鈍い音が響く。礫が飛び、岩を殴った鬼は喝采を浴びる。大岩を二つに割った者は、未だにいない。つまり、大岩はまだ北町に鎮座しているというわけだった。
「何ですかあれ。化け物?」
「そうかしら。よくいるただの鬼ね。しっかし、誰が一番かを決める手立てがないのに、よく集まるものね」
さとりにとって悪いことに、ここには頭のよくない力持ちが山ほどいる。確かに阿呆ではない者も多くいた。だが、その賢さは商売のために使われていた。決して地霊殿の言うことを聞くためではない。さとりにとってほとんどの鬼とは、力を持った化け物なのだ。
二人は、会場から少し離れて、岩を砕く鬼を見ていた。二人の立ち位置と、会場とはまず離れている。また、人だかりが二人と会場との間にあって、非常に見にくい。しかし、そうせざるを得なかった。さとりを蛮族と同じところに置いておける訳がなかったからだ。
「……せめて貴方くらい、背丈がほしいと、ふと……思ってしまいました」
「確かに。それでも、私の丈でも見にくいわよ? 鬼は背が高いもの。少し高いところから見るのが良さそうね」
幸いにも二人は注目を集めていなかった。一つは上から着ている服のお陰だろう。もう一つは、ここが力比べの会場だということ。普通なら、こんな小娘は注目の的にすらならない。萃香がおかしいだけだ。
逆に、注目を集めることになる要因としては、何故か橋町の頭と共にいる、名のしれない――実際はさとりである。妖怪は気になる者も多いだろう。
今は何が何でも注目を集めたくはなかった。
北町の中心部から橋町へ向かうとき、なだらかな登り坂を上ることとなる。北町のさらに少し北側からは、北町の中心を見下ろすことができる。おまけに、辺りには誰もいない。つまり、北町を見下ろすには絶好の位置だ。
「鬼って、うるさいのね。すっかり忘れていたわ」
さとりは鬼と話すことも、宴会に行くこともめっきり少なくなった。だが、パルスィはそうではない。パルスィは鬼の乱痴気騒ぎに慣れきっていた。
「こんなものよ」
「そうでしたっけ? ……そんなものみたいですね。酔っ払った鬼はもっとひどいのね……。ところで、貴方の心の、それ、誰です?」
「ん。ああ、この鬼ね。橋町にいるご隠居さんよ」
「ふうん? ……仲も良さそうなのね」
「あら、嫉妬? さとりの方が世話が焼けていいわよ。ほら、大好き大好き。貴方は私の親友よ」
「世話が焼けるとは何ですか……」
力比べは進んでいく。最初は鬼の力に驚いていたさとりも、そろそろ慣れてきた。すると気になるのは隣にいるパルスィだ。さとりの目は、しきりにパルスィから嫉妬を感じ取っていた。パルスィは嫉妬の妖怪。そのことを分かっていても気になるものだ。
「鬼の力って、貴方にとってそんなに妬ましいもの? 私は賢くありたい。貴方は、強い方がお好き?」
「賢いのも強いのも同じよ。私よりも良いんだから、妖怪らしく、節操無くどちらも妬むわよ。それに、嫉妬する訳を問われても、私はわからないとしか言えないわ。ほら、あの鬼とか凄く強そう……妬まし――って、勇儀じゃない!」
「つまるところ、強い妖怪の方が好みではありませんか。勇儀……ああ、心を読むには遠いですね。……あれ、頑張れば読める。いやあ、なんだかんだ、私も強くなっているものです」
さとりは僅かながらも自分の能力が成長していることを実感し、少しにやけ顔だ。次いで身長も伸びることも期待しつつ、パルスィの方を見た。案の定、パルスィはさとりに嫉妬している。さとりは少し気分が良くなった。
改めて二人は勇儀の様子を眺めた。勇儀は従容として泰然自若そのものだ。だが、心情と様子は常に一致しているとは限らない。さとりには分かった。心を読めるのだ。勇儀は萃香が岩の下にいる可能性を捨てきれていなかった。勇儀は他の妖怪と違い、失くしたものを取り返しに来ていたようだった。
