ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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今回は10000文字超え

無駄に戦闘描写が長いので注意してね

みんな大好きなあの台詞の所であれをBGMにするといい感じ(ふわふわ表現)




番外迷宮とヤンデレの「来ちゃった…」

全身に走る怖気を振り払って、アーチャーは即座に戦闘態勢を取った。

 

出逢ったばかりの相手から向けられる執着の心。

身に覚えがありすぎる焦燥感。

そして何より、普段の数倍規模で強く感じる危機感が、人生の中で最大級の警鐘を鳴らす。

 

このままでは絶対に不味い。その直感を信じて彼は叫ぶ。

 

「2人とも、 通路に避難していろ!」

 

「え…どうしたんですかアーチャーさん?」

 

「喋るモンスター…いやNPCか? ……痴女?」

 

いきなり聖杯の少女に向かって走り出し、用件だけを端的に伝えられたせいで困惑を隠せないミザリーもミィ。

特に少女のファッション。下半身がほぼ全裸という奇抜すぎるデザインを見て、率直な感想をポロリと述べてしまう。

 

その悪意なく呟いた一言が、彼女の逆鱗を逆撫でる。

 

「ーーーこの私をよりにもよってNPC? 原始人以下のお猿の分際で、舐めた口聞くじゃない。…あと痴女とか言うな!」

 

二言だった。

 

「避けろミィ!」

 

少女は聖杯を断崖の頂上に向かって蹴り上げると、そのまま刃のトゥシューズを垂直に構え、ギロチンの如く振り下ろした。

 

「ーーー【踵の名は魔剣ジゼル】」

 

空振りから放たれる衝撃波の刃。

岩盤を切り裂きながら地走るそれは、ミィの体を両断せんと殺到し

 

「【炎帝】」

 

逆巻く炎に呑み込まれて、霧散する。

チリチリと舞う残火に照らされて姿はよく見えないが、どうやら大事には至っていないと安堵するアーチャー。

 

「……なにこれ、意味分かんない。ちょっとこれどういう事! 私のスペック、ガタ落ちじゃない!」

 

己の攻撃を簡単に相殺されたのがよっぽど予想外なのか、少女は苛立ちを露わにして喚く。何処かに無線でも入れるように虚空を見つめて袖余りの片手を耳に当てる。

しかし、相手が居ないのか、もしくは居留守を使われたのか。

答えが返ってこない事を知ると、更なるフラストレーションを我慢出来ずに、足元の小石を蹴り飛ばす。

 

「ならば、好都合!」

 

その隙を逃すアーチャーではない。

 

「ッ!」

 

華奢な見た目をした相手にも関わらず、一切の遠慮も考慮しない渾身の力で双剣を叩きつける。

それを鞭のようにしならせた蹴りの横薙ぎで迎撃する少女。

 

そのまま何度も互いに得物を交差させ、一触即発の刃を合わせていく。

甲高い金属音と激しい火花。殺風景な大空洞に目も眩むような明滅が木霊し、剣戟の閃華で彩られる。

 

「このまま押し切らせてもらう!」

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

焦って力みすぎたアーチャーの隙を突くように片脚の刃で双剣を受け止めた瞬間、軸足を使ってジャンプ。

空中で身を翻すと、首筋を狙って両脚をハサミのように挟み込む。

 

急所を的確に狙った軌跡に、走馬灯めいたスローモーションの世界が訪れ、意識だけが先行して危機を知らせる。

圧縮された時間の中で身体は鉛のように重いが、何とか一小節の単語を口走った。

 

「【斬り払い】!」

 

ここがゲームの世界だからこそ。スキルによってオートで反応した五体は、致死の一閃を的確に弾き飛ばす。

 

バランスを崩した少女は、その斬り払いの反動を利用して後方へと距離を取る。

フワリと重さを感じない優雅な着地を決めて、彼女が信条とするバレエのプリマのように美しく脚を揃えた。

 

そして値踏みする顔つきでじっくりとアーチャーを観察した。

 

「……ふぅん。やっぱり見た目も強さもズレているのに、確かにそっくり」

 

ツラツラと、今までの邂逅で見せたアーチャーを評価する。

 

ーーー私の一撃を余裕で受けた、鋼の腕。

 

