雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
悪名(?)高い死神代行消失篇。
笛吹界隈では死神破面オリ主が多いから大体カットされてしまう不憫な現世メインのお話。
あの月島さんを輩出した伝説のプリングルス篇で悦森さんはどんな愉悦とガバを愉しむのか…?
序章の吟醸過去補完回です。
全部…陰謀さんが居たからじゃないか…!
研究者然とした鋭い目に油断はない。だが一同が揃って身に着ける
「──何かに利用できると監視機能を備えさせたが、まさかこうも都合よく事が運ぶとはな」
死神たちが見つめる先にあるのは無数の映像画面。とある現世の家屋をあらゆる角度から映すそれらの中では、複数人の人間の集団と、一人の死覇装の男が談笑していた。
作戦の標的である、稀有な霊能力者の一団だ。
「やはり無力な人間共の方が効率よく"保有者"をあぶり出せる」
「彼等の存在を他に認知される事は絶対に避けねばならぬ。モタモタしていると護廷十三隊に嗅ぎ付かれますぞ」
焦りを滲ませる壮年の女の声に、周囲が頷く。昨今の尸魂界における技術発展を考えれば、この規模の現世活動を長く隠蔽するのは難しいと誰もが理解していた。
"隅立て四芒星"の家紋を背負う彼等は
此度の計画は、その管理すべき情報の中でも最重要機密に分類されるこの世の神秘。三界の各地に散らばった神の因子。
【霊王の欠片】の回収だ。
「…では御所様、そろそろ」
「うむ」
映像画面に映る若い黒髪の死神とその同胞達を眺めながら、老齢の男が頷く。
あらゆる霊なるものの頂点にして要石たる超魂魄、霊王。その爪一片であろうと手にすれば"万物の魂の使役"を可能とし、絶大な霊力を育む。古代の英雄を冒涜した彼等四大貴族の罪の証であるそれらは、皮肉にも彼等の狂気的な知識欲を満たす最高の玩具でもあった。
「これより危険分子【
『御意!』
潜伏させた私兵団に指示を飛ばし、映像室一同は立て続けに送られてくる吉報に笑みを深めていく。そして作戦に従事する団員達より、標的との戦闘による味方の死傷報告が上がった時…
貴族たちは作戦成功の拍手を上げた。
「…さて諸君、痛ましい事が起きた。当家の大切な私兵が現世演習中に、例の死神モドキとその一派に襲われたのだ」
「許せませんな。即座に四十六室へ報告し、しかるべき法的措置を」
「直ちに」
「保証人の
退室する末席の男の背を眺め、満足そうに煙管に火を灯す老齢の当主。彼の小さな呟きは、一族の、そして尸魂界そのものの抱える闇の深さを不気味に物語っていた。
「……君の働きは、君のためのみに用意された制度に新たな価値を生んだのだ。尸魂界の歴史の一部となれる事を光栄に思い給えよ…」
***
現世は某所。
人目を忍ぶように建てられた粗末な家屋に、高揚感に頬を赤くしている十名近い人影が集っていた。女子供から老人まで、年齢性別に隔たりのない奇妙な一団。だが彼らは等しく、己の人生の全てを懸けてこの地に集まっていた。
「──待たせたな、みんな」
深夜0時の鐘がなってしばらく。家屋の扉が開かれ、澄んだ笑みを浮かべる黒い袴姿の青年が現れた。その歯の眩しさに引き寄せられ、一斉に口を開く集会の面々。
「ほ、本当にこの力を消し去ってくれるんですか…!?」
「ぼく、もうみんなにいじめられない…?」
「あの化け物にも襲われなくなるのよね? そうなんでしょ?」
「あぁ…これで逃げた妻も戻って来てくれる…!」
苦しむ人々の声を聴き、若き青年は彼等に寄り添いながら肩を叩く。
「大丈夫だ。ここにいる何人かには見せる機会があったから、嘘じゃねえってのはそいつ等が知ってるぜ」
「おぉ…!」
「今日からあんた等はユウレイに振り回されなくなるし、あの化け物共にも襲われない。周りに通報されたり見世物になったりもしない──周りと同じ"普通の人間"になるんだ!」
