この橋渡る者無きこと長し   作:塵紙驀地

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未来を見せる悪夢の世界

*水橋パルスィ視点

 

 パルスィは目を覚ました。普段通りの服。いつもの家。もちろん、他には誰も居ない。パルスィが気を失ってからどれほど時間が経ったのだろうか、外は明るかった。

 

 もしかしたら丸一日寝ていたのかしら。どうなっているの? ……取り敢えず外に出て様子を確認しよう。

 

 昨日に飲んでいたのだろうか。机の上の酒瓶を横目に、パルスィは起き上がる。数歩歩いて部屋から出た瞬間に、外に出ていた。そこには勇儀が居た。こちらを見るやいなや歩いてきた。

「今日も宴会だよパルスィ。あんたも来な」

 ……いつもの勇儀ね。

 

 いつも通りの勇儀に、言われるがままについていく。すぐに宴会場に着いた。顔すら覚えられない妖怪達が飲んだり、踊ったり。パルスィはここまでの道のりすらも覚えていなかった。

「やあ、パルスィ、あんたも来たのか。呑んでいきな」

 萃香がこちらを見て話してくる。

 

「頂くわ」

 酒を呑んでいると誰かが近付いてきた。猫耳だ。

「久しぶり、お姉さん。今日も喧嘩しよ?」

 

 喧嘩は嫌ね……。この猫はどうして喧嘩を売ってくるのかしら。それに、昨日会った気がするわ。

「嫌よ」

 

「そうは言わずにさ。お姉さん。喧嘩しよ? お姉さんがやる気なくてもやるからね」

 

 そう言って猫耳は弾幕を撃ってきた。間一髪でかわしたパルスィは飛び上がり、旧都の寂れた場所で猫耳と対峙する。目の前に飛んでくる弾幕の壁をかき分け避ける。

 

パルスィには次の攻撃が当たるという確信が有った。

「何するのよ! 急に。危ないじゃない。」

 

 二人で喧嘩しているというのに、パルスィは的外れな抗議をした。抗議の念を込めて撃った弾は、真っ直ぐ猫耳の方に飛んでいき、猫耳は避けようとせずに当たった。

 直後、速すぎる弾幕がこちらに放たれる。

 

 ……パルスィには避けられないという確信が有った。気が付くと目の前に弾があり、直後、体に当たった。爆発する。体が悲鳴を上げたような気がしたが、パルスィの意識は明瞭だった。

 

 こんなこと、最近有ったわね。確か、昨日かしら。昨日はこのあとどうなったかしら。

 

 パルスィは回らない頭でそのような事を考えていたが、突如ふとした違和感を覚えた。

 

 ……おかしいわね。昨日は布団で寝て終わったっけ。そうよね、布団で寝てたわ。弾が当たったというのに、どうして体が痛くないのかしら。確か昨日は喧嘩したはず……。

 

 目を瞑る。

 

 

 気がつけば目の前に椅子二脚と机がある部屋に居た。左手にある丸い格子窓からは星が見える。

 

 

 

「真っ昼間からおかしな夢を見る者はだれです? セロリみたいな味がしました。あ、美味しかったですよ」

 

 パルスィの目の前には、白黒の服を着て、赤い布の帽子をかぶった知らない女性がいた。黒い本を持っている。パルスィは、ようやく頭が冴えてきた。

 目の前の状況を読み込むために頭が働き始める。

 

 そもそも何かがおかしかった。勇儀と萃香はもっと面白い話をする。場所の移動もすぐに終わっていたし、時間も飛んでいた。猫耳は……、もしかしたらその通りかもしれない。それでも、戦ったときは黒猫だった。せろり?せろりって何よ。

 

 目の前の女性が口を開いた。誰かを彷彿とさせるニヤニヤとした顔だ。

 

「その夢に、出口はありませんよ? 嫉妬の妖怪さん?」

 

 ここどこかしら。目の前の女性は誰よ。夢? これは夢なのね? なぜ夢の中で―

 

「でもご安心を。私が食べておきましたから。申し遅れました。私は獏。夢の世界の住人です。名前はドレミー・スイートです。お見知りおきを。……まぁ、起きたら忘れるでしょうがねぇ。貴方の夢は毎回面白くて宜しいですが、今回の夢は看過出来ません。夢は、時に現の心を傷つける」

