ヤンデレが怖いので炎帝ノ国に入って弓兵やってます。 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
予想以上に長くなったので分割。引っ張るのも何だから丸々ヤンデレパートを後半として12時間後に投稿するよ!
そして念のため、R-15タグも追加しておくよ!アンケート協力ありがとー! フラーシュ!
余裕を持った口調で相対しているが、内心で焦っているのはアーチャーだった。
人気の無いエリアまで離れた為、先程まで身体を駆け抜けていた力強い感覚、【守護者】と【仕切り直し】のスキルによるバフ効果の恩恵が消えていたからだ。
倦怠感とまではいかないが、鈍くなった手足でどこまで戦えるのか。確かめるようにスッと左の黒い短剣を前に構えて出方を見る。
「そんな呑気でいいのかい?」
男は軽く言い放つと同時に、踏み込みすら感じさせない無音無足の足捌きで刺突を繰り出す。
辛くも構えていた短剣で捌くのに成功するが、男はそのまま身体を押し込んで受けた腕ごとアーチャーをかち上げると、逆側の手に持っていた短剣ですれ違いざまに斬りつけた。
「ぐっ…!」
傷は浅い、浅いが危機は去っていない。斬った勢いで身体を回転させて再び斬撃で迫る。アーチャーは咄嗟に浮いた腕を引き戻して、両手を交差させるように双剣で守りを固めた。
「【パワースラッシュ】」
男の声と共にスキルが発動。青い軌跡を描いて斬り付ける。しかし、ギャリンッという金切り音を上げて短剣の動きが止まり、男の顔が渋くなる。
互いの刃同士が点と点で重なっただけにも関わらずスキル攻撃が、ただの双剣で挟み込まれて動かせない。
身体を捻った回転斬りの為、体幹がズレて反撃に一拍の隙を晒す男。
アーチャーはそこを突き、双剣に渾身の力を込めて斬り飛ばす!
「ぐぅっ!」
男の身体がフワリと浮き、そのまま真っ直ぐ後方の樹木に叩きつけられると、予想以上のダメージに驚いて思わず口を吐く。
アーチャーは小走りで駆け寄り、左右から三段スライスの要領で水平斬り。
それをしゃがみ込んで避けたと思えば縮んだ足をバネにして、横っ飛びの反動で隣の木へ。空中で反転して幹に足を付けると斜め上へ跳ね続け、木々を足場にどんどん上空へと距離を取ると、太い枝の一部で足を止めて地面から睨むアーチャーに声を掛けた。
「やだねぇ。明らかにセンサーは反応してないってのにこの強さだ。速さが落ちた代わりに力が強くなるスキルでもあるのかい?」
「さて。手の内を明かすようなお友達なら話したかもしれんがな」
「クッ…ハッハッハッ! いいね面白いよお前さん。…俺の名前はドレッド。残り1分弱ってところだが、踊ろう…ぜ!」
「チッ…!」
上空からの落下攻撃を見舞うドレッド。名前を明かすのはそれ相応の相手だと認めた故に。
対するアーチャーはバフは無くとも元々がSTR=筋力に偏重したキャラクタービルドである為、攻撃力そのものはかなり高く力押しならまず負けない。
しかし普段は弓をメインに扱い、直前まで金策に走り回った為、短剣に関する攻撃系スキルが一切取得出来ていないのが仇となった。
ただ斬り結ぶだけなら持ち前の技量で何とか誤魔化せるが、瞬間的に物理法則を超える動きが可能なスキルに、対処出来る可能性は半々程度。天性のプレイヤースキルが凄まじい理沙ならともかく、彼はそこまで人外なセンスを持ち合わせていないと苦汁を飲む。
そして残り1分程度ならドレッドの攻勢から耐えて見せるが、アーチャー側はそれだけで終わらせてはいけない。
あくまでこのイベントに参加したのはランキング10位までに食い込んで報酬を得る事。
メイプルにバレないよう万全を取るなら参加すべきでは無かったが、彼のゲーマー気質はそれを許さなかった。
そしてアカウント停止を恐れて剣弾の使用を自重しようとしたが、最後に一花くらいは咲かせたい。
故にここで何とかドレッドを突き放し、仕上げを行う必要がある。
体重も加味された落下攻撃は重く、片手では受け切れない。
外套によって手元まで隠された相手の服装は攻撃の瞬間まで動きを察知させない暗殺者の所行。
手数を減らしたくないが、それはあちらも同様だろう。わずかに拮抗した瞬間にスキルが飛ぶ。
「【ダブルスラッシュ】!」
