雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

112 / 145
 

おまたせ
あまり進まなかった…
ダラダラ原作イベ描写するだけで済まぬ

チャン一修行と織姫ちゃん回

 


全部…豹変さんが居たからじゃないか…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五月、鳴木市。

 

 死神時代の最後の誇りである代行証を元に、無事完現術(フルブリング)の力を呼び起こした黒崎一護。修行の第一段階を越えた彼は、能力の完成を目指してジャッキーの監督で(ホロウ)退治を続けていた。

 

 

「往くぜ…ッ!」

 

──月牙天衝(げつがてんしょう)──

 

 

 代行証から放たれた漆黒の斬撃が敵を消し飛ばす。何度も繰り返された修行の光景だが、この時は様子が違った。

 

「ッ、なんだ…?」

 

「ほう…!」

 

 突如ゆらりと周囲の漆黒の霊圧が揺れ、一護の体に纏わりつく。まるで衣類のようなその形状はさながら死神の死覇装。

 

 そして偶然か必然か。全身を包んだ霊圧の一部は右手の中で刀のように凝固し、いつかの【最後の月牙天衝】を彷彿とさせる武器へと変化。

 

 今までの卍文字の鍔や、光の鎖だけだった能力とは大きく異なる、明らかな進化だった。

 

「へぇ、見違えたわね。そいつは完現術の成長だよ」

 

「これが…」

 

「あんたの体が力に慣れたんだろう。死神と違ってあたしら人間は生身だからね、体力的に無理が利くようになって能力の制限が緩んだのさ」

 

 ジャッキーの推測に頷く。だが一護は、それが全てではないとも感じていた。

 

 

「…もう、大丈夫だって事か?」

 

 

 青年は後ろへ振り向く。

 

 ふわふわと浮いている小柄な人影。自分の完現術の根源──白死覇装の少女が、その恐ろしい仮面の眼孔の奥でニッコリと目を細めていた。

 

「ふふ、化身サマが直々に出力を調整してくれるなんて、ホント主人に優しい能力ね。愛されてるじゃない、一護」

 

「…茶化すんじゃねえよ」

 

 照れているのかもじもじしている仮面少女の姿につられ、何となく一護も気恥ずかしくなる。やはり彼女の柔らかな空気に簡単に順応するのは思春期の青少年として難しい。

 

 頭を掻いて気持ちを切り替え、ジャッキーの話に耳を傾ける。

 

 

「さて、せっかくだしお祝いでもしてやりたいけど……生憎時間がなくてね」

 

 緩んだ表情を改め、彼女が驚愕の事情を語り始めた。

 

「あんたの友達の石田雨竜、浅野啓吾、小島水色の三人を襲った敵の正体がわかった」

 

「なっ!?」

 

 突然の情報に思わず「誰だそいつは!」とジャッキーに掴みかかる。

 一護が力を取り戻したいと望んだ最大の理由が、最近周りで多発している謎の襲撃事件だった。特に浅野達の場合は実際に自分でそれらしき敵の姿を見ていながら何もできず、己の無力を強く突き付けられた一件でもある。

 

「…あの背が高い黒髪の男か?」

 

「! あんた、あいつに遭ってたの?」

 

 友人達が襲われた現場へ駆け付けた時に一言交わしただけだが、相手の人相は覚えている。

 すると驚くジャッキーが少し考え込み、そして真剣な顔で一護を見た。

 

「とりあえず続きはアジトで話そう。多分、かなり長い話になると思うから」

 

「…わかった」

 

 何やら深い事情があるらしい。少しでも情報が欲しい一護は神妙に頷き、彼女の後に続きアジトへと向かう。

 

 

 

「───一兄(いちにい)…?」

 

 

 そんな彼を物陰から覗き見る一人の女子中学生の姿に、二人は気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

†††

 

 

 

 

 

 

月島(つきしま)は、かつて俺達のリーダーだった奴だ」

 

 

 そんな前置きから始まった組織の現指導者──銀城空吾(ぎんじょうくうご)の話は、衝撃的なものだった。

 

 人間としての平穏を取り戻すという志の下に組織を率いたその月島は、皆の夢を叶える方法を発見した人物なのだと彼は言う。

 

 その手段こそが、"死神代行"。すなわち人間と死神の混血児が持つ種族的性質を利用した、完現術(フルブリング)能力の譲渡だった。

 

「方法自体は間違ってなかった。協力してくれた死神代行は多くの同胞達(フルブリンガー)の能力を受け取ってくれ、あいつ等は"普通の人間"になる事が出来た」

 

 しかし、銀城はそこで「だが…」と顔を暗くする。

 

「月島は突然心変わりした。死神代行も人間になった仲間達も殺し、俺達の組織から離反したんだ」

 

