どっかのカルデアで、召喚されて間もないディオスクロイの話。
多分こういう設定じゃないかな、と想像して書いた部分があります。

ピクシブに投稿したものを若干直しています。

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変わり果て

 在り方は捻じ曲げられた。俺は零落した。

 

 怒りでなんとかなるものなら、とっくの昔に神へと戻れている。どうにもできないという現実から、そこから紡がれる伝説へ。変化していくものたちが、お前もお前の大嫌いな人間だと教えてくる。

 ただ、いつだってひとつだけの絶対があった。

 変わらず隣にいる、道連れで半神になった妹。

 

 

 

 

 

 外では冬が終わり、寒さもそこそこに日差しが丸くなる頃だという。ここカルデアでは季節も何もないだろと思わなくもないが、あの人間の故郷ではそうらしい。

 それが、数日前の話。

 ソファに姿勢よく座る妹を見る。先ほどからこちらを見もしない、もう数十分ずっとこうだ。

 

「そんなに面白いか、その本」

「気になりますか、兄様」

 にこ、と妹が顔を綻ばせる。調度話したい事でもあったのか、弾んだ声をしていた。

「この前、マスターに借りたものですよ」

 少し掲げてみせたのは、両手に収まるくらいの小さめな本。たしか、航海に関するものと言っていた気がする。

「借りていたな。しかし、何もお前があの人間に頼む必要などあるまいよ」

「あら、兄様も好きそうな本だと思ったのに」

「…そうか」

「えぇ」

 

 妹の隣に座った。体が沈み少し後ろに倒れかけたのを、両手をソファについて止める。妹の半身もこちらに向かって少し沈んだが、そのまま倒れてくると肩にもたれかかり、何もなかったようにページを捲った。

 

「スターナビゲーションって言葉ご存知でした?」

「ん?」

「星の位置を手掛かりにして航海する術、です。羅針盤や海図は使わない方法」

「あれか。そんな名前がついたのか」

「まだ、命名されて100年も経っていないそうで」

 そのスターなんとかというものについて、説明してある項を読み上げてくる。その声を、特に相槌も打たずに聞いていた。

 我らは星だ、航海者の道しるべにもなる。航海者の守護神という点は、俺が零落する前から変わらない。

 変わらないのだが。

 

 

 

 呪いみたいなものだ、と思った。

 

 

 

 大昔からあるはずの星について考える度、双子座という言葉が纏わりつく。カストロというのは神ではなく人間だと、当たり前のように語る者がいる。何をいい加減な事を、と鼻で笑い飛ばしてやれたらさぞ良かったのに。本当なのはこちらと言い切れたのは、いつ頃までだったか。

 

「兄様」

 肩のあたりで金髪がふわふわ動いた。

「ち、違う、こういう本は嫌いじゃない」

 視線を感じる。不安げに仰ぎ見られているのがわかる。そちらを向くのは、なんだかできない。

 

 

 

 

 

「妹よ、この前の本はどこに行った?」

「え、返しちゃいました」

 さらっと言われた。

「てっきり読ませないほうが良かったのかなと」

 剣の手入れを一旦やめ、重そうなそれをひょいと脇に置く。困ったように首を傾げていた。

「そんな事は言っていないだろう」

「なら、もう一度借りてきましょうか」

「いや、いい」

 

 

 

 

 せめて妹を巻き込まないでほしかった、と何度も思った。どうして彼女まで半神にしたのかと、話を作った人間に怒鳴りたかった。

 しかし今となってはそんな事不可能で、何もできないまま今日も朝日を迎えている。いくら恨んだところでその程度なのだという事実を、叩きつけられてここにいる。

 嫌だ、嫌だ。そんな単純な感情すらひたすら虚しいのはどういう理屈か。

 どうもこうもそういうもの、で終わらすには、隣にいる存在は大きすぎた。零落してからというもの、俺はずっとあの神話を恨んでいる。

 

(なのに、ポルクスは恨まないのか)

 

 何を考えているか、手に取るようにわかった頃もあった。今はもう、正直そこまでわからない。

 

 

 

 でも、信じている。愛している。誰よりも、何よりも。

 

 

 

 

 

 本を読んでいると、ソファが軽く揺れた。隣に妹が座ったのだ。

「ご自分で、借りてきたのですか」

「あぁ。お前に手間を取らせるくらいなら自分で行く」

「どうでしょう、お好きですか? その本」

「お前が選んだものだからな」

 ページを捲る。時々思い出したくない事を連想するので読むのは遅くなるが、やはり内容は嫌いでない。

「マスターに申し出たのですよね?」

「それはそうだろう。ちゃんと直々に赴いて差し出させた」

「兄様、後で謝りますよ」

「どうしてだ」

「どうしても。私も一緒に行きますから」

 

 一緒に。

 妹の方を向くと、「あ、今度はこちらを向いてくださった」、そう言って笑っていた。

 

「…前、兄様が星と聞いて顔を顰めた時は慌てました。やってしまった、って」

「…まぁ、俺自身もあれから怒りが湧くと思わなかった」

「兄様の考えてる事が、もう少しわかればいいのですが」

 

 俺は妹の頭を撫でながら頷いた。多分もうお互いの事を半分くらいしかわかっていない気がしてくる。それくらいで調度良いかもしれないが、やっぱり全部わかりたい。

 もう少しわかればいいと言って笑える妹の気持ちが心底わからないけれど。もし聞いて、多少わからなくても良いじゃないですかとか言われたら心の準備ができていないのでやめた。

 

「…我らは二者でひとつの神霊だ」

「はい」

「俺はお前といて当然楽しいが、お前は」

 

 妹は躊躇なく口を開き、微笑んだ。

 

 

 

「とても言葉じゃ足りませんよ」

 

 

 

 そのひとことが、どれほど嬉しかっただろう。ポルクスはそれが当たり前という顔をしていた。

 

 

 

 

 

 大図書館という場所はどこか薄暗く、いつもは喧しい人間達すら水を打ったように静まり返っている。俺は妹の横にくっついたままあたりを見回した。

 よくよく観察してみれば、声を抑えているだけで笑ったり、怒ったり、にやけたり。三者三様で忙しい。傍から見ていると不気味ですらある。何がそんなに心を打つのか少し興味もあったが、声をかけるのは癪だった。

 用事が終わり、廊下に出る。妙な安心感に襲われた。

 

「妹よ、それを貸せ」

「私が借りたものです。半分ならいいですよ」

「じゃあ半分だ、半分」

「どうぞ」

 

 本の山を手分けして持ち、自室を目指す。全部海とか、船とか、そういう本ばかりだ。その間、妹は何故か楽しそうにしていた。

「こんなに本が好きだったか」

「そうではないんですけど」

 なんとなく呟いた言葉を目聡く拾われる。その声に妹を見ると軽く頷いて、

 

「兄様は船がお好きでしょう。今世でも機会があれば、いつでも一緒に乗れるようにしておきたいですし」

 

 新しい知識が多すぎて、今知っている分だけでは心もとないんです――そう言って小さく息をついた。

 

「悪くなさそうだな」

「でしょう?」

 

 

 

 

 

 ポルクスのいない世界を、俺はまったく考えられない。

 どれだけ変わり果てても、わからなくなっても、離れられずにいるのだろう。それは幸せだ、そう思う。

 

 




初投稿になりますが、読んでいただけますと幸いです。

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