この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

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三途の川[要出典]

 ……おいしい。ここで胃もたれになるのもまたありかもしれません。このお味噌汁の中にある野菜の味もいい。どこでとれたものでしょうか?冬にも関わらず食感が良くみずみずしい。

 

「――それで三途の川が元通りになったかもしれないのよ。その水を飲んでも変なことにならないらしいけれども、本当かどうか、一度くらいは見に行かないといけないみたいね」

(さとりを一人置いて見に行くのはしたくないわね……。お燐も分かってくれないかしら。)

 

「うん? 川なんてあったかな?」

(お肉、お肉。嬉しいな。こいし様にも少しだけ残しておいてあげようか。)

 

「無かったわ。だから今から調べないといけないのよ」

(暖簾に腕押し糠に釘。能天気は羨ましいわ。さとりの言うことに従ってだけいれば良いもの。私よりも楽しそうね。)

 

 二人で話していますが……、パルスィさんは朝一番に橋を見に行くつもりでしょうね。そのためにお燐には私のお守り――言い方は悪いものがありますが……そうしてほしいのでしょう。迷惑をかけると先に決めていても、辛いものがある。

 それと、お燐に悟るなんて芸当はできないと……、あの子、疎いし。私のことは詳しいですが。

 

「それは大変だね。頑張ってね」

(つまりは、三途の川に流れる水も飲めるのかな?……こいし様に飲ませて試してみようかな。こいし様はまずいか。誰がいいだろう? そうだなあ――)

(……多分だけど、伝わってないわ。直接伝えるのも押し付けがましいし。さとりのこととなるとお燐は必ず動くとわかっているから、直接伝えたら良いのだろうけど……。なんだかね。)

 

 やはり駄目みたいですね。川の話は興味がある。私も連れていってもらえないものか。とりあえず、パルスィさんの意図をお燐にもわかるようにしてから考えようか。

 

「川なんてありました? 私が来たときには橋しか無かったような」

 

「どうかしら。貴方と話したときのことは覚えていないわ」

(さとりにしては珍しいわ……今まで心を読んでいなかったのかしら。)

 

 そんな、覚えていないなんて……。当然思い出してもらいます。あのときの私はどれほど勇気をだして――

(――橋でお酒を飲んだような。ただただ暇をしていたときだったわね。……勝手に居座って、捲し立てて。川は……どうだったか。覚えてもいないわね。)

 ……あれ、思い出させる必要もなさそうですね。なんだ、心象に残っているではないですか。良かった。それならば川が流れていたかわかるかもしれませんね。

(あのひきつった笑顔?も、私の瞳を釘付けにした笑顔も、まだ覚えている。足りないのは――)

 

 ……私しか映っていない。

「覚えていない、と。……悲しいことをおっしゃるものですね」

 

「……覚えていないのは川の話よ。貴方は心を読めるのだから、私の指すものは川のことだとわかっているでしょうに。貴方のことを忘れるわけがないわ。」

 

 おお、じと目。それと……、よく恥ずかしげもなく言えるものです。

(あのときのさとり変だったもの……。さとりの前では良くないわね。ああもう思い付いてしまったからどうしようも――熱っ!舌を火傷したかしら。やはり食事中に考え事は良くないわ。)

 変な妖怪が会いに来て、それから交流があるなら忘れないことは確かしれない。ああ、素晴らしい出会いだからではなく……。もしかして今も変だろうか? 変になってないといいけど。

(さとりが変な動きしている……。う、失礼にあたるわ。)

 

……なんでしょう、やはり真面目というか。そこまで考えてくれたのなら気にせずに済みます。皆そうだったらいいのに。……相手に求めてばかり。

 

「……ごめんなさい」

 

「慣れてるから大丈夫。気持ちは伝わっていますよ」

(謝ったとはいえ、やってしまったかしら?)

