丁洲高校は、最寄りの駅『丁洲』から徒歩十分の良物件だ。部活が強くもなければ、県内トップクラスに賢いというわけでもないその高校が未だに人気であるのもそのような立地が関係している。
故に、当然ながら多くの学生は電車を利用することになる。
清雅もその例には漏れなかった。
地元の駅から乗り換え無しで駅三つ、時間にして大体十五分程度の乗車時間は、世間一般の学生と比べれば恵まれている方だろう。
「おう、おはよーさん」
ホームへと続く階段を降りてその裏。『魔法使いが住んでたところ』と彼らだけが呼ぶそこは、『丁洲』の改札から遠からず近からずの場所で扉が開く丁度いい場所であった。
清雅よりも先にそこにいた同じ制服の学生は、挨拶に目を細めた笑みを浮かべて応えた。その微笑み自体は彼がまだ物心付く前から変わらぬものだが、はるか遠くからでも見分けることの出来るその長身には似合わぬものだった。
「おはよー」
その少年、
長身だけではない、彼のY軸にばかり気を取られてどう考えても同世代よりも広いX軸や分厚いZ軸を見逃すのは素人だ。しかしやはり、それらに目をやっても彼の間の抜けた挨拶が不相応であるという評価に変化はないだろう。
だが、清雅はそれを特に訝しむことはなかった。
彼にしてみれば、山上がでかいのなんて今に始まったことではない、それこそ中学校に入学したあたりから顕著であったし、成長率という観点から言えば、その頃のほうが圧倒的であった、田舎に帰る為に一週間ほど顔を合わせなかっただけでも彼の成長を感じることができたのだ。
微笑みにしても、彼はそれを不思議に思わない、それこそ山上のキャラクターなどまだお互いの背丈が同じくらいであった頃から変わっていはない、それに関しては、清雅は感覚が麻痺していた。
だいたい分かるように、彼らは幼馴染であった。
そして、清雅の幼馴染はもう一人。
「おはよー」
ポン、と、彼の背中を叩いたのは、彼より少し背の低い女子高生だった。後ろで一つにまとめられたポニーテールに、使い込まれて少しテカりが落ち着いている肩がけのエナメルバッグが、彼女の属性というものをわかりやすく表現している。
「おー」と、清雅はちらりと彼女を見やっていった。小学校の頃からほとんど毎朝かわしてきた挨拶である。今更なにか特別なものはない。
彼の幼馴染である
皆それぞれが成長はしつつも、毎日毎日顔を合わせていた彼らにとってそれはあまり新鮮な変化ではなかった。
「お前ら英語の課題やったか?」
「やったよ、今回難しくなかった?」
「難しかったよね」
そんな会話をしながら、彼らは目的の電車が来るのを待った。
『丁洲』の改札を抜ければ、そこからは一気に『丁洲高校』を意識せざるを得ない光景となる。
学生ばかりというわけではないが、それでも他の駅と比べれば学生の数が多いだろう。決して栄えている駅ではないが、それでも駅前には本屋やカラオケやなど、明らかに学生を意識した施設が並ぶ。
高校に続く道を歩きながら、彼らは他愛のない話を続けていた。
「レギュラー入れそうなん?」
「うん、まだわからないけど」
「伊武さんいつも遅くまで練習してたもんね」
「いやいや、人数少ないからだから」
だが、それに割って入る声がある。
「伊~武!」
そう言いながら伊武の背中を叩いたのは、彼女と同じようにエナメルバッグを下げた女子達であった。
彼女らは丁洲高校の女子バスケット部員、伊武のチームメイトであった。
「じゃあ、またね」
彼女は一つ挨拶してからそのグループに混じっていった。先程まで歩幅が同じであったはずなのに、彼女らのペースに合わせて段々と清雅たちから遅れていく。
しかし、山上も清雅もそれを特に妙なことだとは思わなかった。いくら幼馴染だと行ったって、これまでもこれからもずーっとこの三人だけの関係であるはずがない。
伊武には伊武の付き合いがあるだろうし、自分達には自分達の付き合いがある。女子は女子と話したいことだってあるだろう、いや、そもそも女子は女子と話す、男子は男子と話す。小学校の高学年の頃から、本来ならばそんな感じだっただろう。
むしろ、この関係はよく続いている方だ、と彼は思っていた。