バトルスピリッツ――Reincarnation――   作:ショウ.

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第5TURN  闇輝石六将

 机を蹴飛ばすように立ち上がった男は下劣な笑みを浮かべてシオリ達との距離を詰める。

 

 「転醒カードってよぉ、見たことも聞いたこともないカードだろ? 一体どこで手に入れたんだぁ?」

 

 「ひっ!」

 

 「シオリちゃん降りちゃダメよ! みんなも私の後ろから出てこないでね!」

 

 男が動き出した瞬間、マリアは巨体に見合わない素早い動きで間に入り盾となる。

 威厳ある態度。体を張って客を守る姿はまさに店長の鏡。

 二メートル近くある巨体に圧をかけられれば誰でもビビって弱腰になるはずだが、男はビビる様子もなく態度も変わらない。むしろ店長が前に出たことを嬉しそうに眺めていた。

 それもそのはず。男とマリアの視線はほぼ一緒。

 付き人と同じタンクトップに股下が深く垂れ下がったパンツとラフな格好だ。

 しかし一目でこの男がリーダー各だと分かる褐色肌の逞しい筋肉にドクロマークの剃り込みがある短く乱れた髪。バンダナでなく紫のスカーフには六枚の異なる羽の生えた瞳の刺繍があった。

 

 「そのスカーフ、お洒落ね。でもその刺繍はマイナスね」

 

 「言ってくれるなぁ。これは会社が支給したもので絶対着けなきゃいけないんだよ」

 

 「やはりあの噂は本当だったのね」

 

 ゴクリと唾を呑み込んだマリアは額に冷や汗を浮かべていた。

 

 「ここら一帯のショップを買収している会社がいるから気をつけろって言われてたけどまさかあなた達だったなんてね」

 

 「ほほぉ、やはり知ってたか《慈愛のマリア》さんよぉ」

 

 「ええ。《アルゼス社》は有名な会社ですもんね。でもまさかあなたがそこで働いていたなんて思わなかったわ」

 

 緊張感の漂う空気。子供達は完全に怯え涙を浮かべ、シオリも自分がどうしていいのか頭が真っ白になる中、一人何事もないように。

 

 「アルゼス社ってなに?」

 

 「ええ! この状態で聞くの! てかタイヨウくんアルゼス社知らないの!」

 

 思わず突っ込んでしまい男の視線がマリアからこちらに向かれる。

 

 「へぇ~、そこの小さなガキならともかくそこの兄ちゃんが知らないのはちとショックだな。これでも世界で活躍してる会社なんだぜぇ」

 

 「そうなの?」

 

 「そうだよ。アルゼス社って言えば世界中に会社があって様々な分野で経済のトップを走る大手企業だよ!」

 

 「ふーん……」

 

 シオリの簡単な説明にピンと来たのかそれとも分からずじまいなのか曖昧な返答にシオリは項垂れた。

 

 「嬢ちゃんは知ってくれて嬉しいぜぇ」

 

 「それでアルゼス社の人がここに何しに来たの。バトスピでもしに来たの」

 

 「タイヨウちゃん刺激しないで!」

 

 恐怖という感情を何処かに置き忘れたのか大人相手に堂々としたタイヨウの立ち振舞いに男はケタケタと笑う。

 

 「中々面白い奴がいるなぁ」

 

 「話し相手はアタシよ! それで何が目的なの!」

 

 声を荒げもう一度男の視線をこちらに意識させる。

 

 「そうそうその話だったなぁ。まぁ、簡単にいやーあんたとそこの兄ちゃんが言ったがな」

 

 「やはり……」 

 

 「このショップを賭けて俺とバトルしろ。俺が勝てばここはアルゼス社が買収する。あんたが勝てばここにはもう手出ししねぇ」

 

 バトスピのデッキを取り出しマリアに勝負を挑む男にシオリは驚きを隠せなかった。

 

 「そんな大事なことをバトスピで決めちゃっていいの。それよりも先に警察に電話を――」

 

 「無駄だよ。【問題はバトルで解決】これはバトスピ法に基づいたやり取りだから警察は動けない」

 

 「そんな……」

 

 シオリがBSカードを登録する際に同意したバトスピ法には確かにそのような事が書いてあったしこの法は絶対遵守されるとも書いてあった。だけど――。

 

 「バトスピ法はこんな事も許されるの」

 

