てこなかったシオリは世界チャンピオンの事を詳しく知らなければ妹がいたのも初耳だ。
同様にアカリ達もバトスピの世情には疎い。世界チャンピオンの妹と聞いても肩書き以上の感想は出てこないが周囲のお客たちの反応を見ればその人気が、知名度がいかほどのものか一目瞭然だった。
「アンナだ。……本物のアンナがいる」
「どうしよう! オリビアさんの次に好きなカードバトラーが目の前にいるなんて」
「おれ、バトル挑んでみようかな」
嬉々とした目で見つめる子供たちの声に気付いたアンナはにっこりと微笑み手を振った。
それだけで子供たちのテンションは限界値まで達し、いつ駆けてきてもおかしくない状態だが後ろに立つボディーガードの存在がギリギリの所で踏み止まっている。
シオリとしてはタイヨウがアポロと知ったときよりも好意的な反応を示されて面白くない気分だが、それだけ目の前の少女が表舞台に立ち続けてきた証でもある。
「可愛いですね」
「ええ、これからの成長が楽しみよ。それで、来たのはあなただけなのかしら。ユリウスは一緒じゃないの?」
チャンピオンの名前が出た瞬間、店内のお客たちから期待の眼差しに浴びされながらアンナは困惑気味に首を横に振った。
「今日は私一人ですわ」
「珍しいわね。わざわざ遠くから一人で来るなんて何か急用でもあるの?」
アンナが現在、新大陸となるアンダートに住んでいることは周知の事実だ。シオリのような初心者勢以外は。
それでも会話の流れから外国から来たのかなと推察するシオリは彼女の用件に興味はあった。
マリアとは旧知の仲のようだが、顔を見にやって来た訳でもない。
カードショップに来たのならバトスピをしに来たとも言えるが美しい海を渡ってまでここのカードショップに来る理由がない。
アンナは答える前にぐるりと誰かを探すように店内にいる人の顔を見渡した。
「今日、こうして足を運んだのはアポロに会うためですわ」
「え……!」
アンナの口からアポロの名が出た瞬間、シオリは体を強張らせた。
真っ先に思い浮かんだ言葉は『なぜ』だ。
なぜ、アポロがここに来るのを知っているの。
なぜ、彼女はアポロに会うためだけに遠い国からここに来たの。
なぜ、タイヨウに会いたいの。
考えて出てくる類いの疑問でないのは明確。なのにシオリは彼女がアポロに会いたい理由を答えれる自信があった。
「――ぁ」
だけどそれを口に出すことが怖かった。口に出せばそれが真実となりシオリが一番想定したくない現実になりそうだからだ。
「……なにか言いたいことでもあるのですか?」
シオリの声が聞こえてたのかアンナが首を傾げて聞き返す。
唾を飲み込み、心の整理をつける。
自分の考えはおそらく間違いない。けど確証がない以上それを問い質す勇気がない。だからシオリはその確証を得るため質問する。
「……アンナちゃんは、タイヨウに何か話でもあるの?」
タイヨウの名を出した瞬間、アンナの瞳が大きく揺れ動いたのをシオリは見逃さなかった。
「――あなたは……あなたはタイヨウ様とどういう関係なんですか」
確信した。アンナはタイヨウの関係者だと。
昨日の出来事を除き、タイヨウがアポロだと知る人物は恐らく地元の学友や親族ぐらいだ。
そして外国住まいのアンナが学友とも考えにくくましてや親族のはずもない。
だからこれらに属さない関係者だとシオリは判断したが、頭の中ではタイヨウとアンナの関係性を表す言葉が浮かんでいる。
紅い双眸がシオリを答えを静かに待つ。
もし二人の関係がシオリの想像する『あれ』なら間違いなく何を言っても良くない展開になると思う。
それでもシオリは口にする。二人の関係を否定するように。
「――タイヨウは私にバトスピを教えてくれた先生で、私が……私の……憧れの人よ」
はっきりと告げられた言葉にアンナはまるで分かりきっていていたかのように長い睫毛をそっと伏せ、「そう」と呟いた。
「まだあなたの名前を聞いてませんでしたね」
「私はシオリ――時野シオリよ」
躊躇なく名前を教えるとアンナは『シオリ』と口だけを動かし紅い瞳を開いた。
「見つけましたわ。あなたが
「――――!」
アンナの瞳を見た瞬間、シオリは自身の背筋が凍るのを感じた。
紅い瞳に宿る果てしない負の感情。『憎悪』の宿る瞳にシオリは声を詰まらせた。
「な、なんかやばそうな雰囲気なんだけどシオリンなにかやらかしたの」
静かに見守っていたチサたちもアンナの急な感情の変化に戸惑いを隠さずにはいられない。
「シオリさん。私とバトルしてもらいますわよ」
取り出したデッキを突き付けバトルを挑むアンナに今度はシオリが動揺する番だった。