続け様の連撃。加えて通常の斬り付けもオマケしたコンボでガード越しとはいえ、再びダメージを負うアーチャー。
距離が離れたかと思えば、ドレッドはSTRで負ける相手と真正面から向かい合おうとはせず、ヒット&アウェイの動きでピンボールのように木々を足場に斬り込んで来る。
そのプレイヤースキルの巧みさは決してアーチャーにも劣るものではなく、むしろゲーム側のシステムアシスト無しで、そんな動きが可能なのかと、実はコッソリと覗き見している運営兼開発者の1人が感嘆のため息を吐くほどだ。
そう、アーチャーの危惧通り運営から『設定ミスによる剣弾の使用』について目を付けられ、監視とまではいかないが動向をモニターされていたのは事実といえる。
特に上役からの指示とはいえ、弓の仕様をたった1週間で追加した担当開発者は仲間内からも同情とバッシングを受けて涙目で推移を見守っている。
普段から『合法ロリ』だの『小学生かな?』と揶揄されるほど実年齢に比べて見た目が幼い彼女だが、その腕前が一流なのは間違いない。
とはいえ1週間というバカみたいな納期は確実に負担としてのし掛かり、あろう事か無条件で強力なスキルが使用出来るというミスを犯してしまった。
本来ならばこの剣弾。『ユニークスキル』として登録される正規の攻撃方法であり、大量のMPを消費して放つ一撃必殺のスキル技なのだ。
しかし、設定ミスにより取得条件のクエスト達成のフラグが抜け落ち、発生条件であるSTRの値さえ超えていれば、スキル獲得の項目や表示はされずとも、内部的に無条件で使用可能になっていた。
そして仮実装でテストしていた通常攻撃に付与されるという仕様を放置しまままリリースされてしまったのだ。
無論、それだけなら何人かの物好きなプレイヤーが発見してもおかしく無いが、剣を矢のスロットにワザワザ装備するという発想はアーチャーしか思い当たらなかったらしく、今日というイベントまで明かされる事が無かった。
実はこの開発者とアーチャーの頭にあるのは『かつて流行ったゲームのキャラクター』から連想した故のスキル追加と行動であり、クエスト名も『無限の剣製』と、もしリアル側で出会えば同好の士として気が合ったであろう背景がある。
そしてドレッドとアーチャーの戦いは、一方的に削られるまま攻勢は変わる事なく、時間だけが経過し終着が訪れようとしていた。
「そらそら、このままだと削り切っちまうぞ」
飛び交う動きになってから防御一辺倒になったアーチャーを訝しみつつも、攻撃の手を緩めないドレッドであったが、残り10秒のカウントダウンが告げられる直前、彼の口元が歪められた。
「ーーー充分見せてもらった。ではカーテンコールといこう!」
アーチャーは気合一閃。目が醒めるような斬り払いで弾き飛ばし、大地を蹴った。
「マジかよおい…!」
その機動は、その木を蹴って飛ぶ挙動は、ついさっきまでドレッドが見せたプレイヤースキルの一端だ。
猿のように飛び跳ねて、ドンドン高度を上げていくアーチャーに驚愕し、反射的に追い縋るドレッドだったが、同時に落ちてくる『ソレ』に対処を追われて諦めざるを得ない。
「こいつは…鋼鉄剣!? くっそストレージからバラまいてんのか!」
追撃を避ける為、講じた策は手持ちで余った武器を投げるわけでも装備するでもなく、ただ落とすという、これまたシステムの穴を突くような裏技だった。
重力に引かれて落ちる剣自体に攻撃力は無いが、質量そのものはゲーム内で計算されている為、無視は出来ない。
そして何より、こうして飛び回る動きを可能にしているのはアーチャーの『擬似模倣』と自称するセンスの一端だ。
流石に某友人とまではいかないが、見様見真似までなら可能と、ギリギリまで見の態勢で観察して、実行に移した。
その結果、彼の跳躍は森の木々を容易く踏破し、登り詰めていく。
その途中で運営から残り5秒の読み上げが始まり、アーチャーは足腰を曲げてスプリングのようにしならせた枝の一本から、最大での跳躍を準備。ーーーSTRという値は腕だけでなく、脚の筋力にも影響している。
ブワリと、人間ではあり得ない速度と高度を叩き出すと、一気に空へと躍り出て限界高度近くまで宙を舞う。
特設フィールド全てを見渡せる高さから、アーチャーは視認すら難しい距離まで離れた王城跡を認めると弓に武器を換装し、鉄の矢を番える。
(一発勝負…外せばとんだ笑い者だが…!)