 法の理不尽さに愕然とするシオリにタイヨウは静かに二人のやり取りを見つめていた。

 

 「さぁ、来いよマリア」

 

 「くっ……」

 

 バトスピ法によりバトルを申し込まれたマリアは絶対に受けないといけないのだがマリアは中々デッキを取り出さない。

 

 「ま、怖じ気づくのも無理ないよな。あんたじゃあ俺に勝てないからな」

 

 図星だったのか。先ほどまでの圧も消え去り無意識に半歩下がっていた。

 

 「マリアさんのような人が怖がるなんてそんなに強いのあの人」

 

 マリアの強さはせいぜいランクが【B】だとしか知らないシオリだが少なくともそのランクは間違いなく強者のいるランク帯のはずだ。

 

 「嬢ちゃんは初心者だから俺の事を知らないだろうなぁ」 

 

 ジロリとなめ回すような目付きでシオリを睨むと男はスカーフの刺繍を見せ付けるように叫ぶ。

 

 「俺はアルゼス社BS部隊、闇輝石六将(ダークストーンズ)が一人! 《紫石のモールト》だぁ!!」

 

 モールトと名乗った男は名乗りの勢いのままマリアに指差した。

 

 「そこの【B】ランクと違い俺は【A】ランク! 過去、何度か対戦したがこいつが俺に勝ったことはたったの一度もない!」

 

 店内に衝撃が走る。

 上から二番目のランク帯にいるマリアなら誰が来ても追い返してくれる希望があったのにモールトはその上の――一番上のランクだった。

 すぐに否定してほしかった。皆は惑わすための嘘なんだとマリアから言ってほしかった。

 だが、マリアは沈黙のまま拳を固めるしか出来なかった。それはモールトの言葉が全て事実だと言うこと。

 

 「そんな……このお店どうなっちゃうの。わたし達は?」

 

 一人の子供が溢した弱音。それが連鎖しギリギリの所で堪えていた負の感情が溢れ出していく。

 

 「み、みんな大丈夫よ! アタシがみんなもお店も守るから! ね」

 

 必死に子供達を慰めるマリアをシオリはただ見てるだけしか出来なかった。

 マリアがモールトに見向きもせず子供達に明るく振る舞い続けるとモールトは盛大にため息をついた。

 

 「興醒めだ。随分丸くなったもんだな。そんなに餓鬼が大事か」

 

 「大事に決まってるでしょ。この子達も、このお店も……!」

 

 「へーそうかい。――なら特別に見逃してもいいぜ」

 

 と、先ほどの態度から考えられない突然の手のひら返しにマリア達だけでなくモールトの回りの付き人まで驚いていた。

 

 「モールトさん! そんなこと言っていいんッスか!?」

 

 「期限までに買収しないと怒られるんじゃ」

 

 「おいおい、落ち着けよお前ら。なにも見返り無しで見逃すほど俺はお人好しじゃないぜ」

 

 両手を広げ付き人を黙らすと真っ直ぐマリアに指を突き出しゆっくりと横にそらす。

 

 「というわけで、見逃してほしけりゃ嬢ちゃんをこちらに寄越しな」

 

 ピタッと指が止まった先には壇上で立ち尽くすシオリがいた。

 

 「……え! もしかして私!? なんで!」

 

 「シオリちゃんを渡せってどういうことなの! あなたの会社は人攫いをするまで落ちぶれたの!」

 

 急なシオリの指名についにマリアの怒りも頂点に達し、鼓膜に響くような怒鳴り声をあげた。

 

 「違う違う。人攫いなんて誰がするかよ。素直に家にも帰すし身の安全も保証する」

 

 「なら――」

 

 「実は買収以外にも俺達、闇輝石六将だけに与えられた仕事があってな。当選者を連れてこいって社長の娘に言われてんだよ」

 

 「当選者……?」

 

 それが何を意味するのかマリアはピンとは来てなかったがシオリは自分が当選者だと言われる心当たりがあった。

 

 「忘れたのか。四ヶ月前にIBSOが世界中で行った抽選会を」

 

 「もちろん覚えてるわよ。アタシも参加したもの」

 

 「ああ。カードバトラーなら誰もが応募するはずだ。だが、未だにその使い手が姿を見せないのはおかしな話だよな。誰も知らないデッキだ。使えばすぐ広まる話なのに不思議だよなぁ」

