ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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やっぱりキャラが増えると文字が増える&タイトルが思いつかないので分割商法。

1日2話ではないのじゃ…。


先に断っておくとハーレム展開は無いよ! いやだってその前に排除(作者の手記はここで途切れている)


炎帝ノ国と第2回、第3回イベント
固有装備とヤンデレのマッチポンプ(1)


アーチャーは飽くまで冗談のつもりだった。

 

 

「金がない」

 

「分かった。じゃあ3兆くらい持ってくるね」

 

「待て待て待て! 君は国でも起こすつもりか!?」

 

己の素直な心情を、よりによってミィへ吐露してしまった事を心の底から後悔した。

 

 

 

 

 

第1回公式イベントから数日後。

 

この日に限って街の大通りは今まで類を見ないほど人の往来に見舞われ、特に同じような赤い格好をしたプレイヤー達がまるで此処は一方通行だと言わんばかりに道を塞いでいる。

 

アーチャーは彼らを不審に思いながらも避けて歩いていくと、その先には久方振りに見たミィがユニークシリーズであろう赤いマントに煌びやかな装飾が施された防具を身に付けて佇んでいた。

 

少し頬を赤らめ、汚れやほつれが無いか隅々までチェックするように振り返ったり、裾の丈を気にしたりとまるでデート相手を待つ少女のように忙しない。

今日は誰かと待ち合わせでもしているのかと訝しむ間も無く、彼女はこちらに気が付くと、瞬間移動じみた歩法から至近距離で急接近。挨拶もそこそこに捲し立てるような話題を飛ばす。

 

「今日偶然会うなんて良い日だね」

「この前のイベントは残念だけど格好良かった!」

「私も強くなって、今ならコンビで良い戦いが出来るよ」

「今度一緒に景色の良いエリアに行こう」

「ところでメイプルという初心者の女の子を助けてたよね?」

「どうして私以外とコンビを組んだの?」

「もしかしてリアルでメイプルと親しいの?」

「ねぇ何で黙るの?」

「ねぇ質問に答えてよ、やましい事なんてないよね?」

「ねぇ…ねぇ…!」

 

良くないヒートアップを現実世界での経験から検知したアーチャーは、無理やり話を切るべく、頭を冷やせる良い場所は無いかと視線を巡らせる。

すると目と鼻の先に小洒落た喫茶店が待ち受けているのを発見。何たる幸運とばかりに安堵する。

 

しかもどうやら期間限定中らしくお二人様で入店すると割引きされるらしく、財布事情が厳しいアーチャー的にも惹かれるお店だ。

 

「ミィ、悪いが急に甘味が食べたくなってね。恥ずかしい話だが、そこの店で付き合ってくれないか?」

 

「つ、付き合…! はっ、はい! 喜んで!!」

 

一瞬、ガッと拳を握り込んだ仕草を見せるミィだったが、彼は気付かないまま店内へと進んでいく。

 

死角となる後方では大量のプレイヤーが一斉に敬礼を決め、すぐさま解散する異常事態に、道行く何人かは何事かと驚いていた。

 

 

 

 

喫茶店内は木製中心の温かみのある机や床で設えており、装飾の少ない内装とシンプルなインテリアだけでデザインされた落ち着く雰囲気を感じさせる。

入るタイミングが良かったのだろうか? アーチャーとミィ以外に客の姿は無く、店員のNPCだけが応対のモーションと音声を投げかける。

まぁこの方がミィが気兼ねなく喋れるから好都合かと、席についてケーキと飲み物を注文する。

 

そしてゲーム特有の調理時間ゼロで出されたケーキは仮想世界で作られたとは思えないクオリティを誇り、特に普段から家庭料理や趣味の凝った調理を嗜むアーチャーは、一時の危機感を忘れて感嘆の思いで口に運んでは、しきりに味を確かめている。

合間に飲む香り高い紅茶も鼻腔をくすぐるような爽やかさが見事に再現されて、これでカロリーゼロとは、まるで麻薬のような常習性が出そうだと不謹慎ながらも評価した。

 

こんな甘くて、素敵で、みんな大好きなケーキ。

 

もしも、数限られていたらきっと争いが起こる。

 

そしてこの店に連れて来た時点で途轍もなく上機嫌だった彼女も、注文した季節のフルーツタルトを小さく小分けして食べると、更に瞳を輝かせて尻尾があればブンブンと振り回すような機嫌の良さを見せてくれる。