「なんでそんな事…」

 

 一護の問いに銀城が首を振る。月島は以後組織の前から姿を消し、その思惑も未だ闇の中だ。

 

「だから今、俺達が何よりも優先すべき事は一つだけ」

 

 

──死神代行のお前を…    

  月島に殺させない事だ

 

 

 彼の決意に一護は唾を嚥下する。ジャッキーが言っていた「時間がない」の意味を理解して。

 

「お前の友人二人はともかく、石田雨竜はそう簡単にやられる雑魚じゃねえ。それができる月島からお前を守るには、お前自身が俺達と共に戦えるレベルまで強くなって貰う必要がある」

 

 一護に異論はない。焦るがままに力強く頷くと、銀城が首のペンダントを握り、隣の仲間の少年へ指示を飛ばした。

 

 

「よし……雪緒(ゆきお)、出番だ。修行部屋を作れ」

 

「えぇ~、面倒くさ…」

 

「事情が変わった。月島に一護の成長を感知されないためにも、霊圧を遮断できる頑丈な空間が必要なんだよ」

 

 彼の説得に金髪の少年が渋々頷く。妹達とそう年の変わらない子供に世話になる後ろめたさから頭を下げる一護。

 

「悪い、自己紹介まだだったよな。黒崎一護だ」

 

「…雪緒・ハンス・フォラルルベルナ。食費にアジトの固定資産費と、こいつ等に色々タカられてる哀れな財布係だよ」

 

「……おい銀城」

 

「ノブレス・オブリージュだ」

 

 元手が彼のクズ親の遺産だから問題ないなどと弁明しているが、大人が子供のスネを齧っている事実は同じだ。組織の闇を見てしまった一護はそっと雪緒に自分のバーの飲食代を支払う。彼の「お兄さんイイ人だね」の言葉が涙を誘って堪らない。

 

「じゃあいくよ…」

 

 

インヴェイダーズ

マスト・ダイ

 

 

 雪緒が懐の携帯ゲーム機に触れる。するとそこから完現術(フルブリング)のドット状の闇が広がり一護と銀城を飲み込んだ。

 

「…言えよ、一護。ガキの頃一度くらいはあっただろ? "ゲームの世界に入りたい"って夢がよ」

 

「そりゃ、まあ…」

 

「ちなみに俺は一度も無え」

 

「じゃあなんで言わせたんだよ!」

 

 銀城にツッコミながら見渡した闇の空間は、荒いピクセルフォントやアイコンが浮遊するデジタル意匠の世界だった。リルカの【ドール・ハウス】とは異なる完全な異空間のようだ。ここならあの月島とやらに気付かれる心配はないだろう。

 

「あまり悠長にしてられねえんでな、さっさと始めるぜ」

 

 

クロス・オブ

スキャッフォルド

 

 

 瞬く光と共に銀城のペンダントが西洋風の大剣に変化する。遅れじと一護も自身の完現術(フルブリング)を身に纏った。

 

「ほう、死覇装に【天鎖斬月】の鍔と鎖か。あの仮面の女は出さねえのか?」

 

「全力で戦う時は鎖の姿になってるんだよ」

 

 頭の中で少女に頼むと、周囲の鎖が集まりいつもの彼女の姿が具象化した。ご丁寧にぺこりと銀城へ一礼している。

 

「えっと、あんたに『修行よろしくお願いします』だってさ」

 

「凄えな、能力そのものと意思の疎通ができるのかよ。ますます斬魄刀そっくりで嬉しいぜ」

 

 死神の力が戻りつつあると確信しているのか、男の霊圧が一段と上がる。思わず息を呑むほどの力だ。

 霊圧の刃を握り身構える一護。

 

「あー、そうだな…」

 

「何だ?」

 

 そこへ、バツの悪そうな表情を浮かべる銀城の声が投げかけられた。

 直後、彼の雰囲気が一変する。

 

「…最初に謝っとくぜ、一護」

 

 

 

──俺、こういうの苦手なんだよ

 

 

 

 次の瞬間。

 一護の眼球に一筋の熱が走り、彼の視界は光を失った。

 

 

 

 

 

 

 

†††

 

 

 

 

 

 

 

「───井上も石田も()()()()()()がある…?」

 

 

 先日敵の襲撃を受けた仲間の同級生──石田雨竜(いしだうりゅう)の見舞いの帰り。空座総合病院からの帰路で茶渡泰虎(さどやすとら)とばったり出会った井上織姫(いのうえおりひめ)は、石田から訊いた不穏な話を彼と共有していた。

 その時に茶渡が見せた大きな反応に彼女は硬化する。

 

