昼と夜の間で   作:ののよ

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第3話

数日後

 

「へぇ、パスパレ、大変ななことになってるんだな。」

 

「う、うん。え、演奏ししてないことが、ババれっちゃったかから……。で、でも、そそそもそもアイドルってそういうもものだから、す、すぐに、おおさまると思うよ。あああアイドルのライブなんて、基本、く口パクだ、だから」

 

そういうものなのか?

しかし、日菜のやつ何も言って無かったな……。いや、あまり気にして無いだけか。

前野さんとはじめて会話してからなんとなく距離が縮まり、昼ごはんを2人で食べることになった。せっかくなので教室の外で食べようとなり、弁当を持ち屋上へと向かっている。

 

「そ、それで、お、おお願いが、あ、あるのだけど」

 

「お願い? なに?」

 

自慢ではないが、はじめての友だちだ。

聴けることは出来るだけ聴きたい。

 

「え、えっと……。ひな、さ、いいいえ、なんでもありません。そ、それより、お、屋上に着いた、よ。」

 

「?」

 

なんなんだろうか?

しかし、気にしても仕方がないか……?気にならない無理やり聞くのも悪い。

 

鉄の扉に手をかけて、開ける。

背の高い柵に囲われたスペースには、どういう訳か誰もおらず静まり返っている。

この学校の屋上は珍しいことに解放されている。園芸部なんかがプランターで植物を育てたり、休み時間では憩いの場になっている。と、学校説明会や入学後のガイダンスで説明されたのだが、思ったよりも過疎っている。

 

「し、静か、ですね。」

 

「うん、もっと人がいると思ってた。」

 

そう言いながら屋上へと足を踏み入れる。静かだ。というか誰もいない。屋上には園芸部と書かれたプランターと、科学部と書かれたソーラーパネルが置かれている。また、中央には木製のベンチや机も置かれている。今日は寒くも暑くもなく、風もない。掃除も行き届いているようだし、どうして誰も居ないんだろうか?

 

「あそこのベンチで食べようか」

 

「うん」

 

そう言ってベンチに向かうと、机の影で見えなかった反対側のベンチから女子生徒が無言で起き上がった。金髪だが生え際が黒くなりまるでプリンのような髪を耳が隠れるくらいまで伸ばした彼女は、眉間のシワをこれでもかと寄せて、ギロリで私たちを睨む。

また、怪我をしているのか顔の右半分を包帯で覆われ、右耳も右目も見えていない。

 

「おい、テメェら、ここはオレの縄張りだ。さっさとうせろ。ーーーぶっ殺すぞ。」

 

そういうことか、ここには彼女がいるから誰も入ってこないんだ。きっと怖くてみんな逃げてたんだ。

この学校には不良なんていないと思っていたが、いるんだな。

目をつけられる前にとっとと逃げよう。

 

「えっと、ごめんなさい。すぐな消えますね……。ほら、行こう。」

 

どういうわけか、固まってしまっている前野さんの腕を引き、静かに屋上を後にする。鉄の扉を抜けて、階段を降りて廊下に出る。

 

「怖かった……。まさか、屋上があんなことになってたとは……。 大丈夫?」

 

「う、うん。で、でも、ああの人……。ちょ、ちょっと待って」

 

そういうと、前野さんはスマホを取り出して、何かを調べ出した。すると、すぐにとある写真を見せてきた。

そこには5人の10代前半ほどの女の子が写っていた。たしか、何年か前に流行ったアイドルグループだ。私とほとんど年齢が変わらなかったから印象に残っている。

 

「たしか、ホワイトチョコってアイドルだよな?」

 

「うん。い、一曲だけ、ひヒットした。い一発屋……。」

 

なんて酷い言い方だ。

そういえば、最近見ないな。解散したのか? 

 

「それがどうしたんだ?」

 

「こ、この真ん中の人、た、多分、さ、さっきの人……。」

 

「え?」

 

たしかに、言われてみれば似てるような気がする。

しかし、顔つきも写真よりも成長しているし、そもそも顔が半分見えていなかった。よくわからない。

 

「…………。ごめん、わからない。」

 

「わ、私も、確信、あ、あるわけじゃ、無いから……。き、聴いて、来るよ。」

 

「ちょっと、待て!」

 

階段を上りはじめる前野さんの肩を掴んで止める。

この人、コミュ障では無かったのか? なんなんだ、この行動力。

というか、下手したら殺されるぞ。

 

「わ、私は、あああアイドルの事には妥協したく無い。」

 

「だ、妥協って。いや、いやいやいや。あの人、多分。ヤバイよ。揉め事になるって……。」

 

「だ、大丈夫だよ。ほ、ほら、事故とかが家の近くにあったら気になるで、しょ? そ、それと、お同じ。だから、うん、大丈夫。行ってくるよ。ま、待ってて」

 

「大丈夫って、何が!? 殴られるよ!」

 

余計たち悪いと思うよ。てか、アイドルと家事って同列に並べる?、

アイドルが彼女にここまでやらせるのは何かあるのだろうか?

しかし、そんなこと言っていたら

 

「な、殴られたら殴られたら、だよ。そ、それに、頼みたい、ことがあるんだ。」

 

そういうと、前野さんは私の手を振り払って階段を登り始めた。

というか、頼みたいこと?

サインか何かかな?

どうする? 見捨てる? 

いや、それは……。

 

あああー。

 

「私も行くよ!」

 

前野さんを追いかけて屋上に出る。不良少女はベンチに腰掛けてお握りを食べており、私達をギロリと睨んだ。正直怖い。視線だけで殺されそうだ。前野さんは出入り口の前で止まり、私もその横に立つ。

 

「手前ぇら、なんで戻ってきた。」

 

ドスの効いた声だ。

しかし、よく見ると、たしかな写真のアイドルと似ている。気がする。

 

「あ、あの、ほほほホワイト、ち、チョコの、ほ、ほほ星野川、さき、さん、ででで、す、よね?」

 

前野さんがそういうと、屋上に静寂が流れた。

その後、不良少女の舌打ちをした。

 

「ちげぇよ。人違いだ。」

 

「ち、ちち違いま、せん。 あなたは、さきさん、です。」

 

すると、また静寂だ。

この静寂が怖い。

もしかして飛びかかってこないだろうか?

 

「……………。くそ、ああ、そうだよ。オレは星野川さきだったさ。」

 

「マジで?」

 

つい声を漏らしてしまった。

ふと、横を見ると前野さんが少しだけ得意げに笑っていた。前髪だ目は見えないが、それでも口元は正直だ。

 

「ま、事故でこんなになっちまったがな」

 

そういうと、不良少女は顔の右側を指差し、悲しげに笑った。

今にも泣きそうで、それだけで恐怖は無くなり、かわりに同情してしまった。

私の同情なんて迷惑なだけだろうけど。

 

「で、何のようだ? まさかオレのファン? ハハ、悪いがグループは解散したぞ。」

 

「ち、違います。あ、あんな、い、一発屋の、ふ、ファンに、なんて、なな、なりません。」

 

「ぶっ殺すぞ。」

 

「お、お願いが、あ、あります。わ、私、と、バンド、く、組んで、く、ださい。 」

 

バンド? 

そういえば、はじめて話した時もギターとか、言ってたな。

メンバーを探してるのか? でも、この不良はどうだろう?

 

「あ? オレはもう歌わねぇよ、おら、答えは出ただろ、さっさと出てけ! あと、オレのこと誰かに言ったらぶっ殺すからな。ま、どうせ誰も信じねぇだろうけどな」

 

そういうと、不良少女はお握りを口に押し込んで、寝っ転がってしまった。

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