バトルスピリッツ――Reincarnation―― 作:ショウ.
タイヨウの勝利に歓喜するみんなの前にバトルフィールドから戻ってきたタイヨウ。開始前と変わらず感情の起伏はなく勝利の余韻にも浸らずただ勝つことが当たり前と言わんばかりに淡々としていた。
そして自分の勝利しか信じていなかった男――モールトは床に膝をつき息を荒げていた。
「ば、馬鹿な……この俺が、餓鬼に負けただと……!?」
無理もない。ライフ5と完全回復し勝利を確信したモールトのライフをたった一体のスピリットに全て砕かれのだ。モールトのプライドをボロボロにするには十分すぎる仕打ちだ。
「約束通り僕が勝ったからあんたらアルゼス社は二度とこのショップと時野さんに関わるなよ。――それにしても光導の枚数が足りないな。ここは界渡コンに方向を……」
勝ったのにも関わらずデッキを片しながら一人反省会を開くタイヨウは敗けてボロボロになったプライドに追い討ちを掛けるには十分だった。
「調子に……調子乗るんじゃねぇぇぇ!!」
顔を上げ激昂したモールトはダッシュしてタイヨウとの距離を一気に詰めるとBSカードを抜き取ろうとするタイヨウを突き飛ばした。
予想だにしてなかったリアルアタックにタイヨウは対応できず床に倒れると何処か打ち付けたのか顔を歪めていた。
「タイヨウくん!」
「ちょっと、バトラーに直接危害を与えるなんてルール違反よ!」
「うるせぇぇ! 俺が負けたのは何かの間違いだ! 不正があったに違いねぇ!」
みっともなく喚き散らすモールトは不正はないかとタイヨウの使っていた台座を調べ始めた。
その姿は惨めで憐れだった。調べたところでバトルシステムは不正を許さない。外部によるプログラムの書き換えも幾重のセキュリティによって守られている。
ただの高校生であるタイヨウが不正を働くのは不可能だ。
「――そうだ。ランクだ。本当は【A】ランクなのを隠して俺を油断させたそうに違いねぇ」
台座から出てきたタイヨウのBSカードを見つけたモールトは上手い言い訳を思い付いたとしたり顔で抜き取る。
「イった……あ、おい止めろ!」
起き上がったタイヨウは自身のBSカードがモールトの手にあるのに気付くと慌てた様子で立ち上がり奪い返そうと手を伸ばすが――。
「その慌てようやはりランクの偽装をしてたな。やっぱりな、俺が【A】ランク以外に負けるはずが――なっ!」
タイヨウのBSカードを見た瞬間、モールトは目を見開きカードを地面に落とした。
「勝手に見て勝手に落とすなんて最悪かよ」
悪態をついて落とされたBSカードを拾い上げるタイヨウだが、モールトの様子が先にも増しておかしい。
最初の自信に有り余った態度でもなく、負けた後の言い訳ばかりの醜態でもない。
体を震わせ後ずさるモールトはまるで化物でもみたような引きつった顔でタイヨウを見ていたのだ。
その様子に彼の仲間はどうしたのかと声を掛け、子供達はどうしたんだろうねと他人事に、マリアはついに正体を確信した。
「まさか初日から誰かに見られるなんて思わなかったよ」
嘆くタイヨウにモールトは震え、もはや畏怖すらしてしまっている男はタイヨウが最も隠したかった事を口にした。
「お、お前が……お前が、
その言葉に店内がざわめく。
未知のカードが出てきたよりも、ショップを買収すると言われたときよりも、【A】ランクと【B】ランクの実力差を突き付けられたときよりも大きく皆が今日一番の驚きを実感してる中、なにも知らないシオリは一人ポカーンとしていた。
「【S】ランクってなに? 【A】~【F】しか聞いてないからなにがなんだかさっぱりって感じだよ」
「そういえば話していなかったわね」
誤解されないように言っておくが誰もシオリに【S】ランクの事を教えなかったのは何も嫌がらせをしていたからではない。
ただ単に【S】ランクについて教える必要が全くもってなかったからだ。なぜなら――。
「【S】ランクは世界でたった五人しか与えられてない最強のカードバトラーの肩書きなの」
IBSOが定めたランク制度。【F】ランクから始まりバトルフィールドでのバトルの勝敗により相互にポイントの加点減点を行い一定のポイント蓄積により自動的に上のランクへと上がっていくシステム。