ーーー自身の身より仲間を守る、鉄の精神。

 

ーーー私を射抜く、鷹の表情。

 

 

「そして何より。貴方の理想は、『正義の味方』なのでしょう?」

 

「!」

 

「ーーーいいわ、とっても素敵! マスクデータを見ても同位体か良く分からないけれど… まぁそこは問題じゃないわ」

 

花咲く笑顔を恍惚に染めて、少女は自己紹介と共に宣言する。

 

「改めて名乗りましょう。

…私は『快楽』のアルターエゴ・メルトリリス。

 

詳細は面倒だから省くけど、はっきり言うわ。

…好きよ。一目惚れ。私の物になりなさい」

 

「…断る、と言ったら」

 

「あら、構わないわよ? その時は私の蜜でお人形さんにして、たっぷりじっくり蹂躙して調教するだけですもの」

 

アーチャーの頬を、リアル側でもゲーム側でも嫌な汗が零れ落ちる。

少女…メルトリリスと名乗った相手への心当たりが的中し、困惑しているのだ。

端的に言えば、彼女という存在を彼は前々から知っているし、弱点や性格も含めた詳細を把握している。

 

なにせ相手は『別ゲームに登場するボスキャラ』だ。

 

 

アルターエゴ・メルトリリス

 

華奢で可憐で、触れれば手折れそうな見た目に反して、高圧的な性格と尊大な態度を崩さず、どうしようもないほど強い加虐体質を持った反比例でアンバランスな少女。

 

剣を丸ごとヒールにしたようなトゥーシューズを愛用し、一切の手を使わずして戦闘を繰り広げる足技のバレエ。

 

唯一、手足の感覚が鈍く精密作業に向かない弱点があるが、ここでは役に立たない情報だろう。

 

しかしそれより重要なのは、なぜそんな彼女がここにいるのか。

運営が版権を取らずに実装した?

オマージュとして勝手にデザインした?

今までの装備名やモンスターの一部の特徴からして、いわゆる型月ファンの開発者の暴走というのが一番あり得る話だが、それだけでは足りない違和感の強さにアーチャーは苛まれている。

 

単なるAIとは思えない流暢な受け答え、感情に富んだ声色。プレイヤーというには余りにもかけ離れた精神性。

 

そしてまるで以前から関わり合いがあるような親近感…。

 

 

「ーーーいいや。私は『俺』だ。運営の悪趣味に付き合っていられるか!」

 

あくまで自分はロールプレイを楽しんでいるだけ。

無理やり納得し結論着けたアーチャーは、今度は弓を構えようと双剣をストレージに仕舞い込む。

 

そこを、その隙をメルトリリスは狙い澄ましていた。

 

「私、知ってるのよ。このゲームの中じゃ【スキル】が無ければ満足に武器の持ち替えも出来ないのでしょう? そんなに無防備でいられたら思わず突き刺してしまうわ」

 

瞬間移動めいた速さから放たれる音速の膝蹴り。

それは先端に仕込まれた鋭利な棘を凶器として、アーチャーの腹部へと真っ直ぐ迫る。

何とか回避を試みようとするが、【斬り払い】のクールタイムは完了しておらず、完全に虚を突かれた形で身体も追いつかない。

 

 

「【臓腑を灼くセイレーン】」

「【爆炎】!」

 

あわや直撃かという直前。

割り込むように飛び込んできた火球に邪魔されて、メルトリリスは技を中断。

蝿を払うように脚を振るうが【爆炎】のスキル効果であるノックバックで思わず後退る。

 

「…観客が無断で壇上に乗り込むなんて不躾が過ぎるわね」

 

脚の刃で轍を引いて、距離を離された事で態勢を立て直す。

その正面に対峙するのは紅髪を纏う炎で靡かせながら、一歩も引かぬ態度で立ち塞がる『炎帝』ミィ。

 

「…すまない。援護はありがたいが相手が不鮮明すぎる。ここは私が引き受けるから逃げるか、最悪ログアウトを…」

 

「ーーー許さない」

 

「え」

 

「あら」

 

「この人を好き? 好きって言った? わ、私だって告白してないのに? 先に一目惚れしたのは…私だもん! ーーー許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!」

 

そこに居たのは1人の修羅だった。

 

