ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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今話は浄化回。

関係ないけど最近、衛宮さんちのおうちごはんの本を買いました。

そういう事です。


第2イベとヤンデレのハイエース

第1層の地形を、緑深い森林に侵食された古都と形容するならば、今回の大型アップデートで追加された『第2層』は 石と平野によって構築された次の文明が切り開かれた時代。というべき世界感をしている。

 

緑が少ない代わりに広大な空き地や砂漠、荒野、雪山といった特殊な地形までもが点在。建築物の多くは第1層の木製から石造りで拵えられた直線的な造形が多く用いられ、言外に文明の発展を感じさせた。

 

この階層の特徴はそれだけではなく、街やその周辺には中世ファンタジーの世界からそのまま移設してきたような空き家が多い事から、マイホーム、もしくは自宅機能。更にはギルド機能が追加されるのではと噂され、プレイヤー達の期待感を大いに高めている。

 

そんな中、立方体型の建物が乱立する中央街の広場で一騒動が起こりつつあった。

 

1人は漆黒の重鎧に身を包んだ可愛らしい大楯使いの少女。

 

もう1人は周囲に取り巻きを従える凛々しき紅髪の炎使い。

 

彼女達は周囲の目を憚らず、声を張り上げている。

 

「そんなのおかしいよ! お兄ちゃん…じゃなかったアーチャーさんは貴方の物じゃないんだから、どこに居てもいいじゃない」

 

「確かに彼の自由意志は尊重されるべきだ。しかし無用な輩が足を引っ張るより、私の『炎帝ノ国』に属した方が必ずや理となる」

 

「ーーーーーー」

 

「遊びながらの方が絶対楽しいもん。そういう効率プレイ? の押し付けは良くないと思うな」

 

「仲良しこよしで遊びたいなら個人でやりたまえ。彼はトッププレイヤーとして恥じない行動を取るべきなのだ」

 

「ほらまた決めつけるー!」

 

「違う! 客観的事実だ!」

 

「ーーーーーー」

 

「何かアンタってば女難の相とか出てない? 大丈夫?」

 

「…フレデリカ。もし私を連れて逃げてくれと頼んだら」

 

「冗談。その場で【多重炎弾】かまして私だけでも生き延びるわ」

 

「なるほどクレバーな答えをありがとう。そして地獄に落ちろパートナー」

 

 

彼や彼女達が集まった理由。

 

それは第2回公式イベント『メダル探索』である。

 

解放されたばかりの新フィールド第二層『全域』を舞台に、あちらこちらに設置された銀のメダルを集めて10枚に達すれば『メダルスキル』をゲット出来るというシンプルな内容で開催されようとしている。

 

ただし、メダルを集める方法はただ探索を繰り返すだけでなく、プレイヤーVSプレイヤー。つまりPvPによる争奪戦が推奨されており、特に第1回イベント上位の10人は、10枚分の価値がある金のメダルがあらかじめ進呈されており、戦いを激化させようという運営の魂胆が見え透いている。

 

そして今回、イベントの開催期間は現実で2時間だが、ゲーム内で7日間まで引き延ばされる時間加速を実施。

つまりログインしたプレイヤー達は、ただ長時間ゲームプレイをするだけでなく、計画的な休憩や睡眠など体調管理の面も求められる持久戦の一面を持ち合わせていた。

 

「まったく…同じランキング入りを逃した者同士、コンビでも組んで他の連中を見返してやろうと思ったのに、何で所有物争いを見せられなきゃいけないのよ」

 

「悪いが私は何も知らされていないぞ…。ログインしたら既にああなっていたのだ」

 

街の広場で互いの主張を捲したてるメイプルとミィ。

 

その様子を物陰から伺う2人は地底湖の一件からフレンド登録を済ませていたものの、あまり絡みが無いまま時間が経過し、そのまま自然消滅するような関係だったのだが、第1イベントの結果から仲間意識が芽生えたフレデリカ側から、今回のイベントに対して前々から共闘を持ちかけられていたのだ。

 

アーチャーとしては当初、目の前で言い争う2人のどちらかがコンタクトしてくる物だと思っていたの対し、こうして現地で顔を(一方的に)合わせるまで何も連絡を受けておらず、少し不穏に感じつつも予定通りフレデリカと組む予定にしている。

 

…実のところ、両者共に『アーチャーが自分の所へ来るのは当たり前』なので改まって約束を取り付けなくても良いという気持ちが働いたのが真相である。

 

だが、少し遅れてログインしたアーチャーにとって、接点がない筈の2人が自分について言い争っているのか全くの不明であり、更に遅れてきたフレデリカにとっても厄介事が起こっているようにしか見えない。

 

「ていうか、報酬目指すならあの炎帝のグループに入ったら良いんじゃない? 別に私はソロでも頑張れるし」

 

「いや、女性からの先約を無下に断るなどしないさ。それに弓の仕様についてかなり修正を貰ってね、検証が終わるまであの集団に合流するのは時期尚早だと思っている」

 

