雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
お待たせしました。
無事に予定していた全6話超えが確定したガバガバ文量管理
一応これ、もう「雛森ィィィィ!」本編終わったおまけだから許して♡
†††
黒崎一護の
新たな力を得て見違えるほどの覇気を取り戻した青年。そのやり遂げた顔につられて笑みを浮かべる銀城は、意識を切り替え彼へ今日の修行の終わりを伝えた。
「…"帰れ"だって?」
ブタ肉さんの中の人を見送っていたリルカが一護のオウム返しに紅潮する。
「あ、あったり前でしょ! 何よあんた、まさか女子がいるココで泊まり込みでもする気だったの? きっしょ!」
「いや、まあ……死神の修行の時は缶詰めで扱かれたし」
浦原レッスンや平子の虚化修行の過酷さをぼそぼそと語りながら恐怖の記憶に体を震わせる一護。
「馬鹿じゃないのあんた…!? それ完全に使い捨ての鉄砲玉にする扱いじゃない! 何素直に受け入れてんのよ!」
「同感だな。お前自分がそれで何度死にかけてるかわかってんのか? 一歩間違えれば本当に虚になってたんだぞ。大切な仲間や弟子にする修行じゃねえ」
「それは…」
「だと思ったぜ…辛かったな一護」
同じ人間として、死神に虐げられる
一護の無垢さに付け込み、何一つ説明せず平気で協力者面をしながら、崩玉を奪われた己の尻ぬぐいをさせるべく十五歳の少年少女を護廷隊や藍染陣営と戦わせる。おまけに彼が力を失ったら即座に興味を失い挨拶にすら来ない。完全に悪徳詐欺師の手口だ。
それまで浦原喜助らに覚えていた曖昧な不信感が形になり、愕然とする一護へ銀城は真剣に伝える。
「…お前を利用しようとしてる点なら俺達もあの男と同じだ。だが俺達はお前を対等の仲間として扱うし、生身の人間に必要以上の無茶はさせねえ」
事実、一護を追い込んだギリコの完現術も銀城の能力を遣えば止められた。安全管理ができない修行など殺人未遂と変わらない。
「仲間や友達が襲われて逸る気持ちもわかるが、今はしっかり休め。体が壊れたら元も子もねえぞ」
「銀城…」
気休めになるかはわからないが、彼が力を付けるまでの間こちらで空座町の見回りをしておこう。幸い銀城には、一護の友人達を襲った相手に心当たりがあった。
「…悪い、恩に着る」
「ふ、ふん! 貸しにしとくわ!」
「素直じゃないですねえ…」
一護の礼に「持ちつ持たれつ」と頬を緩める一同。解れた緊張に安堵し、男は期待の新人を澄んだ笑顔で見送った。
「───それにしても、あの
青年を家へ返し、残りのメンバーも解散した深夜。銀城空吾はアジトの自室で先刻の光景、一護の能力の姿を思い起こしていた。
あんな、まるで死神の斬魄刀の本体のような、意思を持つ人型として具現化する
「…流石は霊界の英雄、ってか?」
半死神に加え、虚の力まで持つ
恐らく一護が発現させたあの仮面の女死神は、全ての力が互いに影響し合い生まれた稀有な能力例なのだろう。彼の完現術の修行メニューを考える立場からしたら頭を抱えたくなるイレギュラーだ。
だが、銀城は困難の横で手ごたえも感じていた。
自分達の目的は一護に死神の力を取り戻させる事。その力の影響が垣間見える彼の完現術は、同時にゴールの近さを表す。
「そうなると……ジャッキーとの修行は、単純な一対一より死神の戦い方を思い出させるような内容にした方がいいな」
当初は物理攻撃タイプの仲間との実戦訓練で青年の能力の完成度を上げる予定だったが、この状況ならより良い方法がある。
焦っているのは自分も同じ。浦原喜助の無茶なやり方を否定しておきながら、銀城自身もそれに倣わざるを得ないほど、実は一護にはあまり時間が残されていなかった。
「…何を企んでいる───月島」
かつて組織のリーダーだったあの男の暗躍に空恐ろしさを覚えながら、男は晴れぬ不安を追いやり寝台で目を閉じた。
†††
昔のように、
霊の気配を───
鳴木市のアジトから自宅へと戻る途中、黒崎一護は不思議な気持ちで深夜の街中の風景を眺めていた。
電信柱の陰に、建物の屋上に、公園の遊具に…
目を向け、耳を澄ませば、あらゆる所から漂ってくるユウレイ達の存在感。今までわからなかったのが信じられないくらい、超常の彼等は自分達の周りを平然と彷徨っていた。
