この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

61 / 67
弾幕好きは馬鹿ばかり?

 

 私の鼻先に突き出されたのは、勇儀の拳。……何が起こったのか。勇儀は私を殴ろうとした。ヤマメは動かない。いや、予想外のことが起こったから、動けなかったのか。私だって、呆然としている。私を失神までせしめんとした風圧で、今もなお、私の髪は揺れているのだから。

 

「駄目だ。パルスィ。何かいけない気がした」

 

 ……ここまでのいきさつを、どう説明したら良いのかしら。さとりが家に帰り、三人で橋町と縦穴の境でスペルカードを見せ合うため、私の家で勇儀、ヤマメと一緒にスペルカードを作っていた最中のことだったわ。

 勇儀のスペルカード『勇儀パンチ』をなんとか没にさせて、もっと華やかなものにさせたり、勇儀の『勇儀キック』も没にした……。華やかさも競うというのに、勇儀は華やかさの欠片もないスペルカードを濫発しようとして……。勇儀は美しさに気を使わなくても美しいってことでしょう。本当に妬ましい。

 一つ付け加えておくと、これは勇儀が無粋ということでは全くない。勇儀はよく、私に洒落た贈り物をくれる。勇儀はありのままの美しさを、無意識に周りに振る舞っているだけ。正直、妖怪の目が勇儀にいっているのを見ると、妬ましくてしかたがない。かといって、見られたいわけでもないのだけれど。

 私のスペルカードについて三人で悩んだのは、その後だった。というのも、私、別に頭も回らないし、知識も少ない。そもそも、嫉妬の表現自体が難しくて仕方がないもの。

 ……さとりに感謝でしかないわ。私がスペルカードを作れたのは、あのさとりがこっちに寄越したおとぎ話の数々が、なんとか私のスペルカードを完成にまでこぎ着けたのだから。

 私ったら、お伽噺の妖怪にでもなるつもりなのかしら? こいしによれば、「人の心を読めても読めない『こころ』があるのです!」……らしいから、もしかしたらそうなのかもしれない。いえおそらく私はそんなのにはならないだろうけれども。

 ……忘れられない、スペルカードの三枚目を作ろうとしていた時だった。家で一休みしつつ、ただただ駄弁っていたそのとき、ふと私の頭に分身という単語が躍り上がってきた。

 

「分身って、どう思う」

 

「あれ、パルスィは分身できるの?」

 

「いや……」

 

 ただ、その時はふとした思い付きだった。何かが起こると、もしかしたら私の心は知っていたのかもしれない。

 

 そして、私は分身をしようとした。妖怪なんてそんなものだ。馬鹿しかいない。

 そして、それを本気で止めようとした勇儀も馬鹿で、その熱意に押された馬鹿は私だった。だって、そのときの勇儀は怖かったから。決して風圧に負けたわけではないわ。本当よ?

 ……だから、分身は諦めざるを得なかった。家の掃除を頼もうと思っていたのに。なんだか分身を作ったら、いろいろ楽そうじゃないかしら?

 

 

 

 

 ――ほどなくして、三人のスペルカードは完成した。作ってみたのなら、共に作った仲間とはいえ、そいつらに見せびらかすしかないだろう。私達は弾幕ごっこで遊んでみることにした。家から橋の方へ出て、三人で談笑しながら町を歩けば、それは注目を集めることとなる。当然でしょう。ヤバいやつ()ヤバいやつ(土蜘蛛)、あとヤバいやつ()が集まっているのだから。

 

 最初は、勇儀とヤマメで戦うことになった。いつのまにか、野次馬に囲まれている。しかも、見知った顔がいくつもある。どこから嗅ぎ付けたのか、などという愚かな問いはしない。野次馬というのは蝿のごとく集まってくるものよ。

 どうやら、弾幕ごっこは、新しい喧嘩様式として一部の界隈でのみ広まっているらしい。橋町では比較的広まった方で、理由としては、そこそこ強い妖怪がここに集まっているからだと思われる。強い妖怪は、弾幕をいくらか出したところで、妖力が枯渇しない。本当に弱い妖怪は、妖力の細さから、弾幕など出せない。貧弱な己の肉体を頼る他ない。

 

