ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
アニメ化された第四回イベントで作品を一区切りするつもりだったので、ちょっと展開が遅いかも。
だから二期はよ(切望)
身捧ぐ慈愛のクエストは非常にアッサリと終わった。
NPCに指示された場所へ移動し、アイテムを持って帰るだけの簡単なお使い…になってしまったのだ。
本来はしらみつぶしに場所を探すか、ヒントを集めなければ目的地が見つからない探索型のクエストだったはずが、メイプルがリアルラックを発揮&空からの見晴らしで、アッサリと見つけてそのまま終わりを迎えてしまう。
クエスト完了と新たなスキル獲得に喜ぶ彼女を他所に、アーチャーは自分のアイコンだけに表示されたエクストラクエスト【七つの円環】を改めて見る。
何かしらの条件を満たしたからこそ選択肢に現れたと思うが、今までのクエスト名である博愛の騎士から妙に浮いたタイトルと、見覚えのあるネーミングセンスに違和感を感じずにはいられなかった。
「お兄ちゃんはそれを選ばないの? わたし、まだ戦えるよ」
ここまでほぼ戦闘が無かったメイプルは回数制限のあるスキルも殆ど残った状態であり、申告通りほぼ万全に近い。
アーチャーも戦闘で使用した武器は全て投影品なので損耗は無いが、【投射】のスキルを試す内にMPポーションが枯渇してしまい、そちらの買い足しが必要なくらいだ。
「勘繰りすぎても仕方ないか…。よし決定を押すぞ」
意を決して、ポチリとアイコンをタッチする。
しかし予想していた母親や娘に変化は見られず、特別なメッセージが流れたりもしない。不審に思っていると突然、母親の口が開いた。
「S5168.N1150」
「えっ、いきなりどうしたのこの人」
「これは…もしや座標か?」
マップを開きグリッド表示に切り替えて、十字に切り分けられた枠から位置を精査するアーチャー。端的な情報だけなので時間は掛かったが、どうにか目的の場所らしき地点を突き止める。
その間、暇だったメイプルは【身捧ぐ慈愛】のスキル効果を確かめる為に金髪になって羽根を生やし、シロップと遊んでいた。…どうやら頭を使う部分で力にはなる気は全く無いらしい。
というか頭は悪くないだろうとリアル側なら突っ込むところだったアーチャー。
「ここは…特に何も表示されないが地形的にはダンジョンの入口といった所か」
「うーんやっぱりバグ? でクエスト事態がおかしな感じだね」
確かにと返事をする。
ただ、このクエストの進め方自体が反則ギリギリの行為を連発しているので運営が一方的に悪いとも言い出せない。
何らかのフラグを踏み忘れて仕様外の挙動を招いたかもしれないという自責の心が今にして頭を過ったのだ。
万が一失敗に終わっても文句は言わないよう心に誓う。
「取り敢えず、買い物だけ済ませて現場に向かうか」
「はーい!」
短い期間に何度も出入りした家を後にする2人。
メイプルはシロップの上で密着する時間が長かった影響で、アーチャーにくっつく事に安心感を覚え、抱きつくように腕組みを強要してくる。
他者から見れば仲睦まじいカップルにしか見えない様子で路地裏を抜け、大通りへ出たところを横切るプレイヤーと衝突してしまう。
互いの不注意が招いた偶発的な事故だったが、姿勢を崩したアーチャーとは違い、相手は既に態勢を立て直して何か気になる事でもあるのか。じっと立ち尽くしている。
「おっと、すまない。大丈夫かね?」
「ーーーえぇ、さっきまではね」
「? 何を言って……ぬわっ!?」
「お兄ちゃん!?」
咄嗟に出た謝罪の言葉もままならず、眼前に突き立てられたのはクリスタルの短剣。
PK行為が禁止された街中という事もありダメージは無い。しかしその刃を振るった人物に問題がありすぎた。
「…まるでデートみたいね。私、驚いちゃった。本当に」
「き、君は…えぇとその。前回のイベントで出会ったプレイヤー…だったな、うん。取り敢えず刃物を降ろそう、降ろして下さい」
そこにいたのは見間違えるはずもない、サリーの姿。そして眼光。
あまりの恐怖に、普段のロールプレイから少し素が出た態度で落ち着かせようとするアーチャーだったが。
サリーの瞳は完全にハイライトを失っており、平坦な声色とは真逆に渾身の力で何度も短剣を突き刺そうとしている。
