この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

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強くて、優しい、優しすぎる鬼

 目の前には鬼の一撃を喰らって倒れたお燐と、未だに目が覚めないパルスィ。お酒を呑んだ挙げ句、お燐を殴って満足したのか寝ている萃香。普段大人しい――萃香は除くのに、どうして今日はこう心配をかけさせるのかと勇儀は思い耽っていた。ぐるぐると回る彼女の回想は、宴会まで遡る。

 

 ……はぁ、宴会までとても楽しかったのに、どうしてこうなったんだか。

 

*星熊勇儀視点

鬼達といつも仲良く、たまに争いながら酒を呑んでいた勇儀は、今日も宴会を開こうと萃香に話しかけた。

 

「なぁ」

 

「宴会だね?」

 

「よく分かったね」

 

「こんだけ長く一緒にいたんだ、心くらい読めて当たり前だよ」

 

「相変わらず、さとり要らずだねぇ」

 

「同じ会話を昨日もしたしね」

「でもさとりがいないと旧地獄は回らないさ」

 

「知ってるよ、そのくらい。さとりが来て本当に変わったよ。ここは。さあて、酒は持ってこよう。あんたも持って来な」

 

「分かった、今日も皆を萃めるか!」

 

「よし!頼んだ! あ、やり過ぎるなよ。この前も小言を言われたばっかりなんだ。」

 

「善処するよー……へっへ」

 

「本気の方だ。……集めたらさとりが怖いぞ」

 

 二人は少し前に地底の妖怪ほとんどを萃めて大宴会を開こうと画策しようとした。だが、通りかかったさとりに全力で止められたのだった。あれほど鬼気迫ったさとりを見た二人は()()、取り止めざるを得なかった。……ちょっと泣いていた気もする。

 

 その後、普通にそれなりの数が集まったと判断した二人の幹事は、宴会を開いた。宴会を始めて少したった時、遠くで、ズドンと何か音がした。当然ざわめく宴会場。勇儀がさて、どうしようかと考えていたら、萃香が話しかけてきた。

 

「何かあったね」

 

「見に行くべきだろう、喧嘩かね」

うーん? あっちは入り口側……。ヤマメ、パルスィ辺りは大丈夫だろうか。

 

「喧嘩ぁ? 喧嘩を起こすような強い奴があっちにいるかぁー?」

 

「ヤマメとパルスィは強いよ。喧嘩は起こさないけどな」

 

「お、鬼に認められた。嬉しいね」

 

「おう、楽しんでるか?」

 ヤマメはここに居たか、良かった。あとはパルスィだけど……。見当たらないね。

 

「ヤマメももっと呑めー?」

 

「ははは、ありがたく頂戴するよ。おやおや、その盃も空じゃないか。注いであげるよ」

 

……音がしたくらいじゃ心配もしないんだねぇ。強いと言うか…なんと言うか。

 

「……パルスィとかあっちの妖怪に何かあったかも知れない。私は見に行くよ」

 

「そんなこと言わずに、姉御、このお酒でも。萃香の姉御も。……俺達が見に行きましょうか?」

「まあまあ勇儀、落ち着きなよ。そこのあんたらもだよ。入り口の方だけど、あそこら辺は岩肌がぼろぼろになっているんだ。多分小さな崩落だよ。あとで見に行けば問題ないね」

 

「あそこら辺に住んでるから分かるけど、今行って帰ってきたらお酒が無くなってるよ。崩落がもっと縦穴近くなら、大分遠いしねぇ」

 

 帰ってきたらお酒が無くなっているのも嫌だね。そうしようか。心配ではあるけど。

 

「勇儀なら知ってるはずさ、パルスィは呼ばなきゃ家から出ないってね」

 

 ……確かにそうだね。呼べばなんだかんだ来てくれるけど、ほとんどパルスィは家か橋に居たね。それに、あっちの方でも誰かが倒れていたら、助けるだけの人情を持った奴はいるさ。

 

 勇儀は今は一応それで納得した。あとで自分で見に行こうとは考えていたが。隣では萃香が皆に向かって叫びかけている。

 

「安心しな! お前達! 大した問題じゃないよ! 宴会を続けようじゃないか!」

 

鶴の一声とでも言うべきか。いつもの騒がしさを取り戻した飲んべえ達は、飲めや歌えの混沌とした異界を作りあげていく。

 

「はん、ここらの妖怪は何かが崩れた程度じゃ動じないのさ」

 