 目に毒な深草色と藍色の弾幕が、二つの中心点から解れるように解き放たれ、その点も絶えず動いている光景はさながら茨がその支配領域を増やすが様になっている。ぼんくら共も、口をあんぐりと開けてその様子を眺めている。私もそのうちの一人といっても過言ではないかしら。

 

 私は弾幕の美しさには興味があるものの、別段それで戦いたいとは思わなかった。

 ――……結局の所、私は『私』のために戦わなければならないらしい。弾幕は美しさのぶつかり合いでもある。もしそれが、無謀な戦だとしても……。負けるのは悔しい。敗者には、誰も振り向いてくれない。私の恋は、それで終わったのだから。穢れた私は何にもなれなかったが、せめて、『私』の美しさを誰かに妬んでほしい。

 私は、その弾幕の美しさに目を焼かれていた。傍観者として、それをずっと眺めていたかった。

 『美しさ』――それは、私に足りなかったものなのだろうか。目の前の鬼と土蜘蛛は、自身の強さをありったけに表現し、きらびやかな光の羽衣を纏って舞っている。『美しい』。なんと妬ましいことか。なんと羨ましいことか。せめて、『美しさ』だけは、二人と同じくらいあってほしいものだ。そうでなければ私は、なぜ――いや、そうか。そうだろうな。

 ……だから、気付かないのは当たり前。

 

 

 

「パルスィ!!!」

 

 ――あれ? 弾がこっちに飛んできてないか……ッ!――

 

 耳からは破裂音、妖怪の悲鳴、静寂。

 

 私の隣で勇儀からと思われる弾が弾けた。おかしいわね。弾の行方には気を付けていたはずなのだけれど。どうやら幸運にも、私に直撃はしなかった。どうやら不幸にも、後ろの砂利道に弾が直撃した。その結果、私は石つぶてに背中を叩かれた。

 

「お怪我は!」「大丈夫ですか!」「大変だ!」

 

「……別に。貴方達は当たらなかった幸運を噛み締めてなさいよ」

 

 痛い。……痛いには痛いのだけれど……。今の私はおかしいくらいに冷静だ。

 

 二人が弾幕ごっこをやめ、こちらに向かってくる。ごっこ遊びでしょう? 大怪我も何もないでしょうに。ましてや私はただの観客。どれ、少し私の被害確認でもしてみましょうか。

 まず、右のふくらはぎからは出血ね。右大臀部に石が当たってかなり痛い。腕組みをしていた右肘に同じく石が当たって……うーん、動かしにくいわ。耳鳴りが酷いけれど、これは直に解決するはず。

 まあまあの怪我かしら。ただの遊びのくせに、怪我が思ったより大きい。しかしながら、確かに足は血みどろに見えなくもないが、見掛け倒しの案山子みたいなもの。私がはじめ予想していた怪我よりは大きいけれど、二人が思う怪我よりは小さい。

 

「ああ、ひどい怪我だ。パルスィ、どうか私の知ってる一番いい医者に見てもらってくれ……。私が背負っていこう」

 

 勇儀の心配性も考えものね。名医もこんなしょうもない怪我など看ている暇などないだろうに。第一、大きな弾が近くを通ったからといって、当たっているわけではないし、この程度の怪我では医者にかかるものでもない。人ならばこのあと『原因不明の熱病』にでもかかって死ぬかもしれないけれども、幸運なことに私は妖怪だ。病とはご無沙汰している。

 

「止血すればすむ話よ。それに、足も痛いだけだわ」

 

 せめて、地霊殿の面子には気付かれないようにしようか。面倒なことになりそうだ。お姉さんの死期はいつだい? とか聞かれてもどうしようもない。こいしの方も死体を欲しがっていた。

 

「駄目だよパルスィ、そんなことはないって……。ほら」

 

 勇儀が私を背負っていくと言っていたのはいいのだが、手招きしてくれる勇儀の体勢を見る限り、お姫様だっこをするつもりだろう。おそらく彼女には下心がある。といっても、いやらしい目的ではなく、純粋に私の筋肉のつきが気になるらしい。触りかたがあまり気持ちの良いものでは無かったので、勇儀とはいえ遠慮してもらっている。

 

「そこまで気にしてくれるのは嬉しいわ。でもね勇儀――」

 

「待った。やみくもに血を流せば病にかかる。悪いけど、私は熱病を支配しているわけではないのよ。他人の病を防ぐなんて無理なんだよねぇ……。下手すれば本当に病にかかってしまう。縦穴には藪しかいないから、本当の専門家に見てもらうことをおすすめするよ。橋にはまともな医者がいるだろう? 勇儀の所とまでは言わないから」