流石のメイプルも慌てて抱きつきを解除し説得を試みるも、まったく聞こえていない様子で、ひたすらアーチャーだけを見つめて視線を離さない。
「ねぇ私や楓の事はどうでもいいの? 良くないよね? そんな女相手に親しげにするなんて…私、捨てられたのかって、勘違いしちゃうじゃない」
能面のような顔つきで、それでいて泣きそうな雰囲気を醸し出すサリーの様子に思わず息を飲む。いつもは明るい、たまに異様な執着を見せる事はあっても、悲しむ姿をほとんど見せない友人の姿にたじろいでしまう。
最後に短剣を大きく振り被り眉間を突き刺す仕草から、崩れるように彼へ寄りかかるサリー。
顔は伏せられてどんな表情をしているのか、彼からは分からない。
けれどもここで声を掛けなければ、取り返しのつかない事態になると直感し、今にも消え入りそうな彼女の肩を抱くと。
「すまない………この子はメイプルだぞ」
真実を告げてしまう。
「………え?」
まさかの答えに、手の中でピクリと震えるサリー。
「えっと…サリー、聞こえてる? わたし何が起こってるのか良く分からないんだけど…取り敢えずどこかで休憩でもしよっか」
顔は上げずとも、その声だけで相手が親友のメイプルと気が付いた彼女は石のように固まり、勘違いの恥ずかしさともう一つの理由で動かなくなった。
確かにメイプルを他人と勘違いして襲い掛かったのは不注意だった。
しかし、何よりまずいのは今までバレないよう、そっと好意を伝えた事はあっても、青年本人には黙っていた想いを遠回しにとはいえ吐露してしまった事。
彼女の乙女心は決壊寸前まで追い詰められてしまう。
その変化を手触りからも感じとったアーチャーは、命の危険から逃れた安心感と勘違いさせた申し訳なさ、そしてあえて伝わらないようにしてきた彼女の気持ちを鑑みて、つい思ったままを口走る。
「ーーー俺は、お前達を置いて本気で何処かにいったりしないから。だから…泣かないでくれ」
演技も立場も誤魔化さない、青年のままの一言を少しだけ抱き締めながら伝える。
それを抵抗もなく受け止めた彼女は顔を真っ赤にしながらも、僅かに震え「ありがと…」と、ギリギリ聞こえない大きさの声で呟くとそのままログアウトしてしまった。
「え、えっなに? 何が起こったの?」
「…まぁ、あと10分もすれば頭も冷えて帰ってくるだろう。それまでメイプルは普段通りにしておくんだ」
「んん〜?」
ここで詳細を話すのは野暮だろうと、メイプルを無理やり納得させて帰って来るであろう時間まで暇を潰す。
このNWOの世界に没頭してからそれなりに時間が経過し、リアル側で会わないからこその関係やコミュニケーションの取り方がある事を知った。
この日からアーチャーは…いや、青年は幼馴染と友人の関係性を壊さないよう、あえて地雷原の上で過ごすような日々を送ってきたが、そろそろ『道』を決めなければと思うようになる。
「いやーゴメンゴメン! てっきり別の知り合いだと思って勘違いしちゃった! あやまるわー」
「いやいや、こちらこそ訂正が遅くなって悪かった。以後気をつけるとしよう。HAHAHA」
「…2人ともワザとらしくない?」
「気のせいよ」
「気のせいだな」
あの後、戻ってきたサリーは騒がせたお詫びとしてクエストの協力を申し出た。
途中参加の為、報酬は貰えないがせめてもの罪滅ぼしだと、たまたま偶然買い込んでいたというMPポーションと【クイックチェンジ】のスキルスクロールを無理やり渡して話を強引に打ち切り、シロップの上に同行している。
「それで貴方の事はアーチャーさん、でいいのかしら?」
「……いや呼び捨てで構わない、敬語もいらんよ。ただし私はただの『弓兵』、アーチャーだと認識しておいてくれ」
「ん、分かった。ーーーでも…確証が取れたら黙ってた制裁として刺すね」
何故か、うっとりした表情をみせるサリー。
「…その青年が可哀想だから辞めたまえ」
「ふふっ、うーそ!」
いや実際の現場になったら刺すつもりだろうと、半目で疑うアーチャーはやっぱり自分から言いだすのを辞める事にした。
流石にサリーの前では存分に甘えるのが恥ずかしいメイプルはそんな2人のやりとりを少し離れた位置でチラチラ見ながらふと思う。
(何だろう…?お兄ちゃんとサリーが仲良くしてると、何だか胸がつっかえてくる。ご飯、食べ過ぎたのかな?)
