バトルスピリッツ――Reincarnation―― 作:ショウ.
学校から徒歩20分。程よく歩いたシオリの前にそれは建っていた。
「こ・こ・が・カードショップ~!」
半円型の屋根をした一階建ての建物。周りの三階以上ある建物と比べ高さはないが四方に大きく広がっているためこちらも十分大きさのある建物だ。
そんなカードショップを前に早くも興奮抑えられないシオリの隣に立つタイヨウは学校の時から変わらず無表情のままだ。
「カードショップって結構目立つのにオーバーなリアクションだな」
「仕方ないでしょ。家の事情で高校入学するまではカードショップ行くの駄目だったしもちろんバトスピをやるのも駄目だったから」
明るい表情に少しだけ憂いを帯びたシオリにタイヨウは深入りすることはなく「そうなんだ」と一定の距離を保つ。
「タイヨウはショップには何回も行ってるの?」
「過去に何度かね。ま、ここは初めてだけど」
「わぁ、まさに経験者って感じ――あ~! しれっと先に入らないでよ」
いつまでも外観だけで盛り上がるシオリを置いて店内に入ってしまうタイヨウに文句を訴えながら追いかける形でシオリも入店した。
「――――ッ!!」
モダンスタイルな店内にはカードショップというだけあって壁際の一角にはガラスのショーケースに入った大量のカードが揃い踏み。中央付近には対戦台となる長机と丸椅子が綺麗に並べられ少年達がバトルを繰り広げる。
そして奥にはステージの用な壇上が――。
まさに思い描いていたショップの内装に感動しすぎて声も出せずに固まるシオリの横から。
「おーい、この程度でフリーズしてたらバトルなんて到底できないぞ」
「……は! そ、そんなことないよ。バトルはビシッ、バシッと華麗に決めちゃうよ」
「初心者にそんなバトルができるか疑問だけど楽しみにしてるよ」
微かに笑みを浮かべるタイヨウ。シオリがその笑みを見たのはこれで二回目。
一回目は学校でバトスピを教えてとお願いした直後の事だ。
困惑する彼はシオリが初心者ということでデッキの有無・出来の低さを懸念していた。
本人が言うには『教えるのは構わないがまともにバトルできないデッキで教えるのは面倒』とのこと。
これに関してはシオリが抽選で当てたデッキを持っているため問題はなくタイヨウにその事実を伝えると彼は何故か驚き、そして笑ったのだ。
何故、笑ったのかはシオリには分からなかった。せいぜい彼もバトスピをするのが嬉しいとしか思わなかったし今の発言からもその考えは間違えてないはずだ。
「ねえ、バトスピを教えてくれるんだよね。行くならあっちじゃないの」
少年達が使っていない空いている対戦台を指さすシオリに彼は、まずはこっちとレジのあるカウンターの方に手招きする。
お互いにデッキもある。コアも対戦台の上にあるのに何を購入する気であるのか気になるがここの事はシオリより彼の方が詳しいのは明白。初心者には知らないショップの暗黙のルールがあるかもしれない。これからも通う気でいるシオリはその辺もしっかり学ばないと、と駆け足気味にタイヨウの待つカウンターに向かう。
「すみません。バトルフィールドを使いたいんだけど今、空いてますか」
カウンターの裏。段ボールの中に入っている在庫の確認をする男性店員は声に気付くと爽やかなスマイルで二人を歓迎した。
「いらっしゃいませ~。カードショップ『時皇』へようこそ~!」
立ち上がった店員の予想外の背の高さにシオリは声を失った。
二メートルはあるだろうか。肉体は分厚く服の上からでも分かる筋肉質。パーマのかかったピンクの髪を弾ませ二人を見下ろす目は慈愛に満ちていたがこの背丈で見下ろされると顔関係なく恐怖を感じる。
「あら、学生のカップルさん? なにカードショップデート? 羨ましいわね~」
そして繰り出される女言葉にシオリは二度びっくり。これにはタイヨウもびっくり仰天するだろうとシオリは横目で見ると彼は、はあと返答に困っているだけだった。
「ああ、ごめんなさいね。いきなり迫られると驚いちゃうわよね」
