七日後にTSする高校生   作:rairaibou(風)

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TSまであと七日

 男子高校生は性欲猿である。

 

 誰かがどこからか持ち込んできたその水着写真集に群がる高校生たちは、男の性欲に対するそのような偏見があながち間違いではないことを証明しているようだった。

 

「おぉ~」

 

 そのページを捲る権利を持つ男がそれを行使するたびに、彼らは感嘆の声を上げていた。まだあまり有名でなかったそのアイドルと写真家は、後に名を挙げることになる。その才能に、性欲に素直である彼らはすでに気づいていたことになるのだが、尤も、彼らにとっては若い美人が水着で微笑んでいればそれだけでいいということかもしれなかった。

 

「どうなってんだ、本当に俺達と同じ生物なのか?」

「遺伝子的にはそうなんだろう」

「信じられねえよ」

「十九歳なんだろ? まだ」

「俺達と三つしか違わねえのかよ」

「まじかよ」

 

 集まっていたうちの一人が、まだ生徒のまばらな教室の中をぐるりと見回して、そこにいた女子達をひと目見てから続ける。

 

「あいつらがああなるのかよ」

「流石に失礼」

「求めるな、求めてやるなよ」

 

「お前ら! しっかり聞こえてるからな!」

 

 どうやらそのうちの一人の女子は彼らの台詞とその行動と思考をうまく合致させることが出来たようで、険しい顔で彼らを叱責した。

 だが、それは本気の憤りではなかった。もう二年の付き合いだ、少なくとも彼女は彼らの『ノリ』を理解していたし、その言葉に本気でショックを受ける理由もない、そりゃあ好きな男にそう言われれば凹みもするだろうが、ただのクラスメイトにそう言われたところで、バカがなにか言っていると割り切れるものだ。

 

 市立丁洲(ていす)高校。特別優秀でも特別荒れているわけでもないその高校の朝は、試験日当日でもなければだいたいそんな感じだった。

 

 彼らを叱責した女子学生は更に続ける。

 

「風紀委員が来る前に片しとけよ非モテ共!」

「非モテちゃうわ!」

「そうだそうだ! カワリューはモテてるだろ!!!」

「俺の名前を出すなよ!」

「モテてんのカワリューだけだろ! 私はお前らの話をしてんだよ!」

「だから俺はモテてねえよ!」

「それはない」

「それはない」

「それはない」

「何を根拠に」

「可愛い幼馴染がいる時点で有罪」

 

 彼らはもう少しその問答を続けようとしていたが、突如大声で差し込まれた「あなた達!」という声にそれはかき消された。

 その声に目を向ければ、目の前にはそのクラスの風紀委員を努める女子学生、彼女は彼らが見ているものをすでに視界に捉え、それが持つ概念も理解しているようだった。なぜそう言えるか、それは彼女が顔を真っ赤に茹だらせているからだ。

 

「学業に関係のないものは持ち込み禁止です!」

「保健体育に関係してるだろうが!」

「そうだそうだ!」

「図解だ!」

「純文学だ!」

「馬鹿なこと言うんじゃありません!」

 

 問答無用! と、写真集を奪い去ろうとした女学生に、先程までからかわれていた河流(かわりゅう)がそれを指差して問う。

 

「じゃあそれ読めよ」

「は?」

「本当に学業に関係ないのかどうかちゃんと読んで確かめろよ」

 

 無茶苦茶な理屈ではあるが、恐ろしいことに瞬間的に否定する事は難しい屁理屈であった。

 風紀委員は真っ赤であった顔をさらに真っ赤にしてワナワナと震える。

 

「と、とにかくこれは放課後まで預からせていただきます!」

 

 彼女はそれをかばんの中に滑り込ませ、教室から去った。恐らく生徒会室かどこかにそれを隠しに行くのだろう。

 

「読むな」

「あれは読む」

「読まぬ訳がない」

「まーでも仕方ないわな」

 

 清雅は一つ首をひねって続ける。

 

「どー考えても学業にカンケーないしな」

「たしかにな―」

「でもあの子もちょっと潔癖すぎるよね」

 

 いつも間にか清雅のグループに紛れ込んでいた女生徒が他人事のように言った。

 

「別に今更水着だ何だでキャッキャするような年齢でもないっしょあたしら」

 

 何気なく言ったその言葉に、男たちはわかりやすくうなだれる。

 

「その言葉は俺達に刺さるんだよなあ」

「ついさっきまで水着でキャッキャしてたんだよなあ」

「俺達には水着でも刺激が強いんだよなあ」

「もう俺達の希望はカワリューしかいないんだ」

「だからなんで俺なんだよ」

「いやカワリューがモテたところでお前らの手柄にはなんね―から」

 

 先程から名指しされてばかりの清雅もそれに続ける。

 

「いや俺に出来るならお前らにも出来るだろうよ」

「流石幼馴染がいらっしゃる男は言うことが違う」

「そうなら苦労してねえよ」

「出会いに行く服がねえよ」

 

 わかりやすく項垂れる彼らに、清雅は一つ息をついて続ける。

 

「しかたねーなお前ら。もし俺が女になったらな……お前らにガンガンやらせてやるよ!!!」

 

 そのバカ丸出しの提案に、しかし男たちはうおおおおおおと盛り上がる。

 

「流石カワリューだ! 俺達の救世主だ!」

「お前についてきてよかった!」

「持つべきものは友だ!」

 

 欠片の生産性もない、ありえもしない想定が前提のバカ話だ。

 当然誰もそれを真面目には受け取らず、女生徒はわかりやすく呆れた表情だ。

 ホームルーム開始三十分前はそんな時間。未来ある少年たちが馬鹿をする権利を持つ時間。

 

 その中心にいる男子学生、河流清雅(かわりゅうせいが)はまだ知らない。

 七日後、何の予告もなく自身が女になることを。




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