 

 何言ってるのか分からないわね。名前を言って何をしたか言われても何も分からないわ。獏、聞いたことあるわね。有名で妬ましい。聞かないと何も分からないわ。

「どこよここ」

 

「それも今からお話しますので。その前にお茶でも。どうぞ椅子に座って下さい」

 

 この獏? 以外に手がかりがないパルスィは他に打つ手もないので椅子に座った。気がつけば机の上には赤色のお茶? がおいてあった。隣には三角形のお菓子? がある。このように、パルスィからすると理解できたものがほとんど無かった。

 

「見たことのないお茶ね。それにお茶請け。何よこれ」

 

「紅茶です。抹茶、緑茶の方がお好きですか? そっちはケーキと言うものですよ。すると……。でも私の空間でもありますし……」

 

パルスィには、けえきがなんたるかは分からなかったが、取り敢えず紅茶とやらを飲んでみた。この紅茶はどこかで飲んだことがあるような気がした。

 

「お味は?」

 

「多分、飲んだことがある味ね」

 

「ならば、かつて貴方は紅茶を飲んだことがあるはずです。表面の記憶に残っていないでしょうが。……説明をいたしましょう。貴方の夢は、明確な続きがありませんでした。ですので、貴方の夢を私の空間に繋げたのです。それがここ。一応貴方の夢です。私の夢でもあります。貴重な明晰夢ですよ? 貴方はやりすぎない限り何にでもなれます。何か……なりたいものは?」

 

夢の続きがないことは、どうしていけないのかしら。獏の言うことが理解出来ないわ。

「特にないわ。それよりももっと分かりやすく伝えてほしいものね」

 

獏はこちらを見て、独特な笑みを浮かべている。

「夢の世界に興味がおありですか?」

 

「そういうわけじゃ――」

 

「夢は、初心者には扱えませんよ。それこそ、ただの超能力者や外の世界の似非能力使いにもね。ケーキでも食べて聞いて下さい。」

 

言われるがままにけーきを食べてみる。甘い、食感は黄色がサクサクとしていて、白色がどろぉっとした……、良く言えば新しい食感。悪く言えば、あまりにも不味い。パルスィは急いで紅茶で流し込む。

「ぶっ…ゲッホゲホ……ゴホッ……ゴホ。なんてもの食べさせるのよ!」

 

「ああ、やはり駄目でしたか。ままならないものですねぇ」

やはり? 分かってて食べさせたわね。この獏。

「ふざけるんじゃないわよ。不味すぎるわ」

 

「……ならこちらはどうです? 『私の』ケーキです。私のケーキをあげると、喜んだ者が多かった記憶がございます」

「要らないわ」

 

「あらま。残念ですねぇ。本来のケーキは美味しいものなのですが。説明をいたしましょう。それは、貴方の記憶のケーキです」

 

 記憶? 絶対に食べたことないわ。こんな不味いもの、記憶に残るはず。

「絶対に食べたことないわ。こんなもの」

 

「そうでしょうとも。私は夢に干渉する際、ケーキという概念を作ります。甘い、クリーム、スポンジなどの概念を持つ。これは基本概念で、大衆に共通するもの。百人中百人がそういうでしょう」

 

 私は、知らなかったけれども……。まあ黙っておこうかしら。

 

「それを貴方の記憶に持ち込み、味付けをさせます。スポンジ、クリームの食感、味、どのような甘さか。貴方にはそれが無かった。故に貴方の妄想するケーキが出来上がったのです。そのケーキは、他の者に作らせれば美味しくなりますよ。なんといってもケーキという概念なのですから。もしかしたら、サンドイッチになるかも知れませんね」

 

 パルスィは正直、この獏が何を言っているか分からなかったが、少しでも理解しようと頑張った。しかし、結局何を言っているか少ししか分からなかった。

 

 けーきを美味しく作れる者が妬ましい。

 

「それは、実体じゃないのかしら」

 

「概念体です。しかし、この世界では実体です。貴方によって固定されましたから」

 

 黒い本をめくりながら、空に浮く獏は答える。

「ふむ、記憶に残っている事は正確に夢に現れます。どれ、『喧嘩』?」

 