二人の反応に気付いた店員は顔を起こし一歩下がると咳払いを入れて会話をリセット。
距離を保ち先程の影響スマイルを浮かべ店員は。
「改めていらっしゃい。アタシはマリアよ。よろしく」
マリアと名乗る男性店員に慌ててシオリも続いて。
「あ、私は時野シオリって言います」
「……星月タイヨウ、です」
「うんうん。シオリちゃんにタイヨウちゃんね。二人ともとってもキュートな子ね」
二人の名前を聞いたマリアは手を合わせてコニコと頷いた。
「それで、シオリちゃんとタイヨウちゃんはアタシになんの用だったかしら」
「バトルフィールドを使いたいんだけど……」
「待って。さっきスルーしちゃってたけどいきなりバトルフィールドでバトルするって感じなの!?」
マリアのインパクトに前後の記憶が軽く飛んで店員に話しかけた理由を突っ込み忘れていた。
驚くシオリを不思議そうに見つめるタイヨウは首を傾けた。
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……」
「なら問題ないでしょ。それにバトルフィールドでバトルするのが憧れだったって言ってたんだから丁度良かったじゃん」
タイヨウの言葉に思わずシオリの頬が淡く色付いた。
ショップに行くまでの道中、一方的だがタイヨウとバトスピの会話を弾ませ憧れのアポロと同じバトルフィールドでバトルしたいと話していた。
タイヨウはたまに質問はしていたがほとんどが相槌で聞いているのかあやふやだったがこうして覚えてくれていると素直に嬉しいと思うのは仕方のないことだ。
「あらあら初々しいわね。バトルフィールドなら今空いているわ。二人ともBSカードはあるの?」
「ビーエスカード?」
「シオリちゃんは知らないのね。タイヨウちゃんは――」
「僕はある」
初めて聞く単語に口を開ける隣でタイヨウは赤いパスケースを取り出した。
「それがビーエスカード?」
「そうよ。IBSOが定めたバトスピ法に同意したカードバトラーに配られる一種の会員カードみたいなものでこれがないとバトルフィールドは使わせれないの」
「ええ! じゃあ私バトルフィールドでバトルできないの!?」
衝撃の事実にカウンターに身を乗り出すシオリをなだめるマリアは二枚の紙を用意した。
「BSカードは無料ですぐ作れるから安心して」
「ホント! 作る! 今作る! すぐ作る!」
「はい、じゃあこっちの紙に名前や住所、電話番号等書いてね。もちろんプライバシーは守るから安心して。それでこっちの紙にはバトスピ法が書かれているから必ず全部に目を通してね」
言われた通り必須と書かれている欄にスラスラと記入していき一番下まで行くと《バトスピ法に同意します》という記述があり横にはチェックボックスが。
ここでシオリはもう一枚の方に目を向けた。
バトスピ法の存在は知っていたが内容を全然知らないシオリはいざ、その紙を見るとこう記述していた。
・【一つ】問題は全てバトスピの勝敗で決めること
・【二つ】挑まれたバトルは原則として受けること
・【三つ】何かを賭ける場合は互いに条件を出すこと
・【四つ】“三”において金品をかけることを禁ずる
・【五つ】バトル中の不正を禁ずる
・【六つ】いついかなる場合でもこの法は絶対遵守される
・【七つ】以上の法を破ったものはバトラーの資格を剥奪及びデッキを没収する
一通り目を通したシオリはもう一度上から順に確認する。
不穏になるのもあるがどれも普通にしていれば破ることのない法ばかり。
七つしかないというのもあり簡単に内容を把握したシオリは迷わず『同意』にチェックを入れる。
「ん、書けたようね。後は証明写真を撮るからこっちに来てちょうだい」
「はーい」
カウンター裏の人目のつかない隅に置かれた白いボックス。
中は真っ白な空間で備え付けの椅子があり高さを調節して座ると外からマリアの声が聞こえた。
「準備いいわね。はいじゃあ撮るわよ~」
合図と共に切られるシャッター音。真っ白な空間に眩い閃光が弾け思わず目をつむりたくなるのを堪えシオリは微笑みを保つ。