 

 前言撤回。ヤマメが言うあたり、本当のことだろう。怪我はいいけれど、病は死んでしまう。ええ、死んでしまう。昔はひどく死を恐れていた時期もあったけれど。それはもう、千数百年以上も前の話だ。

 ただ、死にたいわけではない。どうせなら生きていたいし、勇儀達を悲しませる訳にもいかないだろう。

 

 

 

 ……それならば、一番近い医者でいいか。あの子も、腕はあるはずだし。ここから近いのですぐにつく。勇儀に触られることもない。

 

「なら、あそこの診療所にしましょうか。近いし」

 

「橋の近くのあれかな? あー……いいんじゃない?」

 

 ……もう百年以上も前のことだったかしら。橋近くに黒髪の少女が住み始めたのは。まあ私も、そのことは橋の架かった水無川に、再び水が流れた時まで知らなかったのだけれど。その少女は、医者となった。私は、あの子とけっこう懇意にしていたと思っている。相手がどう思っているかはさておき。まさかあの子がちゃんと成長して、立派な医者になったのには驚いた。あれだけ無知でも、知識を蓄えたら立派になるものなのね。……本当に妬ましいことよ。

 

 医者がいることは、ヤマメも知っていたらしい。縦穴には藪しかいないと本人が言っていたことから、良い医者についてむしろ詳しいのではないかとまで思えてしまう。医者を知っているということは、土蜘蛛も病気になることがあるのかしら。……いや、土蜘蛛は相手を病気にさせてしまうから、医者を知っているのかしら。その時には、一番良い医者にかからせたい、というのは、全くもっておかしくない。

 

 ヤマメと渋っている勇儀をつれて、その少女が住むあばら家――それも昔の話。今では立派な家にたどり着いた。ここはご長寿な妖怪が多い。中には私と同年代に見える者もいるけれど……。妖怪が年を取る速さと、時間としての一年は違うものなのかもしれない。何はともあれ、そこそこ儲かっているはずよ。

 

「その、ついてくるのをやめなさい」

 

「お怪我が気になりまして……」

 

 他人の怪我など気にする輩は少ないと思っていたのだけれど、どうも違うみたいだ。頼んでもいないのに、かなりの数の妖怪がついてくる。

 

「何? 私の体でも見たいわけ?」

 

「へへぇっ、それは……」

 

 追い払いたい一心で、我ながら随分と酷な質問を投げ掛けてしまった気がする。見たいです! とは言えないだろうし、素直に、見たくないです! と言う者もいないだろう。私だって一応、偉い立場にいるのだから、私の裸を見たくない、と言うことは、目上の者に女としての魅力がない、と言っているのと何ら変わりはない。この質問、好色者しか上手く返せないような……。

 

「ああ、私は――」

「勇儀は黙ってなさい」

 

 このときの勇儀の言葉は遮るに限る。彼女のどや顔からも、良い言い回しでも見つけたのでしょう。少し聞いてみたくはあるけれど、どうせ気障ったらしい言葉を並べ立ててくるに違いない。耳障りがよく、全ての人の心を盗んでいくような、甘い言葉だ。その言葉で多くの仲間を落としてきたのだろう。

 勇儀にとって、私とは友達の内の一人だけれど、私にとって掛け替えのないものだ。妬ましい。

 

「そんな……」

 

 勇儀はがっくりと項垂れた。勇儀と子供は何か違うのか、少し聞いてみたいところではあるわね。

 

「外で待っててほしいわ」

 

 硝子張りの引き戸を開け、中を覗けば、そこには……名前は持っていないらしいけれど……黒髪の美しい医者がいる。そろそろ名前を新しく作り、名乗っても良い頃だろうに。

 ……少し彼女のことで憂慮していることがある。これ以上「橋町の名医」として名声を上げていってしまうと、名声に引っ張られ、地縛霊のように、その場所以外からあまり動けなくなってしまうのではないか、とも思う。かつて私は『橋姫』として、橋を住みかとし、橋に縛られてきたように。皮肉なことに、私は退治されることによって橋から離れられたのよ。結局、私は『地底の橋姫』として、橋に縛られてしまったのだけれども。……自業自得かしら。