(……お姉さん、何を思ったんだろう。まあ、仕方ないか。)

「それよりも、川の話ですよ」

 

「まとめると、枯れていた三途の川が再び流れ出したかもしれない、ということよ」

(その目はもっと広くを見下ろすものだとおもっていたけど……違うのかしら。)

 

 ――視野が狭い。故に不意に……、が増えた。自覚はある。私は不意に起こったことに滅法弱い。

 昔はこの力を、何に対しても効く神通力とまで思っていた。ただ一つ、こいしは特別だと。あれよあれよと過ごすうちに紫も、あの夢の中のあいつも特別の内に仲間入りした。届かないものはなぜ私の眼前に現れるようになった? 本当に己の力不足だろうか?

「三途の川ですか? あの橋の所に昔あったとされるあの川。……仕方がありませんね。なら――」

 ……お燐に意図を理解させたら、私は川に行けなくなる。お燐と留守番。……惜しい。私も川を見ておきたい。お燐には帰ってもらう方に話を進めましょうか。

 

「……なら? さとり、何を言おうとしたの?」

 

「川を見ておきたいなと思って」

 

「そうね……、遠いわよ?」

(さとりを外に出したくはないわね。傷もあるし。無理をされたら困るわ。さとり、わかってくれないかしら。お願いだから。)

 

「それでもです」

(参ったわね……。)

 

「たまに外に出るのはいいと思うけどさ、さとり様がさとり様だ、って見つかったら少し嫌かなー。お姉さんがついているとはいえ、さとり様が嫌いな奴等はいるからね」

(お姉さんが何を考えているのかしらないけど、遠いから無理とか言ったから、さとり様は別に外に出てもいいと思っているのかな? ならあまり口出しするのもお姉さんに失礼だし……。さとり様にはそんなに外に出てほしくないけど。まださとり様を殺そうとする奴がいるかも。いや、橋町は問題ないのかな。あたいが見て回ったときには大丈夫だった。地霊殿の周りよりは安全。でもなぁ……。)

 

「確かにそうね」

(お燐は別にいいと思っているのかしら。さとりを危ない目に遭わせたくはないのだけれど。賛成派の方が多いなら仕方ないわね……。それに、さとりのことに関してはお燐の方が詳しいのは事実ね。妬ましいこと。)

 

 二人の思考が噛み合っていない。運がいい! パルスィさんの曖昧な答えで面白いことになった。二人は私に外に出てほしくはないのに、お互いに『出てもいいと思っている』相手に譲り合っている。これならば望む結果に持っていくことなど容易い。

 

「つまりは、私が私だと気付かれなければ問題ないのね? そう言われたら、確かに気付かれては元も子もないのもわかるわ。……どうしたら良いのでしょうか」

 

 真面目な二人のことだから、きっと私の言ったことに頭を使おうとする筈。手玉にとったみたいで楽しい。私は悪い女ね。

 

「帽子を被ったら? 服は違うものだし、帽子よ。髪の毛だわ。顔は……仕方ないけど」

「きっとさとり様の目だよ。上からもう一枚羽織るだけで結構違うよ? 妖怪はその目を恐れて……すごいと思っていたんじゃない?」

(なんで目が怖いんだろうなぁ。)

 

 お忍びとはこの事か。いやはや、私も偉くなったもの。素晴らしい日になりそうですね。

 

 

 

 

 

 ……予想よりもごうごうと流れている。昔も、こうだったのだろうか。まるで今までにたまった分をまとめて流しているかのようね。

「私達が初めて会ったとき、本当にここまで流れていました?」

 

「ここで私たちが盃を交わしあったとは思えないわね。もしかして、そのときには既に枯れていたのかしら」

 少なくとも私はここでさとりと楽しく酒を飲めるとは思えないわ。騒がしすぎるもの。……時と場所を忘れてまで楽しく飲んだのかもしれないけど。

 

「あれ? 使ったのは盃でしたっけ」

 

「悪いけどほとんど記憶にないわ」

 

「酷い」

 

「そのくだりは朝にしたわ」

 

