雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
日常回
「また来年! ルキアさん、吉良くん、阿散井くんっ」
「うむ、私も来年こそは一組に上がってみせるぞ!」
「雛森君も気を付けて!」
「土産の団子頼んだぜ」
この百年で最も濃かった一年が終わった。いままでの積み重ねが報われた瞬間とも言え、ヨン様陣営への参加や霊術院での原作キャラとの交流、飛梅ちゃんの解放など成果は多岐に亘る。成果が出過ぎてしまったものもあるけどまあ誤差だと信じよう。
しかし、成果とはあくまで最終目標へ近付く一歩二歩に過ぎない。慎重に歩かないといけない危険な道筋ではあるが、故に前借りで少しのご褒美を欲してしまうのは人として当然だ。
ひなもりごほうびの時間である。
「──シロちゃんひさしぶりーっ!」
「! …遅ェぞ雛も──うおっ!?」
尸魂界にも四季はある。春期休暇で霊術院がお休みになり、あたしは目当ての年下幼馴染みとの一年ぶりの愉悦に勤しんでいた。
優しくて美少女な姉に会えて彼も嬉しいだろう。嬉め。
「ごめんねシロちゃん、お姉ちゃん忙しくて構ってあげられなくて…」
「なっ、誰も構えなんて言ってねェよ! つか誰が姉だ」
「えぇーっ、あたしシロちゃんのお姉ちゃんじゃないの? ここで一緒に住んでたのに…」
「いやお前の実家は市場の仕立屋んトコだろ。いいからはーなーせー!」
「あたっ」
あたしのハグに全力で抵抗するツンデレショタ。あぁん? 暴力まで振るってくるとか生意気だゾ。これは少しお仕置きが必要みたいですねぇ?
「えー、でもおばあちゃん言ってたよ。シロちゃんがよく寝言であたしの名前、寂しそうに呼んでたって」
「はっ──はあああ!? ばっ、ンなワケあるかよッ! なんでおれが寝言でテメェの名前なんか呼ばなきゃならねェんだ!」
「なんだぁ、違うのか。…あ、あたしはたまにシロちゃんが夢に出てきてくれたから、その、あなたもそうなのかなー…って」
「えっ…? な、なっ、なっ…!?」
「あ、おばあちゃんもよく出て来たよ」
「──ッッ!」
悦っ、悦っ、悦っ~。なんか顔が赤いけどどうしたのかなシロちゃん? 「ンなこと知るかッ」とか叫びながら洗濯物を投げつけてきたので、地面に落ちる前に瞬歩で取りに行く。
あたしの超人的な動きにはたと興味津々になる男の子。そんな目移り激しいシロちゃんにも思わずちょっかい出してしまいたくなるが、残念ながら彼を死神の道に導くのは乱菊さんの役目だ。
まあ全部こちらでフラグ回収やって彼をあたしに依存させることも素敵なカタストロフになりそうだが、流石にあたしが「雛森ィィィィ!」された後に立ち直ってくれないとジェラルド戦のシロちゃん名シーンな大人シロさんイベが起きなくなってしまいそうなので、交遊関係は広く持って欲しい。幼馴染みの未来を考えてあげるお姉ちゃん超優しいよなぁ?
あたしは客観的に見れば自分がヤンデレの類いにされる自覚はあるが、あたしが君にとっての一番か二番目くらいに大事な存在である限り、それ以外は肺活量くらいしか求めない穏健派なのだよ。束縛なんてホント最低だよなーシロちゃん。
おっと、再会が嬉しくて本題を忘れていた。
「そう言えばシロちゃん、最近なんか変わったことなかった?」
「あァ? 別になんもねェよ。…テメェが霊術院の寮に行ってから家が広くなったくらいで」
「広く? 別に敷地はいつも通りだけど…どうして?」
「う、うるせェ気のせいだ!」
うむうむ、順調に意識してくれてるようで何よりだ。原作ではただの幼馴染み的な感情だけでわりと素っ気なかったシロちゃんも、あたしの思わせ振りな態度と天然ボケ(養殖)に振り回されて遂に思春期突入か?