目尻に涙を浮かべて歯を食いしばり、零れ落ちないように必死に耐えているが、そこに込められたのは自らも焼き尽くしそうな憤怒の意思だ。

 

「あらあらあら、リップみたいな子供の癇癪だと思ったけど随分と拗らせているようね。…過剰な愛情表現は淑女として慎みなさいな」

 

「君がそれを言うのか!?」

 

メルトリリスの忠告に思わず突っ込むアーチャー。

その合いの手の如き軽妙さが、今度はミィの逆鱗に触れる。

 

思い出すのは第1回イベントで見せたメイプルという『他人』と仲良くしていたアーチャーの姿。

 

彼は悪くない。彼は素晴らしい人物で潔白なのだ。だから、そんな彼の価値も知らずに、無遠慮に近寄る卑しいアイツらが、全部悪い。全部憎い。

 

だから、私が、『悪い女』から守らないといけない!!

 

「【炎槍】!【炎槍】!【炎帝】!」

 

収束された焔のランスが、メルトリリスを貫かんとその身を掠める。

二連続の後に、今度は地面を迸る炎の範囲攻撃で眼前を火の海に変えて追撃。

 

そのどれもが避けられるが、頬を撫でる熱波に不快感を露わにするメルトリリス。

ファンでも無いオーディエンスの歓声なんて要らないのだけれど。聞かせるつもりの無い愚痴を零し、ミィを何処までも見下す。

 

「本当、暑苦しい。もっとクールになりなさいな」

 

「うるさい黙れ黙れ黙れ! 【炎槍】!」

 

 

「ふぅ…。ーーー【クライムバレエ】

 

 

並のプレイヤーならば一撃で焼き尽くすスキル。

それが回避も防御も行わないメルトリリスを『すり抜けた』。

 

その瞬間を目撃したアーチャーとミザリーは思わず叫ぶ。

 

「あれは…」

 

「そんな…確実に当たった筈です! どうして!?」

 

「……恐らく、当たり判定を消したのだろう」

 

「ッ!? それって…」

 

「あぁ…間違いなく違法行為(チート)だな」

 

アーチャーは今度こそ確信した。

 

あの【クライムバレエ】は受けたダメージを防御力で0にするのでも無く、まして寸前で回避した訳でも無い。

ゲームのシステム側から働き掛けて、どんな攻撃に対しても自分だけを『除外』するチートスキル。

 

原作の能力そのままが再現されているのなら、『ΝewWorld Online』という世界において彼女は文字通り『無敵の存在』として君臨してしまう。

 

(やはり彼女は記憶通りの性能。勝ち目など始めから……いや、本当にそうか?)

 

絶望の淵において、小さな引っ掛かりがアーチャーを引き留める。

 

(ーーーならば、なぜ1度目の【炎槍】を避けた? …それに彼女は今、わざわざ『スキル名を口にしていた』。)

 

諦め切れない気持ちから、仮定に次ぐ仮定を引き出し、確度を精査し、糸くずのように細い結論を出す。

原作と今プレイしているゲーム。もしもその両方が影響し合っているのなら。

 

(完全には能力を発揮出来ていない。更に言えばこちらのゲーム仕様に捕らわれて【スキル】として設定されているなら、確実に『あの隙』があるはず)

 

ミィとメルトリリスが互いに鎬を削る一幕にも満たない時間の中で、アーチャーは高速で思考を巡らせ、戦術を組み上げていく。

 

相手の戦力を計算し、こちらの手札、威力、特性。『周囲の環境』。利用出来る物は全て活用しろ。アレの規格外に真正面から付き合う必要は無い。勝利条件を満たすのに何が必要になる。

考えろ。考えろ…!