 ……大分ざわついてたと思うんだけどねぇ。

「まあ、見えないことを気にしても仕方がない。千里眼でも持った奴がいれば良かったんだがね」

 

「千里眼か、懐かしい。私にだって出来るよー? んんっ! ここにあるお酒は一滴残らず飲み干されるでしょう」

 

「ははは、千里眼とは関係ないじゃないか。胡散臭い占い師め! 酒でも呑んでろ!」

 

「あ、貰うよ。って、いやいや、無くならない訳がない。千里先まで見通すあの白狼天狗! 天狗に出来ることが我ら鬼に出来ない筈が――」

 

ボン!

 

……ボゴゴゴゴゴン!

 

 先程より大きな爆発が立て続けに二回起こった。自然には起こり得ない打撃を何かに与えた音だった。

「萃香、崩落じゃないぞ。喧嘩だ」

 

「……て強いね。興味が出てきた」

 

…喧嘩した奴も気になる。あそこら辺の妖怪なら消し飛んでしまう威力かも知れない。巻き込まれた奴もいそうだ。そうなると、パルスィとかも気になるね。

 

「萃香、悪いけど霧になって現場を見てきてくれ」

 

「言われなくてもー」

 

「あとで教えてくれよ! ……悪いけどお前達! 私達は音がした理由を調べに行くから抜けるよ! そこのお酒は好きに持ってってくれ!」

 

 爆発と、強い二体の鬼が去ったことで熱が下がったかのように見えた宴会場も、勇儀が見えなくなるまでには酒を燃料に妖怪を飲み込む巨大な炉となり、感情の渦を生み出していた。

 

 のろのろと歩いている訳では無かったが何にせよ時間がかかる。今の勇儀には長い道のりを歩いていき、知り合いの家を訪ねて回っていった。知り合いは、宴会に来ていたか、家に居たので、安否は大体確認出来た。

 

 ……さて、残るはパルスィだけだね。ほとんど家か橋に居るから安心していいのだろうけど。よし、着いた。

 

「居るかい? パルスィ。居たら開けておくれ」

 

 きっとのろのろと出てきて、

「…酒はやらないわよ。」

とか元気な返事をしてくれるだろう。そう思っていた勇儀だが、今日は少し違うようだった。

 三度も呼びかけたのに出てこないね。……橋を見に行くか。家の中に入ってもいいかな。

 

 やや心配になってきた所、現場を見て来たらしき萃香が勇儀の横で人型に戻って話しかけてきた。

 

「凄かったよ! 勇儀! 喧嘩は終わってたけど――」

「萃香、パルスィが家に居ない」

 

「へぇ? じゃあ橋だ」

 

「……悪いけど、橋を見に行ってくれないか。あんたの方が早いと思うんでね」

 

「ふーん? まあいいよ」

 

 怪訝な顔をした萃香は霧となって見えなくなった。

 

 多分、私がここから橋に向かうより、萃香が行って帰ってくる方が早いからね。橋にいたなら私も向かおう。それに、もしかしたら入れ違いになるかもしれない。取り敢えず、あんたの顔を早く見たいね。……何もなきゃいいけど。

 

 萃香が帰ってくるまでの長い時間、勇儀は家の前を歩き回ることしか出来なかった。実際は、時間なんてほとんど過ぎていなかったが。

 

「――やぁ、ただいま」

「っ萃香! ……居たかい?」

 

「見かけなかったよ? 外出中じゃない? 珍しいね。」

 

いない? どういうことだい? もしかしてあの爆発に巻き込まれたんじゃあ……。

 

「喧嘩跡に倒れてた奴はいたかい!?」

 

「そりゃごろごろと。周りを巻き込むなんて派手な喧嘩だ。一回戦ってみたいね」

 

「その中に、そ、その、金髪は……」

 

「心配し過ぎだって、勇儀。……私だって仲間は大切だよ。でも、そこまで心配しなくてもいいと思うよ。ただの外出中じゃない?」

 

 何を言ってるんだこの能天気は。もし巻き込まれてたらどうするんだ。考えれば考えるだけ心配になってくるよ。

 