 

 「何が言いたいのよ。その話とシオリちゃんに何の――!」

 

 ハッと気付いたマリアは嘘でしょと言いたげな表情でシオリの方を見た。

 20億ものの人数が参加した抽選会でたった一人しか得られないデッキを持つ子とこんな簡単に接触できると誰が思おうか。

 けどそうだと決めて考えると今まで当選者が姿を見せずシオリが未知のカードを使う理由に説明がつく。 

 そう当選者はバトルもしたことのない初心者だった。そして皆の記憶から薄れつつある今になってその使い手が姿を現せばすぐに当選者だと結びつけるのも難しい話だ。

 

 「俺も、お前も知らない転醒カード。それを使う嬢ちゃんこそ当選者だという証に他ならない!」

 

 はっきりと告げるモールト。それが事実なのだとマリアは理解しつつもシオリに首を振り『違うと言って』とジェスチャーを送る。

 その意図をシオリは理解はすれど言葉がでなかった。

 ここで当選者ではない、人違いだと嘘をつけば――未知のデッキを持っているとはいえトップバトラーから貰い受けたものだと言い張れば彼女が当選者だと証明するものはない。

 そこまで理解してるのにシオリは嘘の言葉が出ない。

 

 当たり前だ。この状況でそんな嘘がスラスラ出るほどシオリは嘘をついたことがない。

 

 「無言は同意とみなすぜ俺は」

 

 「――――!!」

 

 「さて、嬢ちゃんが当選者だと確定したとこで俺の要求を再確認しようか」

 

 パンッと手を叩き全員の視線を一身に集めるとモールトは指を二つ立てる。

 

 「俺が勝てばこのショップは買収。そして嬢ちゃんの身柄をこっちに渡してもらう。そっちが勝てば買収はなし、嬢ちゃんからも一旦手を引こう。まあ俺に勝つなんて万に一つあり得ないがな。だから――」

 

 嘲笑うようにマリアに向けて喋ると視線をシオリに移し、シオリに向かって話しかける。

  

 「嬢ちゃんの意思でアルゼス社までついてきてくれるなら特別にこのショップは見逃してもいい。さあ、どうする。俺は待つのが嫌いだからな。一分で決めな」

 

 突然シオリに告げられる時間付きの選択肢。

 バトルの勝敗を見守るか、バトルの勝敗関係なしに相手についていくか。

 

 「シオリちゃん、アイツの言葉に耳を傾ける必要はないわよ。アタシが勝って守ってあげるから」

 

 「ハッ、俺に勝ったことのないお前が守るか。やっても見える結果のバトルをして嬢ちゃんや餓鬼共に下手な希望を見せるより嬢ちゃんの意思でこっちに来た方が何倍も増しだろよ」

 

 戸惑うシオリにマリアが声を投げ掛けるがすぐさま下劣な笑みを浮かべたモールトが煽る。

 

 「そうだ。なんなら嬢ちゃんがマリアの代わりにバトルをするのはどうだ」

 

 「わ、私が……」

 

 「ああ、少なくともマリアよりかは勝算はあるだろうよ」

 

 名案だろと言わんばかりのモールト。しかし。

 

 「あなたね、初心者相手になんて事を言ってるの!」

 

 「あんたは黙ってな。決めるのは嬢ちゃんだ」

 

 マリアのもっともな怒声。だがモールトは一蹴し選ぶ責任をシオリに押し付ける。

 

 「マリアとのバトルに全てを任せるか、自分の意思でこっちに来るか、もしくは嬢ちゃんが俺とバトルするか。どれを選んでも構わないぜ」

 

 突き付けられる三つの選択肢。

 混乱する頭でシオリは一つ一つ必死に、冷静に吟味していく。

 この状況を確実に打破できる選択はマリアがバトルに勝利すること。  

 勝てば買収はなし。シオリも連れていかれることはないが負ければ全てなくなる上、話を信じるならマリアがモールトに勝つ可能性は限りなく低い。

 

 ならマリアの代わりにバトルをするか。

 

 無理だ。モールトはマリアより勝算はあると言っているがシオリは今日初めてバトルしたのだ。そんなシオリが責任の伴うバトルが出来るはずない。

 それにこのバトルはタイヨウとバトルした楽しいだけのバトルじゃない。その真逆のバトルだ。

 きっとタイヨウの時みたいな初心者離れした巧みなプレイングは出来ず、プレイミスの連続のはずだ。

 