 パッと風景が変わり、旧都中心部の闘技場らしい所に出た。

 ニコニコした勇儀みたいなものが、ニコニコした萃香みたいなものと殴りあっている。ここまで衝撃波が届き、拳がぶつかると地面が捲れる。ドレミーも顔をひきつらせている。

 

「……貴方のご友人、目茶苦茶ですね」

 

「勘弁して欲しいわ」

 

「これは貴方の『喧嘩』、それではこの夢魂にも『喧嘩』を見せて貰いましょう」

 

見知らぬ男二人が殴りあっている。顔は怖いが、先程の二体と比べる事も烏滸がましいほど平和だ。そう、あの二体がおかしい。パルスィは力も何もかもが妬ましくなる。

 

「そうよ、喧嘩なんてこういうものよ」

 

「……そう思いますよね。でも、これで理解して頂けたでしょう。私が干渉したときは同じ『喧嘩』がここまで変わりました。つまり、貴方が想像したことは、概ねその通りになります。そして、想像出来ない物は、変な物となり、稀に貴方を脅かします。貴方はあの時、未来を夢で見ようとしました。……下手な悪夢の格好の餌食ですよ。下手な悪夢が不味い夢を作る前に私が食べた。そういうことです。」

 

セロリの味がしましたが……。と、ぼやくドレミーは無視し、パルスィは先程までの話を整理する。概ね理解出来た。どうやら助けてくれたようだ。他人を助けるその心を妬ましく思うが、パルスィは礼を言った。

「助かったわ。ありがとう」

 

「お気になさらず。私の仕事ですから。それに、夢で困っている者をみるのは嫌いですからね。…………そろそろお目覚めの時間でしょう。一つ忠告しておきます。もし、覚えていたのなら心がけて下さい。貴方はどうにも他人を頼らなさすぎる。あれだけ良くしてもらっているのに」

 

 パルスィは、勇儀に気にかけられ、さとりからは友人だと思われている。萃香もパルスィがどのような妖怪か理解し、ちょっかいをかけてくる。お燐は、さとりを守るためと、嫉妬をしたため、喧嘩を売ってきた。喧嘩後は、パルスィを嫌いではあるが、理解している。少なくとも、明確な悪意を持って嫌われているわけではないが、パルスィには一切理解されていなかった。

 

 良くしてもらっている記憶はないわ。どこでかしら。そもそも、迷惑をかけられてると思うのだけど。

「そうかしら? そこまで良くしてもらっているとは、思わないけど。」

 

「記憶の解釈違い、というものですね。貴方は平等すぎるのですよ。一番を絶対に決められないでしょう? 次は、もっと美味しい悪夢を見て欲しいものです。貴方の夢はさっぱりしすぎなのですよ。……お目覚めの時間です。」

 

 ついにパルスィに目の前の獏は悪夢を見ろといってきた。絶対に嫌だが、その前の忠告は一考する価値があると考え、出来れば覚えておこうとも思った。

「悪夢は見たくないけど、考えておくわ。」

 

「そうして下さい。これが、貴方にとって吉夢になることを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。気持ちの良い朝だ。頭も働くし、寝覚めも良い。パルスィの気持ちは上向きになりつつあった。そのお陰か、パルスィは菩薩のような心を持って、騒がしい不法侵入者――おおよそ、鬼の二人だろう、へ感謝の気持ちを伝えることにした。

 

 

 これまで見守ってくれたのよ、布団から起きて勇儀と萃香にお礼を――

「よかった。起きましたか。本当に良かったですよ……」

「おはようパルスィ! また気を失っていたらどうしようかと思った! 良かった!」

「お酒呑みなよ」

「……お姉さんおはよう。やっぱりお姉さんのせいなんじゃ」

「お燐、やめなさい。貴方も責任があります」

「さとり様、これだれ?」

「きれいな顔だねー! 死んだら飾ってあげるよ!」

「あ、やっと見つけたわこいし! 待ちなさいこいし!」

 

 ――は?何よこれ。帰りなさいよ。絶対寝ている間に酒もなくなってるわ。

 

 

 

辺りを見渡したことには、お見舞いに来ていたはずの妖怪が増えている。見知らぬ顔の妖怪もいる。もちろんドレミーとの会話と、ドレミーの忠告はふきとんだ。

先程の感情はどこへやら、パルスィは最悪な気分で目覚めたのだった。

 

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