この時、開発者は見た。
跳躍による上昇速度がやがて緩やかになり、重力に引かれて落ちる速度が互いに釣り合う、一瞬の時。
王城跡目掛けて、彼から放たれた一矢を。
残り時間3秒以下。
その刹那の時を剣弾でも無い、ただの矢が獲物を狙う猛禽類のような鋭さで天を駆ける。
風切り音は鷲の如く。狙い澄ますは鷹のように。
超々遠距離からの精密狙撃は寸分違わず目標地点に到達する。
その狙いは王城跡にラストチャンスを夢見て押し寄せるプレイヤーでもなく、ラスボスの如く君臨し、八つ当たりを振り撒くメイプルでもなく、それよりもずっと小さな、ーーー捨てられたように放置されている『初心者の長剣』。
先も説明したように剣弾による効果で、鋼鉄剣は放たれば光条となって貫通効果を発揮し、そして初心者の長剣はダメージ計算時に『爆発を起こす』。
最下級の武器が落ちていてもプレイヤー達は見向きもせずに放置していたソレは、アーチャーの手によって矢のスロットに装備した後、剣弾と認識されてから等間隔で設置されていたのだ。
今までは、何かの拍子に起爆でもすれば御の字としていたアーチャーだったが、ここに至っては自らが仕上げるしか無いと矢を放った。
爆発する長剣。そしてその範囲内にあった長剣が誘爆。更に爆発、誘爆。1秒以下で連鎖していく発破現象は周囲のプレイヤー全てを巻き込んで大爆発へと昇華される。
その数、実に999回。
「あ、あわぁぁぁぁぁぁ!?」
唯一、メイプルだけが1番の爆心地だったのにも関わらず無傷で驚くだけという結果に終わったが、ついに訪れたカウントアップ、イベント終了の合図の瞬間には王城跡で動く者は彼女しかいない結果となった。
本来ならこのままポイントが集計され、ランキング上位3名へのインタビューが予定されていたが、最後に発生した多くのプレイヤーから見れば謎の大爆発に、運営へ大量のお問い合わせが殺到し、一時サーバーが落ちかけたとの噂が出るぐらい荒れてしまう。
そして結論から言えば、
メイプルは理不尽な強さを発揮しながらも既存のスキルを組み合わせただけだとして3位に入賞。インタビューではウブな噛み噛み口調を見せて一定層のファンを獲得した。
一方、アーチャーといえば剣弾は運営のミスで未実装スキルが使用可能になったとアナウンスされ、最悪の想定だったアカウントBANは免れた。
しかし、それでもやりすぎた反省を促すように、また本人からも周囲の荒れ具合が凄まじいと辞退したのも合わせ、最後の爆破で大量のポイントをゲットしたにも関わらず、ランキングから除外される事になった。
ただ、暫定ポイントでは幻の2位とネットでは称されて、最後に戦ったドレッドと肩を並べる有名人として広く知られるようになる。
先の話だが、これによりアーチャーとドレッドは奇縁のような関係で結ばれ、それぞれ『弓兵(アーチャー)』『神速』または『暗殺者(アサシン)』の二つ名で呼ばれるトッププレイヤーの1人として畏怖されていく。
そしてそのプレイヤー達を例に取り、七騎のクラス分けビルド。
セイバー、アーチャー、ランサー、アサシン、ライダー、キャスター、バーサーカーが一部で人気を博すのだが、それまた別のお話。
何はともあれ、第1回公式イベントは無事に終了し、続く大型アップデートで新たなフィールド第二層の解放と、今回の反省を活かしたバランス調整が行われると運営から発表され、多くのプレイヤーは期待に胸を膨らませる結果となった。
「あのプレイヤー…褐色肌で弓使いよね…まさか…えっと名前が、アーチャー!? 嘘アレを知ってるの!? ……うぅん、絶対そう、そうでなきゃ剣を矢にするとか思い浮かばないもん!」
「デフォルトのスキンデータは…あぁほらやっぱりアーチャーだわ間違いない!うわぁ嬉しいなぁ今の時代でも知ってる人いるんだぁ…。だよねだよね格好いいもんね」
「うーん上からは処罰はしないけど弱体化させろって命令、どうしようかな? 同好の士を失うのは悲しいし.そうだ! ちょっとここをこうして…」
「ーーーうんうん! これでアレも使えるようになったよアーチャー君! ふふふ。これで楽しんで貰えるかなぁ…貰えるよねぇ」
「でもいいなぁ…私もログインして遊びたい…マハトマとか、異界の門とか繋ぐ子もいいし、解体しちゃってもいいよねぇ…。あーでもこの見た目が反映されるなら、あのキャラ一択だから、ちょっと恥ずかしいかもでち…なんちゃって!」
「よーし! 上司には怒られたけど元気貰ったし頑張るぞー!」
「ーーーふふふ、ふふふふふふふふ」
「あぁやっぱり良いですねこの人。好都合な環境が整ってますよ。依怙贔屓をするなら徹底的に。這い蹲ってお願いしますと言えるくらい施してあげましょう」
R-18版では、ログアウトした瞬間に気絶させられて知らない天井を見ながら四肢を切断されてる最中でしたね。
大丈夫。R-18はグロ表現も含むのでヤンデレではないです。