この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

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仲良し

お燐の提案でパルスィさんの家で少しの間ですが、傷を癒すことになりました。あの子もいい思い付きをしますね。……お燐は私の側に居られないことを悲しんでいましたが……。前々から思ってはいましたがお燐は相当独占欲が強い。……家族なんてそんなものでしょうか。

 

(さとり様をパルスィの家に少しの間移すことは隠さないと。危険な奴等から遠ざけるんだから。どうやってあっちまでばれずに……?これもさとり様の為。あたいがより強ければ一人でもさとり様を守れるのに。……あたいは失敗した。次こそは守れるなんて確証は無いんだ。なら危険から遠ざけるのは当たり前なんだよ。……それに、パルスィはさとり様の心の拠り所なんだ。パルスィが悪い奴じゃないのは分かっている……。)

(……困ったわ。何もないわよ。いいものを食べているさとりに食べさせられるものなんて……。どうするのよ。すかすかの野菜で下手な料理を振る舞うしかないのかしら。)

 

お燐は真面目すぎる。……いえ、二人とも。それより……お燐が心配です。

 

「お燐は頑張っていますよ。」

 

「ありがとうございます。あたい、嬉しいよ。」

(頑張った結果があれなんだ。せめてこいし様を手伝って他で帳尻を合わせないと……。いつもしているお手伝いだけだと足りないよ。……さとり様が刺されたのはあたいの失敗。主に迎えに来られた。しかもそれでさとり様は死を彷徨った……!)

 

駄目ですね。思い詰めています。お燐が私を好いてくれているのは……分かります。ひしひしと伝わってくる。それを私に読まれることすら気に出来ないようでは……。ただ本心で嬉しい、と伝えても、さらに何か出来る筈だ、と受け取られたらどう伝えたらよいのか……、私には分かりません。褒め方が下手なのかも。口下手だからそうかもしれません。お燐も私の心が読めたらいいのに。きっと分かってくれます。

……全て。

 

「お姉ちゃんは褒めているんだよ?お燐、強ばった顔になっているよ。どうしたの?お姉ちゃんには分かるんだろうけど。」

 

……確かに、こいしでさえ気になる程顔が強ばっていますね。……そういえば私の褒め方は偉そうなのかもしれませんね。皆萎縮してしまいます。……他人と会話することなんて殆ど無かったから。適切な言葉は知っていても、使い所と表情が分からない。これでは親友なんて出来る筈が無かった。……この思考もいけない。暗い妖怪と明るい妖怪、どちらと仲良くしたいかなんて分かりきったことです。もう手遅れですが。

 

「あたいは……強くなるよ。」

 

「うん?んー……まあお燐ならそう考えるのか。それでお姉ちゃんをいつでも守る、なんて馬鹿なことを考えている訳ね。どちらかと言うとお姉ちゃんが強くなるのが先かな。」

 

(……こいし様に馬鹿って言われた。でも、あたいが正しいはず。さとり様は強い。せめてそれよりは強くならないと。)

 

「別に私は強いわけでもないですが……あのときは油断しました。それだけです。」

 

「違うことを考えていただけでしょ。お姉ちゃんてば自分の能力が通用しないとすぐ焦る。」

 

不意に何かが起こったとき、さとり妖怪は反応できない……とかなんとか。正しいとはいえ、失礼な。あのとき何を考えていたかなんて忘れてしまいました。忘れたことにします。……信じたくもないことですから。

 

「そこまで――」

「そうでもなければ、油断していたとしても、お姉ちゃんが斬られる訳がない。どうせ、斬られる寸前にどうして読めないのか理由を考えようとでもして、回避がおろそかになったとかでしょ。読めない奴もいる。紫の心も読めなかったお姉ちゃんだって分かっていたよね。油断なんて強者がやること。ただの思い上がり。それこそ過信でしょ。……下のお仕事のお部屋行ってくるね。お姉ちゃんよりいい思いしてやるから。」

 