 本人は自覚していなかったが、勇儀は仲間を失うことが恐怖の対象となっていた。理由は当然、源頼光の鬼退治。そしてそのあとの時代の人間の卑怯な鬼退治だ。

あの時のお酒に気付いていれば、あの時の罠に気付いていれば、あの時、仲間をもっと引き留めようとしていたら、あの時、仲間を救うため、もう少し躍起になっていれば……。

そして、仲間が誰か居なくなった時、その日には何か小さな、本当に小さな異変が起こっていた。

 その日は、人間が頭を丸めて酒を持ってきた。その日は、華扇がそわそわしていた。下手な嘘までついて。その日は、俺は最高の勝負をしに行くんだ。って周りに自慢した鬼がいた。

 そして、今日はパルスィがいない。

 

 勇儀は少し真面目過ぎたのだろう。

 鬼の寿命は退治されなければ長い。そんなこと、一つ一つ数えていたら数え切れない。

 だから忘れる。笑い飛ばす。そして残った同族で幸せな死を望む。

 勇儀もそうした。そしていつか表には出なくなった。

 

 

 

――はたしてそれは本当だったのか。残った記憶の欠片は無意識に警鐘を鳴らす。

 

いない? 本当に? 陰で倒れたりしてないかい? 喧嘩に巻き込まれたりしてないのか?

「だーっ、あの爆発にパルスィが巻き込まれたかも知れないだろう!?」

 

「そうは言ってもさ、勇儀。いないもんはいない。そういうものじゃない? それに、あいつだって弱くない。もう少し信じようよ」

 

信じてるから心配しているんだ。大事な仲間を信じてるから……。

「こんだけして帰って来ないんだ。何かあったに違いない。なぁ、爆発現場、もう一度見に行っておくれよ」

 

 対する萃香は何か勇儀には解らない何かを解っている様だ。のらりくらりと勇儀の望むことと外れた内容を話す。

「あの爆発は凄かったねぇ。大量に粒弾を撒いた跡があった。でも、上から見ても、何も居なかったよ。喧嘩を見れなかったのが残念、残念。一回目の爆発の時に霧になっておけば……」

 

「だから見に行こうって言ったんだよ、萃香。それなりに力のある奴が喧嘩してたんだって。あんたが小規模な岩盤崩落とか言うから!」

 

「あはは、まさかあんなに力のある奴同士が喧嘩してたなんてねぇ。それに、勇儀の足じゃ間に合わなかったさ。すぐに終わったみたいだし」

 

 切羽詰まった勇儀はのらりくらりとしている目の前の親友にさえ強く怒鳴ってしまう。

 

「ごたくはいいんだ。友人の一人が帰って来ないんだよ!」

 

「外出してるだけだって。鬼殺しでも呑んで落ち着きなー?」

 

 萃香はいつもそうだ。私には分からないことを見透して、その上ですぐには話さない。

「いらないよ!」

 何でこう、私は落ち着きを持てないのだろうか。

 

 目の前の親友の様子をおかしく思ったのか、萃香は気を紛らわすことを話してきた。気が穏やかになるかは置いといてだが。

 

「……あの場所、酷い有り様だったよ。勇儀も一回見に行きな」

 

 ……そういえばさっき、やたら興奮した様子で喧嘩跡の様子を伝えようとしてたね。 余計心配になってくる。

「……なんだい、そんなに酷いの?」

 

「三十軒くらいが全壊、遠いところだと三町先まで損壊していた家があったよ。一部が大火事。もう消しといたけどね。よっ、これぞ灼熱地獄! 見たことないけど」

 

 誰だ、そんなことした奴は。それに、もしパルスィに何かあったらただじゃおかない。

「三十、やりすぎだね。詫びて手伝ってもらわなきゃあ割りに合わない」

 

「そして喧嘩させろ!」

 

 暫し、萃香の話す喧嘩跡に思いを巡らせたが、また思考はパルスィのことへと戻ってきた。そのせいで、どんどん眉間に皺が寄っていく。萃香は、まだ彼女の持つ答えに勇儀は辿り着いてないとでも踏んだか、再び全く違うことを語り出した。

 

「さぁ勇儀、今回の下手人を当てようよー」

 

 喧嘩の犯人かい?悪いけど、今はそれどころじゃないんだ。

「パルスィの発見が先だって」

 

「外出してるだけだと思うから、ここで待っていても多分会えるよー? そんなに心配なら探しに行きなよ。ついでに喧嘩の跡も見てきてさ」

 

 ……探している間に帰ってきたらどうするんだい。一時の無駄なく顔が見たいよ。

「入れ違いになったら嫌だろ!」

 