 

そのはしゃぐ姿に誘った甲斐があったと心を落ち着かせたアーチャーは今度、趣味で習得している【料理・Ⅴ】のスキルでご馳走しようと提案したり、どうせなら食器も拘りたいなど朗らかな雰囲気で話が弾んでいく中、軽くなった口を滑らせて冗談を放ってしまう。

ミィは、冒頭の金銭の困り事を真正面から受け止めてしまったのだ。

 

「…? お金が必要なら幾らでも用意するよ? 国…が欲しいなら頑張る!」

 

「いやいや、ただの冗談だよ…。あー、要は装備を整えたいので資金かドロップアイテムを狙うかで相談しているのだ。君の装備姿を見たら羨ましくなってね」

 

「…分かった。じゃあ装備外すからアイテム受け渡しの…」

 

「OK、まずは落ち着きたまえミィ」

 

まるでヒモに騙されてお金を払う盲目愛の女性ではないかと彼女を危惧する。

 

目頭を抑えたアーチャーは、落ち着いて話を戻そうと一口紅茶を啜る。

鼻に抜けるセイロンの香りが、温かな喉越しと共に口内を満たして一息をつくと、今後の不安について話し始めた。

 

「運営から弓の弱体化が告知された影響で、今までのような攻撃特化のままというのは些か不味いと思ってね。良いアドバイスでも貰えれば…程度の話題だよ」

 

「むぅ……」

 

せっかく役に立てるのに…。幼い呟きは空へ消え、持ちかけられた相談について悩むミィ。

 

しかし途中でハッと、脳内に電流が走ったような表情になってから、顔を顰めたり迷いを断ち切るように首を振ったりと情緒不安定な動きを見せる。

 

「もしかしてこれはチャンス…? ここであの女より有能だと証明出来れば……」

 

「…あまり難しい問題であれば他を当たって」

 

「駄目だそいつは焼き払う」

 

「なぜ!?」

 

苦悩する姿から一変して、突然湧いて出た殺意に、驚愕を隠せないアーチャー。

その言葉がトリガーになったのか、様々な雑談を挟みながらもミィから最終的に提示されたのは狩り場は『北の森』だった。

 

「ふむ…未踏破のダンジョンと、その場所でドレッドの発見例が多い、か」

 

「ダンジョンは侵入条件が不明な洋館らしくて情報が殆ど無いの。それとドレッドさんに関しては、えっと…狩り場のレベル帯が合わないから短剣使いに必要なスキルを取りに行ってたんじゃないかな?」

 

「なるほど…何か注意事項はあるかね?」

 

「! あの、あのね…モンスターが特殊系だから安定した狩り場にするなら、その無理はしない方が良いかなーって…」

 

チラッ…チラッと細目でアーチャーに慣れないウインクを送って言外に「私なら手伝うよ!」とアピールするミィ。

それを知ってか知らずか、アドバイスを貰えた彼は、特に触れる事なく感謝を伝えた。

 

「ありがとうミィ。お陰で今後も有意義に過ごせそうだ。代わりと言ってはなんだが今度、何でも………とはいかないが、埋め合わせをさせてくれ」

 

露骨にガッカリする彼女に苦笑し、2人分の料金を支払って退店する。

 

「あ」

「わ」

 

そこで出逢ったのは二対の人影。

 

アーチャーの双剣と同じく白と黒に別れた双子らしき少女達が、アーチャーを見て驚きの声を上げてしまう。

そのシンプルすぎる装備から初心者のようだが、どうしたのだろうか?

2人は顔を見合わせ、あたふたと交互にジェスチャーと身振り手振りだけで会話するような奇妙な踊りを繰り広げ、面白くなって眺めていると、観察されている事にようやく気が付いた黒髪の方が、顔を真っ赤にして走り去り、もう片方も「すみません!」と後に続く。

 

「何だったのだろうか…?」

 

「ーーーなんだろうね。ところで女性の年齢層と体型の好みについて詳しく」

 

「おぉっと、これは失念していた。今日は早めに切り上げて夕食の準備をしなければ。済まないが森まで行ってログアウトする!」

 

「アーチャーさん!」

 

「【仕切り直し】!」

 

非戦闘エリアの街中なのでスキルは発動していないが、まさしくそんな気分だと北に向かって全力疾走のスプリントをかますアーチャー。

 

