バトルスピリッツ――Reincarnation―― 作:ショウ.
入学式終了後、特に問題なく教室でのHRも終わり本日の学校行事は全て終わったが、悲しみに暮れ机に突っ伏す少女が一人。そんな少女の周りに三人の女の子が集まる。
「シオリさぁ、いい加減機嫌直したら。朝からずっとそれじゃん」
「入りたかった部が無くなってたのはショックだと思うけどこういう時こそいつものように明るく明るく」
「ほらほらシオリンの可愛い顔が台無しだよ~」
突っ伏した顔を上げられ無理矢理に口角を上げられる少女――シオリは三人の顔を見渡し耳に嵌め込んでいたイヤホンを外した。
「ごめん。もしかして何か話してた」
どうやらスマホで流していた動画の音声だけを聞いてたようでそんなシオリに三人はがっくしと肩を落とした。
「おま、落ち込んでると思って心配してたのに聞いてないって」
若干、顔を赤らめるゆるふわウェーブの髪を握るアカリをよく見ると早くも制服を着崩しお洒落に着こなしていた。
「だって入りたかった部が無かったんだよ! こんな悲しいって感じになったら自分の世界に引きこもるじゃん!」
「いや入学初日に引きこもるのは不味いだろ。もう無いもんは無いって切り替えなよ。得意じゃん切り替えるの」
「今回ばかりはそう簡単に切り替えれないよ!」
「ま、まあまあ一旦二人とも落ち着いて。ね、ね?」
口論になりつつある二人にメガネを掛けたコユキが仲裁にはいる。
「喧嘩はよくない。でしょ?」
「あぁ、悪い」
「私もごめん。ちょっとムカムカって感じになってた」
反省する二人にコユキは笑顔で返し、腰まである長い黒髪を手で流した。
「で、シオリンは何の動画を聴いてたのー?」
一連の流れをシオリの机に頭を乗せて眺めていたチサは二人の口論が終わるとシオリの背後に周り彼女の背中にのし掛かった。と言っても小学生に見間違われる程の低身長なチサが乗っかった所でさほど重さは感じず、強いて不満をあげるとすれば三つ編みに結ばれたチサの髪が首筋をなぞってくすぐったいぐらいだが、シオリは気にせずつけていた動画を見せた。
「これだよ」
動画には二体の大型スピリットがぶつかっており、場の盛り上がりかたから公式戦の試合を観ているようだが何となく察していた三人は乾いた笑みを溢した。
「分かってたけど、やっぱその動画をつけてたんかい」
「シオリって本当そのバトルが好きだよね。暇さえあれば観てるでしょ」
「だってこれが私の原点だよ。私が初めてバトスピを知ったバトルだよ! もう観すぎてバトルの内容全部暗記してるぐらいだよ!」
先ほどの落ち込みから一転。饒舌に語るシオリに三人は慣れた様子で聴いていく。
彼女がこの試合を観戦したのは小学4年の時だ。
世界を豊かにする新システム――《コアシステムプロジェクト》通称《CSP》なる計画のため地元にバトルスタジアムという競技場が建ったのが切っ掛けだった。
そのバトルスタジアムではスピリットが実体化しバトルする。当時のバトスピをしていた人からすれば夢のようなシステムの導入。誰もがそこでバトルをしたいとそのスタジアムでの初バトルを懸けて全国大会が開かれたほどだ。
そしてシオリが観ている動画――当時観に行ったバトルが全国大会決勝戦で初めてスタジアムで実体化したスピリットがぶつかり合った日だ。
「あ、光龍騎神サジット・アポロドラゴンだっけ? が殴り勝ったね~」
「そんなに興味のないウチらもこの動画に出てるスピリットの名前なら大体分かるぐらいには毒されちゃってんね」
「それにしてもこのスピリットを使ってる人って本当に凄いよね。当時、小4だったんだよね。高校生以上が結構参加していたのに決勝まで進んで優勝してるなんて」
「そう! ちょー強くて、ちょーカッコいいよね!」
「でた、シオリの初恋モード」
「初恋モードって何のモードなのよ! 私はただこんな風にバトルしたいっていう憧れだよ」
