雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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十刃再結成篇のラスト。

 


始まっ…たぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ガアァァアアアッッ!!」

 

 

 怪物の怒叫が虚夜宮(ラスノーチェス)を震わせる。ただ垂れ流す霊力が咆哮に混ざるだけで並の嵐風系斬魄刀をも超える爆風が辺りを襲い、護廷の隊長達は瞬歩で間合いを改める。

 

「…ッ、凄い霊圧だ」

 

「味方の死で奮い立つ…1番君(スターク)とは真逆のタイプだねェ、厄介な…」

 

 あの更木剣八と朽木白哉をあそこまで追い込む強敵だ。侮ってはならないと気の緩みを締め直す加勢の六名。

 

「…尽敵螫殺(じんてきしゃくせつ)

 

── 雀 蜂(すずめばち) ──

 

 先陣を切ったのは二番隊隊長・砕蜂(ソイフォン)

 ジオ・ヴェガ、バラガン・ルイゼンバーン、雛森桃、そして藍染惣右介。常に最前線で戦ってきた彼女は、敵の巨体に臆さず目の前に躍り出る。

 

「な、おい! 俺の獲物だぞ!」

 

「黙れ更木! わざわざ時間を浪費する必要もあるまい、一瞬で終わらせてやる!」

 

── 弐 撃 決 殺(にげきけっさつ) ──

 

 片腕はバラガン戦から失ったままだが霊圧は回道で回復済。同じ傷を二度刺せば如何なる敵とて屠る【雀蜂】の爪針が、護廷最速最強の白打使いの手で繰り出された。

 

 だが。

 

「……なんだァ? 蚊か?」

 

「なっ!?」

 

 その毒針は何も突き刺していなかった。鋼の装甲板の如き強靭な鋼皮(イエロ)に阻まれ"蜂紋華(ほうもんか)"を刻めない。

 

「ウロチョロたかってんじゃねえよ虫けらがァッ!!」

 

「チッ──」

 

『!!』

 

 怪獣が左の巨腕を振り下ろす。無造作な動き一つが災害規模の破壊を齎し、地表の砂漠が一瞬で巨大なクレーターへと変貌する。

 

「ぐ…皆無事か!?」

 

「ふぅ〜危ない危ない。全くなんてパワーだよ」

 

「下がるんだ砕蜂隊長! 始解でどうにかなる相手ではない!」

 

「くっ…仕方ない」

 

 慌てて崩落から逃れた死神勢は、そのまま敵の上空八方へ上り体勢を立て直す。

 

「では二番槍は儂が貰おう!」

 

 次に挑むは七番隊隊長・狛村左陣(こまむら さじん)

 砕蜂同様現世の決戦を潜り抜け、そして大きな悲しみを背負った漢だ。

 

「応ォォオオオッ! 卍・解!!」

 

 

──黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)──

 

 

 突如頭上に現れた巨大な鎧武者に流石の怪物ヤミー・リヤルゴも目を見開く。

 

「お、おぉお…?」

 

「往くぞ明王! 破アアアッ!!」

 

 それまでの小人の攻撃とは異なる大質量の暴力、自重の全てを投じた渾身の兜割りが十刃の肩に襲い掛かった。

 

「ぐ…がッ…!」

 

「喜べ、破面(アランカル)よ! 貴公の好きな巨人の戦いだ!」

 

「ごッ…の野郎が…!」

 

 斬る。否、叩き潰す。鋼皮を伝わり骨まで軋ませる斬山剣の打撃に怪物が怯む。

 その隙を逃す弱者はここにはいない。

 

「やはり単純な破壊力で強襲した方が良いな」

 

「ならばそうするまでの事!」

 

── 瞬 鬨(しゅんこう) ──

 

 始解を弾かれ雪辱に燃える砕蜂が切り札を切った。強烈な鬼道の猛風を両腕に纏わせる白打の究極奥義。

 

「そろそろ僕も働かないとねェ……狛村隊長! ちょいとそこから離れておくれ!」

 

「! 相分かった!」

 

 砕蜂の姿を横目に、斬魄刀の得手不得手で支援に回る八番隊隊長・京楽春水も静かに一手を組み立てる。

 

「──大河を渉る凶兆の槍衾(そうきん)。極夜に凍て付く赤白(しゃくはく)の竜気。蒼穹碧洋・四仙八天・爪牙剣盾(そうがけんじゅん)・紫氷の長城。押し寄せる征國の軍勢、翻る霰色(さんしよく)旗母衣(はたほろ)。北天に咆えよ、銀糸の騎兵が戦嵐を()

 

 詠唱するのは破道全九十九の最上級。狛村の退避を確認した伊達男がその両手の先より術を放つ。

 

「ちょいと頭を冷やしなよ、0番君」

 

 

破道(はどう)の九十二・氷牙征嵐(ひょうがせいらん)

 

 