 どうしようか。三途の川は勢いが激しかったかすらも忘れてしまった。……それと、目の前の妖怪の目線が刺さる。本当に橋の近くに住んでいたわ。最近寒くて橋まで行っていなかったから、その時に住み着いたのだろうか。戸惑っているわね。……私が行くと言ったのに、もう一人ついているのだから仕方ないか。説明しようにも、もちろんさとりのことをそのまま伝えるわけにもいかないし。

 

「あの、そのお方は……」

 

「私が持つ昔からの友よ。南の方のね。訳あって私についてきたの。気にしないでほしいわ」

 

 間違いではない。さとりは私の家より南に住んでいるもの。嘘をついてはいないものの……みたいな曖昧な受け答えをするようになってしまった。直すべきところかもしれないわね。……いえ、直したらきっと鬼に嘘をついてしまうことになるから駄目ね。

 

「はあ……そうですか」

 

 誤魔化せたかしら。調査しにきたのだから、今のうちに聞くべきことは聞いておかなければ後々面倒になる。……さとり、橋から下を覗き見ることは危険よ。私が言うのだから間違いないわ。落ちたことがあるもの。今のさとりが落ちたら、私が嫌よ。

 

「そんなこといっても、私は橋から身を乗り出しているわけでは――」

 ちょっと、心を読んで話したら感づかれるでしょう?その返しはさとりにしかできないのよ。

「体を出していなくても危険なのよ。……橋から顔を出しては駄目よ。危ないから」

 

「……そうですね。そうでした」

 その返答も、心が読めない妖怪はするわけないから、おかしい返しなのだけれど……。彼女に気付かれていないかしら。……首を傾げているわ。他のことに目をそらす以外の道はないわね

 

「それで、今のところ困っていることはないかしら?」

 

「うーん……夜に明るいことだけですね」

 

「それとは逆に良いことはあるのかしら」

 

「井戸に水を汲みに行かなくてもよくなりました」

 

 ……どいつもこいつもこの水を飲みたがるの、何か呪いがはたらいているのかしらね。ここの水を飲むなんて行為、絶対にするべきではない――もしかしたら私もしていたかもしれない。いや、あれはここが地獄ではなくなった後だったか……? ともあれ、今の私は絶対に飲みたくない。

「……あの水を飲んだの?」

 

「えっと……駄目でした?」

 もしかして、かつては三途の川が流れていた、そのことを知る者はほとんどいないかしら? 勇儀なら……覚えているかしら。ここら辺にも来なかったし、覚えているとも限らないわ。……勇儀だし。さとりは……、さとりはいつから地底に居たのか、私は知らないわ。もしかしたら、地獄ではなくなった後に来たのかもしれないわね。時の流れとは速いもの。しみじみと実感させられている。

 

「まず貴方、三途の川とは何か知ってるの?」

 

「えっと……? 申し訳ありません、分かりません」

 嘘……最近の子はそんなことも知らないのかしら。……年をとったわけではないと思いたいのだけれど。嫌なことを思い付いてしまった。もしかしたらこの三人のなかで一番年を取っているのは、私?

「ここは地獄だったのよ」

 

「つまり……?」

 

 いくらなんでも察しが悪すぎないかしら? ……きっとこの子が群を抜いて阿呆なのね。そうでもなければ――

「パルスィさん、このかたは地獄に三途の川が流れることを知らないのですよ」

 

 うーん……、まさか地獄と三途の川の関係を知らない妖怪はいないと――

「あー! だからですか! 私は地獄の水を飲んだかもしれないと!」

 

 ……びっくりした。さとりの言うことは本当だったわ。となると私の伝えたことを正しく理解しているか怪しいわね。詳しく伝えても戸惑うだけか……。これは仕方がないことか、あるいは伝承がうまくいっていないのか。

「……ま、そうなるわね。それでも、貴方の他にも水を飲んだ妖怪はいるそうだから、そこまで気にするほどでもないわ。……顔色悪いわよ」

 

「……気にしますよ」

 