 

「アーチャーさん…」

 

心配するミザリー。

その様子に申し訳無さを感じながら、視線の先に見える大空洞への通路を見遣り、今までの道中を振り返って気が付く。

 

あの時、己はここをどのように説明されていたのか。

そうだ。このダンジョンならば、メルトリリスを打倒し得るピースが揃っている。

 

「ーーーミザリー嬢。すまないが頼みを聞いてくれるだろうか」

 

「え?」

 

パズルのように組み上がった戦術を実行する為、とある仕込みを依頼するアーチャー。これによりミザリーの戦闘介入は諦めざるを得ないが、この役目は彼女にしか頼まない。

 

「…本当にそれだけで良いんですか? そのお話なら火力で押し通す戦法も」

 

「可能性に賭けるよりも、確実にアレを倒しておきたいのだ。ーーー3分以内に頼む」

 

「…分かりました。ミィをお願いしますね」

 

「任されよう」

 

未練を無理やり背負い込んで貰い、ミザリーは来た道を引き返して行く。

 

その様子を見届けてから、ここからが本番だと気合を入れ直し、彼女に声を飛ばす。

 

「ミィ! これからメルトリリスを仕留める。私の指示に従ってくれるか!」

 

「当然だ! しかしMPポーションが残り少ないぞ」

 

激しい戦闘の合間にMPを回復しつつ、攻勢を緩めなかったお陰で手持ちがかなり減っていると告げるミィ。口調から判断するに、調子は戻って来ているがメルトリリスの無敵化を突破出来ず、攻めあぐねているようだ。

 

もし団員達が存命なら、アイテムを掻き集めてもっと余裕を持てたかもしれないと一瞬思うアーチャーだが、頭に浮かべただけで排除する。

 

「構わん。それと彼女の攻撃に絶対に触れるな。オールドレイン…レベルを吸い取られるぞ!」

 

「それはトンデモない…なっ! 【炎帝】!」

 

「ふーん、そっちもネタバレしてるのね。手頃なエサでもあれば、花を摘んでレベリングしておいたのに」

 

ただでさえチートを相手にしているのに、レベルドレインで基礎ステータスですら上回れたら完全に打つ手が無い。

トッププレイヤーであるミィならば、被弾のリスクは最低限まで抑えられて戦える。

 

ここから3分間。戦術を完成させる為、全身全霊を持った持久戦が始まる。

 

「先ずは30秒。【爆炎】で抑え付けてくれ」

 

「任された!」

 

「ちっ…煩わしいわね…!」

 

 

 

 

 

 

始めに確認しておこう。

 

このゲームの大前提として、弓使いは不遇であり更に弱体化している。

 

直近の修正により、例外の火力ソースであった【剣弾】の威力は十分の一未満に低下。

通常の矢ではDEX依存の攻撃力しか発揮出来ないので、STR型のアーチャーでは火力不足が否めない。

引き撃ちで時間を稼ぐのは愚策。

このままでは蹂躙される一方だろう。

 

だが、それでも彼は『剣を取り出し、番える』。

気の遠くなるようは激戦の果て、アトラス院で得たスキルとユニークシリーズ。

その両方を駆使して放つ、絶剣の一矢が存在する故に。

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー【投影】、開始(トレース・オン)

 

 

 

 

 

 

一拍の後。

 

開いた掌に現れるのは螺旋を象った剣。

断ち切る刃よりも叩き折る剛剣として生まれた、アルスター伝承に名高い英雄フェルグスの愛剣。

 

「ーーーーーー【投影】、重装(トレース・フラクタル)。【強化】【強化】【強化】【強化】【強化】………全工程完了」

 

スキル名を宣言する毎に、剣は細く鋭く整形されていく。

もはや持ち手は存在せず、切っ先だけに転じて貫く事に特化した『剣矢』。

 

「我が骨子は捻れ狂うーーー」

 

圧縮された破壊力を示すように。もしくはその詠唱に従うように。

五段階強化された矢を覆う赤黒いオーラは奔流となって暴れ狂い、暗い洞窟を不気味に明滅させて再び矢の元へ収束。

 

全力で弦を引き絞り、放つは破壊の螺旋。

 

ーーーこれ即ち。

 

 

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ・Ⅱ)!」

 

 

 

 

「!!」

 

メルトリリスを襲う暴虐の矢。

 

大型のモンスターであろうと容易く呑み込む攻撃範囲の一撃は、確実に彼女を捉えた。

余波で大空洞が鳴動し、パラパラと石粒が天井から落下する。

その威力に思わずミィが喜色を浮かべるが、砂埃から現れるシルエットに目を見開いた。

 

 

 

「…相変わらず、油断ならない相手ね。無銘」

 

 

 

それでも今まで通り、無傷で現れるメルトリリス。

その姿には微塵の損傷も見当たらず。()()()()()()()()()()()()()以外、異常は無い。

 

