昼と夜の間で 作:ののよ
私は自分の名前が嫌いだ。
「ひる」と「よる」の間、微妙な時間に現れる、なんかよく分からない微妙に明るい物体だ。
ああ、やだやだ。
世の中には大切な存在だ、と、言っている人もいるけど、殆どのは気にも止めない存在だ。
夜の月、昼の太陽。
この2つのビッグネームの影に隠れた忘れがち存在。
せめて「いつ」なのかハッキリして欲しい。
夕日、とか、朝日、とか分かりやすいポジションにして欲しかった。
そんな、中途半端でなんだか良く分からない。
これが私の名前だ。
◆
いつもと同じ時間に起きる。
リビングに降りると既に父は仕事に行ってしまっており、母は外で洗濯物を干している。
「おはよう。明星」
制服姿で朝のニュースを見ている紗夜がこちらを見ずに挨拶をしてきた。
紗夜は私の姉だ。まぁ、姉と言っても数時間どころかタッチの差でしか無いのだから姉も何も無いと思うのだが……。
日菜は全く違うこと言いそうだけど。
「おはよう。紗夜。いつも通り早いね。」
「あなたが遅いのよ。家出るまであと10分も無いでしょ。」
「10分もあれば間に合うよ。それより日菜は?」
「‥…もう学校に行ったわ。」
なんとお早いことで。羽丘なら今から行ったら7時過ぎに着いてしまう。
そんな感じに淡々と会話をしながらパターロールを2つを牛乳で流し込み、顔を洗い寝癖を治し、セーラー服に身を包んで家を出た。
自慢では無いが氷川家の姉妹仲は悪い。良くない。
まずはじめに、紗夜が日菜を避けるようになった。気持ちは分からないでもない。日菜は私たちを、中でも長女である紗夜を慕ってくれている。
けれど、彼女は天才だ。なんでもできる。
日菜は紗夜の真似してはじめたことを、簡単にモノにしてすぐに追い越す。そんな日菜に対するコンプレックスは紗夜には耐えきれなかったみたいでいつしか避けるようになった。
その関係が続くうち、日菜は紗夜を意識し、紗夜も日菜を意識するようになった。
それでも、私が間に立って壊滅的なことにはならなかった。たった3人の姉妹だ。それも三つ子。生まれた時から一緒にいるのだから仲良くしたかった。
その一身で私は2人の間をなんとか維持していた。当時、小学生だった私は良くやったものだ。
けれども、いつしかそれもダメになった。
中学で紗夜は花女、日菜は羽丘の中等部にそれぞれ合格したのだ。
そして、私は落ちた。中学受験に失敗して公立の中学に進学した。
花女も羽丘も私立だ。勉強の面では明らかに公立よりも上だ。
もう、家で制服姿を見ているだけでもなんだか恥ずかしく感じていた。そして、当然だけど、私は少しずつ2人から距離を置くようになった。それでも、昔みたいに仲良くなりたくて、このままだと3人バラバラになりそうで怖くて、
そして、なんだか2人に置いていかれているような気がしてならなくて……。
必死に勉強をして高校受験で花女を受けた。(進学校の羽丘は無理だった)
そして、落ちた。
私はこれで全てを悟った。
夜にも昼にもならない。中途半端な時間に現れる微妙な星。
それが私なんだ。
諦めがついた。
コンプレックスすら感じるのは、まだ、追いつこうと思っているからだ。紗夜はまだ、日菜に負けたくないって思えているからだ。
けど、私はそうは思えなかった。
2人の横を並ぶことを諦めた。
そして、諦めると色々見えて来るものもある。
それに気がつくと、紗夜に近づけなくなってしまった。
電車に揺られ、公立高校にたどり着いた。
学校にたどり着くと、そそくさに教室に入り本(悪役令嬢に転生したけど王子様に求婚されて困っています)を読む。もちろん、本屋のバックカバーをつけている。
友だちなんていない。
私は静かに当たり障りもなく過ごせていればいい。
小学校の頃は天才な妹と、有能な姉のオマケみたいな扱いだったせいでなんとなく、人と付き合うのが苦手なのだ。
「あ、あの、ひひひ、ひ、ひひひひひひ」
壊れたテープのような声が聞こえたので、横を見ると前髪が顔の半分ほどまで隠した女子生徒がいた。なにやら、私を見て「ひひひひ」連呼している。というか、その髪の毛で前が見えているのだろうか?
彼女は私と同じボッチ組だ。
友だちがいない。自分から作らないだけだが、寂しくないと言ったら嘘になる。そんな時に彼女を見ると、
正しくいうと、勝手に仲間意識を持っていました。
「どうしたの? 前野さん?」
「いいいいいえ、えっと、な、な、なな?」
「落ち着け、ゆっくりでいいから、話せ。」
きっと彼女はうまく話せないのだろう。
特に昼休みにやる事もないし、幾らでも待てる。人の話は聞く人なのだ。
「ええ、えっと、わ、わわわわたし、わたし、アイドルが、好きで…」
どうやら、前野さんはアイドルが好きらしい。
もっぱら私はあまり興味がない。いや、わざわざ、そんな、申し訳ないがどうでもいいカミングアウトをするためだけに来たとは思えない。
「うん、それで?」
「こここ、こないだ、デビュウしたバンドにひ、氷川さんと似てる人、いたから気ににゃって……。な、名前も、氷川、ひひ日菜。って」
そう言いながら、前野さんはスマホで、どこかのライブイベントで撮影した写真を見せてくれた。
そこには、間違いなく日菜が写っていた。
「はははは、うん、身内です。」
なんか、日菜のことだからか全く驚かない。
というかギター持ってるし、紗夜のストレス凄そうだな。
紗夜は日菜がやっていないからギターを選んで極めることにした。それなのに、日菜までギターを始めたら紗夜の逃げ道がなくなってしまう。
どうしたものか?
「ほんと? じゃ、じゃあ、氷川さんも、ぎ、ギターやってる、の?」
ギター?
そんなものはやっていない。そもそも、私がやったことがあるのは鍵盤ハーモニカとリコーダーだけだ。
「いや、やってないけど?」
「そ、そう、ご、ごめん」
そう言うと、前野さんは自分の席に戻っていった。
なんだったのだろうか?
それはそうと、紗夜は日菜がギターを始めたことを知っているのだろうか?
そして、紗夜はどう思っているのだろうか?
きっと、私の言葉は紗夜には届かない。なにも頑張ったことがない私では、死に物狂いで周りが見えなくなるほど頑張っている彼女には響かない。見ていない。
あー、どうしたら良いんだろう。
きっと、紗夜は驚いて思いが爆発してしまうのだろうか?
書いてて思った
宵の明星とか、明けの明星とかってカッコいいよね