「な、なんでバトルを? 私はバトル好きだからいいけど今の流れでどうして」
アンナの行動に要領得ないシオリにアンナは鼻をならし、
「私がここに来た理由だからです」
「理由って……あなたはタイヨウに会いに来たんじゃないの」
アンナ自身が言っていたことだ。それなのにシオリとバトルするのが目的だと言っているのはチグハグすぎる。
「タイヨウ様に会いに来たのは本当です。でも私がどうしても成さねばならないことはあなたとバトルすること」
「だからどうして初対面のあなたがそこまでして私とバトルしたいの!」
チャンピオンの妹とバトル出来るなんてまたとない機会。シオリとしてはバトルをするのは大いに結構なことだがシオリがしたいバトルは熱く燃える楽しいバトルだ。こんな因縁をつけられるようなバトルは願い下げだ。
だから知りたい。アンナがそこまでして自分とバトルをしたいのかを。
押し黙るアンナは「はぁ」と息を吐くと突き出したデッキを下げると不快そうに、
「……あなたがタイヨウ様に勝ったからです」
「――――え? 私がタイヨウに勝ったからバトルするの?」
不満げだが理由は教えてくれた。しかしその理由がどうして自分とバトルすることに繋がるのか分からずシオリは考え込んだ。
偶然、本気のバトルではないとはいえシオリがタイヨウに勝ったのは事実だ。
それをどうしてアンナが知っているのかはこの際考えないでおく。
アンナやタイヨウの関係性。シオリに対する溢れる敵対心。タイヨウに勝利――。
これらを踏まえ、導き出される答えは一つ。
「それってタイヨウの敵討ちってこと」
自信を持って断言するシオリ。しかしアンナは首を振り否定した。
「私がタイヨウ様の敵を討つなんて図々しい考えですわ」
隠す気のない敵対心から絶対そうだと決めつけていたため否定されるとは思わず肩を透かした。
「私はただ確認したいだけなのです。タイヨウ様を破った――タイヨウ様の無敵のサジットを倒したあなたの実力を!」
今度こそバトルの目的をはっきり告げられたシオリは面を食らって言葉がすぐに出なかった。
唯一咄嗟に動いた脳でシオリは冷静に考える。アンナが盛大な勘違いをしている件について。
シオリはタイヨウにバトルで勝利した。タイヨウ曰く、その手で打てる最善の手を打った。久々に本気を出したと。
つまりシオリは本気のプレイングのタイヨウとのバトルに勝利はしたが本気のデッキには勝利していない。
彼女の言う無敵のサジットも呼び名の通りシオリは一度もトラッシュに送ることは叶わず、場に出された瞬間、フィールドもライフも全て失ってしまった。
「アンナちゃん待って。それ勘違いだから。私は」
「それ以上の言葉など必要ありません。バトルをすればおのずと分かります」
弁明しようとするがアンナは聞く耳持たず再びデッキを突き付ける。
「さあバトルです。シオリさん」
キィッとシオリを射抜く眼差しにシオリは誤解をどうやって解くか思案するが、すぐにそれを放棄し気だるく息を吐く。
「なんかもういっかって感じ。いいよ、バトルしよ」
思考放棄したように取れる発言だがシオリはごちゃごちゃと考えるのを止めただけで捨ててはいない。
バトルをする気になったのもアンナの目的が私怨によるものではないと分かったからだ。
敵対心を向けられてるのは単純に嫌われてるだけと飲み込みながらシオリはデッキを取り出す。
「アンナちゃんの言う通りバトルすれば分かり合えるよね」
偉大なるバトラーは言った。『バトスピは対話』だと。
タイヨウとバトルをし、タイヨウという人物を少しだけ垣間見たシオリは今回もバトルを通じてアンナという人物を知ろうとしていた。
そしてそれは向こうも同じ。
「マリアさん。バトルフィールドを使ってもよろしいですわよね」
「ええ、もちろんいいけど……」
歯切れの悪いマリアはチラリとアンナの後ろに立つボディーガードに目を向ける。
バトルフィールドとアンナが口にした瞬間、無表情だった強面を崩し狼狽えるボディーガードの二人は囲うようにアンナの横に回り、
「いけませんアンナ様。バトルフィールドを使うなんて」
「ユリウス様に無断で出ていらっしゃるのにバトルフィールドまで使用するのは不味いですよ」
バトルフィールドの使用を頑なに拒むボディーガードにアンナはプルプルと体を震わせ二人を睨み付けた。
「うるさいですわ! お兄様には後で私が連絡します。バトルフィールドも皆さんとバトルするときと同じレベル0でバトルすれば問題ないですわ!」
「ですが!」