「………」

 

その様子を観察するアーチャーは、今しがた放った一撃を思い返す。

 

 

 

【投影】

効果:

所持した事のある武具やアイテムの耐久度を10分の1にして、

3分間、複製品を生成する。

使用時に任意の詠唱が必要。

習得条件:

武器の耐久度を3000回以上0にした。

 

 

【強化】

効果:

武具の効果を一定時間2倍に上昇。

ただし、使用後の性能が永続的に2分の1。

使用MPは対象の耐久度が低いほど低減される。

習得条件:

1回のボス戦で攻撃回数が10000回を超える。

 

 

そして【強化】のスキルは乗算による重ね掛けが可能。

五段階強化ならば、その威力は 2×2×2×2×2=32倍となる。

 

ただしここまで強化するとMP消費も跳ね上がり、マトモなキャラクタービルドでは使用すら覚束ない。

 

しかし【投影】によって発生するデメリット、耐久度が10分の1になる仕様が、逆にMP消費を低減する結果となり。

今のアーチャーでも最大5回まで耐えられるようになった。

 

この連携スキル一連を『重装(フラクタル)』と名付け、剣弾から『剣矢』へと昇華させた威力は間違いなく、並のボスモンスター程度ならば絶死に値する。

 

 

 

 

それは無論、当たればの話であるが…。

 

「さて、いつの間にか駄肉が1人いないようだけれど、貴方もこのまま主演を置いて逃げてしまうのかしら?」

 

「いいや、ここで演目は中断だ。月の裏までお帰り願おう」

 

「あら、つれない。 恥ずかしいなら個人的なカーテンコールも受け付けてるわよ?」

 

「貴様ァ!!」

 

「落ち着きたまえミィ。……私が指示を出すまでこのまま【爆炎】で時間を稼いでくれ」

 

怒りのあまり、とうとうスキルも使わず炎を燻らせるようになったミィに若干引きながら、アーチャーは自前のMPポーションを消費して次弾に備える。

 

「ーーーーーー【投影】、重装(トレース・フラクタル)。【強化】【強化】【強化】「させる訳ないでしょう!」

 

装填作業中の隙を突いて、ミィの攻撃から抜け出したメルトリリスはカラドボルグを蹴り砕く。

この連携スキルの弱点である『耐久度が低すぎて、矢以外使い道が無い』点を間髪入れず、突かれてしまう。

 

「随分脆いのね。そしてもう一発逆転の準備時間なんて与えないわよ!」

 

「チィッ!」

 

「無駄よ無駄無駄! 私に【クライムバレエ】による無敵化がある限り、貴方達に勝ち目なんて無いの!」

 

そこからはフィルムの焼き回しのように、繰り返した戦闘が続くのみだった。

 

ミィが爆炎を撃ち込み、何とか切り替えた双剣で前衛を担うアーチャー。それを軽々と避けては時折、無効化するメルトリリス。

彼の顔には苦虫を噛み潰したような苦渋が見て取れて、先程の威勢のいい台詞は何処へやら、と大変機嫌を良くする。

 

この状況。勝ちの決まった退屈な時間にも思えたが、徐々に獲物を追い詰めていく静かな高揚感が、彼女の内なる加虐体質を刺激して無意識に膠着状態を継続していく。

特に何より長引かせている理由は。

 

「もっと頑張りなさいな。気を抜くと彼をそのまま持ち去ってしまうわよ」

 

「さっきから、やらせないと…言っている!」

 

「尊大な口ぶりなのに、中身はまるで雛鳥ね。お家に帰って似た者同士、マトリョーシカと遊んだらどうかしら? それともイースターエッグ?」

 

「子供扱いするなぁ!」

 

「ウフフフ、あらやだ化けの皮がもう剥がれてるわよ。ほらほら頑張って? 役者を目指すなら舞台を降りるまでが仕事じゃない」

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅぅぅ!!」

 

1人はオモチャ扱いされているが、改めて2人の相性は最悪だった。

 

戦う手段は。

灼熱を扱う炎使いのミィと、水を司り溶け混ざるメルトリリス。

 

愛する相手を。

自由にする代わりに他の全てを排除するミィと、自分と彼だけでいいと閉じ籠るメルトリリス。

 