「勇儀、心配ね。さとりのことだからもう知っていると思うのだけれども、あの日の勇儀は言いふらさないでほしいわ」
パルスィも勇儀のことは心配していた。別に今日の勇儀を心配していたわけではなかった。しかし、パルスィは、二日前に見た勇儀が脳裏に浮かんでいた。たった二日だ。本調子ではないと誰が考えても分かる。
「もう貴方の心は読んだもの。わかっていますよ。勇儀のため、でしょう」
「さとり、勇儀は今、何を考えているの?」
「萃香のことと、己の不甲斐なさ。……根は強いお方ですから、きっと大丈夫でしょう」
「そうかしらね……?」
燦爛たる着物を着た、人目から見ても格好良い勇儀も、内心が透けていればまた別の心情も浮かんでくる。パルスィは、この辛い時でさえ『鬼のお頭、我らが勇儀』を演じなければならない彼女に、いたく同情していた。
「……萃香ね。どうして消えたのかしら。貴方も知らないのでしょう? 貴方の心にはありませんでしたし。」
「その通りで、私も知らないのよ。勇儀、今日くらい一人で萃香を探しに行けばいいのに」
「一人で居ることが嫌なのかもしれませんね。あるいは何かの騒ぎには顔を出さないといけない、とか」
憶測で話す二人を差し置いて、勇儀は緩慢に、雅やかに一歩、二歩と岩に近づく。妖怪の輪が割ける。
「……三歩必殺?」
さとりが勇儀の心を読んだ。パルスィはさとりの口から出たその言葉に聞覚えがあった。彼女の記憶が正しければ、その後にとんでもない目に遭っていた。パルスィは、今のところ勇儀が本気であると理解した。咄嗟にパルスィは、さとりに向かって叫ぶ。
「さとり! 耳、塞いでおきなさい!」
「……それは本当? 流石に――」
「いいから!」
さとりは読み違えた。パルスィの記憶は誇張が入っていると判断してしまった。パルスィの記憶では、数日は耳が聞こえない。耳鳴りも酷い。とのことだったが、その記憶自体が随分と昔のことらしい。すると記憶も曖昧になる。所謂、昔は良かった。と同じ類いのものだと思ったのだ。しかし、剣呑としたパルスィの一言で、半信半疑のさとりも一応耳を塞ぐ。
その直後だった。岩が崩れ落ちたかと思えば、地響きが足元を走り抜け、さとりはパルスィに深く感謝することとなった。景気の良い轟音が、さとりの耳と腹にずん、と響いたのだ。耳は当然塞いであった。それでも響いたのだ。
「……勇儀、やりおるわね。妬みさえも生まれてこないわ。妬みさえも生まれさせないなんて妬ましいわね。……ん?」
「何……あれ」
さとりは予想外の轟音で目を回し、地響きでよろめきかけたが、パルスィの脇腹にぶつかって立て直し、事なきを得た。
よく目を凝らせば、眼下の鬼や妖怪共も、半分は耳を塞いで屈んでおり、半分は地に臥している。地鳴りや雷様のお怒り、それらが何になるだろうか。ぐらぐらと地底全てがどよめきたっていた。
「化け物……」
「まあ、流石は鬼の勇儀よ。どうして私なんかとつるんでいるのだか」
さとりの顔色は優れない。その一方でパルスィはどこ吹く風だ。
一方、
岩の三分の二はばらばらに砕けて、残骸がごろごろと辺り一面に転がっている。残りの三分の一は纏まったまま吹き飛んで、町の少し東側にそれた。勇儀は岩を掻き分けて進む。さとりは勇儀の焦りを感じ取った。
「萃香は見つからないようですね。岩で潰れたか、もともと北町には居なかったか。……それっぽい服すら無いみたいなので、分かりませんね」
「ここから見ても、まだ岩だらけよ。萃香がいたか分かるのは、岩を除けてからね」
「お前たち! この砕けた岩を一番運べた奴が勝ちだ! 私の家にある一番いい酒をやる!」
