雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくゥ⤴!
とりまチャド篇の前に桃ちゃん拠点での一幕
17ヶ月も進むから描写するなら今しかないのだ…すまぬ
果てなく広がる水の鏡面に、紅桃色の星雲が溶け込んだ、美しき永夜の世界。
水面の中央には巨大な白亜の神殿が優美に佇み、開かれた窓から零れる灯りや誼噪が住人達の活気を物語る。
ここは三界の狭間に浮かぶ空前絶後の大叫谷──【
幾つもの尖塔に囲まれた半球天蓋が聳え立つ、無機質で荘厳な王城【
「──あ、あのシャルロッテさん。これっ、凄いはだけてるんですけど…っ」
鈴音の声を羞恥に荒げ、小柄な少女が腰掛ける玉座でぷるぷる震えている。背中の異形の翅に楽園の夜空を映す彼女こそ、かつて"雛森桃"の名で呼ばれていた元死神。
この地を司る超越者だ。
「ンもう、大人しくしててくださいませ! 我等
「せやで桃ちゃん。シャルロッテもわざわざ凱旋の晴れ舞台を早めに切り上げて来てくれたんやし」
「市丸隊長は後ろ向いててくださいっ。今度こそ乱菊さんに言いつけますよ!」
そんな上位者を取り囲むのは二人の男。少女の纏うボロボロの小袖を整える片割れの巨漢──シャルロッテ・クールホーンと、嫌そうに頬を膨らませる彼女をニヤニヤ嗤う糸目の青年──市丸ギン。
これより行われる初の女王謁見。その段取りなどの最終確認のため、彼等はここ玉座の間にいた。
「ダメよ雛森様、恥ずかしがっては女が廃れますわ! 着飾ろうにも服が霊圧で燃えてしまうのですから、その白衣と素肌で原初の女体美を全面に押し出して……って、あら? 雛森様、もしや以前のコーディネートの時よりお胸が少し育っ──」
「なぁ!? わーっ! わーっ! はっ、【破道の一・衝】ッ!!」
玉座の左手に侍る市丸が霊弾に「あいたっ!」と吹き飛ばされ、続く少女の憤慨は目の前の大男へ。
「シャルロッテさん、周り! 周り見て! 市丸隊長のこと嫌いでも存在まで無視しないで下さいっ!」
「あたた…い、今のはボク微塵も悪うないやん。てか思いっきり君の服弄っとるシャルロッテこそ男やないの…」
「この人は乙女だからいいんです! そもそも破面は子孫を残す必要ないから異性に興味持たないですし」
「…へ?」
一瞬、この小娘は何を言ってるんだと共に目をぱちくりさせる破面と死神。
「あの、雛森様? 我々
「せやなー桃ちゃん! ボクが悪かったわー!」
勘違いを正そうとするシャルロッテを黙らせ、市丸は最近親しくなった
…もっともあの
そんな挙動不審な二人を訝しみ、少女が真実に気付きそうになった寸前。玉座の間の大扉がガチャリと開かれ新たな人影が入室した。
「──何をふざけている、お前達。
色黒の男──東仙要の報告に市丸が真っ先に飛び付き話題を変える。
「こっちも丁度終わりました。桃ちゃんもシャルロッテにプロデュースしてもろたしバッチリですわ」
「どこがバッチリですか! こんなの人前に出られない…っ」
「服など女王の雛森の好きにさせろ。話に聞くハリベルやリリネットのような痴女でなければ構わん」
初対面時の記憶を引き出し「そちらの感性はマトモだった筈」と呟きながら、玉座の右手に控える盲目の東仙。
そんな嬉しい評価に何度も頷き、少女がシャルロッテの嘆きを無視していそいそと衣類を整え直す。
そして彼女の入室許可に満を持して現れた、十人の破面。
その中でも格別な武功があった、目を丸くしている浅黒い肌の巨漢へ、女王は満面の笑みで労いの言葉を贈った。
「お帰りなさい、ヤミーさん!」
ハンバーグですよっ!