「───気分はどうだ、一護?」
ふわふわとした感覚で道を歩いていると、隣の仲間が優しく問い掛けてきた。
「…忘れてた。俺達の周りってこんなに騒がしかったんだな」
「そうだな…俺も霊力に目覚めたばかりの頃は随分と驚いた」
呆ける一護へ微笑むその相方は、茶渡泰虎。自分の事のように親友の変化を喜んでいる巨漢は、彼の霊圧の影響で今の力が覚醒した経緯があった。
「一護」
「どうした、チャド?」
ふと彼が何かに気付き道路の向かい側へ歩いていく。後ろに続いた一護は、佇む電柱の陰で泣いている童女を見つけた。
懐かしい。昔よく放課後に話し相手になってあげた、交通事故で亡くなった子供の霊だ。
『…お、にいちゃん…?』
こちらに気付き顔を上げる童女。青年はひとまず、彼女の涙の原因であろう倒れていた小さな花瓶を立たせてやる。
「一護、これを。公園の隅に咲いていた」
すると少しの間離れていた茶渡が、可愛らしいアヤメの花を差し出してきた。活けてやれと言うのだろう。一護は苦笑し彼の無言の善意に従った。
『あ…ありがとう…』
か細い声で礼を言う童女は、されどこちらと目を合わせようとしない。涙は止まっているのに悲しげだ。
訝しむも一瞬。理由に気付いた一護はバツが悪そうに頭を掻き、俯く彼女の顔をしゃがんで覗き込んだ。
…恐らく。一護が霊力を失っている間も、この霊はずっと話しかけてくれたのだろう。だがそのせいで突然無視されるようになったと誤解した彼女は、酷く傷付き悲しんだはずだ。
「…悪ィな、チビ。最近調子悪くて霊が見えなくなってたんだ」
詫びながら童女の頭を撫で、一護は帰宅の道へ踵を返す。
その背に投げかけられた彼女の嬉しそうな「またね」は、二人の青年の胸に温かい熱を残してくれた。
夜道を並んで歩く一護と茶渡。
二人の間に会話はない。だがその顔に浮かぶ微笑は、彼等が浸る沈黙の心地よさの証。
そうだ。
この不可思議で厄介な、だけど良い事もある奇妙な隣人達と過ごす日々こそが、俺の本当の世界だったんだ。
互いの家までの道が分かれるまで、青年達は取り戻した日常の幸せを噛み締め続けた。
†††
翌日。
十分な休息を取った一護は、連絡に従い空座町端れの林で組織メンバーの一人と合流した。
「──ジャッキー・トリスタンよ」
勝気に「よろしく」と自己紹介をする異国人の彼女へ、一護は礼を言う。今日は屋外での修行らしい。
「悪いな、付き合わせちまって。昨日の夜に町の見回りをしてくれたのもあんただろ?」
「仲間に遠慮はいらないよ。ま、殊勝な男は嫌いじゃないけどね」
軽い挨拶を交わし、修行監督のジャッキーが特訓内容を説明する。
「───
「そうよ。あんたの完現術の性質を考慮すると、死神としての戦い方と、完現術覚醒に必要な虚の霊圧の両方に触れる"虚退治"が一番手っ取り早いのさ」
「…なるほど」
藍染との一件であの能力の正体に覚えがある一護。ジャッキーの言葉に引っかかる点もなく、彼は素直に頷いた。
肝心の虚に関してはその辺で出現した奴で間に合わせるつもりらしい。行き当たりばったりな計画に呆れる一護だったが、当の監督は平然としていた。
その理由は、自分達
「一護、今ここで完現術を使いな」
「今? 別にいいけど」
訝しむ彼へジャッキーがヒントを述べる。
「あたし達は出産前の母親が虚に襲われる事で力を生まれ持つ。それはあたし達の特殊な霊圧が奴等を寄せ付けるからさ」
「ッ、そういう事か」
意図に気付いた一護は迷わず代行証を取り出す。
「フッ、いい判断だ。じゃあ見せてみな……あんたの完現術をッ!」
彼女の掛け声に応え、霊圧を高く空へ放出する青年。前回の感覚を深く想起し、心の奥底に意識の手を伸ばすと…
聞き覚えのあるその声が頭に響くと同時。
ぶわっと代行証から幾つもの光の鎖が飛び出し、あの懐かしい"仮面の少女"を象った。
「へぇ…前回も見たけど、銀城の言う通り確かに死神と虚の特徴を併せ持つ姿ね。こんな完現術初めて…」
ジャッキーの感想も当然だ。一護は改めてこの少女に思いを馳せる。
卍解の修行で傷を癒してくれた時。内なる虚との対話の道を教えてくれた時。斬月達と一緒に"最後の月牙天衝"を伝授してくれた時。
そして──
「……ずっと、俺の事を見守ってくれてたんだな…」
