この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

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変な奴ね……

*水橋パルスィ視点

 ふん、あの鬼共は私のことを一切考えないわね。自分が思ったことを周りに押し付けられるなんて……その性格が妬ましいこと。あの鬼共も去ったし、今日はたいした用はなかったようだから、思う存分あの人望と行動を妬んで――

 

「……こんにちは」

 

 ……来客? 誰よ?

 

 ふと気がつくと、目の前に見たことのない妖怪がいることに気がついた。顔も何やらニヤニヤしていてうざったらしい。パルスィは何を話しかけるか考えつつ、名前を聞こうとした。だが、先手をとられた。

 

「貴方も大変ですねぇ。私はあの館の古明地さとりといいます。以後お見知りおきを」

 

 古明地……聞いたこと無いような。どうしてここに――

 

「ああ、用件ですか?いえ、噂の橋姫とやらを見にきたんですよ。確か……水橋パルスィさん? あれ、パルシィでしたか?……パルスィで合っているようですね。」

 

 何か気持ち悪いわね。どうなっているのよ。名前も知られている?

 

 この時点で、目の前にいる人物は今まで応対してきた連中の数段面倒な人物とパルスィは理解した。先ほどまで浮かべた笑顔は消え、何処か儚げな印象を受ける少女と、勇儀から聞いた少女の体の特徴が合致していることに気がついた。

 

 宴会を思い出せば……、あの館の主の話を勇儀がしてたわね。何か紐が伸びている……さとり妖怪ね。名は古明地だったか。そもそも名前がさとりだったわ。そもそも先ほど聞いていたわね。馬鹿なこと考えていたみたいね。

 

「勇儀から聞いていたのですか」

 

 人の考えが分かるなんて、なんと妬ましい。

 

「………私が、妬ましい?珍しいお方ですね」

 

 珍しいも何もない。ただ妬ましいだけだ。豪邸も妬ましい。勇儀を知ってることも妬ましい。貴方は、妬んでも妬みきれないわ。大変そうで、羨ましいこと。まあこのくらいで勘弁してやるわ。

 

 何やら考えたように見えた後、今までで見てきた笑顔の中でも、とびきり可憐な笑顔を浮かべた目の前の少女。パルスィが見とれていると、既に会話はあちらから始まっていた。

 

 あの笑顔、美しいわね。妬ましい。

 

「ええ、私の用件は貴方と話すことなので、ええと、このあと用事はあります? ……ないようね。え? 妬むなんてあとでも出来るではないですか。何せこのご時分、旧都は物騒ですからね。世間話でも……」

 

 全く距離感がつかめない。会話はさとり妖怪が掴んでいる。どうなってるのよ。文句の一つでも言わなければやってられないわ。

 

「……貴方、おかしいわよ。急に話し出すもの」

 

 くすくすと素敵な笑顔を浮かべるさとり妖怪は、突然今までより饒舌となり、こちらに三つの目を集めて注視している。

 

「ええ、ええ、よく言われますとも。お酒とかいかがです?」

「いただくわ。……いいお酒ね、妬ましい」

この妖怪、用意周到ね。訪れてきたのだから当然か。…

 

「では、出会えた記念に乾杯」

 

「……乾杯」

 

 私の家、お酒無いわね。……乾杯すらできないかもしれないわね。

 

「当てて見せましょう。お酒はまたあの鬼達がかっさらって行ったとか? 当たりね。あの種族はいつも呑んでいますね。どう考えても貴方の方が大変ね」

 

「……捲し立てないでほしいわ。貴方の話すと拍子が狂うのよ」

 

「本当によく言われます。貴方みたいな妖怪と話すと楽しいではないですか」

 

「いい性格してるわね。私と話して面白いと言った妖怪は大抵悪い奴よ」

 

「どうせ他の物も持っていかれてるのでしょう? ……あたり。ここら辺の妖怪は何も我慢しないですから」

 