***
お久しぶりです、あたしです。
ついさっきまで幸せな「雛森ィィィィ!」の余韻を噛み締めていたはずの、雛森桃です。
とても長く忙しい戦乱の日々が終わりました。ようやく一息つけると思った矢先、唐突に襲いかった人生ガバ。
そんなあたしは今、ジュージュー美味しそうな音と匂いを立てる肉汁の気泡をぼーっと眺めています。
「あーっ! ヤミーのクセに僕より肉大きいとか生意気! ずるい!」
「あァん? 俺のクセにってなんだカマ野郎。てめえと俺の図体の差を考え──っておい何シレっと皿交換してんだルピ! 返しやがれ!」
「捨て置きなよ、ヤミー」『オカワリガ欲シケレバ頼メバ良イ』「雛森さまー! ステーキ欲しいー!」
「なっ、いい加減にしたまえよアーロニーロ! いくら慰労会とはいえ我等が
「プハァ…! ちょっとヒゲ、お祝いの席でそんなカリカリすんじゃないわよ! 折角のドン…ドンペ…このアンタみたいな名前のお酒が不味くなるじゃない!」
…と、このように。
心優しい()桃ちゃんは現在、大体原作通りの働きを魅せてくれた自慢の部下達を労う宴会にて、腕によりをかけて作った料理の数々を振舞っています。
とても大変です。
何が大変って参加者の人数以外にも、隣の料理ガチ勢のこだわりがうるさい。
「何をぼーっとしている、さっさと皿に載せろ。それ以上焼くと食感がパサ付く」
「あ、はい」
シェフモード東仙に叱られ慌ててステーキを鉄板から下ろす。最初はあたし一人で頑張っていたのを、途中から「お前は動きが遅すぎる」と調理台を乗っ取られ桃ちゃん肩身が狭いなう。
…いえ、こんな事はいいのです。もっと大変で面倒くさい事が起きました。
念願の「雛森ィィィィ!」を堪能し、しんみりしながらも原作通りにヨン様敗北の展開を再現して終わったのに、折角の余生生活を妨害する新たな仕事を押し付けられてしまったのです。
「いやあ、目出度い目出度い。これはボクらも益々女王サマを盛り上げていかなあかんなァ」
「しかし主役が不在の宴は寂しいものです。そろそろお席に着かれてはいかがですか、麗しき女王陛下?」
そう言いながら現れたのは、諸悪の根源野郎共の一〇とザエルアポロ。人のパーソナルスペースにニヤニヤ近寄るゲス顔の二人に、あたしは思わず
「…主役はあなた達破面軍ですのでお構いなく。あと"女王"は止めてって何度も言いましたよね? 嫌がらせですか?」
…そう、"女王"。
穏やかな余生を過ごしたかったわたくし雛森桃は、ヨン様陣営の残党全員からヨン様の後釜の地位に無理やり担ぎ上げられてしまったのです。
主にコイツらの根回しのせいで!
「嫌やなァ、桃ちゃんはもう立派な女王サマやないの。何や悩みでもあるんやったらボク相談乗るよォ?」
「僕が仕立てたコックコートもお気に召さなかったご様子。雛森様の珠の素肌を晒すそのお姿は料理の不都合となられるのではと特別にご用意したのですが…」
「衣服は零番隊に注文するので結構ですっ!」
ワザとらしく悲しそうな顔をする男共にあたしは益々腹が立つ。今もコイツらに色々言いたい思いを我慢してるのに、わざわざそっちから寄って来ないで欲しい。
大体一〇もザエルアポロもなんで生き残ってるんだ!
一〇はヨン様裏切りシーンに一護が間に合う可能性を失念してたあたしのガバだからもう諦めたけど、ザエルアポロはホントなんなの!
マユリ様戦の映像見せてって頼んでも「奴に映像記録が妨害された」とか嘘か本当かわからない事言って拒否するし。おまけになんか大戦後からあたしの体をヘンな目で見る回数が明らかに増えてるし…
てかコックコートってどこであたしの服のサイズ知ったんだよ、燃やすぞ!