それが三度繰り返され数秒。外から「これがいいわね」とマリアの満足げな声が耳に入る。
「お疲れ様~。今から仕上げてくるからもう少しだけ待っててね~」
シオリの記入した用紙と写真を手にマリアは軽やかな足取りで別の部屋に姿を消した。
自分のBSカードが出来るまでのこの待ち時間はもうすぐクジの当選が発表されるようなわくわくする時間。
自分が憧れの人と同じカードバトラーだと証明できるまでのこの待ち時間、いくらでも待ててしまう気概はあるが隣で手持ち無沙汰なタイヨウが目に入りハッと我に返る。
「待たせちゃってごめんね」
一人で舞い上がっていたがここに来てからずっとタイヨウはシオリの手続きが終わるのを待っている。
アカリ達のような友達なら待たせ待たされの状態でも気には止めないがシオリとタイヨウは今日――三十分ほど前に会って初めて会話した初対面の間柄だ。
なのにシオリは遠慮もなく彼にバトスピを教えてとお願い。更には自分の事で暇な時間を作ってしまった罪悪感が心に芽生えた。
「別にいいよ。待つのは慣れてるから」
だけどタイヨウは文句を言わず逆にシオリの負い目を減らすように近場の商品を眺めた。
「バトスピをしているとどうしても1ターン1ターン長考する人がいるからね。待つことが苦とも何とも思わなくなったよ」
慣れるまでは退屈だったな、と過去のバトルに想いを馳せるタイヨウは口元を綻ばせていた。
「……ちなみに何分待ったの」
「そうだな……1ターン十分ぐらいかな」
「十分!?」
それだけ長考をされ続ければある程度待ちに耐性がつくのも納得してしまう。
「でもさすがに十分って長いよね。大会とかだったら迷惑にならないの?」
「迷惑と言えば迷惑かな。大会の流れもあるし。だから制限時間を設ける所もあるんだけど……僕は別に迷惑だと思わないかな」
「なんで? 私だったらこれだけ時間があったらもっと色んなデッキとバトル出来るのにとか思っちゃうよ」
「時野さんのその気持ちも分かるけど、僕は長考する人はそれだけこのバトルに真剣に勝ちにいこうとしてると思うから迷惑だと思えないんだ」
タイヨウの言い分にも一理あった。
誰だって負ける気でバトルはしない。勝つための最善の一手を見出だすため長く思考してしまうものだ。
「そっか……私も大好きないちごタルトを夕食のデザートとして食べるか3時のおやつとして食べるかでよく時間を掛けて悩んだりしてるけど……それも長考と同じなんだよね」
自分を当て嵌めて考えてみると一概に長考が駄目だとは言えない。長考する人だって迷惑をかけたくてしてるわけではないのだ。
心の中で友達のコユキが長考したときはもっと寛容な心を持って待ってあげようと決めた。
「これからバトスピを続けていくなら時野さんもそういうプレイヤーとバトルする機会があると思うけど出来るだけ許容してほしいかな。あの手のプレイヤーは堅実な手が多いけどその分、勝つために選んだ突飛なプレイングは中々厄介で面白いよ」
過去の体験談を話すタイヨウは少し楽しそうで聞いているシオリも他のバトルがどのようなものだったのか聞きたくて堪らなかった。
しかしここに来て語るタイヨウにシオリは一つの事実に気付いてしまう。
部室前ではバトスピに対して冷めた態度を取っていたがやはり彼はバトスピに対する思いは冷めていない。表面に出ないだけで内に秘めた思いは熱いままだ。
バトスピを楽しみたい。お互いに同じ気持ちのはずだが果たして一度もバトルをしたことのない初心者シオリとバトルして彼は楽しいと思えるのだろうか。
たぶん楽しめないだろう。
初心者のバトルなんてタイヨウからすれば赤子の相手をするのと変わらない。
どんな手も彼の想定通り。淡々と彼の手の内のまま進んでいくバトルを楽しいと思ってくれるのだろうか。
「私にバトスピを教えてくれるの……やっぱり迷惑だよね」
内なる不安が高まり思わず口に出してしまう。
「……どうしてそう思うの」
「私初心者だから思うようなバトルなんて出来ないと思うの。私はバトスピさえ出来たらそれだけで楽しいけどタイヨウは――」