途中で例の赤服達が、やたらと道の邪魔だったので悪いと思いつつも、前回ドレッドから学んだ跳躍方法で屋根から屋根へと飛び移って街を出た。

 

 

そして、

 

「くっ、すみませんミィ様。我々が至らないばかりに…」

 

謎の赤装束達はミィの周囲に集まると一斉にこうべを垂れて謝罪する。

 

「ーーー構わん。諸君らの奮闘、この目にしかと焼き付けている。……あの人材は確実に我らグループにとって利となる存在だ。次から本格的に勧誘を開始する!」

 

2人きりの時とは打って変わった凛々しいその姿は、内心の臆病で恥ずかしがり屋で、アーチャーによって引き出された甘えん坊な一面をまったく感じさせない見事な二面性だった。

 

その表向きのミィというカリスマの塊に惹かれて集まった信者…今はまだ単なるグループ構成員達は、今回の目的が単なる戦力増強だと信じて号令に従った。

 

 

 

 

 

 

後日。

 

北の森には死霊系モンスターが数多く生息? しており、攻撃が通りにくい物理攻撃しか持っていないアーチャーにとって鬼門に近い場所だった。

 

しかし、彼女のススメとあれば何か考えがあるはずだと粘り続けて双剣を振るい大型アップデート前日まで日付が経過した時、不意にメッセージが流れた。

 

 

【スキル:単独行動 を獲得しました】

効果:

一定時間周囲に味方判定がない場合、最大MP・DEX・STRが20%上昇。この効果は一度発動すればゲーム内で3時間継続する。

獲得条件:

単独かつ苦手属性のモンスターと交戦し続け、更に一定数を討伐するまでダメージを受けない。

 

 

【スキル:悪戦苦闘 を獲得しました】

効果:

自身に作用するバフ効果時間を2倍に延長する。

獲得条件:

与ダメージ1%未満の攻撃をモンスターに当て続ける。更に一定数を討伐するまでダメージを受けない。

 

 

 

「なるほど…確かにこれは有用だな」

 

思わず唸るアーチャーはモンスターからのヘイトを切ってから、歪んだ樹木に背を預けると内容を確認した。

 

この間にも武器種毎にダメージが微増する【短剣の心得】がⅠからⅤへ成長。

加えてモンスターのドロップ品を元に【矢作成・Ⅲ】で、中間素材であろう霊樹の矢を大量にストックするなど思い返せば、苦労に見合う結果が得られている。

 

残念ながらダンジョンらしき洋館は、隅々まで森を調べたつもりだが、発見出来なかった。北の森と称するだけあってエリアが非常に広大でほぼ走り詰めの毎日だっただけに、そこだけが心残りだ。

 

「そういえばミィの言っていた特殊系モンスターにも出会わなかったな…。偶に火柱が上がったり、燃え尽きた森林地帯を見かけたから炎系だとは思うのだが」

 

破壊痕から推察するにかなり強力な炎属性の攻撃を使うのが分かる。基本的にこのゲームは死に戻りを前提にしたゲームバランスなので彼にとっては警戒して正解と言える。

 

さて、ここらで切り上げるかと溜まったアイテムや稼いだアイテムで店売り品による装備で当面を凌ぐ事にしたアーチャーは帰路に着く。

 

攻撃さえしなければ襲ってこないモンスターをスルーしながら歩を進め、こういう時に帰還アイテムでも買っておけばと後悔した所で、足を止めた。

 

「ーーーーーー」

 

「ーー?ーーーーー!」

 

人の声らしき物音。それが聞こえたかと思えば急にアーチャーの背筋に悪寒が走った。

この前のような物理的不快感は感じないが、猛烈に嫌な予感がすると警戒を露わに身構える。

 

「ーーー! ーーよー!」

 

「ごめーー!」

 

間違いなく声の主はこちらに向かっているらしい。どんどん声と足音が大きく、そして同時に悪寒も大きくなっていく。

 

 

 

「【超加速】!」

 

 

 

その少女の声を聞く前に。

直感を信じて木々に飛び上がったアーチャーは、そのまま枝をバネにして距離を離していく。

 

その表情は固く強張っており、あのままでは長年の経験から碌な事にならないと信じるが故の行動だった。

彼は彼なりに自己防衛本能はキチンと働いているのだ。ただ刷り込まれた価値観の違いと偶にメイプル並みの頓珍漢をやらかすぐらいでどこにでもいる一般人だ。

 