ガバが起きたのは確かなのに、肝心のガバがなんだったのかがわからない。とりあえず何とか距離を取ってるけど、どうもあたしの知らない所で一〇と仲良くなったらしく奴を介してこうして接触してくるのだ。
何とか二人を追い払ったあたしは隣で休憩中のDJにコソコソ耳打ちする。
「…東仙隊長、あの二人が何を企んでるか心当たりとかあります? なんか不気味で…」
「別に謀反を企てている訳ではあるまい。とはいえ女王たるお前へのセクハラ等無礼の数々は目に余る。後で厳しく注意しておこう」
「あ、ありがとうございます…っ」
なんて頼れる紳士、口うるさいとか言ってごめんなさい。でも女王呼びは止めて。
まあぶっちゃけこの場所、マイ叫谷こと
ガバ玉だろうとスペック自体はガチだからね。少なくとも霊的には無敵だ。
ちなみにこの【
お外の桃色大星雲のウユニ湖はあたしの力作である。
…しかし、尸魂界か。
頭に浮かぶのはつい先ほどの
"
最悪、来たる千年血戦篇を彼らが戦い抜くのに必要なOSR値が不足して原作以上に悲惨な事になりかねない。
あたしは
よって彼らを破面軍再結成の踏み台にした責任を取るべく、あたしは"雛森桃"の立場を利用する事にした。
あのヨン様も評価してくれたジャンプ脳な霊圧強化法──【鎖結・魄睡鍛錬】を死神陣営に普及させるのだ。
というか零番隊の和尚から「普及させて」と要請された。
どうも和尚達は"雛森桃"の処刑をその功績で免じた事にしたいらしく、あたしとしても分身雛森を他隊のシロちゃんの側に置く口実が欲しかったため即承諾。
臓器鍛錬法を人に教えるのは大変だろうけど、最悪隊長達の臓器が壊れたらあたしが崩玉パワー+回道で治せばいい。崩玉パワーがバレても融合時の残滓だと誤魔化せるし、ダメでも護廷十三隊に疑われて孤独になればシロちゃんが曇ってくれるのでどう転んでもあたしの得にしかならない。
…うん。
チャン一たち主人公陣営へのフォローは最オサレ破面ウルキオラに任せたから大丈夫だし、これで千年血戦篇も乗り越えられるだろう。
女王の立場も考え方によっては破面軍を率いるのに都合がいいし、ヨン様やバラガンみたいにふんぞり返ってるだけでも許されるはずだ。
余生の妨げとならないよう、仕事は秩序大好きDJやゾマリハリベルネリエルルドボーンウルキオラ辺りに任せればいい。
勝ったなガハハ!
飯食ったらシロちゃんの様子見てくる。
***
大天蓋のドームから延びる北廻廊の先、最も安全で秘匿された所に女王の私室がある。窓や扉が固く閉じられたその密室の中で、あたしは飛梅ちゃんと桃玉
「"…ふぇっ?"」
『──ダメダメお姉さま全然ダメ!──もっと「ポカーン…」って感じ!──ちょっと狙い過ぎ感が強いわね…──ちゃんとお手本の飛梅を見習ってよ!──』
『はぁ!? 誰がお手本ですか、誰が!』
「今のもダメかぁ…」
辛辣な桃玉の評価に軽く凹むあたし。
雛森ムーヴ、この道百五十年。もう前世の男だった自分を想像できないくらい原作雛森ちゃんになりきったと思っていたが、どうやら理想にはまだまだ遠いらしい。
やはり魂の半身・飛梅ちゃんの方がずっと乙女っぽいのは主人として悔しいものがある。本人は『こんなあざとい反応しませんっ!』って否定しているけど。
…さて。
お気付きの通り。今あたし達がやっているのは、尸魂界の分身雛森を使ったシロちゃんメンタルケアの大チャンス──「感動の目覚め」イベントの演技練習だ。
あたしとヨン様の超大作で素晴らしい「雛森ィィィィ!」の輝きィィィィ!を見せてくれた最愛のシロちゃん。その心はもうボロボロのバッキバキ。これ以上は確実に精神が壊れてしまう…というか既に二回壊れているので、一度癒しのインターバルで回復させないと本当に危ない。
今まで沢山頑張ってくれた感謝を込めて、我々はこうして彼の素敵な思い出となるよう万全の準備をしているのだ。
「…よし、【寝ている雛森に告白】パターンでの演出はOK…っと」
『──今のは【目覚めのキス】でも使えるから完成度上げたいわよね──あとは【覗き込んだ雛森の顔に涙が落ちて…】の演出かな──』
「うーん、ポタッって来た時に目を開けて『シロ…ちゃん…?』って感じ?」
『──自分が生きてる事への戸惑いが先に来ないと不自然よ?──やっぱり余計な事考えさせない愛の告白からの「ふぇ?」が一番ね──そっちを狙っていきましょ──』
「そうね、それが一番シロちゃんのメンタル回復するはず」
『……この話し合いそのものが一番あの子の心をズタボロにしてるのでは?』
飛梅ちゃんのマジレスを無視し、あたしは桃玉の客観的視点から少しずつ演技演出のバリエーションを増やしていく。
うふふ、シロちゃんは曇ってる時が一番だけど、恋する少年らしい彼もまたかわいくて素敵なのだ。
原作にはなかった日番谷冬獅郎の新たな魅力を見つけたあたしには、その輝きをもっと引き出す責任がある。それを彼の曇り顔をより輝かせる結果に繋げる事が当面のあたしの生きがいとなるだろう。
そしてあたし達がシロちゃんの様々な表情を妄想してニチャニチャ盛り上がっていた、その時。
『────!!』
来た! 尸魂界にいる分身雛森当番の桃玉欠魂から『──シロちゃんに動きあり!──』の緊急報告!