 それは氷の津波。濁流のように荒れ狂う青白い霊圧が、触れるもの一切を凍らせ眼前の怪物へ殺到する。

 

「…邪魔だ、(けい)等は下がっていろ」

 

『!』

 

 更にそこへ、己の不覚に苛立つ若き天才の殺意が降り注いだ。

 

 

──殲景(せんけい)千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)──

 

 

 桜色の雨。無数の刃の花弁を刀の形に纏め、極限まで殺傷能力を高めた千本のそれらが"第0十刃"の自由な右肩に突き刺さる。

 

「ぐあァァアアッ!? グ、ゾォ…ッ!!」

 

「今だ、砕蜂!」

 

「──応!」

 

 冷気で左半身を、斬撃で右半身を蝕まれた敵は格好の的。その急所へ女傑の痛恨の一撃が叩き込まれた。

 

「寝てろ、デカブツ!!」

 

 

── 瞬鬨奥義(しゅんこうおうぎ)風神戦輪(ふうじんせんりん) ──

 

 

「あブッ──ごはァァアッ!?」

 

 神速の歩法から繰り出される回転脚がヤミーの無防備な鼻っ面を蹴り上げ、霊圧の暴風が顔の角を抉る。

 

「ゴ…ミカス共が…!」

 

「! なんてタフさだ」

 

 しかし三人の隊長の大技を受けて尚、怪獣は倒れない。激痛を怒りで圧し潰し、"第0十刃"は凶悪な口を限界まで開く。

 その奥には、ゾッとする程の極大な霊圧が。

 

「粉々にふっ飛べ!!」

 

 

── 黒 虚 閃(セロ・オスキュラス) ──

 

 

『!!』

 

 爆音と共に放出される桁外れなエネルギー。幅十丈はある漆黒の光閃が、射線上の全てを消し飛ばしながら護廷の死神達に襲い掛かる。

 

 そこへ誰よりも早く、一人の男が真正面へ駆け出た。

 

「…波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ

 

── 双 魚 理(そうぎょのことわり) ──

 

 数少ない二刀一対の斬魄刀を構えるその死神は、十三番隊隊長・浮竹十四郎。

 握る二振りの切先を敵へ定め、その片方を迫る霊圧攻撃へ突き立てると同時。まるで鏡の様に【黒虚閃】が反転した。

 

「…すまない、ヤミー・リヤルゴ。俺が居る限り、その手の攻撃は我々護廷十三隊に通用しない」

 

「なっ──ぐああアアァッ!?」

 

 あまりに予想外の出来事に反応する事もできず。自らの大技の直撃を受け、怪物はその巨体すら呑み込む凄まじい大爆発に包まれた。

 

 

「──やれやれ、漸く終わりかネ」

 

「見学とは良い御身分だな、涅」

 

「…恐ろしい威力の虚閃だった。【双魚理】に罅が入る程の攻撃なんて元柳斎先生以来だぞ…」

 

「うへぇ、そりゃ剣八達もあんなボロボロになる訳だ」

 

 もうもうと立ち上る砂塵を取り囲み、敵の様子を窺う護廷の隊長達。

 破面軍の首魁・藍染惣右介が黒崎一護と浦原喜助に封印された今、護廷十三隊は残る問題である破面の敗残兵の居場所と、その統括者の正体を突き止めるためここ虚圏(ウェコムンド)へやって来た。故にこの戦いの目的は十刃の討伐ではなく屈服。そして尋問である。

 これでこの怪物が諦めて降参してくれたなら最良。

 

 …されどそう願う死神達の期待は、然程長い間を置かずに裏切られた。

 

 

 

「────ぐぞ…ォッ!」

 

 

 

 湿った、低く恐ろしい声が、土煙の奥から滲み出す。

 

「う、嘘だろ。まだ動けるのか?」

 

「……待て、様子がおかしい」

 

 垣間見える山の如き怪物の影が、どんどん縮小していく。

 だが感じる霊圧の変異は真逆。消耗で帰刃(レスレクシオン)が解ける現象とはかけ離れた、間違う事なき力の膨張。

 

「くそ…ッ! くそッ…! くそッ! くそが!

 

 なんだ。奴の身に一体何が起きている。

 そう困惑する一同の眼前で…ソレは現れた。

 

 

 

「くそったれがァァァァアアア"ア"ア"ア"ア"ッッ!!」

 

 

 

 突如。死神達は不可視の壁に豪速で叩きつけられたかのような衝撃を受けた。

 それは爆風。ただの感情任せの絶叫が、冗談のような圧力を持ち周囲に吹き荒れたのだ。

 

「…死神風情がァ…散々イキりやがって…」

 

『!!』

 

「ほう、面白いネ…!」

 

 そして、護廷の一同はその怪物の姿を見る。

 

 

『な…』

 

 

 そこに居たのは、溶岩のような体表をした化物だった。

 躯体は比較的小さい。つい先程までの聳える山の如き怪獣とは一風変わり、一般的な巨大虚(ヒュージ・ホロウ)と大差ない図体。

 