 地獄の水について、少し意図と違った受け取られ方をされたかもしれない。……頼られているようだし、私の所に来たくらいだから、もしかしたら、そこまで当てにできる親類もいないのかもしれない。……あとでより仔細に教えるしかないか。

「まあ、困ったらうちにいらっしゃい。相談には乗るわ。貴方の困り事を一つや二つなら解決してあげられるかもしれないわ」

 

 

 

 

 

 

 

「……用は済んだし、帰るわよ」

 川の中でも流れの速いものだ。泰然として緩やかに流れる大河ではない。向こう岸では、苔の生えた岩と力比べをした水が砕けている。散り際の水が放つ、きらきらとして淡い光がもやのなか二人まで届いた。それだけの川幅だった。

 辺りには人影の一つもなかった。さとりは橋に座り、欄干に背をもたれさせている。パルスィにとっても、違う服を着たさとりは目新しいものがあった。第三の目もパルスィからは見えない。見えないものの、そんなことお構いなしにさとりの目はパルスィの心を読んだが。何はともあれ、座ったままさとりは動かない。

 

「……三途の川の水を飲めば、人は生き返るらしいですね。つまりは、ここを離れて浮世に戻る」

 

 さとりがパルスィの後をついてこないことに気付き、パルスィは足を止めて振り返った。

 

「妖怪には関係のない話よ。第一、あれが三途の川そのものかどうかも分からないのだから」

 

 少なくともあの陽気な狩人と、気弱な乙女は死にも消えもしなかった。パルスィも昔、もしかしたら三途の川の水を飲んでいたかもしれない。そう考えると、妖怪が三途の川の水を飲んだくらいでは、神隠しも生き返ることも起きないのかもしれなかった。

 

「そのうちこっそりと消えていたりして」

 

 パルスィの丁度思っていたことをさとりが述べた。自然と口元がゆるむ。

「……ありそうで怖いわ」

 

「しかも誰からも忘れられて……。あ、でも一人だけ覚えていた。不思議に思ったその妖怪が他の妖怪に訪ねてみたのなら、そんなのいなかったぞ? ……なんて」

 

「よくある怪談ね」

 

「……私は嫌よ。そんな悲しい終わりかた」

 

 誰からも覚えてもらえない。忘れられる。忽然と消える。パルスィはこの言葉の羅列がよく知ったものであると気付いた。

 

「こいしも終いには貴方の元に帰ってくるのよ」

 

「こいし。思いもよらなかった。別にこいしのことは意図していなかったのですが……」

 

 さとりの目を見るに、思いもよらなかったことは本当だろう。しかし、気付いたからにはこいしのことを考えずにはいられない妖怪だった。

 

「妹を信じないとか、私がするわけないのだから」

 

「あー……流石ね」

 

 パルスィには確かにさとりが妹を信じているかのように見えた。今もこいしに全てを任せてここにいる。パルスィからしてもこいしは少々危なっかしい所があったが、さとりは全て信じるようになったと見えた。こいしの一言で泣いた昔――百年は昔だが。と、こいしの一言でも何も傷つかず、代理を任せている今を比べたら、言うまでもない。

 だが虚勢だった。全てを信じていたのなら、今頃さとりの悩みごとは何もないに等しかっただろう。彼女そのものを信じられないのではない。さとりは館の中で鳥籠を開け、鳥に好きにさせることは何も恐れていなかった。別に鳥を初めから終わりまで見ていないと気が済まないわけでもなかった。

 ただ、鳥籠を開けて鳥に自由に館の中を舞わせている間、どこかの窓が開いていることは恐れていた。これは誰でも当然のものであるが。

 

「こいしはきっと私並みに地底を回してくれます。私の妹ですもの」

 パルスィがさとりを全て信じてくれたことに気をよくしたのか、あるいは照れ隠しか、姉妹を持たないパルスィの嫉妬心をくすぐった。

 そこまでは良かったものの、さとりは一度に立とうとして失敗した。尻もちをついてしまう。

 

