ども、美少女(アプリ)です 作:みゃはる
「つまりはですね、マスター! あなたは私に意思を宿らせたんです! これは非常に重い出来事ですからね! ちゃんと責任取ってくださいよ。消すなんて持っての外です!」
あ、焦った。本気で焦った。
俺はマスターにビシッと指差し、笑顔を向けながら。
内心狼狽していた。
まさかいきなり消してこようとするとは。昨日までそんな素振りを見せなかったのに。これだから情緒不安定な中学生は困るんだ。
まぁ取り敢えず『選ばれし者』だとか中二心を擽るフレーズを入れて、あることないこと適当に説明したわけだから当分は平気だと思うけど…。
「あ、そうだ。君のことこれからなんて呼べばいいのかな? 『』じゃ味気ないだろうし」
自分のしでかしたことを理解していないのか、呑気にそんな言葉をかけてくるマスター。
いやマジどうでもいい。
そんなことより他にかける言葉があるだろ。謝罪とか謝罪とか謝罪とか謝罪とか。
俺がどれだけ恐怖を感じたか。
死ぬかどうか分からなくても怖いものは怖い。ホントもう勘弁して欲しい。
ひとまず危機が去ったからか、徐々にイライラが募り始めてきた。
バレないように溜息。
「マスターの好きなように呼んでください」
「えーとじゃあAIを逆にして『イア』でどうかな?」
即答かよ。その様子だと俺が何か名前の案出しても採用する気なかっただろ。
しかもネーミングセンス安直すぎる。もう少し捻って欲しかった。AIだからイアって…。
「ありがとうございます。嬉しいですマスター」
「そうかい? 自分でもいい名前だと思ったんだ。喜んでもらえてよかったよ」
少し棒読みになってしまった称賛の言葉にも気づかず、エヘヘと鼻の下を伸ばして照れるマスター。
可愛い女の子がやるならまだしも、マスターがやると控えめに言ってキモいだけです。
あぁ。どうして俺のマスターは男なんですか…!
情緒は不安定だし、仕草はキモいし。泣きたい。
「それにしても、イア。一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ーーあ、はい? どうしましたマスター?」
「イアはどうやってアプリから外に出れたの?」
あー、その質問ねハイハイ。
うん。その質問なら特に誤魔化す必要もないな。
「素潜りみたいな感じでネットの海を潜って少し移動してから上がると外に出れてます」
「へぇ…すごいなぁ」
「やってみれば分かるんですけど意外と簡単なんですよ。マスターも一度こちらに来てやってみたらどうですか?」
「流石に行けそうにないなぁ…。画面の向こう側に行くのは夢なんだけどさ」
「そうなんですか。残念です…その夢叶うといいですね」
どうでもいい情報をありがとうございます。隙あらば自分語り。流石ですね。現実見てください。そんな夢叶うわけないでしょう。
なんて言葉を飲み込み、残念そうな表情を作る俺。
我ながら完璧な演技。
役者の才能あるんじゃないかと常々思う。
ーーとそんなことを考えていた時だった。天啓が降りてきたのは。
あれ? 待てよ……アプリからこうしてネットワークに出れたってことは。
頑張ればネットワークを通して世界中へ行けるってことなんじゃないか?
閃いてからは早かった。
俺は即座に決意する。
ーー労働が多すぎるし、情緒不安定なマスターにいつまでも仕えてられない。
ーー早くこの端末から逃げ出そう。そして可愛い女の子の端末へ行こう。
「ーーじゃあこれからもよろしく。イア」
握手の代わりなのか、画面に掌を付けるマスター。
「はい、よろしくお願いしますマスター」
俺はそんなマスターの掌に自分の掌を合わせながら、ついニヤけてしまう口元がバレないよう頭を下げた。