顔を真っ赤に否定するも三人はニヤニヤして納得してくれる様子はない。
「ま、素性の知れぬ相手だから叶わない恋だよね」
「このアポロってのもハンドルネームで本名じゃないんだよね。小学生の癖に妙に用心深いわね」
全国大会を優勝した少年は大まかな出身地は知られても《アポロ》と偽名を名乗っていたため何処の誰かなのかは分かっていない。それに――。
「確かアポロンって中学生辺りで表舞台からいなくなったんだよねー」
「うん……突然だったよ。なんでいなくなったかは誰も知らないんだ」
声のトーンも落ち気持ちが沈んでいくシオリだが鞄からデッキを取り出しそこに描かれたドラゴンを注視すると自然と手に力が入る。
「でも……いなくなったからってアポロが私の憧れなのは変わらない。私もあの人みたいにこの子と一緒にバトルがしたいんだ」
「それが噂の抽選で当たった世界で一つしかないデッキか?」
「すご~い! 見せて見せて!」
「いいよ。私もこのデッキを誰かに見せるのは初めてだからちょっとドキドキって感じだよ」
デッキを机の上に広げ、丁寧にカードを一枚一枚並べていく。
スピリット、ネクサス、マジック。三種のカードがバランスよく配分されたデッキに何も知らない三人でさえちゃんとした強そうなデッキという気品があった。
「物の見事にドラゴンばかりだな」
「でも良かったじゃん。シオリ、デッキを持つなら絶対赤でドラゴンのデッキが良いって言ってたもんね」
「これを抽選で当たったんでしよ。なんか運命的だね~」
小さな緑の翼竜の書かれた可愛いカードを眺めながら微笑むチサにシオリは頷いた。
「ダメ元で応募してたのが当たったのも信じられないのにそれがこんなカッコいいドラゴンだらけのデッキだったなんて私も運命って感じで跳び跳ねたよ。だから早くこのデッキでバトルしたかったのに部が潰れてたなんて……」
「あ、ヤベッ。せっかく機嫌戻ってきたのにまた逆戻りだわ。ちょっ、コユキなんか上手くフォローして」
「ここで私に振るの!? えっと……そうね……」
落ち込んだ表情でカードを眺めるシオリを元気付ける言葉がないかコユキは思索すると「あっ!」と何か思い付いたようで。
「そうだ。確かこういうのってカードショップっていうお店があるんじゃなかったっけ。そこに行けば好きなだけバトル出来るんじゃないの?」
盲点だったでしょと言わんばかりの自信満々の提案だがシオリは表情を変えることなくカードの方に視線がいく。
喜んで食い付くと思っていたコユキは予想外の反応にあれ? と困惑し隣でチサがため息をついた。
「あ、ごめんね。私もショップデビューも考えてたんだけど私って一応初心者でしょ。ルールは覚えてても実際に誰かとバトルするとなるとちゃんと上手くできるか不安で……」
「んじゃあそれならショップにいる誰かに初心者だから教えてくれってお願いすればいいんじゃね」
彼女の不安の解決法を提案するもシオリは首を縦には振らなかった。
「ほら、バトスピをやってる人って女性より男性の方が圧倒的に多いでしょ? さすがに知らない男の人に声をかけるのは……」
「不安なのー? まあ危機管理がしっかりしてていいと思うけど……それって部活でも同じことじゃないのぉ?」
当然の返しにシオリは「それとこれでは違うの」と否定した。
「部活はほら、同じ学校の先輩や同級生ばかりだから安心して声を掛けれるでしょ」
「なるほど。確かにそれならショップに行くよりも部活で慣れた方がいいわよね」
「でしょ! だから廃部だなんて私の楽しいバトスピライフが総崩れだよ」
再び机に突っ伏し深く項垂れるシオリにアカリは頭をガーッとかきむしると不機嫌な声色で。
「なら部室でも行ってみたらどうよ」
「だからバトスピ部は廃部に……」