いつも側にいた女の子が急にいなくなりその存在の大きさに気付く~なんてのは恋の始まりの定番だからね。それは確かに最近大きく変わったことだよ、うんうん。
…で、これがひっくり返るときがシロちゃんが一番輝く瞬間──おっといけないヨダレが、ジュルリ。
しかし聞いた感じだと、どうやらまだシロちゃんが冷凍業者を始めるタイミングではないらしい。彼の【氷輪丸】の目覚めがそろそろなのは確かなので、あたしがいないときのためにおばあちゃんにはそれとなく霊力持ちの幼子が起こす不思議現象について幾つか実例と対策を教えておこう。霊術院で習ったことにする。
「──と、まあ昔そんなことがあったってだけの話だけど、おばあちゃんもシロちゃんのこと少し気にかけておいて。あの子が無意識に人を傷付けるなんて、あたしいやだもん」
「わかっとるよ桃ちゃん。いいお姉ちゃんになったねぇ、ふふっ」
止めろお婆、その親愛はあたしに効く。あなたは即身仏になるまで長生きしろ。
***
「──おおっ、桃ちゃんじゃないか!」
シロニウムを補充したあたしは続けて市場の仕立て屋夫妻の所へご挨拶に行った。空鶴さんのお屋敷に弟子入りしたりと、この十年はあまり行く機会がなかったので感動も一入だ。
「桃ちゃん! しばらく見ないうちにまーた美人になっちゃって!」
「ひ、雛森さん! お…おれ、ずっと雛森さんに会いたくてっ」
「桃ァ…私を導いてくれ…」
「桃ちゃんの霊術院合格祝い、まだやってなかったよな? 今日は宴だ!」
『応ッッ!』
「もっ、もう! 恥ずかしいからみんなやめてくださいっ」
最早伝説となっている看板娘の帰還に市場中が沸いている。いやー我ながら人気者だね、雛森ちゃん。
しかしこれで自分の魅力を自覚出来ない原作雛森ちゃんって鈍感どころか頭おかしいレベルでは…あ、原作だと看板娘とかやってなかったのか。勿体ない。
「桃ちゃん、霊術院はどうだい?」
「戦う世界ですのでちょっと怖いこともありますけど、楽しく学べてますよ」
「そうか…無茶はしないでくれよ?」
「はい、よく一緒に鍛練してる阿散井くんも吉良くんも優秀な人たちなので、お互い支え合──」
『!?』
「阿散井…吉良…
「──って、えっ?」
「桃ちゃんに男の影が!?」
『ええええっ!?』
愉快な人たちにもみくちゃにされて、へとへとになるまで盛り上がった帰省中のお祭りはとても楽しかった。出来ることならシロちゃんもここの仲間に入れたいが、みんな不気味がって避けちゃうしあの子も引き込もってばっかだから難しいんだよね…
まあシロちゃんが真人間になるのは死神になってからだ。今は彼の孤独を癒せる数少ない人物というポジションを最大限活用して影響力を高めよう。
うふふ、シロちゃんが悪いんだからね…? あたしはただ、お外にも行かずに一人寂しそうにしてるあなたを癒そうとしてあげてるだけなんだから…(レイプ目
翌日、地元の最後の用事を済ませるべくあたしは白道門の兕丹坊兄貴の下までやって来た。
「ごの小包を渡せばええんだべな?」
「うん、空鶴さんに弟子入りのお礼とか、あと色々とご迷惑をお掛けしてしまったので…」
「なに辛気臭ェ顔すどんだ、桃。お
グハハと笑う兕丹坊兄貴。渡したい相手は空鶴姉貴だ。彼女の不幸が実はあたしを操るための布石だったとあの鬼畜眼鏡が暴露しやがったので、形だけでもお詫びを入れないと精神衛生上よろしくない。
もっとも姉貴はプライド高いからあたしが全部話しても「おれの不覚の責任をおれから奪うな」とか男前なこと言いそうだし、あくまでこちらのケジメだ。
他にも鬼道書盗み見たり、ヨン様へ原作知識を披露するときの情報源の隠れ蓑に使ってたり、色々やんちゃしてるのもついでに許してちょ。
そうして明るく楽しい表の世界を存分に堪能した三日間が過ぎた後。
あたしは、暗く愉しい──裏の世界に足を踏み入れる…
「──お前が雛森桃一回生か」
流魂街の西の外れに広がる深い森。霊圧を隠し尾行に気を付け、あたしは回道授業の薬草探しと周りに言い訳し、一人の男と会うために小さな廃屋へと赴いた。
…ヨン様命令より半年。いい加減あの恥ずかしい飛梅のアレを叫ぶのに慣れなければ前に進めない。
「…初めまして、雛森桃と申します。本日はご協力頂き、真にありがとうございます──東仙隊長」
ユクゾッ、いざ卍解修行だ。