これによりバトラーの実力を簡単に把握し大会などの調整や参加条件を決めやすくなり、またカードバトラーも上を目指そうと研鑽したデッキでバトルを繰り返した。
だが中には最高の【A】ランクにいても実力の底が見えずバトルすれば必勝。万に一つの負けもない異常なカードバトラーが存在した。
「それが五人の【S】ランクバトラー――IBSOに認定された最強のカードバトラーの証」
固唾を飲んでマリアの話に聞き入るシオリにマリアは五人のカードバトラーを口にした。
「全てを破壊する《覇者》ヴィアゼル
多刀剣の使い手《剣聖》オリビア
6色全てを操る《天王》カイザス
現世界チャンピオン《戦帝》ユリウス
そして三年前に姿を消した世界初の【S】ランクバトラーであり最年少天才カードバトラーと呼ばれた子――あなたもよく知る人物よ」
シオリの中で鼓動が早まる。
世界中のカードバトラーの中でシオリが詳しいと断言できるカードバトラーはただ一人しかいない。
「灼熱のブレイヴ使い《炎神》アポロ。この五人以外に【S】ランクバトラーは存在しない」
それはタイヨウがこの五人の誰かだという証拠。そしてその中で行方がしれなかった人物は偶然にも一人しかいない。
「じゃあタイヨウくんは――」
「ええ、彼こそが三年ものの間姿を消していたアポロ本人よ!」
その時、シオリは息が詰まるような心苦しさを感じた。
憧れの、恋い焦がれたアポロが目の前にいる。それだけで気分は高揚する。
「馬鹿な……アポロは死んだんじゃないのか」
「なんでカードゲームで死なないといけないんだよ。ただ単に少しバトスピから離れてただけ」
世間一般的には一切姿を見なくなったアポロはバトスピを引退したというよりも死んだとして広まっていた。そんな噂が立っていたことにも知らないタイヨウは自分の正体がバレたことに困ったように頬を掻くと何か諦めるようにため息をついた。
「ま、バレた以上仕方ないからよーく聞いてしっかり本社に伝えとってよ」
ゆっくりと怯えるモールトに歩み寄るタイヨウの視線は冷たく、そして恐いほど静かだった。
「この
背は圧倒的に低いのにタイヨウが大きく見えた。
タイヨウの無言の圧にモールトは歯を軋ませると言い返すことなく壇上から飛び降りるとそのままショップの外へと逃げ帰るように走っていった。
置いていかれたモールトの仲間は慌てて後を追い掛け見事にショップの危機は去ったがバトルに勝利したときのような歓声はなかった。
「ふぅ……これはちょっと脅しが効きすぎたか」
壇上で一人佇むタイヨウは周りから向けられる視線にさてどうしたものかと悩んだ。
向けられるはモールトと同じ畏怖の目。最初こそはショップを守ってくれたことに感謝していたがタイヨウが【S】ランクと発覚してからは態度が反転した。
ランクがバレたらこうなるのは目に見えていた。
強すぎるが故に人は離れ、【S】ランクを倒して名を上げようとした者も手の届きようがない実力差に絶望しデッキを投げ棄てた。
わざわざ地元から遠い首都地の高校に入学したのも落ち着いてバトスピができると思ったからだ。
三年も姿を見せなければ誰も自分をアポロと思わない。デッキも別のを用意すれば大丈夫だと安心していた。
それなのに初日で本当のデッキを使っただけでなくBSカードを見られるとは運が無かった。
「ま、いつかバレると思ったしやっぱりもう僕はバトスピをしないほうがいいんだろうな」
最初から決めていたことだ。また孤立するなら今度こそバトスピを辞めると。
ならもうここにいる必要もない。
後腐れなく終わるためにも早く家に帰ろう。
デッキとBSカードをしまったタイヨウは俯き壇上を下りようとした時だ。
誰かが段を踏み壇上に上るやタイヨウの前で叫んだ。
「タイヨウくんのバカァァァ!!」
「っ!?」
鼓膜にも響く声量。タイヨウは目の前で何故か顔を真っ赤にしてるシオリに目をパチクリさせていた。
膨れる頬に眉間にシワを寄せた顔。一目見てシオリが怒っていると気付き、その理由もタイヨウは気付いていた。
「……怒っているよな」
