食事を続けた三人は、ようやく食事が終わったので、各々好きなように過ごすことにした。
さとりは待たせているパルスィを拾って温泉に招待しないといけない。正確な時間は分からないが、きっと長い時間が過ぎているだろう。
*古明地さとり視点
急いでパルスィをさん温泉にご招待しないと、客人をそう長く待たせるわけにはいきませんし…。
ああ、温泉に折角一緒に入るのだから、お酒を片手に話したりしたいですね。
温泉から月は見えませんけど…。
お酒は…鬼に勝手に取られてないですよね?
…よかった、ありました。
はやく、はやく。
はやる気持ちをおさえられず、家の中を飛ぶことにした。
さとりは家の中を飛んで移動するなんて選択肢を自然に選んだ自分に驚かされる。
まさか私が家の中を飛ぼうと思える日が来るなんて…。
…家の中で飛ぶなんていつぶりでしょうか。はやくしないと。
歩けば少しかかる家の中も飛べば早く着く。パルスィの宿泊する部屋に着いた。
呼べば出てくるだろうと思い、呼ぶも、出てこない。
寝ているのでしょうか?
もう一度呼ぶ。出てこない。
やはり寝ていますか…。どうしますか…。寝ていたらお邪魔することに…。
さとりは、己のやりたいことと、万が一の彼女への迷惑を天秤にかけ悩んだが、結局パルスィの寝顔を見ることに決めた。
もしかしたら、気を失っているかもしれません。前はお会いした後に、気絶してましたし。お燐との喧嘩で。
これは、よくお休みになられているかの確認です。
…お休みになられていたら、私は独り寂しく温泉に入りますよ。温泉に連れていくと約束したはずなのですけども…。
…しましたっけ?
さとりは温泉に連れていくと宣言したのか、彼女が温泉に連れていってほしいと言ったから、連れていくと約束したのか覚えていなかったが、少なくとも一緒に温泉に行くとは伝えた覚えはあった。
さとりはパルスィが起きたのなら小言の一つや二つ言わないと気がすまないと思った。
「失礼しますよ。」
パルスィは居るはずだったが居なかった。その代わりに走り書きを見つけた。
「こいしと先に温泉に行ってます。」
ええ?そんな…。どうしてこいしと?納得いきません。私も一緒に入りたいのに…。まだあがっていませんよね。
変わり映えはしないが、目まぐるしく後ろに流れる廊下を尻目に、温泉まで急ぐ。
さとりは、道中お酒を落としそうになったが、そんなことは気にもとめなかった。
酷いです。お誘いしたのは私だというのに。
脱衣場まで入り、二つ服を見つける。二人の服だ。
この温泉は家族のみに開けている温泉なので、服が同じ他の妖怪ということはない。そもそも、こいしの服は旧都では見つからないし、作れないものだ。
さとりはぱっと服を脱いで、温泉の中へ、湯気が立ち込めている。湯気で少し先も見えず、二人の姿は見つからない。
あれ?おかしいですね。温泉の反対側でしょうか。居ないはずはないのですが。
湯気をかき分け、ようやく目的の人物を見つけた。
あ、いました。こいしも。何で先に行ったのでしょうか。
「何で先に行ったのですか?」
置き去りにしたさとり妖怪が目の前にいた。隣に座り、三つの目をこちらに傾け、パルスィ弁明を待っているかのように見える。
*水橋パルスィ視点
ああ、さとりが来たわね。…少し怒って
「怒ってませんよ?少し思うことがあって。」
…怒ってるじゃ
「いえ、全然。どうしてか知りたいなも思いまして。こいしもどうして?」
「あ、お姉ちゃん。…お姉ちゃん食べるの遅いよ。客人は待たせたくないんでしょ?なら私がつれて―
「こいし、私がパルスィさんを連れていくって約束したの。」
いつものさとりよりも少々語気が強い。こいしも気配こそ感じられないが、纏う雰囲気が違う。
うわ。これはやらかしたわね。どうしましょうか。温泉で仲たがいされても困るわ。
「…お姉ちゃんは自分本位過ぎるよ。」
ばしゃっと音をたててこいしが急に立ち上がった。水しぶきが跳び、パルスィの顔にかかる。
うわ、急に立たないでくれるかしら。驚くわ。それに、さとりは自分本位とは思えないのだけど。
「どういうことなの?」
「私もパルスィと二人で話がしてみたかったの。」
「え?そんなの、何時でもできるじゃない。」
「お姉ちゃん?お姉ちゃんなら知ってるよね。」
「私には何時でも話せるお友達とか、ペットはいたのかな?」
「…それは…。」
「たくさん居る私のペットも私を見つけられないし…。」
「お姉ちゃんが連れてきたこの妖怪はすごかったんだよね。たまたまだけど、私も見つけられたの。」
「ええ?見つけたって…まさか。パルスィさん、どうやってこいしを見つけたのですか?」
そんなこと言われても、覚えてないわ。ただ、私は暇してて…。
「パルスィも多分覚えてないよ。ただ、私を見つけられたんだよね。」
「だから私もお話してみたいなって。」
ここでこいしの先程までの雰囲気がたち消え、また明るい雰囲気になった。
「…うん!それだけ。…私は話せたから満足したかな?のぼせちゃったからあとは二人でゆっくりしててね。」
「あ!待ってこいし!」
さとりはこいしを追いかけるためかゆっくり立ち上がったが、すでにこいしの姿はない。
さとりの呼びかけもむなしくこいしはまたどこかへ消えていってしまった。
残されたのはさとりとパルスィのみ。
さとりが出来たことは、ただ呆然として、へなへなと座り込むだけだった。
沈黙が続く。
うーん、どうしてせっかくの温泉でこんな目に会わないといけないのかしら。もしかしてこいしと一緒に先に温泉に向かったから?