「あぁ〜そういやアンタが大暴れして弱体化したんだっけ」

 

「…ニヤニヤ笑うのはよしたまえ」

 

今回アップデートにおいて、猛威を奮った一部のスキルについては修正や対抗策の追加が実施され、特にメイプルとアーチャーは大幅に性能が低下している。

 

特に頼りにしていた剣を矢として装填する【剣弾(ソードバレット)】は正式にスキルとして実装される事を機に、攻撃力は乗算から加算式に変更され、一気に威力が低下。

更にどんな武器であろうと一定量のMPを消費するタイプに区分けされた事で高速連射すら封じられてしまった。

 

加えて【仕切り直し】に付随する『敵反応をトリガーとする』スキル類も一律、効果範囲が5分の一程度まで縮小されて、以前のようにフィールドを飛び回るのが不可能になっている。

 

他にもここまでしないと他プレイヤーからの突き上げが激しいと運営が判断し実行した修正の数を列挙すれば暇が無い。

 

普通は気落ちして仕方のない処置だが、アーチャーの表情に曇りはなく、むしろそういった逆境に燃えるタイプなのでモチベーションは些かも失われてはいなかった。

 

そしてヒートアップする謎のアーチャー議論は運営のイベント開始を告げるカウントダウンが始まっても衰える気配はなく、アーチャー、フレデリカの両名は無言で頷きあって街を後にする事にした。

 

 

 

そんな2人の姿を目撃したとあるプレイヤーは、前々から噂されていたアーチャーの女誑し説をネット掲示板に書き込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきり言って、アーチャーの奴と組んだのは間違いだった。

 

 

確かに私が有能と判断した通り、メダル集めに関しては予想を超えて役に立ってくれた。

 

最初や数日は死亡によるリタイアを危惧して危険なダンジョンには立ち寄らず、フィールド上に点在する簡単な物から集める手筈だったが、やたら目が良いアーチャーは一見何もない岸壁を通りかかっても。

 

「…中腹辺りで何か光ったな」

 

湖を迂回して歩いていると。

 

「魚影に違和感を感じる」

 

更には

 

「あのモンスター。一匹だけ行動パターンが違うようだ」

 

どうやら違和感を感じる事に関しては一流らしく、私としては珍しく手放しで褒めたんだけど本人は遠い目をして「ーーー慣れたのさ」と話題を逸らされてしまい、ちょっと拍子抜けだった。

 

けど、メダル集めのペースはかなり順調で3日目の夜には目安である銀のメダル10枚を集めてしまった。

 

ここまでなら、私はコイツと組んで良かったと素直に言える。

 

だが、夜の睡眠を前にキャンプ地として選んだ岩場の影に隠れている現在。

安堵していた気持ちは、高まる警戒と反比例して薄らいでいく。

 

刻々と経過する時間の度に苛立ちが溜まり、無意識に握った両手のアイテムに力が篭る。

 

当の本人は、まるで慣れた物だと余裕の顔を浮かべているのが更に気に入らない。

 

一言で言うならコイツは女の敵。女性の尊厳を著しく損なわせる才能の持ち主。決して許せぬ男だ。

 

その最大の理由は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夕食は、じっくり煮込んだ牛タンのビーフシチューだ。付け合わせに白パンとライスのどちらを付けるかね?」

 

「両方!」

 

「うむ、健啖なのは良い事だ」

 

完全に餌付けされてしまった。

 

スプーンを握り締めた私の前に差し出されたのは、白い深皿にブラウンの光沢が美しいシチューがふんだんに盛り付けられ、大きめにカットされたタンが顔を出すご馳走の姿だった。

 

「ふわぁ…良い香り」

 

「冷めない内に召し上がれ。少し濃いめに作ってあるから、レモン水で適時、口の中をリセットするといい」

 

まるでゲームのアイテムとは思えない逸品に感動しながら、スプーンを差し込むと、ふるふると柔らかく煮えた牛タンが食べて欲しそうに私を見ている。

 

それを少しだけ息を吹きかけてから、口に入れると一瞬で広がるのは牛の持つ重厚な香りと、形が無くなるまで煮込まれた香味野菜がもたらす幾重にも重なった自然な甘み。

しかも歯で簡単に嚙み切れる柔らかさのタンからは、また別の旨味を醸し出し、舌の上で溶け出すとほどよい食感と共にアクセントを加えてくれる。

 

飲み込むのすら惜しいそれを存分に味わいつつ、今度は添えられた白パンに手を出して二つに割る。

ふっくら焼き上げられたきめ細かな生地から漂う素朴で柔らかな感触を手で感じながら、深皿に少しだけ浸して大きめに口を開けて頬張った。

 

「…っ!」

 

濃厚な味から一変。

ふかふかのパンと一緒に味わうビーフシチューは、どっしりとした食べ応えをもたらして、口の中を味で満たす満足感を与えてくれる。

 