「当たり前だよ! これが怒らずにいられるって感じだよ!」
憤慨するシオリにタイヨウは弁明をすることなく黙ってしまう。怒られるような事をしたと自覚してるから。
本気でバトルを楽しんでいたシオリに対してタイヨウは完成度が五割も満たないデッキで、試運転としてバトルをしていた。
もちろん、手を抜いてバトルしていたつもりは毛頭ない。むしろ初心者相手に足元を掬われる貴重な体験をした。
だが、それはあくまでもタイヨウの主観。
シオリからすればあのデッキがタイヨウの本来のデッキと思っても仕方なく、せっかくの勝利も実は本気じゃなかったのかとぬか喜びさせただけになってしまう。
もしそのような勘違いをしていたらそこだけは訂正したかった。
あのバトルはお互いに全力を尽くしたバトルだったと。だから自分の実力を疑わないでくれと――。
「なんでアポロだってこと教えてくれなかっなのよ! 私、超恥ずかしいんだけど!」
そう言うんだと決めていたが実際に出てきたのは全く検討違いのもので彼女は怒りではなく恥ずかしさに顔を赤くしていた。
「えっと……ごめん、全然話が見えないんどけど」
「だってそうじゃん! 私ここに来るまでメチャクチャアポロについて話したよね! バトルの時も言ったよね! 目の前に本人がいるのにメチャクチャ話してたよね! ね!」
矢継ぎ早に言葉を羅列するシオリにタイヨウは返す余裕もなく話してたと頷く。
「じゃあなんでもっと早く『実は僕がアポロなんだ』って言ってくれなかったの! 言ってくれればあんなにアポロの事を語らなかったのに」
両手で顔を覆い体ごと頭を振るシオリにタイヨウはただただ呆気に取られていた。
シオリが急にこうなったのは数分前――。
タイヨウが憧れであり恋い焦がれたアポロだった知ったとき確かにシオリの心は締め付けられたように息苦しくでも気分は高揚していた。が、それも一時でシオリは瞬時にタイヨウとの会話が全て脳内に流れ頻繁にアポロについて語っていた自分に羞恥の感情が沸き、モールトがショップから出ていくまでの間、上の空だった。
そしてタイヨウが動き出してようやく意識が現実に戻ったシオリは教えてくれなかった理由と恥ずかしい思いをしたことを訴えるべく壇上に駆け上がったわけだ。
「ま、まてまて。怒ってるってそれだけのことなのか」
決して悪気があって言ったわけではなかったがシオリからすれば火に油を注がれたようなもの。
「それだけってなによ! 本人が目の前にいる状態でその人について語るって凄く恥ずかしいって感じなんだよ! 私一生分の恥をかいた気分なんだから!」
たったそれだけのことで大袈裟なと思いつつタイヨウは頭を整理して刺激しないように言葉を選択する。
「まー確かに黙ってたのは悪いけど、さすがにあんだけ話されて自分がアポロだって言いにくいだろ」
「そうかもしれないけど――けど私、他にもタイヨウくんに怒っていることがあるんだよ」
タイヨウの言葉を受けて一方的に文句を言うのが間違っていることに気付いたシオリは話題を変える。
まだ怒っているというシオリ。
ようやくランクのことやデッキのことについて言ってくるんだと覚悟を決めて言葉を待つが――。
「こういうの自分から言うの凄く馬鹿みたいで嫌なんだけど私がタイヨウくんを名前で呼んでるの気付いた?」
またもや想定したことと全然違うことに戸惑うタイヨウ。どうして名前で呼んでいるのが怒っている原因に繋がるか意味不明だったがタイヨウは落ち着いて今までの会話を思い返す。
「……言われてみれば名前で呼ばれていた気がするけどそれがどうしたの」
悪手だった。
タイヨウは気付かなかったことに怒っているもんだと思い込んでいたが実際はそこじゃない。
「どうしたもこうもないよ! タイヨウくん覚えてないの。私とバトルしたとき最後に私の名前を呼んでくれたこと!」
「えっ? あー……言ってたような……」
「言ってたの! 私それが凄く嬉しくてバトルしたお陰でタイヨウくんと仲良くなれたと思って私もタイヨウくんのことを名前で呼ぼうって思ったのにな・ん・でまた名字で呼ぶの! しかも私が名前で呼んだのも気にしてない気付いてないだし」