「嘘、まさか茶渡君も…?」

 

「先月の始業式に出席する登校途中の事だった。てっきり白昼夢か何かだと思ってたが…」

 

「…あたしが斬られたのもそれくらい前だったと思う」

 

 仲間のメンバーが三人も同じ体験をしているとなると、気のせいや偶然と笑い飛ばす事はできない。明らかに自分達を狙った手口だ。

 そして恐らく、姿なき襲撃者の目的は…

 

「その一護に関してお前の力を借りたい」

 

「ッ、黒崎君の…!?」

 

 茶渡の突然の頼みに織姫は即座に食い付く。最近学校に遅刻したりと、一護の生活に起きたであろう大きな変化に関する事であれば、少女に迷う理由はない。

 

 

 

 かくして織姫が連れてこられたのは隣町の鳴木市。

 

 道中聞いた茶渡の話は驚きの連続だった。完現術(フルブリング)の事。その能力者達による秘密結社。襲撃者と思しき敵の存在。

 そして何より──一護がかつての霊力を取り戻しつつある事。

 

「じゃ、じゃあ本当に黒崎君は…」

 

「ああ、既に(ホロウ)の群れを一人で相手できるレベルにまで力を取り戻しているらしい」

 

「よかったぁ…」

 

 ようやくこの日が来た。織姫は想い人の下へ逸りながら胸を弾ませる。同じく嬉しそうにしている茶渡の顔を見る限り、その秘密結社での霊能修行は順調なのだろう。

 

 そして、一護を狙う"月島"なる敵との戦いにおいても不安はない。これまでの虚霊坤(ロスヴァリエス)での秘密の鍛錬は確実に実を結びつつある。今度こそ彼と共に戦えると、織姫は己の力に自信をつけていた。

 

(それに"XCUTION"って組織の人達もいるんだから…)

 

 一護が信頼して修行をお願いしたのだ。悪人であるはずがない。

 

 見ず知らずの人間に、そんな全幅の信頼を寄せる織姫。だが彼女は茶渡に紹介された組織のアジトで、とんでもない光景を目にした。

 

 

 

 

 

†††

 

 

 

 

 

「──チッ、回復アイテムか」

 

 

 可愛らしい赤毛の女の子と、物静かな金髪の男の子に案内された不思議な世界【インヴェイダーズ・マスト・ダイ】。例の完現術(フルブリング)の能力らしき空間に転送された織姫は、そこで両目を斬られ傷だらけの黒崎一護の姿を見た。

 

「黒崎君!?」

 

「…その声……井上か…!?」

 

 息も絶え絶えの彼の側には、険しい顔でこちらを睥睨する大剣の革ジャン男。

 

「おい雪緒。誰がそいつを入れていいって言った?」

 

『だって空吾、そのままじゃホントにお兄さんを殺しそうだったし』

 

 その物騒な会話に織姫は絶句し、そして瞬時に仲間を守らんと走り出す。

 

「黒崎君から離れてっ!」

 

──孤天斬盾(こてんざんしゅん)──

 

「!」

 

 彼女の髪飾りから光の矢が神速で射出される。避けながら距離を取った男を警戒しつつ、織姫は一護を背に立ち塞がった。

 

「…井上織姫です。黒崎君に酷い事するならあたしが相手になりますッ」

 

「ったく、面倒臭えな」

 

 自慢の【双天帰盾(そうてんきしゅん)】で一護を回復させながら男をにらむ。すると彼がふと何かを思いついたような仕草をし、その渋面を凶悪な笑顔で塗り替えた。

 

「情けねえな、一護。お前が自分の完現術(仮面の女)に甘やかされてる間に、仲間がお前のために命を懸け始めたぞ?」

 

「や、止めろ! 井上に手を出すな…っ」

 

「だったら立ち上がってみろよ。言った筈だぜ、戦う覚悟も持てねえ奴を──俺の仲間と扱う事はねえってなァ!」

 

 躊躇いなく振り下ろされる男の大剣。それを阻止しようと放たれた一護の新能力らしき鎖。

 だがボロボロの彼の力では焼け石に水。難なく躱され、刃は一気に織姫の眼前に。

 

「井上えええッ!!」

 

 聞こえる。力を失いながらも、傷だらけになりながらも、未だ仲間を護ろうとしてくれる黒崎君の叫び声が。

 修行のために仲間達と距離をおいても、あたしが好きになったその優しさは少しも変わっていない。

 彼の想いを、織姫は大切に胸の奥へしまい込む。

 

 だけど…

 

火無菊(ひなぎく)梅厳(ばいごん)…リリィ…椿鬼(つばき)……往くよみんな!」

 