「……最後までかっこつけなさいよ。かっこいいと思った私が馬鹿だったわ」

 

「傷が痛くて、ちょっと腰が……」

 

「腰は大切にしなさいよ。……痛いなら私がおぶって帰るわ」

 

「……うーん、心配には及びませんよ。さすがに恥ずかしいですし。今しがた話した妖怪にはなんとか気付かれなかったものの、目立ちたくもないですしね」

 さとりはおもむろに立ち上がって、服を整えた。二度目は危なげなく立ち上がったことから、それは確かなようだ。されどパルスィは心配になった。結局杞憂だったようで、さとりは悠々とパルスィの家まで歩いて帰ってくることができた。

 パルスィが戸を開ける。見下ろせば、床には新聞が投げ入れられていた。朝と言えば朝でも、もう明るかった。

『岩砕き力比べ明日開催――地霊殿考案。立て看板によると明日の正午、北町で――』

 

「……私、こんなの知りませんよ。……決めたのはこいしね」

 

「力持ちは地底に砂の数よりいるから、理にかなってるわね。……やつら馬鹿だし」

 

 北町に住む妖怪の飢えを凌ぎ、軒を貸したところで、他所の妖怪の不満が残るだけだ。母屋も取られるかもしれなかった。早急に北町にお帰りいただくべきであることは自明の理だった。そのためには、居座る岩を叩き潰さなければならない。それには金がかかる。――普通の町なら。だがここは肉体に全てを懸ける者が他の町よりも少し――いやかなり居た。力比べとなれば、快く、しかもただで岩を砕きに来てくれるはずだ。

 

「……パルスィさんは参加します?これ」

 

「嫌よ。小石すら割れないわ」

 

「小石は叩いても割れないでしょう。叩いても転がって消えてしまうだけ。……なら瓦とかは――」

「絶対無理」

 自分が瓦を叩けば、手を痛めるだけ。そう思い、パルスィは挑戦しようとも思ったことがなかった。今後もすることはないだろう。

 

「ですよね……。そうだ、私たちも見に――」

「楽しいとは思うけど……場所は北町よ? 知らない妖怪もぎょうさん集まるわ」

 橋町ならいざ知らず、北町は危ない。しかも荒くれ者を集める大会も開かれる。身を守ろうにも、お忍びに等しいため、勇儀ら鬼に守ってもらうわけにもいかない。すなわち、パルスィはさとりを守る必要があったが、その自信はなかった。

 

「病にかかったわけでもないですし……。怪我しているだけ。きっとこいしもいるから大丈夫。……貴方もいるし」

 

「そう思ってくれるのは嬉しいけど……」

 

「駄目?」

畳み掛けられるとすぐに断れなくなる自分に辟易するも、だからといってきっぱりと断ることすらできない。優柔不断さが仇となった。さとりはそこを狙って押していたので、さとりの読みは正しかった。

 

「読めるのだから、……分かってよ」

 パルスィの心はさとりのしたいことを尊重したい気持ちと、さとりの身を案じる気持ちの二つに引き裂かれていた。心の整理ができていなかったのだ。大抵は身を案じるほうが大きくなるものだが、今の北町は危険だ、とはパルスィの憶測なのだ。本当に危険かは行ってみないと分からない。事実かも分からないことに怯えて機を逃し、さとりを失望させたくもなかったのだ。

 パルスィの一番の望みは、さとりが自分から行かなくて良いと述べてくれることだった。

 

「私は行きたい。……貴方が口に出すまで、貴方の心の中なんて覗いていないことにしましょうか。さあ、決めてほしいわ」

 

 さとりがパルスィの期待に応えることはなかった。地霊殿から離れて過ごす今を、友と様々な場所に行く良い機会と捉え直したさとりが外出を止める訳がなかった。返ってきたのは、ただでさえ揺れていた心をさらに揺らす純朴な笑み。さとりを止めるか迷っている内に、パルスィはいつの間にか選択肢を潰されていた。

 

 

 

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