これがシオリの怒りの理由だ。
タイヨウがアポロだというのを隠してたことに対する怒りが言わないようにしていた名前の爆弾に引火し現在
シオリが怒る原因の大半を占めている。
「そんなことで怒ってたのか」
「そんなことってなによ! だって私だけ友達になれたと思って一人舞い上がってたのが馬鹿みたいじゃん。――なんであの時は名前で呼んでくれたのに今は呼んでくれないの?」
「あの時は……自分でもよくわかってない。ただ気持ちが昂ってて気付いたら口にしてただけ――って、それよりも他に僕に言うことがあるんじゃないか」
「他のこと……?」
「僕が【S】ランクを隠してたことや君とのバトルで不完全なデッキを使ってしまったこととかさあ」
言うだけ言って虚しくなり一人消沈するシオリに、ついにタイヨウはこの状況に痺れを切らし自ら火蓋を切った。
息を切らし、返ってくるであろう言葉に心が締め付けられる錯覚にタイヨウはシオリの返事を待った。
そんなタイヨウをうっすら涙が浮かんでいた目を拭ったシオリは理解できないといった表情で一言、
「なんで“そんなこと”で怒らないといけないの?」
「――えっ?」
その言葉にタイヨウは目を見開きシオリを見つめたが彼女の顔には先程の怒りは見受けられない。
「だってそうだろ。僕が【S】ランクだって知っていれば時野さんが僕にティーチングバトルを頼むことなんて無かったしデッキだって完成にはほど遠い未完のデッキだったのに」
「だからそんなことのどこに私が怒る要素があるの?」
聞き返すシオリにタイヨウは「あるはずだろ」と口にした。
そうあるはずなんだ。【S】ランクの自分から誰もバトスピを教えてほしいと言われたことがない。別のデッキを使っても馬鹿にするなと怒鳴られた。
これも全部強すぎるが故に。誰も【S】ランクに関わろうとしない。違うデッキを使えば誰もそれを認めてくれない。
だからシオリも同じなんだ。
そう決めつけていた。だけど彼女は首を横に振り否定する。
「何度も言うけど別にそんなことで怒らないよ」
「けどみんなは……」
「タイヨウくんが過去に何があったか知らないけど私はタイヨウくんが【S】ランクだとしても何も思わないよ」
その声は酷く優しく――。
「だって私、今日始めたばかりの初心者でランク制度のことも全く知らなかったんだよ」
困ったように笑う姿は可憐で――。
「それよりも私はツイてたと思うよ。だって最強のバトラーにバトスピを教えてもらえたんだよ! こんなの普通はありえないって感じだよ」
嘘偽りのない言葉は荒んだ心をそっと撫で――。
「しかもそんな人に初バトルで勝ったんだよ。たとえデッキが未完でも、たとえ私が初心者で手を抜かれていても私の勝ちは本当でしょ」
自信に溢れた表情は停滞した思考を呼び起こし――。
「だから悪いと思うなら次バトルするときはそのデッキでバトルして。簡単には勝てないかもしれないけど何回かやればきっと勝てるよ、たぶん」
彼女の全てがタイヨウには眩しかった。でも嫌な気分ではないむしろ心地いいとすら感じ――。
「ね、私が怒る要素なんて全然ないでしょ。なんならタイヨウくんのお陰で私の目標が【S】ランクになることに決まったって感じだもん」
指を立てて胸を張る彼女の姿が遠くへ行ったライバルの姿と重なった。
――あいつも似たようなことを言ってたな。
思い返せば誰かを拒絶し距離を置くようになったのもあいつが居なくなってからだ。
それまではタイヨウも今ほど人目を気にしてバトルをしていなかった。それなりに楽しくバトスピをしていたはずだ。
なのに今はそれが出来ていないのはつまりはそういうことなんだろう。
「――簡単に言うけど【S】ランクにはそうそうなれないぞ。それこそ既存の【S】ランクバトラー全員を倒せるぐらいにならないとな」
「分かってるよ。最強のカードバトラー達に勝つなんてただの夢物語かもしれないって。でも勝つ。前を向いて足掻き続ければきっと勝てない相手なんていないよ」
シオリが口にするのはただの精神論だ。過去にも同じことを言うカードバトラーはたくさんいた。そして大半が現実を見た。