“楽しめないと思う”それが口から出る前にタイヨウの盛大なため息の前に遮られた。
「もし僕に気を使ってるなら遅すぎ。気を使うなら僕が学校で帰ると言ったときにそのまま帰すべきだよね」
「た、確かにその通りだけど」
ぐうの音もでない反論にシオリは押し黙る。
「一応言っとくけど時野さんは初心者なんだ。初めから上手く出来る人なんて早々いない。だから僕のような経験者が初心者を教えるのは当然のことだから」
彼の目を真っ直ぐに見つめ話に耳を傾ける。
「あまり僕のことは気にしないで時野さんは普通にバトスピを楽しんでほしい。そんな気持ちでバトスピをされてもどっちも楽しいとは思えないから」
「星月くん……ありがとう。私、初バトル全力で楽しむよ!」
「そうそうその感じ。自分が楽しいと思えばその気持ちは相手にも伝わるから」
早くも経験者から新たな助言を頂きシオリの気の迷いがどんどん晴れていく中、最後にタイヨウは珍しくお願いをしてきた。
「それと今後は僕に気を使うのは止めてくれないかな。善意でやってくれてるんだと分かってはいるけど好きじゃないんだ。気を使われるの」
視線を落とし再びカウンター付近に並ぶ商品に目を移した。
世の中には気を使われるのが苦手な人がいることはシオリも知っている。友達のアカリが現に気を使うと困った反応をよく見せていた。
けどタイヨウはアカリのとは何処か違った。
タイヨウは気を使われるのが苦手というよりも嫌っているように見て取れる。
理由を聞いてみたかった。だけどこの短い付き合いのなかで彼が自分の事を話さない人だと言うのに気付いている。
聞いても断られる。そうなればお互いに気まずい空気になりせっかくタイヨウが楽しんでほしいと言ってくれたのにまたモヤモヤとした感情で彼と向き合うことになるのは明白だった。
「任せて。私、気を使うよりも使われる方が得意だから」
だからシオリは深追いせずにいつものように明るく振る舞う。
タイヨウとは今日会ったばかり。初日から一気に仲良くなる必要はない。
ここからゆっくりと少しずつ仲良くなればいいのだから。
「それを言い切るのはどうかと思うよ」
「照れ隠し無しのまさかのマジレス!」
あくまで仲良くなりたいのはシオリなだけでタイヨウがどう思っているのか違う形で不安になるとようやくBSカードの発行を終えたマリアさんがカウンターに戻ってきた。
「お待たせ~。はぁい、これがシオリちゃんのBSカードよ」
「ありがとうございます!」
マリアから手渡された水色のカード。
左にシオリの写真が貼られておりその横には『時野シオリ』と名前書かれていた。
「これが私のBSカード!」
喜びに浮かれてその場でぐるぐる回るシオリをタイヨウは一笑しマリアは目を細くして見た。
「はぁ~、これで私もバトルフィールドでバトル出来るカードバトラーに……あれ? この右に書いてる【F】のアルファベットはなに?」
BSカードの右の欄。主張の激しいFのアルファベットを指さすとマリアは胸元にぶら下げたカードケースをシオリに見せた。
「それはバトラーのランクを示すものよ。一番下の【F】ランクから始まって【E】【D】【C】【B】【A】と上がっていくのよ。ちなみにアタシは【B】ランクよ」
マリアの紫色をしたBSカード。シオリのBSカードで【F】と書かれた場所に【B】のアルファベットが存在を主張していた。
「へぇ~バトスピってランクなんてあったんだ。ランクが高いと何か良いことがあるんですか」
「ん~、ランクがあれば大会とかでバランスよく対戦表を決めれたり、上位ランクだと新しいカードを公式から配布されるぐらいかしらね。まぁ、目に見える強さの指標だと思ってくれればいいわ」
「そっか……なら私も上位ランクになれば強いカードバトラーの仲間入りって感じだね!」
「ランクなんて所詮ただの飾りだよ」
盛り上がるシオリを冷たい言葉が制した。
「強い人はランクが【F】でも【A】ランクと遜色ないときだってある。逆に運だけで【A】ランクにいくような人もいるんだ。ランクだけでカードバトラーの強さは計り知れないよ」