これで昨日の報告と合わせて四度目だが、今回のはかなりガチ目の様子。期待を胸に意識を二つに分けダッシュであっちの体へGO!
『──あ、お姉さまナイスタイミング!──』
(おまたせ! どれどれ、どんな感じ?)
スッと分身体の意識を当番の桃玉欠魂と入れ替え、あたしは細心の注意を払いながら慎重に周囲の様子を探る。遅れて他の桃玉欠魂達と…あと飛梅もやってきた。なんだかんだで彼女も愉悦道にどっぷり漬かっている。
さて、シロちゃんは…
「───そんなの……俺の台詞だ、馬鹿野郎…ッ」
ふぁぁっ!?
あたしの手をぎゅぅぅぅうっと握り、絞り出すような切ない声で気持ちを吐露する涙目のシロちゃん!
こっ、これは…! これはこれはこれはぁぁっ!
「俺の気持ちなんて、全然…これっぽっちも見てくれねえクセに…ッ」
いいえっ、我々雛森連合は四六時中いつも誰よりもあなたの事をガン見しています! 今だって胸がキュンキュンして悶えたいのを必死で我慢してるんだから!
先ほどの予行演習時の脳内妄想を遥かに凌駕する素敵すぎる展開にあたしも桃玉も飛梅ちゃんも大興奮。だがあの怒涛の空座町決戦を乗り越えたあたしの表情筋は微動だにしない。舐めるな!
しかし…
「年上だからってカッコつけてんじゃねえよ…! 俺のことガキ扱いしてんじゃねえよ…!」
はぁぁん、かわいい! 背伸びするシロちゃんかわいい!
悉く急所を抉ってくる彼の攻撃に桃ちゃん大ピンチ。そして脳内で飛梅たちがキャーキャー騒いでいる間もシロちゃんの輝きは止まらない。
「こっち…見ろよ…」
うんうん! ちゃんと見てるし聞いてるよっ。
「寝てちゃ…言えねえだろ…」
! まさか…!
言うの? 言ってくれるの? 言ってくれちゃうの!?
あの誕生日の月の夜にヘタレて言えなくて後悔しちゃったあの宣言の続きを!?!?
「俺にも…お前に…ッ」
そして遂に──時は来た。
きゃああああああああああ!!
はぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!
シ"ロ"ち"ゃ"ん"か"わ"い"い"な"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ん"も"お"お"お"お"お"お"お"ん"!!!!
なに! 何なのその切ない曇り顔!? 原作の曇りシーンじゃないのにこの眩いばかりの結露した湿度の輝きは!! ヤバい死ぬ! 愉死と同時に尊死しちゃう!
も、もう無理! もう我慢できない!
あたしは空座町決戦以来の情熱で、全身全霊の雛森乙女ゾーンに入る。
そして、胸に溜めに溜めた高揚感を一気に解放し、散々練習したリンゴのような顔と潤んだ瞳で渾身の台詞を口にした。
零番隊の交渉シーンは2000文字ほど書いたけど気に入らなかったので全カットしました
和尚の超越者ムーヴが難しい…
多分次回か次次回から完現術篇
個人的にちょっと十刃達との触れ合いが消化不良なのでもしかしたらもう一話くらい書くかも