 …だがその体から感じる霊圧は圧倒的。まるであの巨体の質量全部を凝縮したかのような桁外れの存在感を纏いながら、新たな憤怒の領域へ至った"第0十刃"ヤミー・リヤルゴが砂漠の中に立っていた。

 

「ゴアァア"ア"ッ!!」

 

──王虚の閃弾(バラ・デル・レイ)──

 

「がッ!?」

 

『砕蜂!?』

 

 突如、仲間の小柄な体が吹き飛ぶ。隠密機動総司令、護廷十三隊最速の死神が指一本動かせずに。

 周囲は「何が起きた」と反射的に身構えるも、事態は彼らに立ち直る間を許さない。

 

「ガアアァア"ア"ッ!」

 

「ぐァッ!?」

 

「な、不味い! 皆散開しろ!」

 

 暴風と共に不可視の攻撃が連続し、京楽春水、狛村左陣が同様に宙を舞う。護廷の猛者共が反応も出来ない速度に戦慄する浮竹。

 

 

「──俺が"第0十刃"だァッ! 俺が最高戦力だァァッ! てめえら虫けら共が…この俺様に勝てると思うなアアアアアッッ!!」

 

 

 轟く咆哮が爆発となって死神達へ襲い掛かる。鬼道の盾で身を守る浮竹は、そこで拳を振り絞る敵の姿を見た。

 

「藍染さんだろうが! 雛森さんだろうが! 誰が勝とうが負けようが関係ねえェッ!」

 

「く…ッ!」

 

「俺がこいつらをぶっ殺せば勝ちだァッ! 勝ちなんだよオォッ!!」

 

 真っ赤に充血した怪物の双眸、片目に至っては霊圧で赤く燃えている。

 

「俺がッ! 俺ガァッ! オレガアアアアアアッ!!」

 

 打ち付ける破城槌のような激情が浮竹らの体を竦ませる。

 

「ガアア"ァァア"ア"ッ!!」

 

 正気など欠片も無い。全身に憤怒の炎を燃やし、狂った十刃が眼前の死神達へ全身全霊の突進を敢行する。

 

 

「────下がって居れ、小童共」

 

 

 …そこへ、前へ歩み出る者がいた。

 

「なっ、元柳斎先生!?」

 

『総隊長…!』

 

 仰天し叫ぶ護廷の隊長達。敵が足を踏み締める度に伝わる地響きも、吹き付ける猛烈な霊圧も物ともせず、その老将は不動の姿勢で怪物を待ち構える。

 

「…()だ猛るか、十刃」

 

「グォォオア"ア"ア"ッッ!!」

 

 理性を無くした獣の怒り。そこに見える微かな人の心を貴び、"最古の死神"と畏れ敬られる一番隊総隊長・山本重國は、()()()()()を鞘から解き放った。

 

「人性捨てり義憤に立つ…忠道見事」

 

我が()を知るに、不足無し。

 

 

 

 

 

 

── (ばん) (かい) ──

 

 

 

 

 

 

 一瞬。

 足元の砂漠を煮る灼熱が虚圏(ウェコムンド)を支配し、そして消えた。

 

 一閃。

 紫電一つ残さず、音一つ奏でぬその太刀筋はまさに剣技の芸術。長い残心の末、刀の鍔を収める鯉口が微かに鳴く。

 

 

「────ガッ…ぁ……」

 

 

 それを合図に、怪獣の左腕が肩より別たれ、"第0十刃"ヤミー・リヤルゴは砂漠に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ふふっ、どうですか?  

    美味しいでしょ?

 

 

 …負けた。あの人が。俺達の誰よりも強かった、あのお節介焼きな女が。

 

 信じられねえ。一体何で。

 死神共に汚え手を使われたのか。部下を道具としてしか見ねえ藍染さんに捨てられたのか。

 天敵の俺達(ホロウ)にだって笑いかけるあの甘っちょろさを、敵に利用されちまったのか…

 

 今となっちゃァ、もう答えはわかんねえままだ。

 

 

 

 破面軍全九十六騎の頂点に君臨する"十刃(エスパーダ)"は、各刃それぞれが異なる「人が死に至る形」を司る。それは彼等の思想哲学、能力など各々が持つ矜持に応じて破面軍軍団長より与えられた。

 

 ヤミー・リヤルゴ。

 全ての歴代十刃で唯一、怒りという"感情"を武器に戦う異質な破面。彼が司る「死の形」は、【憤怒】であった。

 

 人が虚へと堕ちて失い、そして取り戻そうと足掻き苦しむもの。その焦がれる"心"の断片を、ただ一人己の力に出来る彼へ最高(第0十刃)の地位が与えられたのは、そこに戦闘力以外の──大きな希望に満ちた意味が込められていたからなのかもしれない。

 