え、こいし、そこまで言う?……悲しい。もっと悲しいのがぐうの音も出ないこと。それに、いい思いって何?いったいこいしに何が。こいしは私よりも辛かったのでしょうか。確かに、こいしは辛いことばかり、と叫び、目を捨てた。それでこいしは……心を読めなくなった筈です。しかし……最近のこいしは直感に磨きがかかったような気がします。感覚で予想しているのか。まさか、こちらから読めないだけで、あちらからは読めているのか?読めないふりをして、ここぞという時に使う……それならまだいい。むしろそうであってもいい。あの子が、ただ受け答えをするだけの生き物として存在しているだけなら。もし心が無くなっていたら……あの笑顔で?泣いて飛びついてきたこいしが?……突飛もない話。そうとは思いたくないものです。……あの子は変わりました。せめて、よい方向に行ってくれたのなら……。そう、あれだけ自身をさとり妖怪で無いと否定していたこいしが、突然さとり妖怪である、と……。何故?こいしがさとり妖怪だ、と言ったとき、私は嬉しかったけれど……。こいしだってさとり妖怪。こいしともう一度だけでも、心で語り合ってみたいものです。だれにも聞かれることのない、二人だけの内緒話。……懐かしいことを思い出してしまった。今の私は、こいしにいい思いとやらをさせてあげられるのでしょうか。

 

(献立……献立……、駄目ね。さとり、何が食べたい?)

 

……関係ないことで悩んでいる妖怪がいますね。たしか、パルスィさんから手料理を振る舞っていただいたことは無かった。少し楽しみです。

 

「何でもいいですよ。」

 

(……余計に困ったわ。何がいいのか全く分からないわね。)

 

もっと私のために悩んでおいてください。悩ませておいて……ですが多分何が出ても喜ぶと思います。他の者が作った料理はおいしいですから。

 

「……そうだ、いつパルスィの家に行くか決めてあるのかな……って。」

 

確かに、お燐の言う通り。決めておくべき事柄です。

「こいしに面倒に思われないためにも今日――」

「今日は無理よ。橋町にわんさか北の妖怪が居るかもしれないわ。危険よ。」

 

(今日はどうなんだろ。さとり様は大丈夫なのかな?パルスィの心を読んださとり様は大丈夫と言ったけど……。)

この方は心配してくれる。お燐も。

 

「心を読んだ限りではそのようなことは起こり得ませんよ。」

 

「そうとは言えないわよ。」

(さとりがそうは言っても……実態を見なければ分からないわ。それに何があるか分からない。ああ……、なんとか町を立て直さないと。)

 

他にすることもありそうですね。……お邪魔でしょうか。邪魔だとは思われていないようですが、邪魔だと思わないのは人が良いのか、あるいは気付かないだけなのか……。人が良いから気付かないのかもしれません。

 

「何か心配事でもあるのですか?」

 

疎ましく思われないために、何かしてあげなければ。私の経験則からは……何もしなくても嫌われることもある。仕事をしたのなら、不平不満を垂らしながらではあるものの、話を聞いてはくれる。

もちろん、この方はそのような妖怪とは違いますが……。それでも、私は獏の言った通りの妖怪になるなんてことは有り得ない。助けてもらってばかりの妖怪になる気はさらさらない。

 

「いえ、町はどうなったのかしら……と。」

「――あ、あたいが見てくるよ!」

 

……お燐を意識の外に追いやってしまっていたみたい。全く読めなかった。せっかくの能力、うまく使うためにも、気遣いができる妖怪になりたいものね。

 

(ありがたいけれど、私が行かないと意味がないような……。それに、二度手間だし……。)

 

やはりお燐は向こう見ずなところがある。これを名誉挽回の機会と捉えたのか……お燐が失敗していた記憶は無い気がするけれど……。それとも別のこと?読む前に出ていってしまうと予想もできないのはどうにかしたいところね。

 

「パルスィさんから読んだので、二度手間になってしまうかもしれませんね。……お燐が行って大丈夫と言ってくれたら、私も行っていいですよね?」

 

わざわざお燐が直で見に行ってくれるのだから、それまでゆっくりしますか。今さらお燐を引き留めるのも、もう無理でしょう。速いから追いつける気がしない。それなら、お燐が見て確認してくれた結果をみて決めたらいい。お燐が危険と言ったなら、事態は急変してこちらの方が安全となったわけですし、悪いことではない。お燐が大丈夫と言ったなら、……パルスィさんも折れてくれることでしょう。……押しに弱い貴方が断れないことは知っています。流されやすいことは、こちらとしては少し心配になりますが。

 

「え?……どうしよう。……私の家の方が安心できると言えるようならいいわ。」

(私の家の方でいざこざが無いならいいのだけれど……。何か起こったら怖いわ。地霊殿には強い動物がいるけれども、私だけだと……。)

 

言質はとりました。

 

「お燐の言葉次第ですね。帰ってくるまで、お休みになられては?」

 

「お燐が飛ばなければ相当かかるわよ?冬だから飛ぶわけにもいかないだろうし。待っていたら日が暮れてしまうわ。」

(勇儀とご飯も行ったし。時間をかけすぎたかもしれないわ。町で皆への約束をしたわけだもの……駄目ね。お空がいるとはいえ、さとりを一人にするのは良くないわ。町でなんと言い訳をしようかしら……。)

