ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
アーチャー「グワーッ! 麻痺毒!!」
何たるウカツ! ヤンデレアトモスフィアによってオーガニックマグロに成り果てたアーチャーは、しめやかに激しく前後させられる!
ヒドラに。
第1回公式イベント『バトルロワイヤル』
参加者全員を一斉に特設フィールドへ転送。それぞれをランダムに配置した後、制限時間まで生き残りを賭けて戦う集団戦だ。
キル数と総ダメージ、被ダメージ量によってランキングが変動し、上位10名のみ記念品を進呈するという、確実に荒れそうな内容にも関わらず、初イベントという事もあってプレイヤー達の意欲はとても高い。
集合場所である街の広場には一万人と超える人が溢れんばかりにひしめき合い、開始の時を今か今かと待ち構えている。
光り輝くような純白の甲冑に身を包む騎士。
巨大な戦斧を軽々と背負う猛者。
自らの手札を見せない為にあえて潜伏する魔法使い。
物理的にも精神的にも燃えている紅髪の少女。
あまりの参加人数の多さによって、それぞれの存在を認識出来ていないが、他と一線を画す雰囲気の彼らは間違いなくランキングに上り詰める逸材達だ。
そんな雑踏ひしめく中、当然アーチャーの姿もあったが、彼を知る者が見れば今日の出で立ちに驚くだろう。
何せ今まで全裸装備(風評被害)だったのに対し、イベントの為か防具を身に付けているのだ。
そして周囲で一部のプレイヤーがマジマジと彼を見つめて気がつく。
(頭だけフードで隠した全裸…?)
(何で頭装備だけなんだよ!)
(筋肉モリモリマッチョマンの変態だ)
重ねて伝えるが、全裸と呼ばれるのは防具が未使用という意味のネットスラングであり、実際にはタンクトップにスラックスという夏場の男性なら割とある格好である。
ただ、中東の日除け外套に似た装備だけ羽織っている。というのがランキング入りを狙う血気盛んなプレイヤー達からは浮いて見えるようだ。
(ふむ…? 何故か視線が多い気がするな)
多い気がするどころの話では無いが、これには理由がある。
先日、楓ことメイプルを発見した彼は、さり気なくリアル側の彼女からイベント参加の可否を聞き出し、絶望していた。
今回の参加者が1万人を超えるのは確実。その中で戦闘区域が被るほど接近する確率はかなり低いだろうが、僅かでも遭遇する危険性があるなら対策は必須。
確実に本人と分からないよう、イベントまでに変装装備を用立てる必要があったのだ。
もはや顔馴染みになったイズに相談した所、オーダーメイドかつ生産職として二流の仕事は出来ないと、結構な値段と素材を要求されて、他装備に回す資金が底をついてしまう。
彼女にはマイルドにアーチャーの事情を話したが、カラカラ笑うばかりでまともに取り合って貰えず、本人にとってこれは死活問題であると説得しても安くはならなかった。
値引きを諦めたアーチャーは今日までに何とか資金繰りを重ねてきたが、『隠し球』の製作にも金を回す必要があり、何とか数を揃えた所でタイムアップ。
ギリギリ装備だけ済ませてイベントに臨んでいる。
何はともあれ、顔を殆ど隠しているのに反して視界は充分確保出来ているし、何より装備ボーナスでDEXが底上げされているのも良い。
そしてリアル側で変声機を掛けて声色も変えている以上、よっぽどの事が無ければメイプルにバレる心配は無いだろう。
やがて上空にはマスコットキャラらしき、デフォルメされたドラゴンがカウントダウンを開始し、緊張感が場を満たしていく。
最優先事項はメイプルに存在がバレない事。しかしアーチャーもランキング上位を目指すつもりでいる以上、今まで秘匿してきた剣弾と『隠し球』を駆使して戦い抜くつもりだ。
「3……2……1…!」
転送され次第、即戦闘もあり得る。
至近距離戦を想定して双剣を携えたアーチャーは一瞬の浮遊感を感じた後、輝く光の眩しさに目を閉じて、再び開けた瞬間。
そこに広がるのは深緑豊かな森林と一体化するように建造物が顔を出す廃墟の王都。
崩れかけた城壁や剥き出しになったエントランスなど木々に囲まれながらも、ある程度視界が確保出来る立地からのスタートだった。
特にすぐ傍に、周囲を見渡せる監視塔らしき小窓部屋があるのが素晴らしい。
まずは当たりを引いたなと、アーチャーは安堵して双剣を下ろし
「ん?」
「およ?」
隣にメイプルがいた。
「ーーーーーー」
ダンジョン入口に入ったと思ったらラスボスがいた。その事実に思わず意識が飛びかけるアーチャー。