今まで後回しにしてきた感情が今更になって湧き上がってきたのか、しかしそれでも潜在的に『兄妹』という長年の括りが消える事を恐れて深く考えられないメイプル。
それでも真横に2人がいる以上、嫌でも会話は耳に届き、モヤモヤを拭い去ることが出来ないまま移動時間を過ごす。
今までこんな事はなかったのに。
どうして今になってこんな気持ちになってしまうのか。
「か〜め〜?」
「ご、ごめんねシロップ! 何でも無いの」
心配するペットに両手を振ってアピールするも、何だかそれさえ虚しく感じて来る。ついさっきまで2人で楽しく遊んでいたのに全てが台無しになった気分。
いつもだったらお兄ちゃんが慰めてくれるのに今はサリーが独占しちゃってる…。
心の中で靄が揺らぎ、2人が気付かない内に彼女の心に陰りが見え始めた。
その感情を正面から『嫉妬』として認識出来ない彼女は
この時確かに、愛を渇望した。
そして三者三様の考えのまま、一向は目的地に辿り着いた。
何があるか分からない為、シロップは空中で待機している。
「洞穴なのかな? 何処で見たような…」
「あっ、ここって第二層に来る時に通った階層ボスのダンジョンと雰囲気が似てるわ」
座標だけが記されたその場所は、苔むした岩壁に重機を無理やり抉ったような亀裂が走る大洞窟。
砕けた岩がそこかしこに散乱し、入り口に通じる一歩道以外はまるで通れそうも無い。そしてそれは岩戸を障害物に侵入者を拒んでいる。
「これは…どういう事だ? 座標か私が間違っていたのか、それともバグか…」
「うーん、取り敢えず探索って事で」
あのメッセージだけではこの付近という事しか分からない。
三人掛かりで、あちこち探すが一向に成果は上がらず、もしかしたら次の階層が解放されたタイミングで達成出来るかもとサリーが思いついた時。
「あっそうだ!」
メイプルが必ずやらかす時の声を上げて、大洞窟を塞ぐ岩戸の前に立った。
「メ、メイプル? 何をするつもりなの?」
「えっとね、たぶんこの先に入口があるはずだから…シロップ、【精霊砲】!」
間髪入れずに地形オブジェクトに叩き込まれたのは極太のビーム。
思わず目を瞑る眩しさから一瞬の後、期待に満ちたメイプルの表情とは裏腹に、まるで傷ついた様子の無い岩戸に肩を落とす。
因みに、彼女にもビームが直撃したが痛がる様子はどこにも無かった。
「あはは…流石にメイプルでもそんな力押しじゃ…」
「なるほど、そういう方向性もありか」
「え、待ってなんでアンタが納得顔してるの」
アーチャーもまた妙案でも思いついたのか、岩戸の前に並んでメイプルに何事かを呟く。すると彼女も疑問を挟む事なくある程度離れた位置まで走り去ると、宙に浮かんだシロップを更に遠距離に配置して準備完了を示すように大きく手を振る。
「ではいくか…イガリマ!」
岩戸の下に挟み込む角度で巨山剣を呼び出すアーチャー。
それはすぐさま先端が突き刺さると、残りの刀身を出現させるべく後方へと伸びて姿を現わす。
その刃の中間地点にはメイプルが両手を上げたまま待機しており、重力に従って落ちて来たそれを、常識外のVITに物をいわせた耐久力で受け止める。
「な、なにをしようしてるの…?」
恐る恐る聞くサリー。
「なぁに簡単な……テコの原理だよ」
作用点は岩戸。支点はメイプル。
そして力点となるのは、遥かに上空で待機していたシロップが巨大化したまま落下する事で生み出される。
冗談のようなスケールの巨大シーソーは、その倍増どころでは済まない超荷重を岩戸の下で激しく発揮。不自然すぎる微振動を繰り返したと思えば、コルクを抜き去るようにシュポーン!と岩戸がカッ飛んでいった。
「よし」
「………えぇ〜」
実行犯達は科学の勝利だと思っているが、実のところは破壊不可属性のイガリマと岩戸が干渉し合った所に、シーソーが生み出す力から数え切れない回数と密度の接触判定が発生し、バグを起こして座標ズレが生じたのが原因である。
岩戸は元々、第三層開放時に撤去するだけの手抜きオブジェクトとして配置していたのが仇となった結果だろう。
天然かつ思いもよらない方法で、ギミックをゴリ押しクリアするメイプル。
天然でおかしな方法を思いついて、バグや不具合を引き起こすアーチャー。
1人だけでも運営を悩ませる問題児達は今日も予想外をしてのける。