勇儀の一声で、気絶していない者は皆立ち上がり、各々岩の欠片を町の外へと運んでいく。勇儀は持ち上げられた岩の下を注意深く確認している。岩の大きさ、勝者を定めているように見えるので、誰からも不審がられていない。しかし実際は、萃香の手がかりを探していた。
この方策は、酒をもらえる鬼たちと、萃香を探す勇儀、どちらにも利があるものだった。おまけに本心がばれることもない。
「勇儀、相変わらず声も大きいわね。ここまで届いたわ」
「……まあ妙案。お燐に教えて、猫たちを動かすときにやってもらいましょうか? いえ、家では必要ないものですね」
「どうして? 餌を与えたほうが楽ではないのかしら」
パルスィは、もので人を動かすことが、勇儀の考えた妙案だと勘違いしていた。さとりは心を読めるので、勇儀の巧い点を正確に理解できている。勇儀の妙案とは、『目的を隠して人を動かす』方法だった。
「パルスィさん。少し勇儀の趣旨と違った想像をしていますよ。まあそちらで考えても結局同じですけど。貴方が想像した方は、お燐に絶対にするなと言われていましてね。確かに餌をあげると猫は動く。でも一度すると、猫を餌なしでは動かせなくなる。……とからしいですよ? とはいえ、これは建前。建前を誰の前で言っているのだか。本音は、餌を独り占めしたい。……お燐らしい考えね」
もう一つ挙げるとするならば、猫の群れはそもそも、そこまでしなくてもお燐の言うことを聞く。生きるための餌はさとりが与えるので、飯にありつけないことはない。仕事に対する報酬など必要無かった。
岩の欠片で一番大きい――つまるところ、東側にそれた、三分の一。これが最後に残りそうであった。まだまだ岩の欠片は散らばり、会場は熱を帯びている。だが、パルスィは満足し、この祭りへの興味を失っていた。今日の見所は勇儀の一撃。ここがどう考えても山場であった。山場を見たのなら、さとりをここに置いておく意味はない。危険すぎるのだ。
「まあ、萃香が潰されている訳も無かったわね。どこにいるのやら。勇儀のためにも早く見つかってほしいわ。さとり、そろそろ――」
「……こいし? あれ、こいしよ。こいしに違いない。ほら貴方もあれ、見て」
「まさか。…………どれ?」
「そこじゃなくて、今思っている所より左、そう。そこ。勇儀の後ろ」
「……本当だ。こいし、居たのね。よく見つけられたわね」
さとりの指差す先には、本当にこいしがいた。
居ない。それらしい物もない。萃香は潰されていないのか。だったらどこに行ったんだ。岩の下にも居ない。萃香だったものもない。
……本音を語ると、見つからなくて良かった。だが、もし、もう死んでいるのなら、せめて何か見つかっておくれ。見つかってほしくないが、見つかってほしい。私はどうすれば良い? 私の気持ちは募るばかりだ。私はもう、あんたを探す当てが無い……。
「そこのお姉さん? ……勇儀よね」
「誰だい? ……地霊殿の妹の方か。あんたも岩を砕きに来たのかい?」
そういえば地霊殿がこの話を持ってきていたのだったね。さとりが来れるわけ無いから、こいしが来たのか。すっかり忘れていたよ。こいしちゃんも、岩を砕きたかったのかもしれないね。
「悪いな、私があらかた割っちまって。……皆に示しをつけるってのもあるからね」
嘘をつけない私でも、この言い回しはできる。萃香が好んだものだ。……私は好きじゃない。
「他には……? それ、萃香のよく使っていた話し方よね。それだけだと、隠したいことがあるって、すぐに気づかれるよ? 私にはそれが何かは分からないけど」
……あれだけで勘づかれたのか? こいしもまた、さとりと同じく心が読めたのだろうか。さとりの話なら、心を読めないはずなのに。もしや、さとりに騙されたか?
