鬼滅の東刃〜Another of Slayer〜 作:トーニオン
前編をお楽しみください。
ここはどこだ?
青空?夜が明けたのか?
いや違う、そんなはずは…
あれ?臭いが全然しない。
俺は前を向く。
そこには茅葺きの屋根の家があった。
これはうちか?いや…似てるけど少し違う。うちじゃない。
何をしているんだ俺は、薪割り?走馬灯を見てるのか?
足元に何がぎゅっと掴むものを感じる。
「とーたん、とーーたん」
父さん?俺のことか?この子は誰だ?
「うー、んー」
子供が指さす先を見る。
そこには夢で見た男が歩いてきた。
始まりの呼吸の剣士…、縁壱さんか?
「久しぶりだな…また来てしまった」
「どうぞ!今日はどのような用事で?」
「誰かに話を聞いて欲しかった。随分考えて思い浮かんだのか、炭吉とすやこの顔だった」
もしかすると十三番目の型について聞けるかもしれない…
「二年ぶりでしょうか、お元気そうで良かったです」
ん?あれっ?どうなってるんだ?
「あの時の赤ん坊だった娘のすみれや息子の炭春もこんなに大きくなりました」
全然思ったこと話せないぞ?うう…体が勝手に…
そうか当然だ。これは遺伝した先祖の記憶だから干渉は一切出来ないんだ。
「お前たちが幸せそうで嬉しい。幸せそうな人間を見ると幸せな気持ちになる。この世はありとあらゆるものが美しい。この世界に生まれ落ちることが出来ただけで幸福だと思う」
縁壱さんは空を仰ぐ。
「私の母は信心深い人だった」
この世から諍いごとが無くなるよう毎日毎日祈っていた。太陽の神様に私の聞こえない耳を暖かく照らしてくださいと祈り、耳飾りのお守りまで作ってくれた。
私が口を効かなかったがために余計な心配をかけてしまい申し訳なかった。
私の兄はとても優しい人だった。いつも私を気にかけてくれた。
父から私に構うなと殴られ続けた翌日も笛を持ってきてくれた。助けて欲しいと思ったら吹け、すぐに兄さんが助けに来る。だから何も心配はいらないと右目が開かなくなるほど赤紫に腫れた顔で笑った。
私は忌み子なので母が病死した後すぐに家を出た。
出家するよう言われていたが結局寺へは行かなかった。
どこまでも続く美しい空の下を思いきり走ってみたかった。
だが私は3日間走り続けても疲れて足が止まるということがなかった。
山の中でふと気づくとこぢんまりした田畑がある場所に出た。
誰かがぽつんと一人で立っていた。同じ年頃の女の子だった。
女の子は桶を持ったまま長い間ピクリとも動かなかった。
何をしているのか聞いてみると
「流行病で家族みんな死んじまった、1人きりになって寂しいから田んぼにいるおたまじゃくしを連れて帰ろうとおもって」
そういってまた女の子は動かなくなった。
しかし日が暮れ始めると女の子は桶の生き物を田んぼに逃がした。
「連れて帰らないのか?」
「うん…親兄弟と引き離されるこの子達が可哀想じゃ」
「じゃあ俺が一緒に家へ帰ろう」
「えっ?」
黒曜石のような瞳のその女の子はうたという名前だった。
私とうたは一緒に暮らすことにした。
うたは朝から晩までよく喋る女の子だった。
私はうたのお陰で他人と自分の世界の視え肩が違うことを知った。生き物の体が透けて見える者など聞いたこともないそうだ。私はその時初めて漠然とした疎外感の理由がわかった気がした。
うたは糸の切れた凧のようだった私の手をしっかり繋いでくれた人だった。
10年後、私たちが17の時夫婦になった。
うたの臨月が近づき出産に備えて私は産婆を呼びに出かけたら。日が暮れる前に帰るつもりだった。
途中で山三つ向こうの船岡山へ行こうとする老人に出会った。自らも心臓も関節も悪いというのに戦で負傷し死にかけている我が子の元へ急いでいた。
老人を送り届け、帰りに産婆を呼びに行ったものの日が暮れてしまい、うたは、家の前で腹の子諸共殺されていた。家には無かった槍によって。
「自分が命より大切に思っているものでも他人は容易く踏みつけにできるのだ」
私は十日ほどぼんやりして妻と子供の亡骸を抱いていた。
鬼の足跡をおってきた剣士、煉獄橋平に弔ってやらねば可哀想だと言われるまで。
私の夢は家族と静かに暮らすことだった。
小さな家がいい、布団を並べて眠りたい。
愛する人の顔が見える距離、手を伸ばせばすぐに繋げる、届く距離。
それだけでよかったのにそんなことすら叶わない。
鬼がこの美しい世界に存在している為に。
私は煉獄橋平の誘いで鬼狩りとなった。鬼を追うもの達は古く平安の中頃からいたそうだが呼吸が使える者はいなかったので私は教えた。
柱と呼ばれていた剣士たちは非常に優秀で、元々使っていた炎・風・水・雷・岩の剣術の型に上乗せをして呼吸を使えば飛躍的に力が向上した。
鬼狩りたちは凄まじい勢いで鬼を倒せるようになり、
私の兄も側近を殺され鬼狩りに加わり、力を貸してくれた。
兄も素晴らしく、私の編み出した日の呼吸を一つだけ見て数分もせずに月の呼吸を五つ六つと技を思いつくほどだった。
それから半年、鬼の始祖を見つけた。
出会った瞬間に、私はこの男を、倒すために生まれてきたのだとわかった。
その男は暴力的な生命力に満ち溢れていた。
火山から吹き出す岩漿を彷彿とさせる男だった。
ぐつぐつと煮え滾り全てを飲み込もうとしていた。
「呼吸を使う剣士にはもう興味が無い。鬼狩りたちも歴史の波に埋もれていくがよい」
そう言うや否や男は腕を打ち振るった。恐るべき速さと間合いの広さだった。攻撃を避けると遥か後方まで竹が斬り倒される音がした。かすり傷でも死に至ると感じた。私は生まれて初めて背筋がヒヤリとした。
男には心臓が七つ、脳が五つあった。
この瞬間私の剣技はほぼ完成した。
完成した型!!十三個目の?知りたい!教えて欲しい!