 なら向こうについていくか。

 

 結局残ったこれが最善の選択。

 犠牲になるのは自分だけでショップは無事。みんなの居場所は無くならない。

 考える必要なんてない最初から見えていた答え。

 

 「……決めたよ」

 

 恐怖も不安も全部奥底に抑え込み、覚悟を決めたシオリの表情にモールトは答えを待つ。

 静寂に満ちた場。シオリは呼吸を整え速まる鼓動を落ち着かせると一歩足を踏み出した。

 

 「まさか!」

 「手は出すなよ」

 

 シオリが向かうは壇上の下。言葉にせずとも行動で彼女の答えを察したマリアが悲痛の顔を浮かべ静止させようとするもモールトがそれを許さない。

 

 ――これでいいんだ。私がどうなるか分からないけどこのショップが無事ならそれでいいんだ

 

 心は恐怖と不安で一杯だ。でもこの選択に後悔はない――。ただ出来ることなら。

 

 ――またもう一度、タイヨウくんとバトルしたかったな

 

 これからの自分がどうなるかは分からない。分からないからこそ唯一の心残りを胸に歩みを進めていくのだったが――。

 

 「――え」

 

 シオリは不意に足を止めた。違う。止めさせられたのだ。シオリをこれ以上進ませまいとする彼女の肩を掴む手の主により。 

 

 「タイ、ヨウ……くん?」

 

 シオリを止めたのは同じ壇上で静観していたタイヨウだった。

 

 「行く必要はない」

 

 「え?」

 

 シオリにだけ聞こえる声量で囁くとタイヨウは壇上の一番前まで出てくると眼下で見上げるマリア達を一瞥すると気だるげに。

 

 「正直、ショップの買収云々はあんたらの勝手だし面倒事に首を突っ込むのも嫌だったけど……関係のない時野さんを巻き込んだのは素直にムカついたから――」

 

 心底嫌そうに息を吐き捨てるとタイヨウは怪訝な面持ちのモールトを睨み付け告げた。

 

 「僕が代わりにバトルをしてやるよ三下」

 

 「あァ?」

 

 今まで下劣な笑みを浮かべていたモールトは初めてと言ってもいい敵意に満ちた怒りの形相を浮かべていた。

 当たり前だ。いきなり物事の判断がつく子供に格下と馬鹿にされたのだ。自分の腕に絶対的自信を持つモールトが癪に障るのも無理はない。

 

 「タイヨウくん何言ってるの。相手は大人なんだよ」

 

 標的が自分からタイヨウに移りそうで不安になるシオリだが真っ向から喧嘩を売った彼は態度を崩さず、それどころか。

 

 「知ってる。でもバトスピに大人も子供も関係ない。あるのは強いか弱いかだけだ」

 

 持論を展開しシオリを黙らせた。

 

 「なぁ、兄ちゃんよぉ。俺の聞き間違いじゃなけりゃあ今俺に喧嘩を売ったか?」

 

 「うん、言った。僕が代わりにバトルをしてやるよ三下って言った」

 

 ご丁寧に一言一句同じセリフを吐くタイヨウにモールトの怒りが爆発するよりも先に周りの連中が口々に責め立てる。

 

 「てめぇ、モールトさんに向かってなんて口の聞き方を!」

 

 「教育がなってねえんじゃねえか!?」

 

 「まず俺達が相手をしてやろうか!」

 

 次々と罵倒を浴びされるもタイヨウはため息をつくだけ。

 

 「あのさ、言ってて気付かないの。あんたらのそういう態度が余計に三下感をだしてんのに」

 

 「なんだと!!」

 

 「いいからすっこんでろよ。人を不快にするバトルしかできない三下以下の雑魚が」

 

 「――――ッ!!」

 

 シオリは目を疑った。

 同学年の、自分と同い年の子が圧だけで大人を怯ませる光景に。

 

 「兄ちゃんよぉ、バトルを代わるってことはどういうことなのか理解してんだろうな」

 

 あくまでも冷静な知性ある行動を心掛けるモールトにタイヨウは変わらずの態度で「もちろん」と理解を示す。

 

 「僕に勝てばあんたの要求通り買収でも時野さんを連れていくなりすればいい」

 