「ふふ、説得力のある言い方ね。身に覚えでもあるやつかしら」
「――! 別に……ただ思ったことを言っただけ……です」
マリアの指摘にタイヨウはそっぽを向いて口を紡いだ。
そんなタイヨウをシオリはじっと見つめていた。
「……なに」
「星月くんって何ランクなの」
正確には彼の持つBSカードの入ったパスケースを見ていたのだ。
「話聞いていたのか。ランクなんてただ飾り。そもそもこれからバトルするのに僕のランクを知るのは必要なことか」
「必要だよ! っていうか純粋に私が気になるの。星月くんって結構強そうだしマリアさんと同じ【B】ランクとか!」
ぐいぐいと距離を詰めるシオリだが今日聞いたばかりのランクシステムなため【B】ランクがどれ程の強さかは知らない。だが、上から二つ目のランクなら普通に強い分類のランクとみて間違いないはずだと決め付け答えを迫るがタイヨウは身を翻して詰められた距離を一気に離した。
「勝手に想像でもしてくれ。それよりBSカードも出来たんだから早くバトルをするよ」
駆け足気味に奥の壇上まで逃げるタイヨウの背中を睨みながらシオリは頬を膨らませた。
「もう! 教えるぐらいいいでしょ!」
「まあまあ。言いたくない事情でもあるんじゃないの」
「事情って? ランクを隠すほどの事情ってあるの?」
「さぁ? そればかりは本人に聞かないと分からないわ」
シオリとしては最初の目標をタイヨウと同じランクになることと早急に決めたためランクを知りたかったのだが、何度も言うようにシオリとタイヨウは今日初めて会った初対面だ。
バトスピを教えてもらえるだけありがたいのだから今日の所は聞くのを我慢してまた後日聞こうと頭にメモをした。
「ほら、私達も行くわよ。バトルフィールドの使い方を教えてあげるから」
「……はーい」
それでも少し納得いかない気持ちのままタイヨウの待つ奥の壇上を上っていく。
対面で待ち構えるタイヨウ。その立ち振舞いは歴戦の戦士と思わせる貫禄があった。
「本当に教えてくれないの?」
「くどい」
それでも尚、これがラストチャンスと自分に言い聞かせながらもう一度アタックするもあっさりと切り捨てられた。
「はいはいランクの話はそこまでよ。シオリちゃん、バトルフィールドの使い方を教えるからそこの台座の前に立ってもらえるかしら」
シオリとタイヨウに挟まれた腰よりやや上の高さのある黒い台座。
言われた通りに台座の前に立つと台座から低い機械音が鳴り響き青いラインが走る。
「わっ!?」
「驚かなくても起動しただけよ。台座の少し下にカードの挿し込み口があるからそこにBSカードを入れてちょうだい」
「挿し込み口、挿し込み口……あ、ここかな」
青いラインが四角に囲んだ場所を見付けたシオリは向きを確認してBSカードを挿入した。すると目の前にあったディスプレイが読み込み中となりシオリのBSカードが写し出されその横で四角の窪みが出てきた。
「最後に自分のデッキをそこに置いてちょうだい」
「ここに私のデッキを?」
鞄から大切なデッキを手に持ち窪みに嵌め込むと一瞬にしてシオリのデッキが台座の中に取り込まれた。
「ああ!! 私のデッキが!!」
「安心して。今、あなたのデッキをチェックしてるところだから」
「チェック? 何をチェックするんですか」
「そのデッキがバトルに使えるデッキかどうかよ。規定の40枚以上あるか。同名カードが3枚以上入ってないか。禁止・制限カードの有無。公式で認められてないカードが入ってないか。これらをチェックして問題なければOKの合図がでるわ」
マリアが説明を終えるのと同時に澄んだ音色と共にディスプレイに問題なしと大きな丸の判が押された。
「これで準備完了よ」
「おお~。……でもデッキが戻ってこないけど」
「心配しなくてもデッキはもう向こうに移動してるから後はあなた達が行くだけよ。ちなみにデッキはシャッフル済みよ」
「凄いハイテクだ!」
