ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
別人になるくらいのキャラ崩壊は慎みます。
だが、ヤンデレにする(豹変)。
OK?
赤い弓兵とヤンデレの炎帝
「ほ、報告します! 西の空から巨大な…巨大な亀が飛んで来ます!」
第4回公式イベント二日目。
赤の装束に身を包んだ斥候役が、息を切らせながら幹部役達に情報を伝達する。
「亀…ですか?」
1人は純白の僧侶服を纏う回復のスペシャリスト、ミザリー。
謎すぎる単語を理解出来ず、思わずオウム返しをしてしまう。
「そういえば最近、緑の浮遊物体を見かけたとか掲示板で見た気がする…」
ローブで顔を隠しているのはトラッパーの異名で知られるマルクス。
偶然知っていた情報を口に出すが、それだけでは何も分からないよね…と少し落ち込む。
「このイベントでモンスターの類は出現しないはず…。一体、何者だ?」
彼ら、彼女らを含めた大勢の赤装束が揃う中心で、報告を聞いていたのは紅髪の美少女。最強の炎使いとして名を馳せ、類稀なるカリスマによって一大ギルドを率いる有名プレイヤー【炎帝】のミィといえど判断に困ってしまう内容だった。
本来ならば自ら攻撃部隊に加わる予定だったが、とある【男】からの提案で自陣防衛に就ていた彼女は迅速に指示を出そうと思い悩む。
イベント開始時、見晴らしが良すぎる廃墟エリアを拠点に指定された為、ただでさえ狙われやすい状況に置かれているにも関わらず、謎の浮遊物体接近の報。
どのような脅威度を持つか不明だが、同ギルド以外は全て敵という状況下で楽観視はできない。最悪の場合、空飛ぶ亀に釣られて他のプレイヤーが押し寄せる事態も考えられた。
ミィは頼れるギルドマスターとして判断を迫られたが、内心の内気な性格が不安を煽って押し潰されそうになる。やがて脳内で下したのは静観。ここで直接乗り込んで来るまでは、安全策を取るべきだと判断したのだ。
しかしその思考は、ミィの代わりに攻撃へ赴いていた筈の男によって遮られる。
「ーーー亀の正体はメイプルだ」
珍しい褐色肌に筋肉質の身体。背中には珍しい武器種である弓を背負った赤い外套の偉丈夫が、確信を持って進言した。
「副団長…帰還されたという事は、ひと段落したのでしょうか?」
「あぁ、【単独行動】は文字通り得意でね。予定数のオーブは回収してきたさ」
ばらばらと中空に翳した手からストレージを開いて10数個にも及ぶ、光り輝く玉をミザリーに差し出す。
今回のイベントはギルド対抗戦。
ギルド毎に設置されたオーブを奪い合い、合計ポイントを競う生き残り戦であり。数人規模の小規模ギルドを始め、ミィやミザリー、マルクス、ここには居ないが崩剣のシン、そして副団長と呼ばれた男を含めた大規模ギルド【炎帝ノ国】であろうとポイント対象であるオーブは一つのみ。
ならば、先ずは狩りやすい小規模ギルドを狙いに行くと1人飛び出した男の成果が、それであった。
周囲の団員からは「さすが副団長」「弓兵の名は伊達じゃないな」「さらっとミザリーさんの手に触れてんじゃねぇよ」と賞賛の声が漏れ聞こえる。
報告を終えた彼は、そのまま憮然と立ち尽くすミィに向き合った。
「…まずは任務ご苦労。しかしあれが噂のメイプルだと確信する理由はなんだ」
「あんな馬鹿げた真似をするのはアイツしかいない。…というのが一点。もう一つは直接、視認したからだ」
「ほう…目が良いのは知っているが、この距離から見えるのか?」
「スキル【千里眼】と【鷹の目】を併用すれば、辛うじてな」
男は虚空を見つめるように西へ再び視線を向けた。
ゲームシステムの後押しによって強化された視覚には、未だ朧気ながら亀の上に女の子座りをしている黒髪の少女が見える。
更にはその両隣。左右に位置する場所には髪色以外そっくりな双子も確認出来た。