室内は歓喜と安堵の声に満ちる。涙を流す者、感情のまま大はしゃぎする者、聖印の首飾りを握りしめる者。彼等の笑顔を眺めながら、青年は誇らしさに胸が熱くなる。
かつては自分もそうだった。生まれ持った特殊な力に振り回され人間として生きる事ができなかった。
だが青年は死神の力に目覚め、その社会と役割を知り、己の不運と折り合いをつける事ができた。そして彼はある経験を経て力が覚醒し、その本質に気付いた時、一つの願いを抱いた。
自分のような霊能力者たちを苦しみから解放したい。俺には手にする事ができなかった、平凡で当たり前の幸せを掴ませてやりたい。
それを成すために、この忌々しい力が自分の身に宿っているのだと信じて。
「────…!?」
その時。
不意に強い霊圧が周囲に満ち、青年の肌が粟立った。
「何だ今のは…?」
「……少し様子を見てくる。お前らは静かにしてろ」
「は、はい…!」
急いで展開した霊圧感知に幾つかの大きい気配を感じる。物々しい雰囲気に戸惑いながらも、彼は慎重に家屋の外へ出た。
「死神…?」
夜闇の中に立っていたのは、死覇装を着た数名の男。この町の担当ではない知らない連中だ。
誰かが会いに来るなどと言う話は尸魂界から聞いていないが、一体何事だろう。首を捻りながらも青年は緊張を解き、懐の代行証を彼等へ提示する。
「…死神代行の
そう問うも、返事は相手の鞘から抜かれた人数分の斬魄刀のみ。突然の敵意に青年は慌てて両手を上げる。
「お、おいおい
だが彼が言い終わる前に、突然背後で大勢の悲鳴が木霊した。
「な……!?」
何事かと振り向き見た光景に青年は絶句する。十人近い新たな死覇装の集団が、彼の呼び寄せた霊能力者たちへ襲い掛かっていたのだ。
「ど、どういう事だよ……止めろ…止めろッ!! あいつら一体何して…なんで死神が人間を襲ってやがんだよ!!」
「──銀城空吾」
「…ッ!」
走り出そうと一歩を踏み出した青年を、死神達の一人が制止する。
「
「ふるぶりんがー…収集…? ど、どういう事だ!? なんでこんな事をしやがる!!」
目の前の信じ難い惨事に重なり言われた、意味不明な労いの言葉。だが大混乱に優柔不断となった銀城を放置し事態は更に悪化する。
「──ぎ、銀城さん…! 貴方最初からこれが狙いだったの!?」
突然、怨嗟の声が男の耳を劈いた。プロポーズしてくれた恋人のために普通の人間になりたいと、はにかみながら今日の集会に参加した妙齢の女性の霊能者だ。
「こいつ等…服が銀城さんと同じ黒い着物だ…!」
「私達を集めて殺すつもりだったのね!?」
「う、嘘つき! 裏切り者!」
「助けてくれるって…普通の人間に戻してくれるって約束したのに!!」
目の前で、自分と同じ死覇装を着た敵に無残に殺されていく同胞達。その彼等から次々に向けられる憎悪の罵倒に銀城は愕然と立ち尽くす。
「ち、違う…! 俺は……俺は…ッ」
なんだこれは、一体何が起きているんだ。味方であるはずの死神達の振るう凶刃に圧倒されながらも、青年の脳は辛うじて現実を直視する。
収集。働き。尸魂界が評価する。それらの言葉が導く、この光景に最も相応しい推理はたった一つ。
「……利用…され……」
そうだ、俺は利用されたんだ。銀城は漸く悟る。
霊界の理上の理由か、あるいは排他精神による異端排除か。死神勢力にとって存在が不都合な人間の霊能力者達を消すために、自分は撒き餌として泳がされていたのだ。
思えば以前から違和感はあった。
仮にも人間の身で死神の最終奥義である卍解にまで至り、更には
しかし紆余曲折の末、彼等が青年に強制したのは虚退治の決まり事と、代行証の携帯のみだった。世界一つを支配する巨大組織【瀞霊廷】にしてはあまりに杜撰なリスク管理だ。
銀城は自問自答する。虚退治の際、尸魂界はどうやって自分に虚の出現信号を送ってきた? これまで接触があった十三番隊の隊士達はどうやってこちらの位置を把握できた?
何より死神達はどうやって、今夜に霊能者達の集会がある事を、そして銀城が彼等を集めている事を知った?