少なくとも彼は自分をそう評価する。

だが、彼の生来のスキルは何時だって発動してしまう。

 

「きゃっ!?」

 

「っ…すまない!」

 

逃げるのに夢中になりすぎて、モンスターからも襲われない事から、高を括って警戒を怠ったのが原因で着地しようと地面に降り立つ瞬間、道行くプレイヤーと激突してしまう。

 

何故か、ポヨンとした感触で接触ダメージは発生しなかったが相手は衝撃で尻餅を突いてしまったようだ。

 

アーチャーは謝罪の言葉と共に手を差し伸べた。

 

「あっ、お気になさらずとも…ワタクシの不注意もありますから」

 

「いやいやそんな事は無い。こちらの不心得で驚かせた事、謝罪する。言い訳するつもりではないが、少々急いでいてね。注意が足りなかった」

 

「まぁそうなんですか…。確かによく見れば深刻そうなお顔。もし宜しければ、ご相談に乗りますよ?」

 

「ん? いや出会ったばかりの相手にそのような…」

 

「ふふっ、所謂ロールプレイ、といったら台無しですが、ワタクシ『聖女』と呼ばれるくらいには人のお世話をするのが好きな性格なんです」

 

純白の僧侶服と、何よりスタイル抜群の美女は茶目っ気のある笑顔でアーチャーと相対した。

普通なら警戒して然るべき会話だが、彼は不思議と…いや必然的に話を聞く事にした。

 

 

 

 

 

 

アーチャーは巨乳好きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか今、すごい腹が立ったけど気のせい?」

 

すんでのところでニアミスした相手。白峰 理沙ことサリーもまた、直感を信じるまま突然駆け出したのだが、その場所には誰もおらず、先程まで自分を悩ませていた死霊系モンスターも居なかったので、置いて来た連れのメイプルが追い付いて来るまでその場で待つ事にした。

 

「ひっ、酷いよサリー…! 私、足が遅いんだから置いてくの無しー」

 

「あはは…ごめんね。ちょっと気になる気配がしたから追いかけちゃった。まぁ外れだったんだけど」

 

「え〜…何がそんなに気になったの? 目当てのスキルは取れたんだよね」

 

今しがたサリーが使用した【超加速】こそドレッドが求めていたというスキルなのだが、アーチャーは取得出来なかった。

というのも、このクエストを開始するには

とある古屋の下にある隠し階段を見つけなければいけないのだが、初めて通り掛かった時には炎渦巻く危険地帯と化していたので以降もその場所をスルーしていたのだ。

どこの誰かとは言わないが、そこに必ず来ると網を張って待機していたにも関わらず、裏目に出ている悲しい少女がいるらしい。

 

「うん、スキルはこれでOK。後はちょっとしたお楽しみにメイプルを連れて行きたいんだけど…」

 

「え…何々、気になるー!」

 

「ふふふ。それは着いてのお楽しみって事で。それよりさメイプル」

 

「なぁに?」

 

「ーーー本当にアイツのプレイヤーキャラを知らないんだよね?」

 

「…そうだよー」

 

互いに笑顔は失わず、仲の良い親友同士の会話といって差し支えない態度。

けれども、もしここに他人がいれば体感温度があからさまに下がったと感じるだろう。

 

「探しても見つからなかった? メイプルなら本能で分かりそうなものだけど」

 

「あははー、そんな事無いってばー いくら私でも 見ただけでお兄ちゃんだ、なんて分かりっこないよ」

 

「まぁ…元の容姿から大きく変える事はしないだろうけど、顔を隠されたら流石に無理かな…?」

 

「そうそう、これから2人で見つけようねー」

 

「………なぁんか、さっきから余裕そうな態度じゃない?」

 

「ソンナコトナイヨー」

 

「まぁ…いっか。よし! それじゃあとっておきの場所にレッツゴー!」

 

「わぁい!」

 

気持ちを入れ替えて先頭を進むサリー。

その後ろでは速度の関係から歩みの遅いメイプルがニコニコと笑っている。

 

 

 

笑顔を絶やさず、思い出し笑いを続ける。




R-15版では、幽霊に取り憑かれたと主張するミィが火炎檻で閉じ込めたアーチャーに襲い掛かる悲しい事件でしたね。

大丈夫。精神に錯乱が見られると刑罰が軽くなるのでヤンデレでは無いです。

なお、真っ当に恋愛するならアーチャーはミザリー派です(爆弾投下)

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