零れ落ちような恋心。

内に秘めて解放の時を待つ二面性のミィと、激流を垂れ流す裏表なしのメルトリリス。

 

どこまでも反対で、対岸の鏡のような歪で逆しまな立ち位置。

自然とそれを自覚している2人はある意味で波長が合っており、舌戦めいた会話を、戦いの合間に何度も挟む。

 

 

 

そして遂に、アーチャーが待ち望んだ報せが耳を打った。

 

「アーチャーさん! 準備できましたわ!」

 

息を切らせたミザリーが再び横穴から顔を出し、大空洞に戻って滑り込む。

 

「…貴方、諦めて無かったの?」

 

「当然だろう。…逆に尋ねるが君の言う『正義の味方』とやらは、命乞いでもして逃げるのかね?」

 

「口が減らない男。人形にしたら、まずは口を縫い合わせましょうか」

 

「それは御免被る。 ミィ、指示があるまで爆炎を待機だ!」

 

「分かった!」

 

「そういう密談は秘めて然るべきではないかしら」

 

呆れるメルトリリスを他所に、双剣を携えてアーチャーは切り掛かる。と、見せかけて。

 

「ーーー【投擲】!」

 

「!」

 

普通に避けられる攻撃ならば、メルトリリスは虎の子である無効化スキルを温存して使用しない。

そこを狙ってアーチャーが飛ばすのは、陰陽を象る夫婦剣。

内包された【投擲】のスキルによって、威力が高まったそれはアーチャーの技量もあって、左右から挟み込むような軌跡で彼女を襲う。

 

その特殊な身体の構造上、メルトリリスは手足の感覚が鈍く、特に手を使った戦闘行為が出来ない。

故に今まで脚だけを頼りに技を駆使していたが、絶妙なタイミングで迫る双剣の対処は限られる。

避けるか、迎撃するか。…スキルの使用は以ての外。

 

ここでメルトリリスが選んだのはーーー迎撃。

ここまで散々邪魔されたノックバック効果がある【爆炎】を警戒し、双剣をピルエットの回転で二つ纏めて蹴り払う。

 

「そう。警戒せざるを得ないな、メルトリリス」

 

「!」

 

目の前に現れたのは、長剣を振り被るアーチャー。

ちょうど背面を向ける角度の彼女は、残った遠心力を殺さず更に回転。接触の瞬間、甲高い鋼鉄の悲鳴が上がる。

 

「ここに来て、また力押し。それでは余りにも芸が無いのではなくて?」

 

アーチャーが振るったのは【投影】無しのカラドボルグ。

干将・莫耶を投げ捨てた隙に装備した、彼にとって唯一手持ち武器として使える武器だ。

だが、幾らユニークシリーズとはいえ、この武器だけでは状況を打破し得る性能を持ち合わせてはいない。

現に僅かでも拮抗が破られたならば、彼女は返す刃で首を跳ねる気満々で身構えている。

 

だからこそ、

 

「今だ!」

「【爆炎】!」

 

メルトリリスをその場に固定して、無理やり【爆炎】を当てる。

向かう先は罠がある横穴の方向。

それが分かっていても、この状態ならばきっと回避出来ないはず。

ミザリーは息も絶え絶えながら、自分達の勝利を確信し、

 

 

 

 

 

「【クライムバレエ】」

 

 

 

 

 

全ては無情。当然のように無敵化ですり抜けて、

 

 

 

 

 

ーーーだからこそ、アーチャーは長剣を手放した。

 

 

「は?」

 

突然の行為に、間抜けな声を晒すメルトリリス。

 

突き出されるのは、無手の右。

 

密着する距離で、彼女の胸に押し当てるように掌を開く。

 

 

「先程、落ちる砂を払ったな? それはつまり【クライムバレエ】の効果時間が一瞬しか無いという事」

 

「…それで? この状態からどう」

 

するつもり。

そう告げるはずが、突然の衝撃で意識が刈り取られる。

 

「ーーー停止解凍(フリーズ・アウト)。この質量、避けられまい!