「ぁ…」
ゆっくりと、青年は自らの代行証へ目を向ける。死を示す髑髏のエンブレムが刻まれた多角形の木板。
「あ、ぁ…」
その髑髏の暗い眼孔の
彼自身の愚かさ故に見抜けなかった、人間の守護者を騙る死神共の本当の姿が…
「あ…あぁ、あア"ああぁぁぁアアア"ア"■ア"■■■■!!!」
絶望の金縛りが憤怒の力で解かれる。体中に虚の霊圧が満ち、虚髄に塗れる銀城は憎悪の獣と化す。
かくして仲間達を、救いたかった同胞達を殺した仇敵共へ、堕ちた青年は復讐の刃を振り下ろした。
「ッ、銀城空吾による敵性行為を確認! 作戦を乙より丙へ変更!」
「映像記録開始! "ぐぁっ、死神代行が暴走を──!"」
「───…!」
「──」
†††
「────銀城…!」
遠くで聞こえた声が眠る意識を浮上させる。ハッと目を覚ました男──銀城空吾は、自分を心配そうに見下ろす長身の青年の顔を見て、深い溜息を零した。
「…ッチ、やなモン夢に見ちまったぜ」
「かなり魘されてたけど大丈夫かい? 調子が悪いなら予定を変える手もあるけど…」
能力の都合上、常に仙人のように空虚な雰囲気を纏うコイツにしては珍しい、焦燥の色。苦い顔をする仲間の提案を振り払い、銀城は寝そべるソファから腰を浮かす。
「…そんなに怖えか? お前が
以前聞かされた最大の不確定要素について問うと、青年の渋面が険しくなる。かの"警戒対象"との最初の遭遇から何度かアプローチを変えて挑んだらしいが、晴れない顔を見る限り未だ状況打開には至っていないようだ。
「……あの女の事も含めてさ、もう一度考え直してくれないかな? 半死神なんて、別に"彼"に拘らなくても僕が何人だって用意して──」
「らしくねえな、
仲間の言葉を遮り、銀城は部屋の出口へと歩き出す。その口角は、かつての澄んだそれとは大きく変わってしまった、暗く獰猛な笑みしか作らない。
「漸く、勝ち目しかなかった俺達の盤上をひっくり返せる奴が現れたんだ。それでこそ"勝負"ってモンだろ?」
そう笑う男を悲しげに見つめ、少しの逡巡の後。長身の青年が無念に肩を落とした。
「……なら勝負事が苦手な僕は、神へのお祈りを練習しとくよ」
「お前が神にだァ? ハッ、ギリコの奴がキレなきゃいいがな」
暗い顔の仲間を背に、愉快に鼻を鳴らす銀城。神に等しい力を持つ野郎が随分と殊勝な事だ。
…あの裏切られた日から変わった事が二つある。
一つは己の
結構な事だ。そうでなければ憎悪のあまり、あの惨劇の場に自身の代行証を投げ捨てていたかもしれない。
奴等への復讐に相応しい断頭刃、【
そして、あの日から変わったもう一つの事が…
「───何、銀城もう行くの?」
不機嫌そうな女の声が銀城の背に投げかけられる。それに続き、他の男女三人の声も。
「…本当に一人で大丈夫なの? せめてリルカ一人くらい…」
「そうそう、頭の悪そうな女子がいたら向こうも多少警戒緩むと思うし」
「なーんですってェ!?」
「仲間をあまり頼って下さらないのは銀城さんの悪い癖ですからねェ」
程度の差はあれど心を配ってくれる同胞たち。バラバラの"弱肉"の分際で、馬鹿に寛容すぎるこのふざけた世界を崩そうと目論む、自分と同じ愚かな連中。どいつもこいつも心の何処かがぶっ壊れている狂人共だが、だからこそ俺のような惨めな復讐者にも手を貸してくれるのだろう。
だから、せめて。
「こいつは俺のケジメなんだよ。同じ、死神代行の後輩へのな…」
ぶつくさ五月蠅い背後へ「俺の幸運でも祈ってろ」と言い残し、男は"二度目"の仲間達に見送られながらアジトを後にする。
目指すは隣町、空座町。
己の因縁に終止符を打つため、銀城空吾は長年の雌伏の日々と決別する一歩を踏み下ろした。
「……違うよ銀城。僕たちが祈らないといけないのは、幸運じゃない」
既に進み出した男の耳に、そんな仲間の青年──
桃・梅・玉「……」(ニチャァ…
あとここに居る愉悦部諸君はチャン虐に夢中で問題ないだろうけど(偏見)、この死神代行消失編disってる人は一度小説読んでから単行本で本編読み直すと印象真逆になるから読め(威圧