 

勇儀が、ああ、それは羨ましい。……それはそうと、鬼も泣くのか。もう少し想起させていれば、お昼の話も知れたのですが。パルスィさん、私の前だから、勇儀の泣き面をかきけそうとしましたね。……まったく消えてないですし、思いを消そうと努力して、それが成ったためしはないですね。……勇儀は仲間を皆平等に信頼し、仲間に囲まれているとばかり思っていたけれど、実際はそうでもないのかもしれませんね。パルスィさんの心の勇儀は、萃香とパルスィへの全幅の信頼を寄せているのか。勇儀は心も読めないというのに。このようでは、勇儀は私のことはどうでも良いのかもしれませんね。一度会ってみないとわかりませんけれど。まあ、そこはお互いに険難な仲でさえなければ、私もどうでも良いこと。……もしかして私は、心を読めないと親友でさえ信用すらできないのではないか。我ながらなんとも薄っぺらい心です。

 

「お燐は並みの妖怪の二倍くらいの速さなら優に出せます。火を使えば寒さも和らぐので、空も飛べるでしょうから、想像するよりかは時間がかからないでしょう。……私を一人にされては困りますよ?」

 

貴方は忙しいというのに。私は卑怯だ。お空を起こせば引き留めなくても良いのに。

 

「ああ、さとりを一人にしては本末転倒ね。ここにいることにするわ。」

 

ほら、心を読めるのはいいこと。何を考えているかさえ、間違えることはない。渋々守ってくれているわけではないと、心を読めばわかります。嫌われないのは、嬉しい限り。町よりも篤く慮ってくれることを嬉しく思ってしまうことは、いけないことながらも、仕方の無いことだと思いたいものです。

 

「生憎、お出しできるものは何もありません。この体ですし……。」

 

(何かされる方が困るわ……。何かしてあげようにも、何がどこにあるか分からないから何もできないのは心苦しいわね。)

 

私が頼んで居てもらっているのに。何かもてなせるものはありましたっけ。

 

「……たしか右の棚の奥に煎餅はあったかもしれない。取って二人で食べません?」

 

「いいわね……棚……あれか。」

 

「あ、その棚のもうひとつ右。……その棚の上の段のところです。」

 

(……棚の量よ。どうなっているのかしら。)

 

「何分長いことここを使っていたので、私物が多くなってしまいまして。」

 

(……つまみを引く系か。……これね。いつの煎餅かしら。)

 

ああそうか。私は長いこと寝ていたのか。死を彷徨う一日前にお空と作ったものなのに。今でも食べられるならいいのですが……。

 

「食べられます?」

 

「食べたら分かるわ。」

 

「……ご冗談を。」

 

「これで腹を壊すようなら私はとっくに死んでいるわ。」

 

「無茶な――」

嘘、食べた。彼女も向こう見ずなところがありますね。……なにかも分からない果実にかぶりついたことがあるなら納得……いや死んだらどうするおつもりだったのですか。山のなかで空腹からわさびを丸々一本食べた?何をしているのですか。

(味は悪くないわね。棚も乾燥していたし、しけって話にならないわけでもない。きっとかびてはいないわ。)

 

「毒がなければ何でも食べてもいいといった考え方はもうやめにしませんか?……私は心配です。」

 

「ふん、常に食べ物があるからそういえるのよ。妬ましい。」

 

「自慢したいわけでは……。」

私は恵まれていたのかもしれませんね。旧都の民のためにしてあげたことも、暮らしが違いすぎて空回りしていたのかもしれない。町の者達の暮らしを私がしたら、すぐに音を上げてしまうのかも――

(さとりが黙ってしまったわ。言い過ぎたのかしら。)

「責めるつもりは無かったの。悪かったわ。ごめんなさい。」

 

「いえ、へこんでいたわけではなくて、

旧都のことを考えていたので――」

「待ちなさいよ。また仕事しようとしていたわけ?」

(どうしてそこまで何かをしたがるのかしら。こいしに任せたのだから、休めばいいのに。)

 

……また怒られてしまった。

 

「多分食べられる煎餅……あと三枚あるけど……食べる?」

(さとりの調子にもよるけど、何か食べたほうがいいに決まっているわ。)

 

「……頂きます。……ありがとう。」

 

良かった。思いの外悪くなっていないようです。作ったその日に食べたから、分かってはいたものの、我ながら美味しく作れた。お空のためにも取っておいてあげようかしら。

 

「美味しいわね。」

 