 

「おや、パルスィさん!」

 

 こちらを見るや医者とは思えない素早さで腰を浮かせて玄関まで出迎えに来てくれた。これならば仲良くなったと言えるはず。

 前の「水橋殿」はむず痒いので止めてもらった。私の名前を呼び捨てするのは何がなんでもできないらしい。そこまでのことをやった覚えはないのだけれど……。

 

「変わりなさそうね」

 

「おかげさまで……怪我してるじゃないですか! ……それもそうですよね、何もなきゃここには来ませんよね」

 

「あら、話したいことがあるならいつでも行くわよ?」

 

 この子は医者だけあって、酒で悪酔いしようとしないのがとてもよろしい。私だって身分差を用いた強要や、酒の力で無理矢理何かをやらせたくないから、あまり飲みすぎたくない。だから、これくらいが丁度良い。

 ……そういえば、私と酒を飲む量が釣り合っているのは、わりとおとなしめな妖怪が多い。この子は最近、性格が変わりつつあるけれど。……さとりはもう少し飲めるか。「明日の仕事に響きます」とだけあって、酔いつぶれるまで飲みはしないらしいけれど。あれ、変ね、私が彼女とサシで飲むとき、いつもその事を言っていたわ……。例えそれがどの曜日だろうが。んん? さとりの休みの日はいつなのかしら?

 

「ええ、ええ!」

 

 この子の大きな声で現実に引き戻された。いつの間にか私たちは、廊下を渡りおえていたらしい。私は座布団に座り、相手は引き出しが多数ある棚の前に座った。

 相も変わらずにこにこしている彼女を、私は少し妬ましく思いつつも、ちょっとだけ癒される。

 

「是非お越しになってください! あ、それどころじゃない! これ、誰にやられたんですか?」

 

「自業自得みたいなものよ。不注意だわ」

 

「ならば相手は当たり屋ですか? それなら自業自得ではありませんよ」

 

「違うわ」

 

「ならなぜ。鬼が酒の場で殴ってきたとか」

 

 ……しっかり説明しよう。どうも誤解されている気がする。私はそこまで不幸体質に見えるのだろうか? 今回は自分の過ちだし、そうでないとしても、責任を負うべき者は居ない。

 

――

――――

 

「はぁぁ、なるほど! よくよく相手を狙わなかった鬼の四天王様が、ただ見ていただけのパルスィさんに危害を加えたと! あろうことかそのことを出汁にして、パルスィさんの体をまさぐろうとしたと!」

 

 説明をしながらも、手当ては進む。……多分理解してもらったということで良いのだろうけれど、それでは誤解しか生まれない。

 手当てと言っても、心の手当てではなく体の手当てだ。彼女は口だけを動かしている訳ではなく、止血と包帯の固定や、薬を塗ってくれている。こう、手際が良いのもまた末恐ろしい。精々百年くらいしかこの道を歩んでいないだろうに。

 こいつもまた、才能もちだ。妬ましい。

「まあまあ、落ち着きなさい。手元が狂うわよ」

 

 彼女の手先が器用なのは知っているので、別に彼女の手元が狂うことは心配していない。どちらかというと、勇儀とヤマメへの悪口を止めることが優先だ。

 

「そうですね……。じゃあ、恋愛の話をしましょう!」

 

 なぜそうなるのか、私には一切理解できなかったけれど、まあ悪くはない。とはいえ、恋愛には、苦い思い出がたっぷりある。あまり若人の参考にはならないかもしれないわね。してほしくもないし。

 

「おませなお医者さんにも、好きな方ができたのかしら?」

 

「ちょっと、やめてくださいよ! ……うーん、結局、雲の上の方なんですよね。すたあ? を好きになったことと近いような。……そうだ別に関係ないんですけど、南の頭は優しいと聞きます。パルスィさんはどう思っていますか?」

 

 ははーんさては……。と言いたいところだけど、心を読めるわけではないので訳知り顔はやめておこうか。

 南町の坊主。大柄な鬼で、確か私より若かったような。妬ましいことに、彼が気遣いをできることは確か。さらには、顔つきも良かった……かしら。家を安く建ててくれようとしたこと以外は、あまり記憶に残っていない。ええ、いくら彼女が良い医者とはいえ、お頭はやっぱり雲の上だ。

 

「悪いやつじゃないわ。ただし、身分差がある結婚はお勧めしないわよ」

 