 誰よりも心を知ろうとした孤高のウルキオラは、その男の下へだけは自ら足を運んだ。心無き獣の道に生きるグリムジョーは、事ある毎に彼へ突っかかった。傲慢で誇り高いバラガンは、彼の下に就く事に一つとして異論を述べなかった。

 

 前任者には惜しくも力で及ばない現"第0十刃"のヤミー・リヤルゴは、されど誰にも羨まれ、妬まれ、認められたその一点においては…

 

 

確かに、"最高"の破面(アランカル)だったのだ。

 

 

 

 

 

「────る…かよ…ッ」

 

 

 満身創痍の体が軋む。三肢が悲鳴をあげ、斬られた一肢からは焼けた血肉の煤煙が立ち上る。

 

「ッ、まだ動けるのか…!?」

 

「…いや、もう終わりだよ」

 

 全身から力が抜けていく。見下ろす巨人の視界が地へと落ちていく。

 気付けば目の前に、自身の折れた斬魄刀が転がっていた。

 

 

「……おれが…まけ…るかよ…ッ」

 

 

 だが。それがどうした、と。最後の十刃はその剣の柄を掴まんと、残る片腕を伸ばす。

 

「おれが…最強だ…ッ。俺が、最高戦力だ…ッ!」

 

「…もう止せ、十刃。これ以上は無意味だ…!」

 

「ぐ、う、おォ、オォオオオ…!」

 

 足りない。もっとだ。もっと怒れ。

 情けない同胞達を思え。動かない己の手足を思え。あの人と築いた破面軍をこんなにした、目の前の死神共を思え。

 そこに、俺の力の源がある。ある筈なんだ。

 

 だが体は動かず、幾ら命じても斬魄刀はちっとも力を解放しない。

 

「…涅隊長。この武士(もののふ)に慈悲を与えよ」

 

「ふぅ…総隊長命令とあっては致し方ないネ」

 

 そこに「感謝し給えヨ」と声が聞こえ、ヤミーの目の前に進み出た虫けらが膨大な霊圧を放出する。

 

「卍解」

 

 

──金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)──

 

 

 出現したのは、金色の赤子の顔を持つ巨体の芋虫。恐らくはあの鎧武者と同じ類の卍解か。文字通りの虫が今の小さな自分を見下ろしていた。

 笑わせるな。ヤミーは咆える。力さえ戻ればこんな雑魚、一瞬で叩き潰せる。

 その筈なのに、破面の怒りは虚しく胸の内で燃え盛るだけで…

 

 ふざけるな。帰刃(レスレクシオン)が解除された程度で俺の戦意が消えて堪るか。

 俺の力が。憤怒が。──"心"が消えて堪るものか。

 

 これから立ち上がって、もう一度【憤獣(イーラ)】でこいつ等をぶっ殺して。全部終わったら、またあの旨えハンバーグでも食いながらグチグチ小言言われて謝って──

 

 

 

…あァ、そうか。      

もう、あの人の飯。  

 

 食えねえんだった…

 

 

 

「……く…そ」

 

 胸奥で何かが急速に萎んでいく。耐え難い喪失感。精神的な飢餓感。かつてない恐ろしい虚無感に苛まれ、男の視界が闇に染まっていく。

 あの時。怒りの炎で心を焼き尽くし(ホロウ)となった、あの日の夜に見たのと同じ闇だ。

 

「やれ、金色疋殺地蔵。鎮痛薬と自白剤だ」

 

 巨大な芋虫の人面が、主の指示に息を大きく吸い込む。その口の中に何かを蓄えるために。

 

 最早抗う力は微塵も残っていない。取り戻した最後の心の欠片を失った"最高の破面"ヤミー・リヤルゴは、かくして全てを諦めた絶望の中で、己の敗北を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───命令しないでくれるかい?

 

          死神風情が、この僕に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …だが、その時。

 

 遠のく十刃の耳に、聞き覚えのある艶っぽい男声が滑り込んだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 突如起きた涅マユリの卍解の異変に一同は驚愕する。

 謎の声が木霊した直後。【金色疋殺地蔵】がその背後へ振り向き、見守る隊長八名へおぞましい紫色の煙を吐き出したのだ。

 

『ご挨拶だ、死神諸君。気に入ってくれるといいけど』

 

「こ、これは…毒ガス!?」

 

「ゲホッ、ゴホッ…! く、涅! 何だこれは!」

 

 思わず吸い込み激痛に悶える死神達。殺傷能力は無いが極めて凶悪な麻痺効果を持つ神経毒だ。

 邪魔者を沈黙させた巨大芋虫が、足下で呆ける瀕死の十刃へ感心の笑みを送る。

 

『やぁ、ヤミー。時間稼ぎご苦労』

 

「て、てめえ…その声は…!」

 

 あり得ない。幻聴でも聞いているのか。地に伏すヤミー・リヤルゴは混乱に目を白黒させる。

 