だけど彼女は違う。直接バトルしたタイヨウだから確信をもって言える。
シオリならどんな強敵相手にも立ち向かっていける。諦めずに立ち上がれる。
「そうか……」
少なくともバトスピが好きで好きで仕方ない彼女が強くなれない理由があるはずない。
自分も最初は同じ気持ちでバトスピをやっていたはずなんだから――。
「なら時野さんが【S】ランクになる日を楽しみに待ってるよ」
こんなにも誰かが強くなるのを待ち遠しいと思ったことはなかった。
自然とタイヨウの口から笑みが溢れ、それを見たシオリは驚きに声を上げ、
「タイヨウくんが笑った!?」
「そんなに驚くことか? 僕だって笑うときはあるよ」
「そうだけど、そんな満面な笑みは全くなかったよ」
そうだっけ、と考えるがこんな風にリラックスして笑ったのは無かったかもしれない。
「でも素敵な笑顔だったよ。普段からそうやって笑っていればいいのに」
「さすがに普段から笑うのは無理だよ。時野さんじゃあるまいし」
「それなんか私がいつもヘラヘラしてるって感じなんだけど。あとまた名前で呼んでくれない」
「別に呼び方なんてどっちでもいいだろ」
よくない! と言い切るシオリは指を突きつけてくる。
「最初に名前を呼んだのはタイヨウくんなんだから今さら名字呼びする方が変だよ。それにどっちでもいいなら名前で呼んでくれてもいいでしょ」
そう言われると反論する余地がない。
頑なに名前呼びを求めるシオリに女子って思ってた以上にめんどくさいなとタイヨウは諦め混じりのため息をついた。
「分かった。そこまで言うなら名前で呼ぶよ。その代わり僕を呼ぶときは呼び捨てにしてくれないか。くん付けで言われるのはどうも落ち着かない」
「いいよ。それで
「はいはい、
何処か投げやりのような言い方なタイヨウだがシオリは気にする様子もなく満足げに微笑んだ。
「じゃあ早速バトルしよ」
「いいね。受けてたつよ」
シオリからのバトルの申し込み。三連戦になるタイヨウだが疲れる様子もなく快諾するも手を叩きながら壇上に上がってきた人物によりそれは遮られた。
「その様子だと痴話喧嘩も終わったかしら」
上がってきたのは二人のやり取りを邪魔しないように見守っていたマリアだった。
「痴話喧嘩なんて別にそんなつもりは……」
顔を真っ赤にして俯くシオリにマリアは若いっていいわねと思いながらこちらに視線を送るタイヨウを見据えた。
「バトルの前に少しだけ話をしてもいいかしら」
「マリアさん……」
バトルする前の威圧感は今は微塵も感じられず年相応の少年にマリアは慈愛に満ちた瞳でタイヨウの肩に手を置いた。
「タイヨウちゃん、まずは店長としてお礼を言わせて。このショップとみんなを守ってくれてありがとう」
「お礼なんていいです。僕は別にショップを守ろうとバトルしたわけじゃないから」
あくまでもショップは二の次。タイヨウがバトルしたのもシオリを不穏な輩に手渡さないためだ。
「あなたがどう思おうがバトルして勝ってくれたのは事実でそのお陰で守られたものはたくさんあるの。だからありがとね」
感謝される程のものとは思っていないタイヨウはただただ困惑するだけだがシオリはそっと、
「変にあれこれ考えずに素直に受け取ったら」
「けど……ううん、そうだな。まずはそこからだな」
余計なことを勘ぐって相手を警戒しすぎるのはタイヨウの悪い癖でもある。
それを知るよしもないシオリだが、彼女の指摘はもっともでタイヨウは真っ直ぐマリアを見つめ、
「力になれてよかったです。またああいうのが来たら僕が相手します」
「ふふ、頼もしい限りね。アタシも店長としてもっと強くならないとね。――それでタイヨウちゃん、あなた普段バトルするときレベル10でバトルしてるわよね」
「ええぇー!!」
唐突に質問をするマリアに当然と言わんばかりにタイヨウは頷くが聞いていたシオリは大声を上げていた。
「レベル10って最高レベルだよね。そんなレベルでバトルして平気なの!」
タイヨウは最高ランクの【S】だ。ライフダメージのレベルを最高レベルに設定するのも可能だが、マリアからレベル6からは現実ではまず味わうことのない痛みと教えられたシオリはレベル10の痛みが想像できずそれはもうトラックに轢かれるのと同等ではと背筋がゾッとする。