「訂正しよう、敵は合計3名プラス亀。メイプルに双子の少女を追加したメンバーだな。それと……ハンマー二本持ち、だと…?」
小柄な見た目に反して、背中に背負われた二本ずつのハンマー。両手持ちが基本の大槌を、そんな装備の仕方が出来ている時点で異常事態だった。
驚く言葉を聞いたマルクスが、げんなりした顔を覆う。
「それ絶対ヤバい奴じゃん…。どんなSTRしてるって話だよ…あぁ、楓の木ってギルドに常識は無いのか」
「落ち着いてマルクス。まだ戦ってもいないのに悲観し過ぎるのは良くないわ」
「だって…」
「ーーー【アーチャー】。対処は可能か」
規格外の情報とメイプルという理不尽の塊として名を馳せる相手の来襲に動揺が広がるギルド内を鼓舞するように、ミィは焦らず自分が最も信頼している男の名を呼び、質問を投げかけた。
「いやいや、流石に副団長でもあんな浮遊要塞みたいなの相手じゃ…」
「ふっ…。では早速足止めくらいはしておこうか」
「って、出来るの!?」
マルクスの突っ込みをスルーしてアーチャーと呼ばれた男はニヒルに笑い飛ばすと、地面を蹴ってなるべく高所に陣取るべく、瓦礫になった建造物の一つに位置を移す。
背中の弓を片手に持ち、西の空のはるか彼方を見据えて狙撃態勢を取る。ストレージから【特製の矢】を弦に番えて引き絞ると、呟くように詠唱した。
「ーーー我が骨子は捻れ狂う」
装填された矢は赤黒い光を放ち、渦巻く波のような軌跡を描いて凝縮されていく。やがて青空の下で夕闇を煮詰めたような漆黒が迸り、滾る。
臨界寸前まで高められたソレは発射の瞬間、一条の極星となってメイプルへ放たれた。
「【カラドボルグ・Ⅱ】!」
煌めく暗黒の光条は一直線に、かつ正確無比の狙いによって着弾。ミィ達の目からもハッキリと分かるような大爆発を引き起こし、空中に大輪の花を咲かせた。
「すげぇ! あの距離から当てたぞ!」
「ミィ様も凄いが、あの人も大概だな…」
「ミザリーさんの胸に埋もれてぇ」
「やったか!?」
もうもうと立ち昇る煙に紛れて空飛ぶ亀は見えない。
アーチャーが今しがた放った一撃は、並のボスエネミーであれば半分以上HPを削るだけの威力を持つとっておきのスキルだった。
当然、それなりの効果を期待しての攻撃だったのだが…。
「………無傷だな」
「「「「「無傷!?」」」」」
メイプルという野生のラスボスには有効なダメージを与えるには至らなかったようだ。
しかし、アーチャーは予想通りの結果だと言わんばかりに確証を得た答えを告げる。
「HP は削れんが、ノックバックは発生するようだ。このまま狙撃して落下させるぞ」
アーチャーの強化された視界には亀からズレ落ちかけて、あたふたとする彼女達の様子がしっかりと映し出されていた。
AGIが0であるメイプルにとって機動力を奪われるのは何よりも痛い弱点であり、まして今回のイベントで小規模ギルドが高得点を獲得するには、リタイアによってオーブ絶対数が減る前に早期に数を確保しておく必要がある。
「凡庸な遅滞戦術だが、だからこその効果がある。…悪く思うなよ、楓」
理不尽の塊、メイプル。そして『生まれた時からの妹分』である楓への親愛を振り切るように矢を連射していくアーチャー。
先ほどのような威力も爆発も無いが、確実に命中を繰り返して、態勢を崩していくと主人の落下を気にして亀の動きも鈍っていく。
やがて遠巻きに「あ〜れ〜」と落下する三つの影を確認してようやく狙撃態勢を解き、再びミィ達幹部の側に歩み寄った。
「これで足止め完了だな。落下ダメージでも入ればいいが…まぁ無理か」
「お見事ですわ、副団長」
「あぁ…ウチも規格外がいるんだった。リアルのエイム力でゴマ粒みたいな相手に必中とか、もう僕怖いよ…」
「………よし。これで当面の危機は去ったな。各員、傾注! これより最低人員を残して周辺に進撃。ギルドオーブを奪って安全地帯を拡大せよ!」
ウォォォォォォォ!!!