 「ちょっとタイヨウちゃん勝手に何言ってるの!?」

 

 それはあまりにも責任の生じるバトルに対し無責任な発言だった。そんな者にバトルは任せられないとマリアはタイヨウを止めようとするも――。

 

 「マリアさんはそこで見てて。というよりもうマリアさんがバトルするより僕がバトルする方が確実だから」

 

 「タイヨウちゃん、分かってて言ってるの。これは子供が横やりしていい問題じゃないの。ここは大人のアタシに」

 

 「心が既に負けているバトラーに勝利はない。ショップだけならともかく時野さんの身まで掛かったバトルにマリアさんは任せられない」

 

 ずっと静観してただけあってマリアの心理状態を的確に見抜き宣告するタイヨウにマリアは何も言い返せず口を開けるだけだった。

 

 「まあ安心してよ。ちゃんと勝つから」

 

 「ほう、大した自信のようだがおまえ、さっき初心者に負けたのを忘れてないか?」

 

 「忘れてないし負けたのは事実だから何も言わないけど、だからといってあんたに負ける理由にはならないよ」

 

 「そうかいそうかい。けど俺はそのバトルを見てたんだぜぇ。あんたの星竜デッキは中々の強さだがそれでも俺には遠くおよ――」

 

 「悪いけどデッキは変えさせてもらうよ」

 

 不安の感情を植え付けようと画策するモールトだったがタイヨウはその女々しい行いに呆れつつ盤上で置かれたままの星竜デッキをしまった。そして懐から新しいデッキを取り出しモールトに突き付けた。

 

 「あんたとのバトルは僕の本当のデッキを使う」

 

 「本当のデッキ……? ならさっき使ってたのは」

 

 「ごめん。あんまり時野さんの前では言いたくないけどあれ数日前に試しに作ったデッキなんだ」

 

 どうやら先のバトルが試運転だったらしく申し訳ない顔で謝るもシオリは驚いて謝られた事に気づいてない。

 自分とバトルしたあのデッキがお試しレベルなら彼の本当のデッキは一体どれだけ凄いのだろう。

 こんな状況なのにも関わらずシオリはタイヨウの本当のデッキがバトルされるのを楽しみにしていた。

 

 「こんな形でこのデッキを使うのは嫌だったけど必ず勝つならこのデッキほど信頼できるデッキもないからね」

 

 「子供の癖にかなり腕に覚えがあるようだな。ランクはなんぼだ」

 

 モールトだけでなくこのショップにいる全員が気になっていること。でも今まで黙っていたタイヨウがこの場だからといってすぐ教えるわけもなく。

 

 「ランクなんて教える必要もないでしょ。それとも負けたときの言い訳でも欲しいの」

 

 逆に煽り返す始末。

 そろそろタイヨウの不遜な態度にモールトは体を震わし怒りが爆発寸前といったところ。

 

 「おまえ俺が優しく振る舞っているからってずいぶん調子に乗ってるよな」

 

 「別に乗ってないけど。僕は思ったことを口にしてるだけだよ」

 

 「おまえ言い加減にしろよ! さすがの俺もここまでこけにされりゃあ頭に来るってもんだぜ!」

 

 ついに怒りを爆発させ怒鳴り声を上げるがタイヨウは平常心のまま靡かない。

 

 「はぁ、どうしてみんなそんなにランクなんて知りたがるんだろ。……いいよ。少しだけ教えて上げる。僕のランクはあんたと同じじゃない(・・・・・・・・・・)よ」

 

 ようやく自身のランクについて少し開示したタイヨウだがそれは肩透かしもいいところ。

 【A】ランクのモールトと同じでないならタイヨウのランクはそれ以下の【B】ランク以下になる。

 高くてもマリアと同じ。タイヨウの態度から【A】ランクなのではと期待していた子供達はがっかりしモールトも同じく興醒めしたように気分が下がっていた。

 

 「別にランクなんて関係ないだろ。バトルで勝つのは強いほうなんだ。時野さんみたいな場合だってある」

 

 「下克上がしてぇってわけか。まあもういい。おまえと話すと疲れるだけだ。とっとと勝って仕事を終わらす」

 

 怒り収まらぬ大雑把な足取りで壇上に向かうモールト。自分の知らぬところで話が勝手に進むことに危機感を抱くマリアだがどうしてか今のタイヨウに歯向かえなかった。

 それはマリアのバトラーの本能がそうさせたからだ。

 圧倒的強者に対して自分は敵わないと本能が警鐘を鳴らしている。

 