「私のことは私が判断しますわ! 何があっても自己責任、あなたたちに責任は問いませんわ。だから素直に見ていてください!」
ツンッとそっぽを向かれボディーガード二人はがっくりと肩を落とし後ろに下がった。
アンナの意思を尊重するということだろう。
「バトルフィールドを使うで……いいのよね?」
「もちろんですわ」
「でも凄く止められてたけど、何処か調子が悪いならそこのテーブルとかでも――」
「問題ないですわ! むしろ調子は絶好調なぐらいですわ」
腕を上下に振り回し元気なのをアピール。見た感じの疲れも無さそうなので二人はバトルフィールドに行くため壇上に上がろうとするが。
「いけない。私、みんなとのバトル途中にしてたんだった」
店に来ている子供たちとのバトルを中断したままだったのを思い出しシオリは足を止め子供たちの方へと駆けた。
「みんなごめんね。待ってもらってたのに。このバトルが終わったらバトルするから」
屈み、目線を合わせたシオリは両手を合わせて子供たちに謝った。
可能なら子供たちからバトルをしていきたい。昨日からの約束でもあるからだ。
しかしシオリにとってアンナとのバトルは優先順位を上にするほど大事なバトルだと思っている。
誰かとバトルすることに優劣はつけたくない。けどシオリはアンナの事やタイヨウとの関係性を知りたい。このモヤモヤとした気持ちを晴らしたい。
そんな自分勝手な理由で子供たちとのバトルを後回しにしたことによる罪悪感に苛まれながらシオリは一人一人の目を見ながら謝罪を口にする。
「もう、しかたがないなー。このバトルの次はおれとバトルだからな」
「アンナは強いけどだけど勝ってね」
「あの、あとでわたしともバトルしてくれるようお願いしてもらっていいですか」
「「あ、ズルい~!」」
誰一人シオリを責めたりせず、応援したり許してくれたりお願いしたりと実に子供らしい返しだった。
子供たちの優しさにシオリの心の温度は上がりみんなに微笑んだ。
「ありがとう。約束は守るからね」
笑顔で激励されたシオリは立ち上がると再び気を引き締めて壇上を上り、台座の前に立つ。
対面には準備を終えたアンナが佇んでいる。
シオリは教えられたやり方を思い出しながら台座にBSカードをセットし、準備を進めていく。
「意外と優しいんですね」
「えぇ、意外って私そんなに優しく見えてないの」
「第一印象、自分勝手な人だと思っていたので」
それはあなたの事じゃないかなと言いたかったが下手な不和を生みたくないのでグッと堪える。
「でも私も後で謝らないといけませんわね。私の都合で順番を後回しにしてしまって申し訳ないですわ」
シオリの行動を見てさすがのアンナも自分の言動を省みていた。
悪い子ではないんだろうなと思うがシオリだけは異様な敵対心を向けられ優しく接してくれたのも最初の挨拶だけ。
「みんな観てくれるんだから楽しいバトルにしようね」
それでもシオリは嫉妬深い真似を可能な限り抑えて話し掛けるがアンナは無言のまま待ち続ける。
自分で蒔いた種とはいえ楽しい感覚を共有できないのが少し寂しい。
台座のパネルを操作していき、ライフダメージの設定をする項目を見つけたシオリはレベルを0から1に変更させると【完了】のパネルをタッチ。
準備を終えて顔を上げると真剣な面持ちのアンナと目が合った。
「――では、そろそろ始めましょうか」
「うん、いつでもいいよ」
ビリビリと肌が震える。タイヨウとはまた違う圧をアンナから感じる。
たとえ本人が楽しいバトルをする気がなくてもこのバトルに掛ける情熱は本物。気を抜けば一瞬で持ってかれる。
目を閉じて大きく深呼吸をすることで気持ちを落ち着かせたシオリは目を開くと同時に叫ぶ。バトルフィールドの扉を開ける
「「ゲートオープン 界放!!」」
二人の声が重なり足元から眩い虹色の光が溢れ出し――。
バトルスピリッツの聖地、バトルフィールドへと移動させた。
【バトスピ小ネタ劇場】
《疎外感》
アカリ「なんか凄い勢いで話が進んでいったな」
コユキ「正直、どんな顔でいたらいいのか分からなかったわ」
チサ「あんなシオリンは始めてみたよ」
アカリ「ま、理由が理由だし事情を知ってるウチらからすれば可愛いもんじゃん」
コユキ「あれを可愛いで済ますなんて肝が据わりすぎよ」
アカリ「コユキが小心すぎるだけだって」
コユキ「そんなに小心じゃないわよ。言うなら用心深いと言って」
アカリ「はいはい、そうしますよ」
チサ「そんなことより、ほらシオリンのバトルが始まるからもうちょっと近い位置で見ようよ」
アカリ「そうだな。ほら行くよ」
コユキ「うう……なんか私だけ考えすぎみたいなの納得いかない」