 お陰でうちもね、と愚痴をこぼすさとりを尻目に、よくよく考えるとなぜ初対面と酒をサシで呑んでいるかと思った。だが、既にその事はどうでも良いこととなっていた。

 

 何よこの妖怪、まだ出会ってちょっとじゃない。馴れ馴れしいわね。そうやって友達を増やしていけるなんて、妬ましいわ。

 

 鬼や妖怪達の荒波の中で呑むこととはまた違う楽しさがあることが頭をよぎった。しかし、こいつも私の都合を無視するような奴だと思い、頭の中の考えをかき消そうと思ったがその気持ちは離れなかった。

 

「私と呑むのも楽しい?やっぱり貴方は面白い妖怪ね。私も楽しいですよ」

 

「……ふん」

 

「……ああ、そうです。もうひとつ用がありました」

 

「何よ」

 

「少し考えてみたら……いえ、考えなくともここら辺、物騒ではありませんか?」

 

 私の家は対しておかしくはない。……確かに、辺鄙な場所でも、やや旧都に近いところでは喧嘩に柄の悪い妖怪ばかりね。くたばればいいのよ。ややもすれば抗争らしきことをしているわね。注目を集められるなんて妬ましいわ。それが……どういうことよ。

 

「もう少し平和になったらいいとか思います? そうでしょうそうでしょう」

 

 答えをこちらから出していないのに。……そうね、少しうるさすぎると思うわ。

 

「貴方が争い事の内容を一月に一度。本当にそれだけでいいので、あの地霊殿に伝えに来てほしいのです。原因を教えてくれたら、対策もとることができます。もちろん、お礼はしますよ。このお気に召したお酒とか、盗られた物の補填とかね」

 

……悪くないわね。何か裏が――

 

「私があそこにいるわけは旧地獄の管理。地底に問題があればこちらも困るのよ。裏なんてないわ」

 

 とんとん拍子に話が進む。断るような話ではないのだけれど……。気になってしまった。どのくらいもらえるのかしら。

 

「毎日宴会でもしなければ消えない額をええ。ご協力ありがとうございます。それでは私はここで……。あ、お猪口はここに置いておきます」

 

「待ちなさい!まだ受けるとは」

 人の話を聞かないのね! 待ちなさいよ! 貴方も変な妖怪ね!

 

「あとでうちのペットを向かわせますので安心してくださいね。」

 

そう語り足早に去っていったさとりをパルスィは妬むことしかできなかった。

 

……もう少し、話しても良かったのに、忙しいなんて妬ましいわ。

 

 

 

*さとり視点

それまでの出来事による心労から、さとりはややもすると会えないのではないだろうか、という不安を感じていたが、その対象は余りにも簡単に見つけることができた。調べたところ、鬼や他妖怪からそれなりに被害を被ってる彼女とは、仲良く出来るかもしれないという期待と、拒絶されるかもしれない不安で入り交じっていた。

 

良かった。いたわ。この出会いは出来れば良いものになるといいのだけど……。

(ふん、あの鬼共は私のことを一切考えないわね。自分が思ったことを周りに押し付けられるなんて……その性格が妬ましいこと。でも、あの鬼共も去ったし、今日はたいした用はなかったみたいだから、思う存分あの人望と行動を妬んで……)

あの方も鬼には苦労しているようね。あ、気付かれたわ。

(……来客?誰よ。)

初めて会うのですから、笑顔、笑顔。

 

「貴方も大変ですねぇ。私はあの館の古明地さとりといいます。以後お見知りおきを。」

(古明地……聞いたこと無いような。どうしてここに。)

どうしてここに、ですか。確かに初対面で知らない妖怪が来たのなら普通そう思いますよね。

 

「ああ、用件ですか?いえ、噂の橋姫とやらを見にきたんですよ。確か…水橋パルスィさん?」

 

(……何か気持ち悪いわね。どうなっているのよ。)