「あー……。そう思うか?」
「まあ、いいや。貴方は悪い鬼でも無さそうだし、これ以上は止めてあげる」
……地霊殿は鬼門だ。さとりの能力そのものは、好きじゃない。他の鬼もそうだろう。それでも、さとりは悪い奴じゃない。そして、地底を全て管理するのは、さとりにしかできない。鬼と地霊殿の仲は、それだけで成り立っている。別に私は今のままで良いと思う。私は鬼を纏めるくらいはいい。でも、地底の頭なんてごめんだ。
……そういえば、さとり妖怪も、岩を砕けるのかね?さとりが岩を砕く所など想像もつかないが。
「砕いていい?」
「もちろんさ。岩、少し小さいかな?」
「私にはこれでも大きいくらい。……やってみようかな」
「やれるのか?」
「叩いたら手が腫れちゃうから、遠くからだね」
それもそうか。……パルスィと同じだろうね。パルスィが拳で戦っている所は見たことがない。……橋町と北町は近いから、来ると思ったんだけどな。とても残念だよ。
「少しどいてー? 地霊殿の意地! 見せてやる!」
威勢が良い妖怪は大好きだ。お手並み拝見といこうか。――なかなかの妖力。弾の密度も高いのだろう。上質なものだ。……分かっていたが、そんじょそこらの鬼よりは強いね。それならさとりも同じくらい強いのかもしれないね。どうにかして一度戦ってみたいものだよ。
……なんだ? あの土蜘蛛。様子がおかしい。勘が正しいなら――
「こいし! 後ろだ!」
「……ほえ?」
煮えたぎった憎悪の目をした、名も知らぬ土蜘蛛がこいしの後ろに迫っていた。
「……!こいし!」
「わっ! さとり――」
猶予は無い。
勇儀との間だと間に合わない。こいしを私と同じ目になんか遭わせない。
(――地霊殿の奴らは敵、殺――)
こんなときに、目をそらさないで。 私以外の、たった一人の、さとり妖怪があの子なのに! 守れなかったら私の生きる価値は無い。
あいつの心がいくら汚くても、記憶を読んで心を壊してやる。
(――吊るして殺す? 地霊殿の奴らは地底に不要な奴――土蜘蛛の毒も――)
気持ち悪い
(――地底に昔からいる我らが権勢を――妖怪が人を殺せなくなるのは、地霊殿のせいであり――)
何、この烏もどきは!
(――土蜘蛛って、水も汚すし、何で生きているの?)
……あはは、見つけた。この鼻つまみ者。嫌われてる。可哀想に。……思い出させてあげる。
「うっ」
気持ち悪い、反吐が出る。あんな妖怪が地底にいるなんて……吐く。吐いてしまう。……どうでもいい。
あいつはどうなった?
こいしを傷つけようとしたあいつは!……勝った。勝った! よろめきやがった!
「今、何があったの……?」
(こいしは……何があったの? さっきまで――)
何だ、パルスィさんは今気付いたのですか。私を守るには少し注意が足りませんね。
「ふ、ふふ、流石はこいしね……」
「……さとり?」
(さとりの顔、血色が――)
「襲われようが勝ってしまうんですもの」
「……さとり! どうしたの!? 貴方――」
「うふ、ふふふ……どうだ! 記憶に眠る化け物の味は! この地底の鼻つまみ者め!」
(怖いわ……さとり? どうした……の?)
「貴方、顔色が良くないわ……よ。……一度帰ろう?」
ああ、箍が外れている自覚はある。あいつはそれだけのことをしたのだ。早くこいしの姿をよく見たい。あの子の勇姿を!