 そんな両者の語らいの後。膝突く死神達の中で数少ない無事な者、涅マユリが己の卍解へ忌々しげな笑みを向けた。

 

「…そろそろかくれんぼに飽きてくる頃だと思っていたヨ」

 

 

──ザエルアポロ・グランツ。

 

 

 その名は、かつて彼が戦い"超人薬"の投与で倒した"第8十刃(オクターバ・エスパーダ)"のもの。

 だが涅は勝利の後も油断していなかった。あの時己の卍解に喰わせた最初の個体。前線に立つ霊性科学の技術者が自身の肉体に何の細工もしていない訳がなく、その他様々な違和感から「何かある」と待ち望んでいた、"尋問"の好機だった。

 以前逃した屈辱を呑み込み、男は敵へ問い掛ける。

 

「泳がせたお陰でこうしてノコノコ出て来てくれた訳だがネ。そこに転がる"第0十刃"(死に損ない)より君の方が余程有意義な情報を持っているだろう?」

 

『フフ、流石はこの僕を倒した死神だ。慧眼恐れ入るよ、涅マユリ』

 

「……」

 

 捕らえる準備は万全だと仄めかす涅に対し、【金色疋殺地蔵】に取り憑くザエルアポロの声色は平静そのもの。その余裕に眉をひそめる死神は、敵が余計な事をしでかす前にさっさと奴の神経操作の発信源を特定すべく、追跡装置を起動した。

 

 …だが。

 

「ま、マユリ様…ッ!」

 

 耳に届いたのは装置の観測者、副官の困惑した声だった。

 

「! どうした、ネム」

 

「だ、ダメです。界間感知が途中で途切れて…!」

 

「…何だと!?」

 

 全くの想定外に流石の涅も声を荒げる。追跡が途切れるとは即ち尸魂界(ソウルソサエティ)・現世・虚圏(ウェコムンド)の全てに霊波の発信源が存在しないと言う事。

 

「莫迦な、そんな事…!」

 

 涅の動揺も当然。何故ならザエルアポロ・グランツは今…

 

 護廷十三隊が戦力を展開できる三界のどこにも居ない事になっているのだ。

 

 

『───では同胞達よ』

 

「!」

 

 そして護廷十三隊の動揺は更に続く。ザエルアポロの声を合図に、それは起きた。

 

『名残惜しいけど、この地ともお別れだ』

 

 

 

──我々破面(アランカル)軍は、これより  

 

虚夜宮(ラスノーチェス)を放棄する。

 

 

 

 直後。一同の周囲、いや虚圏(ウェコムンド)中の空間が歪んだ。

 

「な、なんだ…!?」

 

黒腔(ガルガンタ)…じゃない?」

 

「マユリ様! この計測数値、【叫谷(きょうごく)】です…!」

 

「いや、にしては異質過ぎる…! だがこれは一体…こ、こんなモノ知らない、知らないヨ!」

 

 けたたましく反応する界間感知装置を確認するまでも無く、その異常は一目瞭然。

 死神達の視界の至る所に、神々しい虹色の光を放つ横穴が無数に浮かび出たのだ。

 

「あ、あれは…ッ!」

 

 そしてヤミー・リヤルゴの真上に開いた、最も大きい一つの異界門。その波打つ神秘の空間から現れた幾つもの人影に、戦場の誰もが目を見開いた。

 

 

 

 

「──ヤミー!」『助ケニ来タゾ』

 

 甲高い声と低い声。赤く不気味な円柱形の水槽に浮かぶ二つの球体が、唖然とするボロボロのヤミーへ呼びかける。

 

その破面の司る死の形は

『強欲』

 

 ──"第9十刃"(ヌベーノ・エスパーダ)──

AARONIERO ARRURUERIE(アーロニーロ・アルルエリ)

 

 

 

「──奴め、迷惑ばかりかける粗暴者と思っていたが…謝罪しなくてはならないな」

 

 次に姿を見せたのは、奮闘した同胞を称える色黒の大男。

 

その破面の司る死の形は

『陶酔』

 

 ──"第7十刃"(セプティマ・エスパーダ)──

ZOMMARI RUREAUX(ゾマリ・ルルー)

 

 

 

「──ああ、流石は"第0十刃"。我々の代表に相応しい漢だ」

 

 大男の言葉に同意するのは同じく色黒の女。

 

その破面の司る死の形は

『犠牲』

 

 ──"第3十刃"(トレス・エスパーダ)──

TIER HARRIBEL(ティア・ハリベル)

 

 

 

「──フン、獣が一丁前に奮いおって」

 

 そう鼻を鳴らすのは、尊大な翁。吐き捨てるような台詞に反し、嗄れた声はどこか温かい。

 

その破面の司る死の形は

『老い』

 

 ──"第2十刃"(セグンダ・エスパーダ)──

BARAGGAN LOUISENBAIRN(バラガン・ルイゼンバーン)