「うわあ、面倒だ」

 自覚はある。そういえば、萃香はさっきから外出中って言ってるけど、何故なんだろうね? この感じ、萃香は解ってるんだよな。パルスィのことも本気で心配してないし。すると。

 

「まぁまぁ、今の明瞭な頭なら、簡単に犯人が分かるよ。酔いを醒ますためにもう少しお酒ちょうらい?」

 

 そらきた、答え合わせの時間だ。今回の対価はお酒だね。仕方ない。早く教えてくれ。

「呑みすぎだよ。ほいこれ。」

 

 いくら急いでいても、鬼が酒を持たないことは無い。当然、宴会場からお酒を何本か掻っ攫っていた。

 

「うっへへへー……。んー犯人はー火を使うようなやつ。鬼じゃないね。」

 

 そういう時の萃香は冗談抜きで賢い。今回も本当にそうなんだろう。そう思った勇儀は聞き流さず、先を促す。

「へぇ? どうして?」

 

「鬼は喧嘩で小さい弾なんて使わないよ。弾幕で喧嘩するなら別だけど」

 

 待ちな、あんたはよく使ってるじゃないか。何回引っかけられたことやら。

「あんたは使うじゃないか」

 

「実直さは鬼のいいところだね」

 

 鬼のくせに曲がった表現が大好きな萃香の語ることは、真っ直ぐな勇儀にはまたしても伝わらなかった。

 

 どういうことだい? 萃香。話が繋がってないね? 確かに鬼は実直で嘘を吐かない。でもなんで鬼のいいところの話になるんだろうね? ――さすがは紫の友達。あいつと話が出来るってだけあるね。

「分かるけど、何言ってんだい」

 

今日一番残念そうな顔をした萃香は、諦めて直球で話す。

 

「……だからだよ、勇儀。まぁ、それはいいとして、大火事から」

 

萃香の話す理由は勇儀ですら思い付いていたことだった。そして、それだけでは解らないということも。

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

 なんだ全然解ってないじゃないか。しかし火の妖怪か……。あんたなりの慰めかも知らんね。下手すぎる。有り難いけど文句はいってやろう。

「期待して損したよ」

 

「あー待った待った! もうちょっとお酒くれたら分かる!」

 

 萃香が二回言ったことが嘘だったことは今まで一度も無い。ただ、今回もお酒を渡した所で、本当に勇儀にもわかるように伝えてくるのかはわからなかった。今回は、藁にもすがる気持ちでお酒を渡してしまった。

「お酒が呑みたいだけだね? 萃香。このお酒をやるから、犯人を教えてくれ」

 

「言ってみるもんだね。毎度あり」

 

 わかるように伝えてくれるか。という勇儀の心配は杞憂に終わったようだ。萃香の答えは簡潔で明瞭だった。

 

「多分火車だよ、火車」

 

火車? ……火車と言えばお燐。理由が分からないね。火事だけじゃ分からない筈だけど。本当に目の前の親友は賢い。私とは大違いだ。……適当言ってるんじゃないだろうか。

「……あー、お燐か。でもどうして?」

 

「あんた、自分でものを考えたりしないの?」

 ……馬鹿にされた。

 

「簡単だよ、火に属する者は怨霊と火車、地獄烏。あと雑魚妖怪の一部。雑魚はこんなこと出来ない。怨霊はそれ自身が火みたいなもの。別に自ずと動いて喧嘩しない。地獄烏は寒ーい旧都のこんな端まで来ない。残るは火車だ。で、火車で最も有名なのは、だね。多分合ってる」

 

 犯人が分かった所で、馬鹿にした挙げ句酒まで獲っていった親友に、おちょくられただけだと気付いた。勇儀ははぐらかされるとわかっていても、こう言わざるを得なかった。

 

「わかってたなら言いなよ。さてはお酒をもらう為に犯人を言うのを延ばしたな!」

 

「んー? どうだか。確か…パルスィの奴からさとりって言葉は聞いたことがない。だからあの爆発とは無関係だろうね。眺めていたとしても、あの程度じゃ、爆発の中心にでもいなきゃパルスィは倒れないよ。あいつ、喧嘩もしないしね。」

「帰ってきたら、やぁ、外出なんて珍しい。どこ行ってたんだい? とでも言えばいいさ。」

 

 思ったより説得力のある予想に勇儀は少しの安堵感を覚える。パルスィは強いことも、あのくらいの爆発では死なないことも納得出来た。

 

 ああ、良かった。これが合ってるなら、きっと無事だ。でもこの違和感はなんだろうね?どうしても心配だ。早く帰って来てくれ。

 

「そうだといいけど……」

 

「もう、辛気っくさいったらありゃしない。……それで?そこにいるのは誰?出てこないと分身に捕まえさせるよ」

 

 

 

 

 少しの期待のあとにくる絶望は、あまりにも大きい。お燐が出てきて何か話してきた様にも感じたが、勇儀の目は一ヶ所に釘付けになった。

 

 

 え……?