「もしかしたらあんたみたいに廃部になったことを知らないバトスピ経験者の同級生がくるかもしれんだろ。それに先輩とかがこっそりバトスピやってたりしてるかもだろ」
「それは……さすがに無いでしょ」
アカリの意見に否定を口にするコユキだったがチサが彼女の裾を引っ張ると自分の席にいた筈のシオリと机の上に置いていたカードが跡形もなく居なくなっていた。
「あれ、シオリ何処に行ったの!」
「アカリンが言い終わる前にカードをまとめて教室を飛び出したよー」
「えぇ……」
相変わらずの行動力の高さコユキは呆れつつもようやくいつものシオリらしさが戻ったことに笑みを溢していた。
「とりまシオリはいいとしてこれからどうする?」
「あ、私気になる部活があるから見学に行ってくるわ」
「私も~」
「あっそ。ま、ウチもそうだし、ここで解散としますか」
「「賛成ー」」
取り残された三人も各々の予定のため荷物をまとめて教室を後にしたのだった。
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「えーと……バトスピ部の部室があったのはこの辺りだったよね」
教室を飛び出した後、中学生の頃に手に入れた遊志学園のパンフに書かれていたバトスピ部の部室を先輩や先生方に声を掛けながら探していたシオリはそれっぽい場所を歩いていた。
道中、元バトスピ部の先輩とかに出会えればその場でお願いしてバトスピを教えて貰おうかとも考えてはいたが、どうやらバトスピ部が廃部になった後、先輩達は帰宅部と化しており学校が終わるや否やすぐ家に帰ってしまうそうだ。
「実は廃部は冗談でした~なんてドッキリ展開期待してたけどこれが現実かー」
教室を出る前はもしかしたらの期待を持ち合わせていたが先輩達に声を掛け部室の場所を聞くたびに知りたくもない現実を叩き付けられる。
「先輩の話だと階段を降りた後、右を曲がった先に……この教室かな」
それらしい教室の前に来たシオリは視線を巡らせバトスピ部の部室かどうか確認するがもちろんそれを証明するプレート等はない。
試しにドアに手を掛け力を入れるがもちろん鍵は掛かっている。
「普通そうだよね。廃部になったんだから部室を利用する先輩なんているわけないよね」
ここまで来て分かったことがこの学校にはバトスピ部がないという覆しようのない現実だったということだけ。
これでシオリのバトスピライフは完全に途絶えてしまった。
「……ここで突っ立ってても仕方ないよね。ダメ元でショップに行ってみて女性カードバトラーがいるのに賭けよう。うん、そうしよう!」
ショップに行くことを前向きに考えるものの、もしショップに女性の人がいなかったら……果たして自分はショップに入れるのだろうか。そう考えると行くのを躊躇ってしまう。
――今日、バトスピが出来なければきっとバトスピをする機会は二度と訪れない。なら、女性の人が居なくても頑張って優しそうな人を探すしかない。
「それで行こう!」
方針も決まり、ショップに行くと決意を固めた時だった。
「入らないの?」
「うぇ、あ、はい、ごめんなさい!」
背後から急に声を掛けられ変な声を上げながら振り返ると一人の男子生徒が立っていた。
シオリよりも頭一個半も高い身長が背後に居たことに驚くもその男子生徒から発する雰囲気に恐怖心は沸かなかった。
暗そう。それが彼に思ったシオリの印象だった。
黒の頭髪だが、毛先のあちこちが赤く帯びており、前髪は目にかかりよく見れないが、退屈そうな活気のない目をしてるのが見受けられる。
学生服をきっちり着こなしている辺り根はイイ人なのだろうとシオリは判断すると彼の胸元にある赤いネクタイを見て彼が誰なのかを思い出した。
「あなた確か……同じクラスの
ここの学校は学年ごとでネクタイ、蝶ネクタイの色が違う。
三年生は緑。二年生は青。そして一年生なら赤と色で学年を識別するため彼が同学年なのもすぐに気付けた上、余裕の生まれた思考で彼が同じクラスなのも思い出せた。