「なんか僕が好き好んでレベル10にしてるって勘違いしてそうだから言うけど【S】ランクになると強制的にレベル10に設定されるんだよ」
「え、そうなの? でもなんでそんな設定が?」
「まあそうね。一言で言うならハンデね」
【S】ランクバトラーの実力は未知数。普通にバトルしてもまず勝ち目が見えないため少しでも【S】ランクバトラーの集中力を切らすために強制的にレベル10になるのだ。
「ハンデと言っても慣れてしまえばどうってことないしむしろ僕は余計に集中力が増すかな」
「それってハンデとして成立するの?」
率直な疑問にタイヨウもさあー、と肩を上げるだけだった。
だがなぜレベル6のライフダメージにタイヨウが平然としていたのかこれで納得した。
普段からレベル10でバトルしていればレベル6なんて気にもならない痛みなのだろう。シオリからすれば未知の領域すぎて想像も及ばない。
「けどなんで今、そんなことを聞いたの? マリアさんなら最初から知ってたんじゃない?」
「知ってたわね。聞いたのは念のための確認で本題はここから――タイヨウちゃんには申し訳ないけど【S】ランクと知った以上、タイヨウちゃんのバトルフィールドの使用回数を制限させてもらうわ」
マリアの重苦しい発言にタイヨウは言い返そうとしたがすぐにその意味を察し押し黙る。何も理解出来なかったシオリは言い返したが――。
「なんでタイヨウがバトルフィールド使ったらダメなの! 何か問題でもあるの!」
「落ち着いてシオリちゃん。なにも嫌がらせで言ってるんじゃないの。これでもタイヨウちゃんの身体を思ってのことなの」
「タイヨウの……」
「シオリちゃんも、もちろんアタシも経験したことないから見聞でしか言えないけどレベル10は身体への負担が大きいのよ」
シオリは思い返す。タイヨウとバトルしたときのことを。
最初にタイヨウのライフを砕いたときタイヨウは久しぶりだからと膝をつき苦悶の声を出していた。
二つ目以降のはしっかりと耐えてはいたが頬には冷や汗が垂れ、表情も僅かだが苦痛に歪んだときもあった。
「アタシみたいに身体が成長しきった後ならともかく」
自身の身体を参考に出してくるが生半可な筋トレだけではその肉体には辿り着けないだろうと二人が思うなかマリアは、
「まだ成長期のタイヨウちゃんに過度な肉体負荷は身体を壊しかねないわ」
「そっか……いくらタイヨウが平気そうにしても身体には限界があるよね」
マリアの意図に気付けたシオリも俯くばかり。
決闘者モードならタイヨウもレベル10ではなくレベル6でバトル出来るため身体への負担は多少減るがシオリは果たして自分がその痛みに耐えれるのか。
「だからタイヨウちゃんがバトルフィールドを使える回数は日に二回まで。レベル6でもタイヨウちゃん復帰したばかりで身体もびっくりしてるだろうから今日はおしまい。いいかしら」
「……分かりました」
少し不本意な回数制限だが、今までされたことこの気遣いにタイヨウは嬉しくも思いそのルールに同意した。
「タイヨウの身体が一番だけど今日はもうバトル出来ないなんて」
「なに言ってるのよ。ここはバトスピをするためのショップよ。バトルフィールドが使えなくてもあそこのフリースペースでいくらでもバトルできるわ」
マリアの指差す先。入店した時から他の客たちも活用していた長机の設置された卓上。
「そっか。そもそも最初はそこでバトルする予定だったもんね。いくよタイヨウ!」
「はぁ、ホント元気だな」
シオリに着いていき壇上を下りると先ほどから黙っていた客たちがその周りを囲っていた。
「なんで塞がれてんの」
「さ、さあ……私なにか悪いことでもしたかな」
見た感じ怒っているわけでもないよいだが如何せん誰も喋らないせいで心情が読めない。
「ほら、黙ってないでちゃんと言葉にしないと伝わらないわよ」
一人全てを理解しているマリアは微笑みながら声を掛け数秒――。先頭にいた中学生ぐらいの少年がおずおずと声を出した。
「あの、先ほどはありがとうございました」