 

 

 

「──ざァァらァァきィィ…生きてるみてえで何よりだぜ、くそったれがァッ!」

 

 耳障りな高い声で更木剣八の名を叫ぶのは、聳え立つ細身の巨人。

 

その破面の司る死の形は

『絶望』

 

 ──"第5十刃"(クイント・エスパーダ)──

NNOITRA GILGA(ノイトラ・ジルガ)

 

 

 

「──チッ、やっぱ黒崎の野郎は居ねえか…」

 

 辺りを見渡すのは青髪の若者。目当ての敵の姿が無いからか落胆している。

 

その破面の司る死の形は

『破壊』

 

 ──"第6十刃"(セスタ・エスパーダ)──

GRIMMJOW JAEGERJAQUES(グリムジョー・ジャガージャック)

 

 

 

「──おいおい、藍染様を倒したのはその黒崎一護だって話だぜ? ヤミーも困った奴だが、お前も無茶すんなよな…」

 

 そして最後に現れたのは無精髭の二枚目。気怠そうに隣の戦闘狂を宥めようとする男は、されど振る舞いに反し膨大な力を垂れ流している。

 

その破面の司る死の形は

『孤独』

 

 ──"第1十刃"(プリメーラ・エスパーダ)──

COYOTE STARRK(コヨーテ・スターク)

 

 

 

 総勢七体の桁違いな霊圧を放つ者達。

 彼等に続き、倒した筈の従属官(フラシオン)、総隊長すら下した改造破面(ワンダーワイス)、困惑している現地の協力者(ペッシェ)等も含む──三界に散らばっていた百に迫る数の破面達が、一堂にその巨大な異界門の中で佇んでいた。

 

 

「何………だと………」

 

 

 その信じ難い光景を目の当たりにした護廷十三隊の戦慄は如何ほどのものか。

 

「馬鹿な! 彼らは僕たちが現世で倒した十刃の!」

 

「あいつは、バラガンはあの時消滅したはず! それにジオ・ヴェガ…私の【雀蜂】の決殺が何故…!」

 

「な、なぜ…何故奴等が生きてるんだ!?」

 

 麻痺毒の苦痛も忘れ、堪らず叫ぶ地面の隊長達。これまで成し遂げてきた戦果の一切を幻とする無傷な敵主力勢の姿に、誰もが現実を呑み込めない。

 

「…まさか、"魂魄再生"?」

 

 だがそこに理性的な声が一つ響く。この驚天動地の真相を暴く、十二番隊技術開発局局長の苦々しい言葉だ。

 

「"魂魄再生"…だと…?」

 

「霊性因子を元に死した魂魄を再生する、霊性科学のタブー中のタブーだヨ…ッ! どうやら日番谷先遣隊の戦いで観測されたあの黒い箱状の転送装置で、滅んだ破面の因子を回収していたようだネ…!」

 

「!!?」

 

 死神達の頭からあらゆる思考が消える。

 理論上は生命機能・容姿・人格・記憶・能力に至る全てを回生できる、云わば魂魄の"死者蘇生"。

 

 なんだそれは。斯様な理不尽がこの世にあっていいのか。崩玉を得た藍染は、それ程の技術を手にしていたと言うのか。愕然とした顔で必死に胸の絶望感と戦う護廷十三隊。

 

 

「──すまないね、そういう事さ」

 

 そんな彼等を嗤う、涅の卍解から発されたものと同質の嫌味な男声。その肉声が聞こえた方角に、桜色の髪を掻き上げる一人の青年が居た。

 

その破面の司る死の形は

『狂気』

 

 ──"第8十刃"(オクターバ・エスパーダ)──

SZAYELAPORRO GRANZ(ザエルアポロ・グランツ)

 

 

「…お主が破面(アランカル)の統括者か」

 

 光の門から侮蔑の目で死神等を見下すその男へ、老将・山本重國が静かに問う。それは情けなく動揺する隊長達を正気に戻す一喝となった。

 そうだ。想定外はさておき、我等の目的は奴ら藍染勢力の残党と対話する事。ならば…

 

「統括者? ハッ、まさか! 僕は忠実なる下僕。大事な同胞を迎える君命を頂いただけだよ」

 

 だが、ザエルアポロは大仰に翁の問いを否定し、数体の破面に支えられて立ち上がったヤミーへ微笑んだ。バツが悪そうに頬を掻く巨漢は、憎らしくも嬉しそうな複雑な顔をしている。

 

「…ならばお主が伝えよ。今後の三界の均衡に関する話がある」

 

「残念。僕達と取引したい君等には悪いけど、生憎ついさっき、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…何じゃと?」

 

 理解が出来ず訝しむも、最古の死神は即座にハッと思い至る。遙か古の時代、神話に伝わる強大な大虚(メノス)の襲撃。その戦場となった尊き神域での一幕を。

 

「お主等、よもやあの者達と…!」

 