「そうだけど……君は……」
「あれ? 私も自己紹介してたんだけどな」
入学初日のHRで定番のクラス全員の自己紹介をしてたため知っているものの思っていたが自分を除いた38人の者の名前を一度に覚えるのは不可能だ。最低でも数日はかかる。
「私、
改めて自己紹介をするとタイヨウは小声で時野シオリと繰り返し呟き頭を捻らせていると。
「もしかして一人だけ名前だけ言って、先生から他にはないかと言われても無視し続けた時野シオリ、さん?」
「そうそうそのシオリ……って、ちょっと待って! 私先生の話を全部無視してたの!? 嘘でしょ!」
タイヨウの発言に全く心当たりのないシオリだが、思い返せば本日、シオリは自分が何をしていたのか記憶にない。それほどバトスピ部が廃部になっていたことがショックだったというわけだが先生の話すら聞こえないほど落ち込んでいたとは思わなかったのだ。
「どうしよう。先生から不良生徒とか思われてないかな。明日から気を付けないと」
一先ずタイヨウのお陰で自分がやらかしていたことに気付けたシオリは明日からどう振る舞うかシュミレーションをする。そんなことをしているとは思ってもいないタイヨウは再び第一声と同じ言葉を投げ掛ける。
「で、入らないの?」
「あ、ごめん。でもここ鍵が掛かってるから入れないよ」
「そっか……まだ誰も来てないんだ」
その瞬間、シオリはもしやと思いタイヨウに質問を投げ掛けた。
「もしかして星月くんって……バトスピ部の入部希望者?」
「そうだけど……時野さんも入部希望者だからここにいるんじゃないのか?」
不思議そうに首を傾げるタイヨウを見てシオリは自分の予想が合ったっていたことに胸を痛めた。
「あのね。私も今日知ったんだけど……バトスピ部は廃部になってるんだって」
自分が否定し信じたくなかった事実をこうして誰かに口にするのは辛かった。きっと彼も自分と同じ楽しみにしてたに違いないと思っていたがタイヨウは動揺する素振りは一切見せず納得した様子で。
「廃部……なら仕方ないか。帰るよ」
「え、ええ! それだけなの! あなたもここでバトスピをしたくて楽しみにしてたとかじゃないの」
呆気なく帰ろうとするタイヨウを慌てて呼び止めると彼は立ち止まり、冷たい視線をシオリに向けた。
「……別に。高校なら落ち着いてバトスピできると思っただけで無いってことはもう僕はバトスピをしない方がいいんだと思う」
「それってどういう……」
「はい、話はおしまい。ここでバトスピ出来ないなら長居する意味ないよね。だからもう帰る」
「ちょ、ちょっと待って!」
淡々と告げシオリの疑問にも答えず止めた足を踏み出すタイヨウにシオリは追い掛け彼の手を掴んだ。
「なに? 話は終わったはずだよ」
意味もなく呼び止められてる現状に僅かな苛立ちを見せる。
早く帰りたい彼には申し訳ないと思いつつもシオリはこの千載一遇のチャンスを逃さまいと真っ直ぐタイヨウの目を見つめ。
「星月くんってバトスピ経験者?」
「急になに。経験者と言えば経験者だけど」
「ならお願い! 私にバトスピを教えて!」
ビシッと頭を下げ懇願すると彼はしばしば何も言わず黙っていたがシオリのお願いを遅れて理解したのか初めて彼は表情を崩し――。
「……え?」
戸惑いの表情を見せたのだった。
~バトスピ小ネタ劇場~
《もしもの話》
アカリ「もしシオリの奴が『バトスピ部がないなら作ればいいんだよ』って言い出したらどうする?」
コユキ「別にいいんじゃない? 人数と顧問さえいれば作れるみたいよ」
チサ「私も応援するよぉ」
アカリ「んじゃ、私達に部員になって欲しいって言ってきたら?」
コユキ「ふふっ、そんなの決まってるじゃない」
チサ「ああ、一択だね」
アカリ「おお、二人もか。ならせーので言うぞ。せーの!」
三人「「「ごめん。無理」」」