……やっぱり、嫌われるのか。よくよく考えれば、鬼に困っていても、私とにたような方じゃなかったのかもしれない。それに……。

 

(うん?確かそういえば、あの館の主の話を勇儀がしてたわね。さとり妖怪ね。さとり妖怪の名は古明地だったか。そもそも――)

そうですよ。皆に嫌われてきたさとり妖怪ですよ。あれ、勇儀と言いましたね。勇儀を知っていたのですか。もしかしたらあの鬼が一番偉い鬼でしょうか。

 

「勇儀から聞いていたのですか。」

 

そこで、さとりには予想外のことが起こった。目の前の橋姫が考えたことは、さとりには一瞬理解できなかった。

(人の考えが分かるなんて、なんと妬ましい。)

 

……目の前の橋姫はなんて考えた?

 

「…私が、妬ましい?珍しいお方ですね。」

思わず口に出してしまった。

 

(豪邸も妬ましい。勇儀を知ってることも妬ましい。貴方は、妬んでも妬みきれないわ。大変そうで、羨ましいこと。)

 

……なるほど。これは……。もしかして、さとり妖怪と気付かれたあとでも嫌われてない?……面白い。そうなのよ。大変なのよ。

……貴方なら私の気持ち、悟ってくれるよね?

 

「ええ、私の用件は貴方と話すことなので、ええと、このあと用事はあります?…ないようね。え?妬むなんてあとでも出来るじゃない。何せこのご時分、旧都は物騒ですからね。世間話でも…。」

 

「……貴方、やっぱり面倒よ。急に話し出すもの。」

 

 会いに来て良かった。心を読んでも嫌われない。()()()嫌われない。

「ええ、ええ、よく言われますとも。お酒とかいかがです?」

 素直に仲良くなろうと言えたらどれほど良いことか。素直などというものはとっくの昔に捨ててしまった。必要になるとは思わなかった!

 

 気がつくとそれなりに時間が過ぎていた。帰らなければならない。……今後も仲良くしていきたい。何か、それらしい理由を見繕って押し付けなければ。……そうね。行くときに仕事手伝ってもらおうと思っていたのだった。利用しよう。幸いにも、彼女も鬼に困っている。

 

「やはりここら辺、物騒ではないですか?」

 

 鬼に困っている貴方なら協力してくれる筈だ。勝ち筋はある。戸惑っている隙に言いたいことを全て言えば良い。

 

「もう少し平和になったらいいとか思ったりとか、しますよね。」

 

 悟らなくても分かる。きっとそう思っているはず。

 

「貴方が争い事の内容を一月に一回くらい、あの地霊殿に伝えに来てほしいのです。原因を教えてくれたら、対策もとれると思うので。もちろん、お礼はしますよ。このお気に召したお酒とか、盗られた物の補填とかね」

 

(何か裏が…… それに、どのくらいもらえるのかしら?)

 なんと疑り深い方。仲良くしたいですね。それ以外に裏なんかないですよ。……もしかしたら大変かも知れませんけど。

 

「私があそこにいるわけは旧地獄の管理なので。問題があればこちらも困るのよ。裏なんてないわ。」

……少し話すのが速かったかしら。それに、これでは押し売りみたい……。

 

 押し売りみたいではなく、実際押し売りそのものだった。

 

……恥ずかしいから帰ろう。久々に他人と長々と話したから調子が狂う。

 

「毎日宴会でもしなければなくなりませんよ。ええ。ご協力ありがとうございます。それでは私はここで……。あ、お猪口はここに置いておきます」

 

「待ちなさい! まだ受けるとは――」

「あとでうちの家族を向かわせますので安心してくださいね。」

 これ以上話すと帰る時を見失ってしまう。しかしまだ話し足りない。……そうです。あとで内容をうちの家族に伝えて次はこっちに来てもらいましょうか。今日の様子なら……もしかしたら。

 

――久々に浮いた顔をして帰ってきたさとりを見てか、彼女の大切な家族は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

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