「先ほど? あーもしかしてさっきのバトルのことならもういいよ。店長のマリアさんからもお礼してもらったし」
いくらなんでも客にまでお礼されては面倒すぎると内心思うタイヨウを他所に少年はそのまま続けて、
「あの、もし迷惑じゃなかったらボクとバトルしてくれませんか」
「ふーんバトルね……え、バトル? 僕と? 本気で?」
自分の耳を疑い聞き返すタイヨウに少年は頷く。
「……一応それは僕が【S】ランクだと知って言ってるんだよね」
「はい、ぜひ一度最強のカードバトラーと戦ってみたいと思って」
少年のその言葉に周りにいた客たちも次々に俺も僕も私もと名乗りを上げる。
どうやら囲っていた全員がタイヨウとの対戦希望者のようだ。
「凄いねタイヨウ、人気者だよ」
「あーうん、どうだろ……」
「嬉しくないの? こんなに色んな人とバトルできるんだよ」
両手を広げるシオリ。大勢の人とバトルすることに憧れを抱いていた彼女は羨ましそうに見つめるがタイヨウは浮かない顔をしていた。
タイヨウにとってこの数の人とバトルするのは【S】ランクになる以前から日常茶飯事だった。
たくさんの人とバトルするのが楽しくないわけではない。人の数だけデッキや戦術があり、それらの人とバトルしていくのは強くなるには必須。
だがそれも【S】ランクになるまでの話。
【S】ランクに上がってからの連戦連勝のバトルはバトラーたちに越えられない実力の壁を無惨にも見せつけ気づいた頃には孤立していた。
勝っても“ダメ”。わざと負けるのも“ダメ”。そもそもそれはバトラーとしてもプライドが許さない。
だからタイヨウは他人とのバトルをよく思わないのだが、
「よーし、みんなー! 誰が最初に“本気”のタイヨウに勝てるか勝負だよ! 絶対に負けないからね」
シオリはそんな心境のタイヨウお構いなしに明るく声を上げた。
何を勝手なことをと口を開きかけたがすぐに違うと己の言葉を否定する。
気付いたはずだ。距離を置くだけでは何も変わらないと。自分も歩み寄っていかないとダメなんだと。
ならもう一度信じて踏み込むしかないんだ。
「もちろんいいよね、タイヨウ」
「……そうだな。いくらでもバトルしてあげるよ。ただし僕に勝ちたいなら“本気”で勝ちに来ること。途中で諦めたり投げ出すような奴とはバトルしない。これが条件だからな」
「当たり前だよ。やるからには全力でやらないと相手にも失礼だしなにより楽しくないもん」
シオリの言葉にみんなが各々の言葉、仕草で同意する。
タイヨウにとってそれがどれだけ頼もしかったことか誰も知らずタイヨウは笑みを浮かべ一歩踏み出した。
「じゃあ、誰からバトル。最初はシオリからだからその次からな」
歩きフリースペースに移動しながら周りの子達もそれに着いていき二番目からの順番を決めていた。
「あ、タイヨウ」
と、背後からシオリに声をかけられタイヨウは足を止めて振り返る。
「どうしたんだ。最初にバトルするのは嫌だった?」
「ううん、そうじゃないの」
首をかしげるタイヨウにシオリは――。
「言いそびれたけど守ってくれてありがとう。行く必要が無いって私を止めてくれたの凄く嬉しかった」
「なんだそんなことか。いいよ、僕がいる限りシオリも守るから安心してバトスピを楽しもうよ」
その言葉にシオリは頬が熱くなるのを感じ、すぐに頭を振って冷やすと、
「――うん!」
今日一番の笑顔でタイヨウの後を追った。
~バトスピ小ネタ劇場~
《ランク》
シオリ「あ~早く私も【S】ランクになりたい~!」
タイヨウ「その前に【E】ランクになるのを目指さないとね」
シオリ「そういえばランクを上げるにはバトルに勝った時に手に入るポイントが一定以上貯まったら自動的にランクアップするんだよね」
タイヨウ「そうだね。上のランクを倒せばその分より多くのポイントが手に入るよ」
シオリ「なら使ってたデッキがどうあれ【S】ランクのタイヨウに勝ったんだから私結構ポイント貯まったってこと!」
タイヨウ「あーそれなんだけど【F】ランクだけはポイントじゃなくてバトルフィールドで十回勝てば【E】ランクに上がるんだよ」
シオリ「えー」