 山本の問い返しはザエルアポロの嫌らしい笑みで煙に巻かれる。

 

 しかしそこへ、破面の青年の興味を引く別の言葉が飛んだ。

 

「……待ち給えヨ。貴様、自分を"忠実なる下僕"と言ったネ?」

 

「ほう」

 

 科学者の涅マユリ。彼もまた、破面達の完全な復活からある推測を組み立てていた。

 

 魂魄消滅と同時に霊子へと戻る霊性因子。そこから死者を再生する時に立ちはだかる技術的困難は数知れず。故に魂魄再生は机上の空論とされてきた。

 そんな奇跡を成しうる方法はたった一つ。一の可能性を無限へと引き上げる理の力、【崩玉】。

 しかしそれは藍染の手にあり、雛森桃のものも消滅した。

 

 だがもし、それが消えてないのだとしたら。あの天へ消えた光の分身達の正体は…

 

「まさか、貴様等のトップは…!」

 

「フフ、少しは賢い者がいて安心したよ。これであの方の願いも叶う…」

 

 意味深な会話を交わす両者。しかし涅マユリの驚愕からその衝撃的なやり取りが垣間見れた。

 

「さて、用事は全て済んだ。我々は失礼させて貰うとするよ」

 

「なっ、待てッ!」

 

「逃がすか!」

 

「"あの方"とは何だ! 答えろザエルアポロ!」

 

 ここまで虚仮にされてみすみす逃亡を許すなど末代までの恥。耐え難い屈辱に吠え、毒に苛まれる体で必死に立とうとする隊長達。

 

「追いたければご自由に。だけどその時は君達が"悪"になるから、その覚悟でね」

 

「何だと…ッ」

 

「なに、そう言う"協定"さ」

 

 そんな死神側の激情を嘲笑いながら、破面達はぞろぞろと踵を返し、光の中へと消えて行く。一体、また一体と。護廷十三隊へ、自軍の凱旋を見せ付けるように。

 

「さあ、往こうか…皆」

 

 

 

───我等が女神の座す

 

          あの尊き【英霊宮殿(ヴァルアリャ)】へ…

 

 

 

 

 

 

 そして山本らは輝く虹色の門の中に、二つの人影と、その間に羽ばたく──二対の淡い紅桃色の翅を幻視し…

 

 

「────くそ…ッ」

 

 

 光の門は、跡形も無く消え去った。

 

 

 

 

 多くの謎を残した、虚夜宮(ラスノーチェス)破面軍残党捕捉任務。

 

 護廷十三隊の総力を挙げて当たった作戦は、絶望的な事実と、多大な疲労。そして消えぬ憤懣を彼等の心身に残し、終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しとしとと、十一月の冷たい雨が降っている。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)の【転界結柱】が解かれ、まるでただの悪い夢だったかように現実へと戻った、現世の空座町。

 薄暗い街並みを眺めながら、井上織姫は一人窓枠にスカートの腰を下ろし、物思いに耽っていた。

 

 この四日間、色々な事があった。怖かった事、嬉しかった事、そして悲しかった事。ただの女子高生の自分が今まで経験した事もなかった、非日常。

 ふわふわと現実味がなくて。胸が締め付けられるようで。それでも大切な仲間達と無事にここへ戻って来られた事に安堵する。そんな不思議で複雑な感覚だ。

 

 ふぅ、と小さな溜息が零れる。そして少女は窓の外から視線を外し、恐る恐る室内へと目を向けた。

 

 

「────黒崎君…」

 

 

 窓の脇に置かれたベッドに、この部屋の主である青年が横たわっていた。

 今回の戦いで誰よりも頑張ってみんなを守ってくれた、織姫の想い人。黒崎一護だ。

 

「…ッ」

 

 二人きりの貴重な時間。安らかに眠る包帯だらけの彼の腕に触れようとして、少女は咄嗟に手を引っ込める。既に何度と繰り返されたその行為を悔やむ彼女の顔に、恋する乙女の甘酸っぱさは欠片も無い。

 唯々、暗い影がそこにあった。

 

「……最低だ、あたし…」

 

 織姫は固く目を瞑る。

 

 離れない。脳裏に焼き付いたあの時の恐怖が。誰よりも大切な黒崎君が、自分たち人間と仲良くなれたかもしれない敵を──あの無口な破面の青年を、何度も何度も突き刺した酷い光景が。

 

「…ごめんなさい」

 

 助けに来てくれたのに。あんなに苦しんでまで戦ってくれたのに。嬉しくて、悲しくて、心の底から「ありがとう」と、「無茶しないで」と、沢山の感謝と心配の言葉を送りたいのに。

 臆病で恥知らずな自分は、"誰"に宛てたのかもわからない、最低な謝罪の言葉しか言えずにいた。

 

「…ごめん…なさい……」

 