いよいよバトルフィールドに行くのも秒読みとなりシオリの胸の高鳴り始めた。
シオリの対戦者でありバトスピを教えてくれる先生でもあるタイヨウも準備を終えている。
「あとはあの掛け声を言えばバトルフィールドに移動するから。掛け声は――」
「大丈夫です! 私知ってます!」
バトスピをやっていなくてもバトスピの掛け声と言えば誰もが聞いたことのあるあのバトルを開始する合図の声――。
「なら後は二人で楽しくやってね。あ、タイヨウちゃん。分かってると思うけどシオリちゃんは初心者なんだからしっかり教えるのよ」
「分かってます。そのためのバトルですから」
「よろしい。アタシはみんなと一緒にあなた達のバトルを観ているから頑張ってね~」
一通り教えてくれたマリアは壇上から降りた。
これでシオリとタイヨウがあの掛け声を言えば二人のバトルが始まるのだが――。
「ん? みんなと一緒に観てる? ……ああ!? いつの間にこんなに人が集まってたの!!」
マリアの言葉が引っ掛かり視線を壇上の外に向けるとそこには店内にいた客がマリアを筆頭に観戦モードに入っており二人のバトルが始まるのを今か今かと待ち続けていた。
「なんで、どうしてこんなに集まってるの」
「そりゃあスピリットが実体化するバトルフィールドでバトルするんだからみんなもスピリット達のバトルが見たいと思うのは当然だと思うよ」
「確かに私だって誰かがバトルするなら観てみたいけどどうやって見るの。ここにいる人全員バトルフィールドに移動するの!?」
「それは無理だよ。基本的にバトルフィールドにはバトルする二人しか行けないから」
「ならどうやって……」
シオリの質問に答えかタイヨウは無言で隣の壁を指した。
中央にBSと書かれた壁だがよーく目を凝らしてみると細い黒い線が壁にあった。それを辿ると四角い枠になり大きさで言うなら映画館のスクリーンを彷彿させる――。
「――――――っ!!」
その瞬間、シオリは一つの事実に気付いた。
「もしかしてこの壁ってモニターなの!?」
頷きタイヨウは肯定する。
バトスピの人気の高さは把握していたシオリでもショップだけでここまでの設備が整っているのは把握していなかった。
初バトスピがスピリットが実体化するバトルフィールドで。しかも大勢の観客付きとは初心者のシオリには舞台が大きすぎた。
「ヤバい。みんなに見られると思うと凄く緊張してきた」
楽しさとは別の動機に鼓動が速くなる。だけど不思議と嫌な感じはしない。あるのは途方もない高揚感だけ。
「見られるのが嫌なら今からでもバトルフィールドをキャンセル出来るけどどうする」
タイヨウが選択肢を投げ掛けてくる。
今更すぎる選択にタイヨウは分かりきった答えを待つように堂々としていた。事実、シオリには既に答えの決まった不必要な選択だった。
「当然やるよ。ここにまで来てバトルフィールドを使わないなんてもったいないよ。だから始めよう。わくわくって感じのバトルを!」
「だよな。じゃあ始めるぞ。―――――」
次に自分が発しないといけない言葉は分かっている。
一呼吸分の間を作り、合わせるタイミングを作ったタイヨウの声にシオリは自分の声を重ね、バトルフィールドに降り立つ言葉を叫んだ。
「「ゲートオープン界放!!」」
その掛け声に呼応し二人の足元から虹色の光が溢れ出す。
「きゃっ!」
光は収まることを知らずその勢いを増していき二人を包み込む。
咄嗟に光から目を守るため瞼を下ろし視界を塞いだ。
瞼越しからでも光を感知するほど強い光なのにも関わらず目に痛みはない。むしろ包み込まれてるような温かく優しい光にシオリはゆっくりと目を開くとそこはもうショップの中ではなかった――。 カードショップとは異なる場所に立つシオリはぐるりと辺りを見渡した。
「ここは……」
眼下には岩壁に囲まれた草木生えない荒野。見上げれば果てしなく広がる青い空。
吹き抜ける乾いた風は心地よく、懐かしさも感じるこの場所。
――ああ、ついに。
「憧れのバトルフィールドに来たんだ……!」