「あーまぁ…結果はともあれ、進む? ここまで来て帰るのも何だし」
「うんうん。私達三人からどんな相手でもへっちゃらだから大丈夫!」
無理やりこじ開けた大洞窟に侵入する三人。
やたらと意気の高いメイプルを先頭にして奥へと歩を進めていく。
彼女の言う通り鉄壁のメイプルに、PSお化けで今まで被弾0のサリー。条件付きで最大火力と防戦に優れるアーチャーならば、並大抵のボスモンスターだろうと初見で相手取れるだろう。
狭い場所での戦闘を考慮しての慎重に進むが、どこまで行ってもモンスター一匹すら出現する気配がない。
それどころか、どんどん周辺がシンプル…簡素な見た目に変わっていき、道端の石ころや草木も生えず、なだらかな面だけが通路を形作っている。
そして一行が自然と足を止める場所にはもう『地形』すら存在しなかった。
VRMMOが誇る現実のような外観を全て抜き去り、原色と発光体が正方形を組んで規則正しく整列。
二次元の線だけで編まれた三次元の構成物は一昔前のSFのようなデジタルエフェクトを思わせる。
宇宙色の見果てぬ空間に迷い込んだ三人は、自分達が今何処にいるのかさえ曖昧な認識に苛まれて茫然自失となった。
アーチャーは頭の隅で、ここが未開発エリアだと予想しつつ、もう一方で危機探知の警鐘が鳴り響く予兆に、身震いして視線を左右に動かす。
左にいるサリーは困惑しながらも、既に短剣を構えていつでも動けるよう注意を配っていた。
そして、右に動かしてみると立ち尽くしていたメイプルが、虚空を見つめながら、うわ言を呟いている。
「あなたは…だれ? あなたは、どこにいますか? せまいのは、きらい。もっと…もっとおおきく……あなたはーーーどこにいる?」
「メイプル!」
「ーーーうひゃあ!? な、なにお兄ちゃん!」
「今、完全に我を失っていたぞ…。自覚はあるか?」
「え、そうなの…?」
「大丈夫、メイプル? ここに来る前から体調が少し良くなかったでしょ。無理したら駄目よ」
心配してくれる変わらぬ2人に安心しながら、多少の虚勢を張って元気さをアピールする。
今は少しでも2人と一緒に居たいからだ。
「…この怖気。何も居ないはずは無いが」
「見て、あそこ!」
どこまでも続きそうな平面で組まれた空間に、突如として立方体のポリゴンが現れ、攪拌されるように混ざり合いながら1つの生き物を形作る。
金色の毛並みにスラリと伸びた肢体。四足と九本の尾を備えた巨大な獣。ーーー本来ならば第五層への道に立ち塞がる階層の主。
『九尾の狐』が三人の前に姿を現した。
「ここのボスかな?」
「たぶんね。…でもヤバい雰囲気がビンビンする」
そんな事を知る由もないメイプルとサリーは、これがクエストの達成条件だと思い込み、それぞれが盾と短剣を構えた。
当然それに倣って弓を装備するアーチャーだったが、未だ鳴り止まない警鐘を訝しむ。
そして、それを証左するように声が掛けられた。
「お前さんの相手は、その稲荷様じゃねえよ」
いつからそこに居たのか、背後から姿を見せたのは和の着物を纏う1人の『白鬼』だった。
着崩した格好とは裏腹に視線は鋭く、肩に担いだ抜き身の刀をダラリと持っているが、隙は一切感じない。
そんな達人を思わせる立ち振る舞いは余りに滑らかで、まるで人のような息吹を感じさせた。
ーーーこちらもまた、本来ならば第四層の難敵として立ちはだかるボスモンスターだ。
「ただのNPC…という訳では無いようだな」
その見た事もない風貌に警戒心を募らせる。
脳裏に過ぎるのは、つい先日現れたアルターエゴを名乗る1人の少女。
また頭を痛めるような厄介事が舞い込んだのかと顔を顰めるが、男はあっけらかんと言い放つ。
「あん? 何を勘違いしてるのかさっぱりだが、お前さんが挑むべきなのはこっちだ、こっち。只の隠れ蓑に気を取られすぎんな」
「なに?」
「詳しい理由なんざ聞いちゃいねえが、どうも戦って実力を計るのが仕事なんでね。ーーーこの
カチャリと流れるような動作で刀を構えると、白鬼は殺気を巡らせた。
R-18版では、両目を失ったアーチャーがエッチな音だけ聞かされてナニがなんだか分からないシーンでしたね。
大丈夫。心眼に目覚めれば人並みの生活は送れるので、ヤンデレでは無いです。
アーチャー「TAS動画で見たからいけると思った」