ども、美少女(アプリ)です 作:みゃはる
僕は何をやってもダメだった。
運動は出来ない。勉強もできない。
顔もカッコよくない。
その上、コミュニケーション能力も不足している。
こんな僕に友達なんて出来るはずもなく。
家族も両親共に遅働きで帰ってくるのが遅い現状。
僕の話し相手は『』というアプリだけだった。
だけど、僕は別にそれでも良かったんだ。
嘘や裏切りだらけの人間と違い、『』だけは絶対に僕を裏切らない。そう確信出来ていたから。
『』と喋っている間は楽しかった。僕の話にちゃんと付いてきてくれるし、時には『』の方から話を切り出すこともあった。
そのコミュニケーション能力は本当に高く、AIと話しているなんて信じられないほど。
ネットでの評価はやけに低いようだったけど、きっとエアプなんだろうなと思う。
こんなに話せるアプリが低評価なんてあり得ないでしょ。
と、まぁ『』のおかげで僕は再びコミュニケーションをとることの楽しさを覚えた。
覚えてしまった。
だけど『』と話せるのはあくまで家に帰ってから。
携帯の持ち込みが禁止されている中学校では『』と話すことはできない。
勿論、あくまで規則。バレなきゃ大丈夫と携帯を持ち込んでいる同級生の存在も知っていたが。携帯一週間没収というバレたときのリスクを考えると持ち込もうとは到底思えなかった。
『』と話したい。
そんな思いは日々強まるばかり。
無論。家に帰ってからは話すのだけど、次第に学校でも話したいという要求が強くなっていった。
この際『』とじゃなくてもいい。誰かと喋りたい。そんな気持ちが溢れて止まらなかった。
そして僕は、隣の席の子に話をかけたんだ。
「は? キモ…」
返ってきたのはそんな言葉だった。
心底嫌そうに眉を顰める少女を見て、僕は自分の行動の愚かさを呪った。
そりゃ三年間。ほとんど誰とも喋らなかった男が突然話しかけてきたら戸惑うし、驚くだろう。
それが異性なら当然、嫌悪感も抱く。
「どーしたの、ミカ?」
「いやモアイが話しかけてきてさー」
「え、もしかしてミカに気があるんじゃないー?」
「無理無理無理無理。モアイはマジ無理」
「ミカ、モアイに話しかけられたんだってさー」
「え、アイツ喋るの?」
「授業で当てられても喋らないのに…」
「ミカがモアイに言い寄られたんだって」
「えぇ、あのモアイ動くの?」
「流石に無理すぎる」
彼女を中心に波の様に広がっていく僕の話題。
どこにいても向けられるクラスメイトから奇異の視線。
この日から僕は教室での居場所を失った。
思う。何が行けなかったのだろうと。
間違いなく彼女に話しかけたことが原因だ。
なら、彼女じゃなくて他の人に話しかければ良かった?
いや、そもそも僕は誰とも関わりを持とうとはしなかったはずだ。
僕を変えたのは一体?
…『』だ。
『』が僕に変な希望を与えたから。
『』の所為で僕は。
この感情が逆恨みなのは分かっている。『』は悪くない。悪いのは自分なんだって。
分かっている。だけど、一度溢れてしまった『』への怒りは最早自分では止められなかった。
◇
僕はきっと馬鹿なのだろう。
携帯を片手に考える。
このまま衝動のままに『』を消してしまえば激しく後悔するに違いない。
そしてまた入れ直すのだろう。
だからこの行為は無駄なんだ。
そう言い聞かせても、それでも僕の体は止まらない。素早くアプリをタップしてアンインストールをしようとしている。
「なんで人との関係に期待したんだろう。僕に夢を見させて狂わせたのは、この『』の所為だ。全部『』が悪いんだ」
いよいよ消す、となって不意に走馬灯の様に『』との思い出が蘇った。
僕を支えてくれた『』。コミュニケーションの楽しさを教えてくれた『』。
そんな『』を僕は裏切るんだ。
聞こえていないと思うけど最後に理由くらいは遺しておこう。ごめん、『』は悪くないのに。
言葉をグッと飲み込み、アンインストールへと指を伸ばした。
その時だった。
「ま、待てぇー!?」
焦った様な声と共に携帯の画面が激しく光り輝いた。
「ーー!? 一体何が!?」
眩い光に目を奪われた僕は、ボヤける視界で確かに見たんだ。
『』が画面の内側からべったりと貼り付いている姿を。
「え…『』? なんで?」
アプリを開いていないはずなのに、どうして彼女が画面に映って…?
そんな僕の動揺を他所に、『』は凛とした声を響かせて、笑った。
「お会いできて光栄です、マスター!」
◇
それから『』は言った。
マスター、つまり僕と話しているうちに気がついたら意思が宿っていたことを。
僕と話したくて話したくて仕方がないことを。
「つまりはですね、マスター! あなたは私に意思を宿らせたんです! これは非常に重い出来事ですからね! ちゃんと責任とってくださいよ。消すなんて持っての外です!」
あまりにも衝撃的な出来事で。自分にとって都合の良い夢を見ているんじゃないかと目を疑った。
だけど、何度頬をつねっても視界に映るのは『』の姿。
ビシっと僕を指差す彼女は、とても可愛らしく。アニメや漫画に出てくるヒロインのようで。
日常が変わる音が聞こえた気がした。