 視界が滲む。嗚咽が堪えられない。

 自分だけではなく、黒崎君もこれからずっと心を痛め続けてしまうのだろうか。そんな彼に、あたしは毎日「貴方は悪くない」と本心で叫びながら、それでもあの時(ホロウ)となった彼を思い出して醜く震えてしまうのだろうか。

 

 そして、あの悲しい破面の青年とも、もう逢う事は叶わない。彼が見つけた"心"が育む、人と人との素敵な触れ合いを、沢山知って欲しかったのに。

 

 その原因の全ては、己の無力。

 自分に涙を流す資格などないと、必死に歯を食い縛りながら、織姫は死にたくなる程の自己嫌悪にただひたすら項垂れていた。

 

 

 

 

 

 …その時。

 

 ふと顔を照らす淡い街灯の光が、何かに遮られた。

 

「…ぇ?」

 

 何だろう。黒崎君のお見舞いに来てくれた尸魂界の誰かだろうか。二階の窓に影を落とす存在に心当たりのある織姫は、涙を拭いて振り返る。

 

 そこで、少女は……奇跡を見た。

 

 

 

 

「っあ────」

 

 

 

 

 

 開いた窓の外。キラキラと輝く雨に包まれ…

 

 白装束の青年が宙に佇んでいた。

 

 街灯の逆光の中に浮かび上がるその翡翠の瞳を、片時も忘れた事は無い。無表情でこちらを見つめる彼の姿に、織姫は目を限界まで見開いた。

 

 

「……う、るきおら…君…?」

 

 

 そんな、いつの間に自分は眠ってしまったのだろう。夢の中にいるのかとその幻想的な光景を信じられず、されど頬を抓って目を覚ます気も起きず。

 少女は溢れる涙を何度も拭い、彼を見つめ返した。

 

 

「──井上織姫、黒崎一護」

 

 

 彼女と、窓の奥の怪我人へ交互に視線を向け、宙の青年が二人の名を呼ぶ。

 

「お前達にこれを渡せと命を受けた」

 

「ぁ、え…?」

 

 窓まで近付いた彼が腕輪を二つ差し出した。呆ける頭で慌てて受け取る少女。

 

 ぼんやりと眺めたそれは、あの日に彼から手渡されたものとは違う、淡い七色の輝きを放っていた。

 

「俺達の新たな拠点に通じる鍵だ。他の奴等がその腕輪を認識する事はない」

 

「!」

 

「"あなた達をいつでも歓迎する"。そう仰られた」

 

 ハッと顔を上げ、織姫は青年を凝視する。困惑、いや信じられない台詞だった。あのヤミーとか言う人のように、破面達には恨まれているものとばかり。

 

 それでも。未だ彼の瞳に浮かぶ、あの最期の時に見た微かな温もりが、自分の都合の良い錯覚ではないのだとしたら…

 

「確かに渡したぞ」

 

「え、あっ。ま、待って…!」

 

 ふわりと離れていく彼の手を、織姫は咄嗟に掴んでいた。自分でも驚くほど大胆な、危うく二階から落ちそうになった行為に混乱しながらも、少女は必死に言葉を探す。

 それを、青年は最後まで無言で待っていてくれた。

 

「あのっ…う、ウルキオラ君っ!」

 

 織姫は強い気持ちを瞳に乗せる。

 

 言うべき事は簡単に見つかった。ずっと、言おうと思っていた事だった。

 

 息を整え、最後に大きな深呼吸をし……少女は決意に固く結ばれたその唇を、開いた。

 

 

 

 

───あたし達と、

 

          友達になってくれますか…?

 

 

 

 その問いに、翡翠の目が僅かに見開かれた。

 

 一瞬にも永遠にも思える沈黙の後、青年は織姫と一護を一瞥し、二人に背を向け歩き出す。進む先には彼を迎えるように現れた、虹色の光の空間。

 

 嫌だったのか。そう不安げに見送る少女は、されど彼が光の中に消える直前。

 

 

 

 

 

 

───また逢おう。

 

 

 

 

 

 

 そんな平坦な声を、聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その破面の司る死の形は

 

『  』

 

 

 ──"第4十刃"(クアトロ・エスパーダ)──

ULQUIORRA CIFER(ウルキオラ・シファー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

悦森さん、護廷十三隊との対立で集めたジャンプ読者のヘイトをチャン一と織姫にウル坊を送る「主人公の味方」アピで清算し、尚且つウル織シーンを観察できて一石二鳥のファインプレー(余韻台無し


と言う事でこれにて「十刃再結成篇」は閉幕です。
短くするハズだったのに4万文字とか…短いってこれもうわかんねえなってはっきりわかんだね。
ただ何気にこの話は書いてて一二を争うくらい楽しかったです。
やはり俺は愉悦部じゃなかったんだよ!(ΩΩΩ<!?


次回は100話いった記念に何かネタ系なの書くか、普通にヨン様篇のエピローグやるかで迷い中です。
お楽しみに!

 

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