 

 

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)!!」

 

 

 

「ガッ…!?」

 

掌から怒涛の勢いで出現するのは極大サイズの大剣。アトラス院で手に入れたもう一振りのユニークシリーズ。

刀身の幅だけでも10mを優に超える果てなき刃渡りはメルトリリスに突き刺さり、その細い身体を横穴に向かって吹き飛ばす。

 

この武器は見た目に反して『張りぼて』であり、攻撃力は初心者の長剣にすら劣る。

ノックバックの効果も無いが、それでも巨山の如き圧倒的な質量は健在であり、彼女を通路に向かって押し遣るほどに巨大である。

 

「舐め…るんじゃ、ないわよぉぉぉぉぉ!!

【王子を誘う魔のオディ

 

「この武器の特性は『破壊不可』でね。それは【投影】した後も変わらない」

 

「くっ、こんな子供騙し【宝具】さえ使え……うっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

メルトリリスが向かう先は通路の奥。そこに何が待ち受けているのかという恐怖を、今更ながら自覚した彼女は必死に抵抗するが無意味だった。

 

「ーーーさらばだ、メルトリリス。また会う機会があれば、愛らしい君とは剣ではなく言葉を交えたいものだ」

 

「!」

 

この【投影】は『重装』より前、1度目のスキル発動時に、既に布石として用意しておいた一撃。

いつでも取り出せるよう、アイテムストレージに保存しておいた本当の切り札だ。

 

そして、即興で組み上げた戦術が導く先にある物とはーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

『破壊不可能オブジェクトのナメクジ』

 

 

 

「ひっ!?」

 

生理的嫌悪を催すのもそうだが、このナメクジはメイプルのような頭のおかしいプレイヤーに破壊されないよう運営が用意した『触れる物を無条件に消し去る』特殊な効果を持ったシステム側の存在である。

 

「いや、ちょっと…待ちなさいよ! 嘘でしょ、ねぇ!」

 

それは即ち、メルトリリスと同格の存在であり、【クライムバレエ】のようなチートでも使用して相殺しなければ、防ぐ手段が無いという事でもある。

 

「こんな終わり方、あり得ないってば! 本当、無理無理無理ぃ! 軟体生物とか絶っっ対に無理なのよぉぉぉぉ!!」

 

スキルのクールタイムで無抵抗になるしかない彼女は、避けられない衝突による己の敗北より、精神的トラウマに直面していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

 

 

 

 

遠くで聞こえるメルトリリスの絶叫と、ぶちゅりという不快な擬音を合図に勝利を確信し、地面にヘタリ込むアーチャー。

 

それは最後まで戦い続けたミィや、ナメクジを誘導して疲労困憊のミザリーも同様だった。

全員が指し示したかのように座り込み、誰も声を掛ける余裕すら無い。

荒々しい息を吐いて天を仰ぐ。

 

その視線の先には出口である穴から、いつの間にか月の光が差し込み、長い時間の経過を教えてくれた。

 

「何とか…勝ったな」

 

そう呟いて、いつもの癖で瞼を閉じる。

思い返せばおかしな話で、やたら再現度の高いメルトリリスだったが、コアなファンの開発者による冗談で実装した賑やかしのモンスターだったに違いない。

 

普通に考えて、あんなトンデモ話のキャラクターが実在するはずないのだ。

 

ロールプレイにハマり過ぎて、良くない傾向かも知れないな。

最後に余計なキザ台詞を吐いてしまったし、自己嫌悪が凄い。

…暫くはリハビリがてら、ゲームから離れてみるのも選択肢だろう。

 

そう思って瞼を開け、同じように座り込む2人に声を掛けようと姿勢を変える。

 

そして目の前に現れたのは。

 

聖杯と銀のメダル20枚。加えて…

 

 

 

 

【スキル:女難の相・EX を獲得しました】

効果:

率直に言って女の敵では?

獲得条件:

正式に実装しておきました❤︎

 

 

【メルトリリスの卵 を獲得しました】

効果:

温めなくても孵化する。

獲得条件:

あ、このアイテムは呪われているので捨てられませーん♫

 

 

 

 

 

 

アーチャーは金色の粒子になって消えそうになった。




R-15版では、アーチャーを半分に切ったら何処を取るかで、はしゃぎ合う微笑ましいシーンでしたね。

大丈夫。肺は二つあるので分け合えます。つまりヤンデレではないです。

このメルトはCCC準拠なのでロリです(強めの発言)
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