鬼滅の東刃〜Another of Slayer〜 作:トーニオン
その時、腕や足に穿たれた弾から木が現れた。
「時透さん、あんたの働き…無駄にしないぜ」
その木は根を張り私の体を地面から離す。
動けない…。これほどまでの力を吸収できる鬼喰いがいようとは…
全身を突き抜ける焦燥、生命が脅かされ体の芯が凍りつく。
平静が足元から瓦解する感覚。忌むべき、そして懐かしき感覚。
あれはあの赤い月が登る夜だった。
私は信じられぬものを見た。
老いさらばえた縁壱の姿はそこにあった。
私の双子の片割れ…そしてその男はすでに八十八…本来なら死んでいるはずだった。
「あり得ぬ…なぜ生きている?皆死ぬはずだ、二十五になる前に、なぜお前は…お前だけが3倍以上の歳を食って生きている!」
「お労しや…兄上…それ私も同じだ…私はあなたと約束を果たせなかった…」
老化した醜い姿のかつて弟だった生き物に憐まれた。
だが憤りは感じなかった。六十五年前はあれ程目障りだった弟だというのに。
兄上と呼ぶ声は酷く嗄れていた。感情の僅かな機微すら見せなかった弟が涙を流している様に生まれて初めてこみ上げてくるものがあった。
私は己の予期せぬ動揺に困惑した。
殺さねばならぬ。人だった頃の片割れが全盛期を遥かにに過ぎ、脆い肉体の老人を。
奴が鬼狩りである限り刃を向けてくる者は一刀両断にせねばならぬ。
しかしこの感傷も次の瞬間には吹き飛ぶことになる。
その老いた弟はものすごい威圧をかける。
その威圧感は大岩を頭の上に乗せられているようだ。
構えには一分の隙もない。
「参る」
その時私は気を引き締める間もなく、頸や両手が斬れる。
何故いつもお前が、お前だけがいつもいつも特別なのか、痣者であるというのに八十八まで生き永らえ、その老骨で振るう技は全盛期と変わらぬ速さ、そして威力。
鮮やかに記憶に蘇る。六十五年前の怨毒の日々、骨まで灼き尽くすような嫉妬心。
お前だけがこの世の理の遥か外側にいる。神々の寵愛を一身に受けて生きている。
そんなお前が憎い。殺したい。
だが次の一撃で私の頸は落とされるという確信があった。
あのお方をも極限まで追いつめたあの剣技。それは神の御技に他ならない。
焦燥と敗北感で五臓六腑が捩じ切れそうだった。
しかし、奴は最後に言葉を残した。
「未完成だった…か…」
その言葉を発したあと、縁壱は直立したまま寿命が尽きて死んでいた。
もうひと呼吸、縁壱の寿命が長ければ私は負けていた。
生き永らえた為に鬼となっていた私はその屈辱を何百年も味わい続けた。
負けたくない。
たとえ頸が斬られようとも…!
生恥を晒したところで3度目の負けは絶対に!
「ふぅ、意外と呆気ないわね。こんなにもあっさり頸を斬られるなんて、拍子抜けだ…」
「八意さん!」
「八意殿!」
「ごめんね、ちょっと張り切り過ぎちゃったみたい。大分血を流してるから、私は無惨との戦いにはちょっと無理そ…」
私は気がつく、頸が斬られたのならなぜあの身体は今も綻ばずにあるの?
「みんな!逃げて!」
私は全力で叫ぶ。その予感は的中した。
上弦は上に行けば行くほど無惨の血が濃くなる。つまり、上弦の弐にまでなると、頸を斬られても死なない。
その瞬間、見える速さではあるが、月の斬撃があの鬼の身体から大量に発せられる。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!」
その斬撃は辺り一面を埋め尽くす。
「何!あの鬼、力で全てを捻じ伏せやがった!」
「玄弥!血鬼術は効かないのか!」
「俺はいま全力であの鬼に力を込めている。でも、あの鬼はそれを上回ってんだよ」
克服した。太陽の光以外は全て克服した。これで私は誰にも負けることはない。
縁壱、私はお前を超えた!
醜い姿になろうとも、私はやらなければならないことがある。
今ここにいる鬼狩を全て殺すしかない。
「とんでもねぇ奴だなあの鬼は!」
「力に溺れ暴走したか…」
「どうにかして解決策はあるんですか?」
「そんなものな……あったわ…!」
「それはなんなんですか!」
「この間にはまだ斬られていない柱があるわ…それを斬って、天井を落とすのよ」
私はその不確定な答えを導き出す。だが確証はない。
でもこれが正しければあの鬼の上に天井が落ちてくる。
その天井を目眩しに私が全てをかける。
このために私が編み出した十七の型を。
玄弥は全力で鬼から力を奪いつつ、私たちは4本の柱に向かった。
「やってやるぜ!」
「八意殿の策はかなり鋭い…、ならばやる以外に他ない」
「八意さん!」
「えぇ、力を合わせて!」
月の呼吸。捌の型 月龍輪尾
風の呼吸。捌の型 初烈風斬り
岩の呼吸。伍の型 瓦輪刑部
霞の呼吸。参の型 霞散の飛沫
柱は4本崩れる。それと同時に、壁にも大きな穴が開く。
「行くぞ!」
そして私たちは天井が落ちる前に避難する。
そして私は間の真ん中目掛けて放つ。
月の呼吸。 十七の型 新月
間の崩壊とともに私は黒死牟の全身を斬り刻む。
「はぁ……はぁ……」
終わった…。私はもうすでに限界だ…。死の言葉が過ぎる。
私はすでにボロボロだ。
斬り刻む瞬間に私は右脚を斬りおとされ、左腕も斬り刻まれた。
どうにかして勝つ方法をさがさ…。
その時、私は無一郎に斬撃が飛んでいくのが見える。
私の身体はそれよりも早く動いていた。
「そ…そんな…八意さん…」
「心配するなら…あなたも…両脚を斬り落とされたことを…心配しなさい…」
「いやだ!いやだ!いやだ!そんな……永琳さん!死んじゃだめだ!」
「私は…もう…やれることはやりきったわ…黒死牟の頸を落とせたこと…それだけでも…私は…生きててよかったと…心から今思えるわ…」
私は目を閉じるとそこにはみんなが待っていた。
輝夜さん、依姫、豊姫、そして鈴仙。
もう私はやり遂げたんだ。
もう思い残すことはない。
「永琳さーーーーん!」
俺は永琳さんの亡骸を強く抱いた。
「ふん、死んだか…私の…勝ちだな…」
その時、突然歌が聞こえだす。
「かーごめかーごめ、籠の中の鳥は、いついつ出会う。夜明けの晩に鶴と亀が滑った。うしろのしょうめんだーーあれ!」
かごめかごめ…なぜこの歌が聞こえるんでしょうか…。