夢にまで見たバトルフィールドに立っている。それだけで早くも充実した気持ちになるが本番はここからだ。
「懐かしいな……やっぱりここの風は落ち着くよ」
遠くの対面で懐かしさを噛み締めるタイヨウを迎え入れるように風が彼のコートの裾を扇ぐ。
「あれ……星月くんの服が変わってる!」
学生服姿から一変して赤いコートに黄金色の胸当てと籠手に身に纏い揺らめく黄色い模様はまさに灼熱。彼の性格とは正反対な燃える熱い姿だった。
「変わってるって……ここに移動する間にバトルフォームに変わっていただろ」
「え……あ、ホントだ! 私も変わってる!」
指摘され改めて自身の格好を見直してみるとタイヨウと同様に学生服からバトルフォームなるここでバトルするための正装に切り替わっていた。
だが衣装までもが彼と同じというわけでなくシオリのは黒を基準に淡い色をした赤、紫、緑、白、黄、青の六色が神秘的な雰囲気を醸し出したローブだ。
更に胸当てやブレスレットは歯車になっており、ローブのあちこちにはI~XIIまでのローマ数字。その姿はさながら――。
「時計みたいな格好だな」
「だよね。なんでこんな服になったんだろ」
タイヨウのもそうだが二人のバトルフォームはお世辞にも二人のイメージに合ってるとは言えなかった。
「バトルフォームは使用するデッキのイメージに反映して作られるからね」
タイヨウの説明を受けてシオリは納得した。シオリのデッキのキースピリットであり相棒と思っているあのカードの雰囲気とこのバトルフォームは完全に一致していた。
ならタイヨウのバトルフォームも自身のデッキを反映した形なんだなと頷くシオリはある疑問にぶつかる。
「そういえば私達かなり距離空いてるのに普通に声聞こえてるし見えてるのなんで!? 私そんなに目と耳がよかったっけ!?」
「バトル前なのに賑やかだな。バトルフィールドには視覚、聴覚補助があって小声は届かないけどいつもの声量ならこの距離でも聞こえるし見えるよ」
「すごっ! そんなサポートもあるなんて超ハイテクって感じだよ」
世界中。老若男女に人気なのもこういった誰でも出来るサポートのお陰なんだなとシオリは改めて実感し自身のバトルフォームやフィールドを見渡す。
「バトルフォームもオシャレで素敵だしここに立つと感じる適度な緊張感も悪くないし私すっごく気に入ったよ!」
「ならバトルすればもっと気に入るだろうね」
嬉しそうにはしゃぐシオリに釣られてかタイヨウの表情も自然と柔らかくなりデッキの上からカードを4枚引いた。
それはそろそろバトルを始める彼の合図。シオリも慌てて盤上に置かれた自分のデッキからカードを引く。
「時野さんは初心者だから先攻は僕からやるよ。といってもルールの方は大丈夫みたいだから確認がてら動きを見てくれたんでいいから」
「うん、わかったよ!」
ショップに着くまでの道中にタイヨウはルールの説明をしていたが、シオリはバトスピをやりたいと思ってから今日までずっといつでも出来るようにルールだけは覚えているつもりだ。
「じゃあいくよ。スタートステップ」
タイヨウの宣言と共に盤上が光る。
二人がようやくバトルを始めたことにモニター越しから観戦する客たちも賑わいを見せマリアも口元に笑みを浮かべる。
「二人ともどんなバトルを見せてくれるのかしらね」
~バトスピ小ネタ劇場~
《ルール確認》
シオリ「スタートステップ。コアステップ。ドローステップ。リフレッシュステップ。メインステップ。アタックステップ。エンドステップ」
タイヨウ「自分のフィールドにリザドエッジ二体いるとき手札にあるアンキラーザウルスの召喚コストは(画像を見せながら)」
シオリ「1!」
タイヨウ「別に教えなくてもルールほとんど覚えてるじゃん」
シオリ「え、そう?」
タイヨウ「これなら一人でショップに行って問題ないよ」
シオリ「いや無理無理無理無理だよ! 知らない人といきなりバトルなんて! 女性の人ならともかく男性の人だったらハードルが高いって!」
タイヨウ(ならなんで僕はいいんだろう)
“同じ学校のクラスメイトだからです”