お酒が足りなくなるの。自重してほしいわ。
私、水橋パルスィは地獄――いまは旧地獄ね。そこに居着いてからは、通りかかった妖怪共を妬んだり、旧都で酒を飲んだりとほどほどに暮らしてきたの。話せる妖怪も少し出来たし、衣食住など環境も揃ってる。
でも……。
この橋……
立地悪いと思わない?
ええ、知ってるの、地獄だったときはこの世とあの世を分ける橋だったってことは。それでもなんでこんな場所にかけたのよ!ねえ?閻魔も何も言わずに去っていったし、壊しすらもしなかった。あの時壊してくれれば私はまだ『ただの橋姫』だったかも知れないわ。
でも気がつけばもはや私の覚えられ方が、
『あの(誰も通らない)地底の入り口の橋姫』
だったの。すでに私の存在がこの橋に紐付けられてしまっていた。時の流れが妬ましい。私の考えを歯牙にもかけずに進んでいく。わずかな知り合いと同じことを繰り返し、この地でつまらなく過ごすことになりそうだ。
半ば諦めていた所、そこに訳知り顔の地霊殿の主がやってきて語ることには、
「大変そうですね。ああ、私は古明地さとりと言います。以後お見知りおきを。……用件ですか?いえ、噂の橋姫とやらを見に来たのですよ。……何せこの時分、旧都は物騒ですからね」
気がつけばうまく言いくるめられて少し援助をしてもらう代わりに、ここら一帯の見守り役をさせられていた。当時は本当に何もなかった。
ええ、本当に。
別れて少しして気付いたときは提案を受け入れたことを本当に後悔したわね。あの桃だか紫髪、人をいいように動かせるなんていい能力ね、妬ましい。顔もにやにやしていたし。
でもそこからの時の流れは早かったわ。
嫌われた妖怪がやってきて隣人が出来た。
あの妬ましき地霊殿に住む妖怪と関わりを持つようになった。
相も変わらずここを通る者はほとんどいなかったけどね。今考えれば住めば都……いえそれはないわあの旧都に住む連中は妬ましい。うん妬ましいの。
そして誰も通らないし何も起こることのない平和な一日を今日こそ……
「お! やっぱりパルスィじゃないか! あんたいつもそこに居るからありがたい! これから萃香と一緒に宴会を開くんだ! あんたも酒を持って来てくれるよな! な!」
「……まだ九つ時じゃない」
「そのことに何の問題があるんだい? 今宴会をやろうと思い立ったのさ、善は急げってよく言うだろう?」
「それは貴方たちの話で――」
「お! 土蜘蛛! いいところにいたね! 宴会を開くんだ、あんたも来てくれ!」
……人の話を聞かないわね。一日中酒を飲む種族とは相容れないわ。
「おお? 勇儀かい? それはいいね。ちょうどパルスィと話をしに来たんだ。ご随伴にあやかれるのならご一緒しようかね」
「…待ちなさい。なんで私だけ酒を持っていくのよ」
「それは、酒虫の造る酒をあんたは沢山呑める訳じゃないんだろう? それに、あんた地霊殿からお酒もらっているらしいじゃないか。お酒は有るところにはあるって知ってるからね。持ってる所から頂戴するのは当然のことだな。さあ二人ともついてきな!」
そう言って私の肩に手を掛けて歩き始める勇儀。
ああ、楽しみにしていた酒が皆の物になってしまった。あの性格、行動力が妬ましい。手ぶらで酒が呑めるヤマメも妬ましい。せめて持っていく分以上のお酒を呑まないと。
私はささやかな抵抗試みた。
「橋を守ることで忙しいのよ。暇でいいわね」
「「なに、誰も通らないさ」」
私は諦めて慣れ親しんだ宴会場に行く準備をするのだった。