まだだ…まだ諦めるな。何のために変装までしているんだ。自分だとバレる筈がない。
むしろここで仕留めれば、少なくともこのイベントで接触する機会は訪れないのだ。そう思い直し、心を冷徹に研ぎ澄ませて向き合う。
「どうしたの、お兄ちゃん…?」
一瞬でバレた。
可愛らしく首を傾げて不思議そうにしているメイプルは、アーチャーの正体に微塵も疑問を感じていない様子だ。
そもそも、このゲームをプレイしているどころか、VRMMOというジャンルに手を出している事すら知らせていないのに、何故ここまで自信を持って話しかけられるのだろうか。
まさか、監視でもされている? いや流石にそこまではされないだろうと思考を打ち切る。
「い…いや勘違いでは無いかな? 私の名前はアーチャー。残念ながら妹はいないぞ」
「え……ぅん〜〜? たしかに声も喋り方も違うような…」
「! そう、そこだよ。世界には3人似た人物が居るというからな。君も勘違いしたのだろう」
「そう…なのかな?」
確信めいた発言から諭されて、疑惑へと転ずるメイプル。
この時、アーチャーは言葉巧みに話を逸らして煙に巻くつもりだったが、残念ながら彼女の本能では、既にアーチャー=お兄ちゃんの図式が完成しており、そのお兄ちゃんが言うなら違うかも知れないという謎の論理矛盾が生じて、別人扱いしているだけだったりする。
知らぬは本人ばかり也、とはまさにこの事。
両者ともすれ違いのまま、アーチャーは他人という認識で話は進む事になった。
「えぇと、それでメイプルは、これからどうするのかね」
「どうって?」
「いや、自分から戦いに行くか、待ち構えるか。決めているなら参考迄にな」
頭の中で逆の選択肢を選ぼうとする策士アーチャー。
「え〜と私AGIが0で足が遅いから、ここで待とうと思うよ」
「0…だと…?」
「うん!」
あまりの極振りに頭痛がしてきた彼は、浮き上がる嫌な予感を感じ、周囲にプレイヤーがいない事を確認してからメイプルというキャラクターの性能について聞いてみた。
この時点で顔見知り以上の対応なのだが、2人とも普段の距離があまりにも近すぎて気が付いていない。
「ーーー毒竜を食べ…食べた? え、いやそれ以前にVITが200超え…?」
その内容はスキル【ヒドラ】やユニークシリーズの装備を始め、ステータス面だけでも理解の範疇を超えており、自信を持っていたバグ仕様の剣弾すら確実に上回る理不尽の塊と言えた。
そのヤバさを一端でも伝えると、まずは【ヒドラ】。
周囲に毒霧を発生させたり範囲麻痺攻撃で行動不能にした上で、強力な召喚獣ともいうべき本体のヒドラを戦わせる事が出来る複合スキル。
本来はMP消費が激しいという弱点があるのだが、【悪食】というスキルを盾に装備した効果によって、触れた相手を無条件で武器ごと喰らい尽くす上にMPへ還元。
即死と状態異常の無限ループが可能になっている。
そして、それらを乗り越えてメイプルに到達したとしても、待ち受けるのは鉄壁じみた防御力を誇る天然の城塞。
アーチャーは、遠い目をしてから一人頷く。
(なるほど…メイプルは天然からの偶然とはいえ、プレイヤーはここまで強くなれるものなのか。なら…ランキングに入る為にも自重しているべきでは無いな)
最後に確認しておこう。
彼は『メイプルの兄貴分であり、その影響を受けている』。
ニコニコと心底楽しそうにしている彼女を他所にアーチャーは決心して告げる。
「すまないが、私もランキング入りを目指す人間でね。ここらでお暇させて貰うよ」
「え」
そう、ここで手をこまねいている場合では無かった。遠方では巨大な火柱が周囲を焼き尽くし、重なる魔法陣から光が照射され爆発を起こす。そこかしこでプレイヤーの悲鳴や雄叫びが木霊する生き残りを賭けた戦いは既に始まっているのだ。
下ろしていた双剣を再び構えてメイプルに背を向けた。
「袖振り合うのも他生の縁、私はここから離れよう。さらばだ!」
自重という言葉を外付け破壊装置で摘出されたアーチャーは、戦場に参加するべく駆け出した。
「先ずはそこに隠れている長剣使い。悪いが仕留めさせて貰う…!」
メイプルと会話しながらも、強かに建物内の死角に潜むプレイヤーを察知していたアーチャーは不意打ちを狙って鋭く斬り込む。
バレると思っていなかった相手は驚きから対処が遅れ長剣を振り被るが、既に遅い。
踏み込んだ低姿勢から、鎌首を持ち上げる蛇の軌跡で迫る黒と白の双刃。もはや剣を合わせる事も出来ずに立ち尽くし