 私は他人に、身分差のある結婚を絶対に勧めないつもりだ。絶対に。……貴船神社も頷いてくれることだろうよ。

 

「いやその人とは関係ないですよ。でも、そっか、そうですよね……。やっぱり同じような身分で結婚するのが一番ですよね。意中の方も未婚らしいし、なかなか良いなと思ったんですけど……」

 

 どれだけ夢見がちなのだろうかこの子は。この子は将来、良いお相手を見つけられるのだろうか。行き遅れも悪いことではないとはいえ、地底ではやはり、結婚した方が楽みたいだから、結婚したほうがよいのだろう。……私? 私はもういいのよ。

 ……まあでも、あの坊主にこの女は勿体ないわ。あいつ、男妾を買っているなんて噂もあるし。女を買った話は聞かないわね……。でも、私の感情的にも、こんなに良い娘とくっつかせる気にはなれないわ。

 

「駄目よ。あいつ、男にも手を出すらしいわ。仮に結婚したとして、本当に愛されるかしらね」

 

「ええー? それ、本当ですかぁ? いやその別にそんなんで妖怪を判断なんかしませんけどね?」

 

「風の噂よ」

 

 

 

 ――残念な色恋話をしているうちに、私の怪我の処置は終わったらしい。途中から、外がやたらと騒がしくなっていたから、彼女の気が散らないか心配していたけれど、杞憂だった。平然と……

 

「なんだ外の連中は、診療所の前で騒ぎすぎじゃいですか」

 

 ……怒っている。前言撤回だ。彼女は思ったより怒っている。かわいそうに。

 しかしながら、鬼に礼儀作法を強要させることと、来年度の予定を聞くことのどちらがしょうもないか悩むくらいには、鬼は礼儀がなってない。上達部を除き、期待するだけ無駄だと思う。

 

「まあまあ。鬼なんてそんなものだし。乗り込んで来なかっただけましではないかしら」

 

「やりかねないですね」

 

 苛立ちが見えかくれする彼女のあとをついていき、また玄関から外に出た。

そこで私は理解した。がやがやとうるさかったのは診療所の前でパーティーをしていたからで、乗り込んでこなかったのは、ただ目の前の飯に釘付けだっただけだからだと。

 

「お帰り! 大丈夫かい!?」

 

 勇儀が語りかけてきても、私の戸惑いはどうにもならない。

 

「ええ……で、これは……」

 

「謝罪パーティーだよ。勇儀が頑張ったんだ」

 

 そう語るヤマメはムシャムシャと何かの肉を食べている。よく目を凝らせば、うちの町の暇人共も多々見受けられた。パーティーと言うにふさわしく、橋町に店を構える出前料理屋の十八番がずらりと並んでいる。手際が良さ過ぎないかと思うけれど、よく見たら、中心街にしか売っていないものまであるではないか。特にこの肉まん。どうにかして橋町にも出店していただこうと努力しているこれをしゃあしゃあとこの場に出してきやがったわ。妬ましいことこの上ない。

 

「どうも勇儀はパルスィをだしに――」

「違うよヤマメ。正真正銘、パルスィのためだよ」

 

「わー! ごめんって。主役が無事に帰ってきたことだし、これに免じて許してよ」

 

 まさか、私のためにこんなことを準備してくれていたなんて。貴重な食材をふんだんに使っていて、私には勿体ないくらいの豪華な宴会だわ。お酒も格別な……なのかしら。お酒は分からないわ。

 

「ささ、ここへ」

 

 真ん中に私の席がある。……でも待った。鼻を擦りながら好意的に私を迎えてくれる勇儀は本当に良い奴なのだろう。ただ私の不注意で怪我をしたのに、とても気にしてくれて、しかも補償も忘れない。そもそも、補償する必要もないのに。

 

 

 

 ……いや、まず最初に言うことがある。これだけ私のためになにかを用意してくれて、とても気恥ずかしいけれど、これだけは言わないといけない。

 

 顔に出ていないといいけれど。

 

 

 そう、まずは

「人様に迷惑をかけるな馬鹿勇儀」

 

 こいつら、正真正銘のバカでしょう。

 

 







やっとこさ結果が返ってきました。国立前期、勝ち申した。大学生になれるぞ。

二次創作はほどほどに頑張る。学業優先ですしね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。