「私が作ったのだから当然です。」

 

「煎餅を作れるなんて羨ましいわ。」

 

読んだ限り、パルスィさんも煎餅を作れるようです。それなのに、どうして羨ましがるのか、もしかしたら嫉妬する妖怪の性でしょうか。

 

「貴方も煎餅くらい、作れるではありませんか。」

 

「そうではあるのだけれども……ね。」

(……仕方がないわよ。)

 

確かに、仕方がないことかもしれません。自ずと読めてしまうこの能力と似通ったものでしょう。

 

(……さとりの格好。見れば見るほど死装束ね。本当に死ななくてよかったわ。)

 

「家にこのような服があったことが驚きですよ。こいしが見つけてきたのか……あるいはお燐が死者に着せていたものかもしれませんね。どうせ焼くというのに。」

 

「まだ生きているのに死装束ね。そのまま死んだときに楽ではあるけれど……。そのまま死んでほしくないから、私は着せたくはないわね。」

 

「お燐は私の上でじっとしていたようですが……私が急に冷たくなったときに何をしたのか……。すこしばかり気になるところではあります。」

淡々と焼くのか。泣いて崩れるのか。……もしかして、私の体を食べるなんてことも……。後を追われても困ります。

 

「やめなさいよ。縁起でもない。」

 

「そうですね……。」

 

「そういえば……そのまま私の家に来ようとしていたわけではないわよね?」

 

「それはもちろんそうですが……。多分一人だと着替えられないので、誰かに頼まないと服を替えられませんね。」

 

この包帯をどうにかしなければ、体すらまともに動かせない。先程後ろを向こうとしたときには、傷口がじりじりと痛みを訴えてきたから、万全をとったほうが良いのかもしれない。

 

「お空に頼んでも良いのですが……このいい寝顔です。起こすわけにもいかないでしょう。」

 

(そうだわ、この鳥は寝ていたわ。もう少し静かにしたほうが良さそうね。)

 

「そういうことです。」

 

今はお燐やこいしとか、着替えを手伝ってくれる方がいますが……パルスィさんの家で着替えをするとき、どうしよう。手伝ってもらえば良いのですが……お燐ほど気軽には頼めないし……。その対価にも何もしてあげられない。……仕方が無い。ままよ、またお返しをすればいい。……それでも尻込みしてしまう。いえ、言うと決めました。

 

「きっと貴方の家に行くことになるでしょうから――」

(お燐の話を聞いてから決めるのではなかったのかしら?)

「――私の服の替え方も覚えてくれると嬉しいです。その……手伝っていただけますか?」

 

「……貴方はどこかの姫君にでもなったのかしら。」

(ええ、そうなるでしょうね!……仕方がないわ。せっかくの頼みだもの。)

 

「地霊殿のお姫様です。」

 

(何を言っているのだか。地霊殿のお姫様というものは、橋姫とは大きな違いね。なんと付き人がいるのだもの。)

 

やはり少し呆れられてしまったか。断られなかっただけよしとしなければ……。無下に扱われたら辛くて泣いてしまいます。……泣きはしませんけど。

 

「……地霊殿のお姫様とやら、背中を向けなさいよ。ええそうね、動けすらしなかったわ。回り込んであげるのだから感謝くらいしなさいよ。」

 

「え?あ、もちろん感謝でたくさんですよ。」

 

(どうしてそこだけ真面目に感謝するのよ……。)

こちらから悪ふざけしたのではあるのですが、私の扱い悪くないですか?それより、パルスィさんもまんざらではないことが漏れ出ていて……これではどちらも道化みたいではないですか。

 

「ふふ、パルスィもなんだかんだ乗り気で――」

「読んだわね?恥ずかしいからしてあげないわよ。」

 

「恥ずかしい?何を恥ずかしがる必要があるのですか。私は恥を忍んで着替えを頼むから恥ずかしいとはいえ、貴方は着替えを手伝うだけ。何も恥ずかしくないでしょう?」

 

「ああもう!心を読む奴はこれだから!」

(そこじゃないのに!分かっているのに違うことを言い出して。)

 

「自分で恥ずかしいと言ったからですよ?」

 

「どうせ読まれるから先に言っただけよ!」

 

「ああ、大変。これではお空が起きてしまいます。」

 

(ええそうね、そうだったわ。……言い出した方に諭されるのは気にさわるわ。)

 

ああ、面白いお方。……私も熱に浮かされていた。私も、嫌われるかもしれないのによくあそこまでできたものです。本当によかった。……パルスィさんには嫌われないとわかっただけ、収穫かもしれませんね。

 

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