「ーーー【パラライズシャウト】」
「ぬぉぉぉ!?」
「ぴぎゅっ!」
突如放たれたメイプルの範囲麻痺攻撃に、両者とも前のめりに倒れ込む。
「な、何が…」
起こった? と感想を漏らす間も無く、うつ伏せになって動けないアーチャーの耳に入ってくるのはズリズリ…と重い何かを引きずりながら近づく足音。
それはつい先ほどまで居た位置からゆっくり…ゆっくり…聞こえてくる。
痺れる体に鞭を打ち、何とか頭だけを逸らして上を仰ぎ見ると。
ガシャン! と顔の真横数センチに、黒い大楯が突き立てられて息を飲むアーチャー。
「ねぇ……何で逃げるの?」
「メ、メイプル…?」
その表情は、本当に純粋な疑問を浮かべた子供のような無垢さで、心底訳が分からないという顔だ。
しかし見下げられる角度と太陽の逆光のせいか、薄ら寒いナニカを感じずにはいられない。
「お兄ちゃん…アーチャーさん? なら傍に居てくれるよね。もっとお話ししてよ」
「ぐ、が…が……」
「あっ、そっか! ついつい、やっちゃった…。痺れて喋れないよね。ごめんなさい」
そこに一切の悪感情は無く、
「…でも、これでゆっくりお話し出来るから瓢箪から駒…? 籠の中の鳥、だね!」
メイプルは大楯を退けたかと思えばそれを持って、同じく動けない長剣使いに近づく。
「ちょっとお邪魔しますよーっと」
転んだ角度が悪いせいで、一連の光景を麻痺からの行動不能で目撃してしまった彼は、少なからず麻痺耐性があったのか、泡を吹く直前のような顔つきで必死に命乞いを口にする。
しかし、メイプルの頭の中を占めるのは、暇になると思っていたイベントで楽しく過ごせる相手が見つかった嬉しさのみ。悲痛な叫びは一切、聞こえていない。
「お、おのれ…この黒薔薇の騎士、がぁぁぁぁぁあん!」
盾に触れた瞬間、煌めくエフェクトになって散る不運な長剣使い。
話には聞いていたが、何という理不尽さだろうと彼は怖気を感じた。
当のメイプルといえば、一仕事終えたとばかりに「んー!」と背伸びをしてから、疑う事を知らない笑顔で振り向く。
そう、出会ってからずっと。彼女は笑っている。
その瞳に落ち窪ぶような陰湿な雰囲気は微塵も感じられず、太陽のような明るさのまま本当に彼の側にいられるのが嬉しくて堪らないのだ。
燦々と輝く日の光が、自らの眩しさに気付かないように。
屈託の無い親愛の感情は彼の目を焼き、何処に隠れても照らして探し当て、苦しんだとしても理解はしない。
メイプルにとって、彼は絶対に共にいるべき存在だと。世界の常識だと疑わない子供じみた独占欲と横暴さが、その胸を占め続ける故に。
「さっ、お兄ちゃん。こっちでお絵かきでもしよ!」
未だ痺れて動けないアーチャーを、お気に入りのぬいぐるみのように引きずって、開けたエントランスに居座るメイプル。
無駄に画力が高い彼女は昇り竜のアートを描きながら、他愛もない話を投げかけ続ける。
麻痺に耐性を持っていないアーチャーは適当に話を合わせながら、症状が時間回復するのを待つ。
しかし、ここで無策に逃げようとしても再び麻痺を掛けられて無限ループに陥るか、深刻な禍根をリアル側で残す可能性が高い。
このままでは不味いと、必死に思考を巡らせるアーチャー。
やがて苦渋の決断と恥を忍んでメイプルに取引を持ち掛ける。
それは、今イベントにおける最大最悪同士の共闘依頼だった。
R-15版では、麻痺で動けない彼の顔に、左側から悪食の盾。右側にキス顔のメイプルで、即死かデッドエンドを迫る不器用な告白シーンでしたね。
大丈夫。両者の合意があれば法では裁けないので、ヤンデレでは無いです。
今後のお話に必要なエッセンスは…
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3人をもっと病ませるべきそうすべき
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キャラ改変はNG 硬派な雰囲気を求む
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バトル展開! 防振り王に俺はなる!
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甘い甘いラブ路線。作者は嫉妬で死ぬ
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オリキャラとか…どう? 出そう?