「待ってくださいよ。今すぐこいしの姿を――」
「こいしは生きているから、……先に貴方……よ? それに、あの人だかりの中、入れるわけないわ。ちょっと待って、貴方、顔色が――」
「そうですか? あ……あれ?」
目眩かし……ら――――――――
「後ろから女の子を襲うなんて……貴方、もしかして悪い妖怪さん?」
……今、私の知らない力が働いたことだけは分かった。何故あの土蜘蛛はよろめいた? 目の前の土蜘蛛は左足を除いて、全てを失っている。両腕も、右足も。
こいしの方も気になる。妖力を込めて弾を作っていた筈だ。弾は一つしか無かった。こいしが殺されかけたあの時、時はゆっくりと進んだ気がした。何か危機が差し迫った時、時が遅くなる。これは良くあることだ。その時には、弾は三つあった。そして、全て当たった。
「こいしよ……何か怪我はないかい?」
「何も?」
「ならいいんだ。なら……」
彼女は天性の才能の持ち主か。瞬く間に無力化した。狙いを定めて打つとしても、弾を当てることは難しい。だが、こいしは、一撃すら外すことはなかった。
「死ね! 死んでしまえ!」
一方でこの土蜘蛛だ。若い。そして、私と面識はないだろう。
私はこの目をした者を知っている。それは、私達を殺すために、いかなる汚い手をも使った人間共だ。
「うるさいよ。口ゆすいだ? それに、私、殺されるようなことをした覚えはないけど?」
「お前らさとり妖怪は生きているだけで罪だ。地底の妖怪はさとり妖怪が大嫌いだ! 心を読んで妖怪を誑かす。我らが不幸なのはそのせいだ! それに、お前らは妖怪の賢者とつるんで、我らを餓死させる気だろう!」
その満たされた腹で何を言っているのだろうか。
妖怪の賢者と地霊殿に関係があるのは確からしいが、むしろさとりは紫を面倒くさがっていたような気がする。この土蜘蛛が言う話は、突飛もないものだ。
取り敢えず、この妖怪はうちで預かって、罪を見定めようか。
「こいしよ、そいつとは付き合ってられないだろう。代わろうか」
「どうしようかな。なんだかまだ掴めないのだよね」
……こいしもこいしで、何を考えているのか分からないな。気分の良いものでもないだろうに。
「怒れる我らは――」
「あ、黙って! ……怒れるってどのくらい? どんなの?」
どうだろう、やっぱり掴めないのはこいしの方だね。……感情が全くと言って良いほどわからない。怒れるをそこまで気にすることも無いだろうに、どうしてそこが気になったのだろうか。
「へ、へへ。お前らをぼろ雑巾になるまで嬲って、終いに遅効性の毒でもがき苦しませる。地霊殿だって燃やす。あの動物共も焼け死ぬんだ」
これは、看過できないな。牢にぶち込むにしかるべき言葉だ。古明地も災難なものよ。しかも、地霊殿憎さに、火災の怖さも忘れている。燃え広がったら、誰が火を抑えると思っているのだろうか。つい最近、大火が起こったばかりだ。西町で誰かが火の後始末に失敗したのだろうか。取り敢えず、放火は許せるものではない。死罪に値する。
「何を言うかこの下郎。さとり妖怪に何を思おうが、私は知らない。でも、無辜の妖怪を殺すことは、許されないことだよ」
「無辜じゃないんだ。奴らさとり妖怪は 殺されても仕方がないだろう」
理由は、どうせ突拍子もないことだろうな。仁にも悖る……地底の妖怪の風上にも置けない。こいしが心を読めなくて本当に良かったよ。この者の心を見せられる筈がない。私だって見たくない。
「それが、怒りね?人を焼きつくしたい感じ……。そっか、そうかあ……」
……? 悪寒が――
「私、怒っていたんだね。お燐に悪いことしたかも」
「……っ! 待てこいし!」
――ベチャッ!
……殺した。こいしが殺した。こいつは悪い奴だったが、今殺さねばならなかったたのか?
「なあ、殺したら……こいつの郎党の住む在処が分からないじゃないか……」
「あ、ごめんね勇儀。でも、私は怒っていたの。仕方ないよね」
……化け物だ。妖怪を殺しても、何も思っていない顔だ。無駄な殺生はいけない――私も鬼だ。こんな綺麗事を言うつもりはない。だけど、こいしは殺生は忌み嫌われるものと知っているのか?
「怒っていても、すぐに妖怪を殺してはならないんだ。……次は気を付けてほしいね」
「うん、一応考えておくわ」
……地底は回らなくなった。私の力が及ばなかったからだろうか? 私が……さとりに任せっきりにしなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。もしかして……私は、萃香に愛想をつかれたのか? 萃香よ。教えてくれ。私はどうすれば良いんだ?
さとりよ、あんたの妹、さとりが居なくなってから……昔もだったのだろうか。……少しおかしいんだ。……地底もだよ。早く、目覚めておくれよ。
「あーあ。お姉ちゃんが羨ましいなあ。愛と幸せって、地底には無いのかな? お姉ちゃんって、なんでさとり妖怪なのに幸せなんだろう。私にかかるのは、こんなのばかり。逃げてしまおうかな。……決めた」
「……言うほど、さとりは幸せかい?」
「少なくとも、私と違――幸せ――――
……消えた? どこに行ったんだ?