 

 

 

 なぁ、パルスィ?嘘だろ――

 

 

 

 

 ……最早何も考えられない勇儀が唯一聞き取れたのは死んでない。ということだった。

 

 死んでない。死んでないん……だよな?死んでないことだけはわかる。死んでないことは……。生き……てる?

 

「待っ…待ってくれよ!どういうことだい?どうしてパルスィはそんな怪我を……!」

 

「うん、ごめんね、お姉さん達。今から話すよ……」

 

 とにかく休ませないと。

 

「お燐、パルスィを寝かせるんだ。私がやる」

 

「いやー、これは大変だ。そうか、そうなるか。……取り敢えず家に入ろう。」

 

 パルスィを半ば強引に、しかし優しく受け取った勇儀は、萃香が出した布団にパルスィを寝かせた。心音を聞いて始めてパルスィは生きているんだ。と、頭で理解出来た。

 

「で? なんで?」

 

 この萃香の軽めの一言が今回の真相が語られる切り口となった。目の前のお燐はゆっくりとだが、嘘の気配なく話を進めていく。聞いていくと、どうも違和感を感じた。

 

 お燐、こんな複雑な嫉妬したっけな。もっと真っ直ぐだった気がするよ。どうも、あやしいねぇ。萃香もニヤニヤしだした。これ、パルスィが悪いんじゃないかな?

 聞けば聞くほどパルスィが悪い気がしてきた勇儀は、思わず顔が仏頂面になっていく。正直、パルスィをこんなにした目の前のお燐を殴りたい。が、……どうにもパルスィが悪そうだ。

 

 笑いを堪えきれなくなった萃香が大笑いしながら種明かしをした。それを聞いた真っ青だったお燐の顔色が少し良くなったように見える。

 

――どうにもパルスィが悪いんだし、この二人で解決させよう。

 確かに、それが妥当だろうね。

 

――お燐がやりすぎだ。地底の纏め役は公平でないとね。

 一発くらいやって丁度な気もしてきた。

 

――これは喧嘩だよ。喧嘩は後腐れなく、だ。

 他人の喧嘩に口出しするのもどうかね。

 

――友がやられて黙る鬼は鬼じゃない。

 そうだ、鬼の仲間は永遠の仲間だ。仲間がやられた? 潰さないとね。

 

 ううむ……。どうしようか。

 

「―でもな、お燐よ、友達の友達がやられたんだ」

何が言いたいのかわかったぞ、萃香。よし、萃香のその発言、乗った。

 

 

「「一回殴らせろ」」

 

 

 

 

 

――そして今に至る。残った酒を飲みながら、暇を潰していたとき、ようやく望んでいたことが起こった。

 

 

「……んぅ……ぁ?」

 

「起きたか! 大丈夫か!?」

 急いで駆け寄る。

 

「なん……で?」

 

「良かった! 痛く無いか?」

 

「離れな……さいよ」

 

「そういう訳にもいかないさ! ああ、本当に良かった!」

 

「んぁー? お、起きたか。良かった。お燐は……水でもかけよう。勇儀? 手を振りすぎ。痛そうだよ」

 

「うわ、悪い! でも、本当に良かった……」

 

 勇儀は、萃香に言われて初めて、パルスィの手を強く握り、振っていたことに気が付いた。これではパルスィが痛かろうと手を放して、パルスィにそのまま抱きついた。

 

 萃香はパルスィの家の酒を持ってきた。に゛ゃっ! という声と共に大吟醸をかけられたお燐も起きる。少し可哀想だ。床も、お燐も。

 

「あ! お姉さん! ……ごめんなさい。お姉さん。やり過ぎたよ」

 

 次から次へと情報が流れ込んでくるパルスィは、何が何だかわからなかったが、得てしてろくでもない未来に頭を抱えるのであった。

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