感慨深い思いに胸が熱くなる。
内なる虚、ホワイトの力を押さえる封印としての役目を終え、藍染との決戦で身を挺してまで助けてくれた、あの"本好きの人"の切り札。未だ謎の多い彼女は、またしても一護を救い、焦がれた力と日常を取り戻してくれたのだ。
「…あ」
そこで青年は戸惑う。彼女が何者なのかは聞いているし、
だが彼女自身の名前を一護はまだ知らない。
そう思い問いかけると、少女は仮面の裏の顎に手を当て考え込む。そして彼女は、自分に名はないが司る封印術には術名があると言った。
「【牙錠封印】…だって?」
「それは
「!」
不意に少女との語らいにジャッキーが水を差す。
「完現術は完成までに何度か段階を踏むモンだよ。名前を付けるのは完全な形になってからのお楽しみさ」
「そうか、だから名前がないのか…」
一人納得する一護に頷き、女が頭上の空を見上げた。
「その能力が前例にないものなら猶更ね。斬魄刀みたいに完現術そのものと対話できるってんなら、それでも進展はあるだろうさ。──だけど、それをやるべきなのは"今"じゃない」
「ッ、この霊圧!」
ジャッキーの視線を辿り、青年は気付く。突如現れたソレはしばらく縁の無かった馴染み深い気配。
「そうら……お客さんが来たよ?」
見上げる青い空に闇が滲む。黒い斑点のようなその歪みから這い出たのは、不気味な仮面を被る化け物達。
『────オォォォォォ…』
『────オァァァァ…』
『───ォォォ…』
『──…』
それらの正体は、心を失い落ちた悪霊・
「…ふっ」
その光景を唖然と眺める一護は、湧き上がる感情に思わず笑みを零す。懐かしさに涙まで滲んでくる。
敵だ。
虚だ。
死神代行の日常だ。
今までの自分だったら姿を見る事さえ出来ずに喰われていた。あるいは石田達が戦う姿を指を咥えて見る事しか出来なかっただろう。
…だが。
「また俺に力を貸してくれるか?」
一護は隣へ振り向く。そこに居るのはあの仮面の少女。己の戦う力、完現術だ。
頼みの彼女が嬉しそうな肯定の言葉を返してくれる。よかった、ならば不安は何もない。
「往けるかい、一護?」
「…ああ!」
代行証を握り締め、ジャッキーの確認に力強く答える。
使う技は一つ。以前の相棒、斬魄刀【斬月】から教わったあの一撃の感覚だ。
完現術の鎖を伸ばし、大きく振り回す。頭上に描く円が、纏う霊圧で闇色に染まっていく。
そして眼前に迫る虚の軍勢へ向け、一護はソレを一気に振り払った。
一閃。
弧を描く鎖から放たれる巨大な扇状の霊圧が、視界に映る全てを両断した。
「なっ!?」
「…ッ!」
鈍い爆音に紛れるジャッキーの驚く声。一護も思わず呆けた吐息を零す。
藍染との決戦の時とは雲泥の差。だがこれまでの無力の憤懣を丸ごと乗せた一撃は、目の前の有象無象を容易く薙ぎ払うほどの威力を叩き出した。
「───ハハッ」
口角が吊り上がる。握る完現術の鎖から仮面の少女のはしゃぎ様が伝わってくる。感情に突き動かされ、一護は残る虚達へ目掛け飛び上がった。
「往…けェッ!!」
「! 今のは
コツを覚えれば後は容易い。足元から感じる土の微かな霊圧を刺激し、瞬歩の応用で跳躍。一瞬で敵の一体を間合いに捉えた一護は、今度は卍字の霊圧を纏う代行証から直接月牙を放つ。
「…銀城、こいつは本当に…!」
その光景に感服するジャッキー。
五体、六体、七体。息をする間も惜しみ力を振るう青年の姿は、まさに一騎当千。
一年半の眠りから目覚めた──"霊界の英雄"がそこに居た。
「はああああああああッ!!」
代行証の鎖を操り敵を蹂躙する一護。彼の胸中は戦いに身を置く者の誇らしさで満ちていた。
…戦える。この少女となら。
また昔のように、斬月と一緒に戦った時のように。みんなを護れる男になれる。
倒した最後の虚が霊子になって消えていく。その様を見送り、歓喜に頬を紅潮させる一護は仮面の少女と見つめ合う。
顔を隠しているのに、あの黒づくめのグラサンヒゲ男より感情がわかりやすい新たな相棒。彼女のぽわぽわした親しみやすい空気に慣れるには、少し時間がかかりそうだ。
「これからよろしくな」
『はい…っ!』
仮面の奥から溢れる喜色を面映ゆく思いながら、一護は少女と共に歩む己の輝かしい未来を笑顔で臨むのだった。
次回は織姫ちゃんと月島さんメインです