 「大丈夫なの」

 

 「別に。こういう感じのバトルには慣れてるから時野さんは気にしなくていいよ」

 

 自分の代わりに嫌な責任を負わしたのではと罪悪感が芽生えるシオリだが相変わらずタイヨウは表情を変えず淡々と返した。

  

 「そうは言っても負けたら」

 

 ショップが買収されてしまう。そう言いかけたときだった。

 タイヨウがポンとシオリの頭に手を置き柔らかい表情を見せたのだ。

 

 「心配しなくても僕は負けない。このデッキには僕のキースピリットだっている。だから安心して観戦でもしててよ」

 

 それは彼なりの気遣いだったのだろうか。シオリが確認する前にタイヨウは台座の前に立ち準備を始める。

 

 初めて父親以外の異性の人に頭を撫でられた(正確には置いただけだが)シオリは自身の鼓動が先程とは別の意味で速くなり顔が熱くなるのを感じていた。

 

 「シオリちゃんこっちよこっち」

 

 その場で惚けているシオリにマリアが壇上から降りるよう手まねいていた。

 それに気付いたシオリは急いで降りようとすると最悪にも上ってくるモールトと鉢合わせ目を合わせないようにじっとしていると幸いにも絡まれることなくスルーしてもらえた。

 

 しかし横を通り過ぎて初めて実感するモールトの大きさ。マリアと体型は同じはずなのに漂う雰囲気が真逆なせいかマリアよりも大きく感じられた。

 

 「ごめんねシオリちゃん。面倒事に巻き込んでしまって」 

 

 「あ、私は大丈夫です……でも」

 

 ただ気になるのはタイヨウの事だがもうこのバトルは避けては通れない。不安は残るがタイヨウは負けないと言ったんだ。その言葉を信じて見守るしかシオリには出来ることが――。

 

 「――――――!?」 

 

 振り返りタイヨウを見た瞬間、シオリの背筋に悪寒が走る。

 それはタイヨウとバトルした時に感じたものでありそれが意味するのはつまり――。

 

 「タイヨウちゃん本気のようね。あの歳であんな圧を放つなんてホントに【B】ランク以下なのかしら」

 

 シオリの他にタイヨウの様子に気付いたマリアが呟く。彼も不安を押し殺しタイヨウに全てを託したようだ。

 後ろの子供達は不安を露に、そしてモールトの連れはリーダーの勝利を確信し勝負が始まるのを待つ。

 

 「……これは」

 

 台座のモニターに変化がありタイヨウは目を落とすとそこには《決闘者モード》と書かれ【YES】/【NO】の選択肢が出されていた。

 

 「悪いがこれが俺達のルールなんだ。降りるなら今のうちだぞ」  

 

 「お好きにどうぞ。そんなんで降りるぐらいなら最初からバトルなんて挑まないって」

 

 今さら脅しのような真似をするモールトに呆れタイヨウは迷わず【YES】を押した。

 すると痛覚レベルが表示され自動的にレベル【6】へと変更された。

 

 「それじゃあ……準備も整ったし始めようか」

 

 「ああ。俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」

 

 設定、デッキのセット、そしてバトルフィールドへ向かう心構え。

 全ての準備を終えた二人は互いに睨み合い同時に叫ぶ。

 

 「「ゲートオープン界放!!」」

 

 バトルフィールドに行くための掛け声。その言葉を発した瞬間、二人の足下から虹色の光が溢れだした。




~バトスピ小ネタ劇場~
《ライフダメージ》
シオリ「ねえ、ライフダメージにはレベルがあるのは分かったけど私はレベル0から上げれないの」

タイヨウ「【F】ランクなら1まで上げれるはずだよ」

シオリ「1か~、ちなみに【E】ランクになったらどこまで上げれるの」

タイヨウ「【E】ランクは2~3。ちなみに【C】は4~5。【B】ランクは6~7。【A】ランクは8~10だね」

シオリ「そうなんだ。ちなみに痛覚を感じるレベルは――」
タイヨウ「それは覚えてないから自分で確かめて」

シオリ「よーし! 早く上のランクに上がれるよう頑張るよー!」

 ――痛覚を感じ始めるのはレベル3からです――
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