放課後、多目的教室ではあいも変わらずボードゲーム部の活動が行われていた。
斎藤の対戦相手は女子の制服に身を包んでいる。何のことはない、それは元から部員であった清雅だったのだが、それを眺める部長はその光景に少し感慨深そうにしていた。
「ついに我が部に女子が来るとはねえ……先々代の部長からの念願がようやく叶ったわけだ」
「むっさい部だったもんなあ」
「中身は男ですからね、一応言っときますけど」
「ヨン」と、清雅は斎藤の前に並べられたカードの右から二番目を同じくカードで指差して言った。
並べられたカードは白いものと黒いものがあり、斎藤の前にならぶそれらの端には、白いカードに「11」と書かれていた。
「ノー」
「あーヤバい、これはヤバい」
うなだれながら、清雅は手に持っていた黒いカードを表にしながら左端に置く「9」と書かれたそのカードは、たしかにそのゲームのルールを知っていれば非常にまずい公開情報であった。
「あちゃー、こりゃやっちゃったねーカワリュー」
斎藤が山札からカードを一枚引き、裏側のまま「9」のカードの隣と向き合わせる。
そして、しばらく考えてから言った。
「ナナ」
「イエス」
清雅がそのカードを捲ると「7」の数字が現れる。
それまでの流れから分かる通り、そのゲームは公開情報を頼りに相手の前に伏せられていたカードをすべて正解することを目的とするゲームだった。基本二人対戦で、部長は観戦に回っている。
「ゴ」
「……イエス」
再びめくられるカード。ただの数字あてではなく、白と黒の二種類のカードがあるのが奥深いところである。
「ニ」
「なんでだよ!」
放り投げるように白のカードをめくりながら清雅は叫んだ。これで清雅のカードはすべて表、丸裸になってしまったというわけだ。
これで清雅の三戦連続負けである。もちろん多少の運も絡むゲームだから、清雅にそのすべての責任があるというわけではない。
だが、このゲームは計算能力が重要なように見えて、その実、演技力も必要なゲームであるのだ。例えばどうして自分のこの数字をこんなにも簡単に当てることが出来たのか、とか、随分数字が絞れているはずなのにどうして悩んでいるのだろう、そんなにも公開したくない数字を持っているのだろうか、とか、そういう考え方ができる。
清雅は、徹底的のその能力に欠けていた。つまるところ、演技ができないのである。
「わかり易すぎる……」
斎藤は駄菓子の口を開きながら呟いた。彼だって鬼ではない、このゲームのそういう側面をすでに伝えているし、その上でいい勝負をしたいとも思っている。
だが、演技力というものは今日明日でどうこう出来るものではないのだ。
「しかし、良かったじゃないか」
部長が清雅を丸裸にしたのを確認してから、斎藤が言った。
「女子制服もそこまで違和感ないぞ」
「それ、みんな言うわ」
はあ、と、清雅はゲームの結果にも、その言葉にもため息をつく。
「不満そうだけど、いいことじゃないか。例えば俺みたいなのが女になってみろ、酷いもんだぞ」
どこかで聞いたことのあるような例えに首をひねる清雅を尻目に、斎藤は更に続ける。
「不幸中の幸い、というやつだよ」
「まあ、そりゃ……そうなんだろうけど」
「楽しまなきゃ、現状をね」と、山札を切りながら部長もそれに同調した。
「でも」と、清雅は俯きながら言う。
「まだスカートには慣れませんよ」
「そりゃそうだろ、スコットランド人じゃあるまいし、そうすぐに慣れるもんでもない」
よくわからない例えだったが、清雅はそれを無視する。
「それに……女子がめっちゃはしゃいでる」
何も反応がないのを確認してから続ける。
「今度の日曜、伊武と買い物行くんです」
「自慢か?」
「真面目な話ですよ」
悪い悪い、と笑ってから斎藤が答える。
「まあ、仕方ないじゃないか。生活の新しい刺激だ、邪険に扱われるよりかはいいだろう。まだ自分のことを男だと思っているなら、快く付き合ってあげればいい」
部長が切り終わった山札を配りながら、斎藤は笑いながらそう言う。他人事だったが、他人なのだから仕方がない。
「いよっしゃあああああ!!!」
久しぶりに、清雅が勝利の雄叫びを上げた。
斎藤を相手に、久しぶりの勝利であった。
「ついてねえなあ」
勝利の駄菓子を頬張らんとする清雅を眺めながら、斎藤はわかりやすくうなだれた。あれだけの数勝利しているはずなのに、一回負けただけでもやはり多少は悔しいようだった。
「ついてなかったねえ」と、部長も斎藤に同情的だった。
あまりにも壊滅的な場札であったし、あまりにも壊滅的な引きでもあった。
「今日はよく寝れる!!!」
運で勝ったことなどどうでもいいと言わんばかりに喜ぶ清雅、それを見せられては、斎藤も部長も腐るに腐れない。たまには負けてもいいかと思ってしまうというものだ。
「勝利の一枚でもとっとくか?」
斎藤はポケットからスマートフォンを取り出して言った。本来ならば持ってきたはならないはずのスマートフォンだったが、斎藤に言わせればそれは形骸的で前時代的な、意味のない校則だから守る必要なんて無い、ということらしかった。
「おう! よろしく!」
何の意味もなく何の意味もないポーズを決める清雅を、斎藤は画角に納めた。