ミィの指示によってあらかじめ編成されていた攻撃部隊が四方へと移動を開始し、攻勢に出た。
彼女1人のカリスマ性によって率いられる炎帝ノ国は、数あるギルドの中であっても最も信者が多い一面岩の構成である。
不平不満を漏らす者はおらず、命令に嬉々と従っているのはまるで宗教のようだ。
そして攻撃部隊の指示としてミザリーが行軍に参加し、拠点周辺の設置魔法を敷く為にマルクスが離れると、周辺を警戒する遠巻きの団員を除いてその場にいるのはミィとアーチャーだけになった。
「さて、こうなると怖いのは理…サリーだな。1日目は入れ違いで遭遇しなかったが、ミィを退けるだけのプレイヤースキルは相変わらず凄まじい。万が一にも私の正体がバレないように潜伏を…」
「寂しかった!」
「ぬおっ!?」
呟きの最中に、胸に飛び込んで来たのは先程まで凛々しい顔つきで団員達を導いていた、あの紅髪の団長ミィだった。
羽交い締めにするような密着状態から顔を上げると瞳を潤ませて甘えたような声色を出しながら身体を摺り寄せる。
「側に居て欲しかったのに1人で行っちゃうし、ミザリーとばっか話してばかり…あとは団員に任せればいいから、ずっとこうしてよ? ね?」
ぐいぐいと迫る仕草に、顔を引きつらせながら後ろに退がるアーチャーだったが、まるで吸盤でも付いているのかミィの抱擁…ベアハッグはまったく剥がれる様子がない。
「ミ、ミィ? こういった事はせめてイベントが終わってから話し合わないかね。君も私も責任ある身だし、節度を持って…」
蜜月の幸福を少しでも強く伝えたい想いはベアハッグから鯖折りへと物理的に切り替わり、拘束判定のスリップダメージが入り始めたアーチャーは、必死の形相で無理やり抜け出して肩を掴むと、彼女は途端にビクリと動きを止めて、濁った瞳で彼の顔を覗き込む。
「……ごめんなさい。私が悪いんだよね私が頼りないから私がしっかりしていればずっと側に居てくれるのに私がもっと強ければ【あの女】も倒せるし私が弱いとダメなんだ私を好きになって欲しい私だけを見て欲しい私を側に置いてください私はなんでもします私を好きにしていいから私を捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで」
「ミィ!」
「! え、あ…私…あの……」
「…疲労が溜まっているのでは無いかね? 少し休憩を挟もう」
「えっ…あの…変な事しちゃって…」
「あぁいや、別に気にしてはいないよ。ここからも気を引き締めていこうか」
「はい! …あっいや、うむ。任せたまえ!」
バッと正気に戻って離れるミィだったが、この時点でアーチャーのHPはガッツリ減少している。
どうしてこうなったのか。
元々、サービス初期のソロ時代からコンビを組んでいた彼女とは縁があり、気弱な性格とは真逆のロールプレイで引くに引けなくなったのを見兼ねて、期間限定の補佐役として入団した筈だった。
だが、蓋を開けてみればあれよあれよ退路を塞がれ、今では周囲公認の副団長扱いだ。
更にミィのフォローをしている内に、彼女の中で彼への依存性が強く現れていき、先程のような情緒不安定になって取り乱す事態も頻発するようになった。
もはやここまで来ると無責任に離れる訳もいかず、せめて人前で症状が現れないように宥め付けるのが精一杯といえる。
溜息を吐くアーチャー。
イベント2日目で既に心労が祟っているが、ここからは間違いなく【あの2人】と接敵するだろうと予測し、気を引き締める。
ミィに関してはゲーム内の話で片がつくが、もう一方はリアル側で何をされるか分かったものでは無い。
俗に言う【ヤンデレ】に常日頃から晒されている彼にとって、『ΝewWorld Online』は一時の間とはいえ現実を忘れられる時間であり、同時に別の【ヤンデレ】のお世話をする場所でもあった。
これは人生の退路を奪われた青年の、リアルスキル【女難の相】を巡るお話である。
R-15版では胸の中に飛び込まれた瞬間、ミィの短剣で胸を突かれるハートフルな場面でしたね。
この小説はとても健全なので安心して下さい。
絶命しなければヤンデレではないのです。
今後のお話に必要なエッセンスは…
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3人をもっと病ませるべきそうすべき
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キャラ改変はNG 硬派な雰囲気を求む
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バトル展開! 防振り王に俺はなる!
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甘い甘いラブ路線。作者は嫉妬で死ぬ
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オリキャラとか…どう? 出そう?