「…パルスィさんは悪くないですよ。」
さとりがようやく口を開いた。
え?でもさとり、あれは…
「私、こいしのこと全然知らなかった…。」
さとりは鼻をすすって顔を伏せてしまった。パルスィはさとりが来てからの急展開に頭が追い付かない。一番よくこいしを知ってるのは貴方でしょう?何を―
「ペットを与えて喜んでいたのは私の独善だったのでしょうか…。こいしは、何も分かってくれない私のこと、どうおもっているのでしょうか。」
パルスィはいきなり涙を流して話し出すさとりに対応しかねる。パルスィはその家のペット事情なんて知らないし、そのような家庭の事情を語られても困る。
その場で動くものはぷかぷかと浮く徳利の入った桶のみ。場は完全に固まってしまった。
ちょっと待ちなさいよ。そんなこと私に話されても困るわ。
「ええ、ごめんなさい。そのようなことは分かっていまして…。ごめんなさい。…一旦出ますね。私のことは放っておいてください。」
その後ろ姿は、とても小さく見える。
パルスィにはなんとしてでも引き留めないといけない。そう思えた。思わず声をあげてしまう。
「待ちなさいよ。」
「…何ですか?」
さとりはこちらを向いてくれない。多分心は読まれていないと推測できる。話すことを間違えたら彼女を傷つけかねない。
どうしてこんな面倒なことに巻き込まれたのかしら。とりあえず、さとりを慰めないといけないわけね。どうしましょうか。…こういうとき、心が読めたらとてもいいと思うのに。
整理しましょうか。さとりは唯一こいしの心が読めない。
さとりはこいしの気も知らずにただ自分がこれがいいと思ったことをこいしにしてあげた。それが間違っていたからへこんでいるのかしら?
「さとりが分からなきゃ、こいしの考えていることなんて誰もわからないわ。」
「…それがどうしたのですか。たった一人の妹の考えすら分からない姉なんて。」
さとりは振り返ってすらくれない。怒って出ていかないだけましだろうか。
…間違えたらかしら。私はずっと一人だったから、彼女の気持ちなんて分からないわ。
「こいしは自分のことをわかる妖怪のほうがおかしいみたいなこと、言っていたのだけれど。」
「こいしの考えがわかるのなら、おかしなさとり妖怪にだってなりますよ。」
全く糸口がつかめない。
もう話せることが無いわ。どうしましょうか。そう、こいしはさとりのことを大切に思っていたの。
「ええと、こいしは貴方のこと、私に頼み込むくらい大切に思っていたわよ?こいしのこと分からなくても、貴方が一番こいしに好かれているのよ。」
さとりが少し反応したかのように思えた。さとりは振り返って、一言、
「私が一番?」
この機を逃すわけにはいかない。
…どうしてこの館の妖怪は皆おかしいのかしら。…ここ以外にさとりの気分を取り戻す方法は無いわね。
「貴女以外に誰が居るのよ。…私なら相談にのってあげるから。…だから、落ち着きなさいよ。」
「…聞いてくれますか?」
「…構わないわ。ね、戻ってきて?」
「パルスィさんは、お人好しすぎますよ。…結局、私もご迷惑をおかけしてしまうなんて。」
「いいから来なさい。」
…長くなりそうね。さっさとしなさい。二度とこいしが私に迷惑をかけないように、貴方が話して貰うんだから。
「…ごめんなさいね。」
どうにも、思っていた温泉とは違う様相になりそうだった。