男は自らの肉体を再生しないことに困惑している様子だった。
斬られた頸が落ちぬように支えていたが繋がることはなかった。
私の赫刀は鬼の始祖でも覿面に効くのだと知った。
私はこの男にどうしても聞きたいことがあった。
「命をなんだと思っている?」
男からの返答はなかった。男は私を見ていたが怒りの為か顔が赤黒く膨れ上がっていて、私の言葉は男の心まで届かないと思った。
ふと、男が連れていた鬼の娘に目をやると、
彼女は男を助けようともせず、前のめりにカッと目を見開き、頸を斬られた男の姿を凝視していた。奇妙なことにその瞳はキラキラと希望の光て輝いて見えた。
私は彼女より先に男に止めを刺すことにした。
私が一歩男に近づくと、食い締められた奥歯が砕ける音がした。
次の瞬間男の肉体は勢いよく弾けた。
千八百ほどに散らばった肉片のうち、千六百をその場で斬った。
けれども残りの肉片はあまりに小さすぎた。
合わせればおそらく拳2つほどの大きさの肉片を逃してしまった。
私は立ち尽くしていると悲鳴のような泣き声のような娘の声と共に倒れ込む音がした。
「もう少しだったのに、もう少しだったのに・頸の弱点を克服していたなんて…」
言葉を絞り出して娘は頭を掻き毟った。
「死ねばよかったのに!生き汚い男!鬼舞辻無惨!」
私はその娘の元に近寄る。
「死なない…なぜ私は死なない?」
慌てふためく娘を宥めると堰をきったように男について話してくれた。
そして鬼の始祖、鬼舞辻無惨はもう、私が死ぬまで姿を現さないだろうとも言った。
私は無惨が弱った頃一時的に彼の支配から解放されたという彼女に彼を倒す手助けを頼んだ。
何十年でもいい、何百年でもいい。必ずしも鬼舞辻無惨を倒すために鬼殺隊に協力して欲しいと。
娘は始め戸惑っていたが承知してくれた。
彼女は珠世、人の頃は平珠世だったとも言った。
悲しい目をしていた。
珠世!?珠世さんのことか…!?
その後駆けつけた仲間から兄が重傷を負い、鬼舞辻に鬼にされたことを聞いた。
私は鬼舞辻を倒せなかったこと、珠世を逃がしたこと、兄が鬼になったことの責任を取る為鬼狩りを事実上の追放をされた。
一部の者からは自刃せよとの声も上がったが六つの身で当主となったばかりのお館様がそれを止めて下さり、一つだけ命令をしてくださった。
父を亡くし心の弱っている子供にさらなる心労をかけて申し訳なかった。
「縁壱さんは悪くない…」
「私は恐らく鬼舞辻無惨を倒す為に特別強く造られて生まれてきたのだと思う。
しかし私はしくじった。結局しくじってしまったのだ」
私がしくじったせいでこれからもまた多くの人の命が奪われる。心苦しい。
言葉が出ない。あまりの多くのことが縁壱さんの身に起こりすぎていてかける言葉が見つからなかった。
もしかしたら俺の祖先の炭吉さんなら何か言ってくれるかもしれないけれど、しばらく沈黙だけが続いた。
どうにかしてあげたい。この人は深く傷ついてここに来たんだ。どうにか…
「だっこぉ」
「あっ…抱いてやってください。高く持ち上げてやると喜ぶのであなたは私より上背もあるし…」
縁壱さんはヒョイと持ち上げる。
するとすみれはものすごく喜んでいた。
「炭吉さんただいまぁ、見てこれ!今年の栗こんなに大きいのよ!それに舞茸まで見つけたのよ!今夜はご馳走だわ!」
「どうしたの…。あれぇ?まー!縁壱さんじゃないそんなに泣いてどうしたの!きっと大丈夫よぉ。お腹いっぱいごはんたべさけてあげますからねっ!げんきだして!ほらぁ」
戦いの最中だと言うのはわかっている。
それでも縁壱さんの心が何百年も昔に亡くなっているこの人の心がほんの少しでも救われることを願わずにはいられなかった。
そして場面は変わる。
目の前には老いた縁壱さんが膝をついて泣いていた。
「一度ならず…二度としくじってしまった…」
その時、自分の姿が炭吉ではなくなっていることに気がつく。
縁壱さん!なんで!?
次回縁壱さんの過去に2度目のしくじり、何が起きたのでしょうか…。