「コクの秘密はバルサミコ酢だ。香り高い分、味も相応に強いのだが、牛骨から骨髄を追加してプラスの方向でバランスを取っている」

 

今度はお米を…。うん、ただの白米だけどバターライスみたいに手が加わってない分、こっちもドンドンの口の中に入っちゃう。

 

「酢の酸味は嫌われる傾向にあるが、煮込み料理にすれば香り成分が飛んで濃厚な味を演出できる。今回は君に合わせて長めに仕上げているのでお気に召すと思っているよ」

 

聞いてもいないのに、ウンチクを語るアーチャー。

 

素直に耳を傾けるのも癪だし、2人しかいないしで私は無言で平らげ続けた。

 

アイツも席について、ウンウンと頷きながら無言で夕食を囲む。

そこに目立った会話はないけれど、夜の帳が落ちて久しい物静かな環境がそうさせるのか、妙な安心感というか落ち着いた雰囲気で食は進み、結局2回のおかわりとデザートで出された固めのイタリアンプリンで締めて、女の天敵であるダイエットとかどうでも良くなる美味しい食事が幕を閉じる。

 

「今日も満足して貰えたようだな」

 

「…ふん、調子に乗らないでよね。まだエスニックとドイツ料理を食べるまで料理上手とは認めないんだから」

 

「ふっ、これは手厳しいな。では次からも精進するとしよう」

 

空いた食器をストレージに仕舞い、打てば響くような軽い言葉を交わして食後の紅茶を楽しむ。

 

暗い夜空の下、アーチャーたっての希望で焚き火を照明にした暖かい光に包まれてゆっくりとした時間が流れていく。

時折爆ぜる枯木の音をBGMに、ついつい瞼が重くなるような心地良さに意識が持っていかれそうになる。

 

「ふぁ…」

 

「寝るならキチンとシーツを掛けたまえよ。淑女の寝相など人に見せるものではない」

 

「うっさい…。でも、ちょっとだけ仮眠するわ」

 

「あぁ、おやすみフレデリカ。…明日の朝食はサーモンのパニーニか、エッグベネディクトのどちらにするか考えておいてくれ」

 

「……どっちも食べる」

 

手元にたぐり寄せたシーツから、頭上半分だけ出して答えた私は食い意地が張っているのを自覚すると、恥ずかしくなってそのまま床に着く。

 

アイツの反応をシーツの隙間からチラ見すると、ムカつく事に微塵も嘲笑う様子もなく子供を見守る母親みたいな微笑ましい表情を浮かべて、音を立てないよう明日の準備をしているようだった。

 

眠りに落ちるまでの数分間、私はコイツの事を考える。

 

口を開けば素の性格なのか、ロールプレイなのか皮肉めいた口調と余裕ぶった態度が目に付くけど、それ以外の口に出さない仕草は世話好きというか、お母さんというか執事のように尽くしてくれる性格をしていた。

 

まだ本格的な戦闘を行なっていないが、そちらの心配もない。

 

本人は弱体化著しいとか言ってたけど、とんでもない。試射として放った剣弾の威力は『確実に上がっていた』。

それにユニークシリーズを装備している事から、またおかしなスキルを身につけて、大惨事をやらかすのではないかと私は危惧している。

 

実際、料理のスキルを高める為、フィールドに200個の鍋を用意。モンスターの攻撃を避けながら調理し切ったらしい。

…もはや何かしらの儀式と疑われても仕方ない様子が頭に浮かぶ。

 

そろそろ意識を保つのが億劫になり始めた時、不意に思う。

 

この3日間で大分気心が知れてしまった相手であるアーチャー。

ゲームの中まで、男だの女だの気にしない質なので、普通の友達みたいな感覚で向き合えるのは正直ホッとする。

 

恋愛とか、色恋に興味が無い訳じゃないけど、そういうのはまだちょっと早いと思うし…。

 

うん。素直に認めるとゲームのフレンドというより、友達としても大歓迎の相手だ。

出会いは最悪だったけど、まぁ許してあげよう。

 

それに、まぁまぁ優良物件なので多少男女の関係を意識してあげても良いかな?

 

私はちょっとだけ頬が緩むのを感じて、暖かなシーツと焚き火の音を子守唄に、そのまま眠りへと着いた。

 

 

 

そして翌日。

 

 

 

目の前に広がっていたのは、散らばる銀のメダル10枚と。

 

視界一面が煤けた大地と燃え尽きた草木。

 

 

そして、アーチャーの姿だけが居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 




全年齢版では、ここの夜会話で恋人フラグが立って、はにかむフレデリカの一枚絵が表示されましたね。

大丈夫。彼女はコンシューマ移植版限定攻略キャラクターなのでヤンデレではないです。

アーチャー「(諦めの)答えは得た。大丈夫だよフレデリカ、俺もこれから頑張って行くから」
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