「ハッ、【三天結盾(さんてんけっしゅん)】かよ! そんなんで俺の攻撃を防げると思ってんのか!?」

 

 だけど黒崎君は一つ、勘違いしている。

 

 あれから十七ヶ月。藍染惣右介に連れ去られた時から変わらず、あたしがただ護られているだけの弱者のままなのだと。

 

「…いいえ、【三天結盾(さんてんけっしゅん)】じゃないです」

 

「! なっ──」

 

 

── 四 天 抗 盾(してんこうしゅん) ──

 

 

 迫る大剣が織姫の霊圧の三角盾に振り下ろされた瞬間。

 途轍もない大爆発が彼女の正面の視界全てを飲み込んだ。

 

「ぐあァッ!!?」

 

「な…」

 

 直撃を受けた男が悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。背後からは轟音と突風に驚く一護の声。

 一体何が起きたのか誰もが混乱する中、事象を起こした織姫は静かに口を開いた。

 

「…攻撃を受けた瞬間に爆発して拡散し、それと同時に自動的に反射攻撃をします」

 

「ぐ、そ…」

 

「その最大威力は、当時の"十刃(エスパーダ)"の虚閃(セロ)にだって劣りません」

 

 威圧の意を込め多少大げさに宣言する。だが事実少女は、一護を守るためならそれに匹敵する力を発揮できると自負していた。

 

 藍染惣右介の崩玉の力で破面(アランカル)化し、虚霊坤(ロスヴァリエス)の女君主の手により更なる飛躍を遂げた新生【十刃】。織姫の攻撃は、その上位一席であるウルキオラに鼻で嗤われる程度の技でしかない。

 

 しかし霊界の限りなく頂点に位置する彼等にとっては児戯であっても、生身の人間である完現術師(フルブリンガー)にとっては、体験した事のない次元の火力だった。

 

「いの…うえ…?」

 

 困惑する背後の一護へ、少女は優しく微笑む。これまでの想いが彼へ伝わる事を祈りながら。

 

「…黒崎君が力を無くしてから十七ヶ月。あたしも茶渡君も石田君も、みんな信じてた。いつか必ず、黒崎君が力を取り戻す時が来るって」

 

「!」

 

「だから心に決めてたの。その時が来たら…」

 

 

──今度こそ、黒崎君の    

  隣で共に戦おう…って

 

 

 それは仲間達の決意。足手まといにしかなれなかった当時の弱い自分と決別する覚悟。

 

 癒えた目を瞠る一護。

 その眼前に、見違えるほど力強い瞳と霊圧を持った、女傑が佇んでいた。

 

 

 

「──やるじゃねえか、小娘(ガキ)

 

 

 

 しかしその時、低い男の声が二人の鼓膜を震わせた。

 

「爆発反応装甲とはえげつねえな。…いや、そうだったな。お前らは二人共…あの藍染惣右介に見出される程のバケモノだって事を忘れてたぜ」

 

「なっ、嘘…!」

 

 驚愕する織姫と一護。あれを喰らって尚戦意を失わない人間などありえない、と。

 

 だが彼等は失念していた。目の前の男が誰なのかを。組織を率いる彼──銀城空吾もまた、只者ではない強者の一人なのだと…

 

 

「さあ、修行続行だ」

 

 

──覚悟しろよ、一護

 

 

 

 

 

 

 

 

†††

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──どうしたのカリンちゃん?」

 

 

 夕食時の黒崎邸。

 

 食卓についたままぼーっとしていた少女──黒崎夏梨(かりん)は、双子の姉・遊子(ゆず)の声に顔を上げる。

 

「…あ、ううん。何でもない」

 

「大丈夫? お味噌汁おいしくなかった?」

 

「そんな事無いよ、いただきます」

 

 二人きりの寂しい晩御飯。心配をかけまいと夏梨は慌てて彼女の料理を掻き込んだ。

 

「それにしてもお兄ちゃんもお父さんもどこ行ってるんだろ? お兄ちゃん、最近ようやく元気出てきてたのに…」

 

「…大丈夫だよ。前みたいにその内ひょっこり戻ってくるって」

 

 遊子を安心させようと明るい顔を意識する夏梨。だが内心、少女自身もこの心配性な姉以上の不安に苛まれていた。

 

 

 …一兄(いちにい)が怪しい霊能力者とつるんでいる。

 

 

 最近帰りが遅かった黒崎一家の長男・黒崎一護。友達と隣町で遊んだ帰りに偶然兄の姿を見かけた夏梨は、彼の只ならぬ様子に焦燥を覚えた。

 

 あのとき兄から感じた、どこか覚えのある温かい感じ。ジン太ら(ホロウ)退治の仲間達が"霊圧"と言っていたあの気配は、確かに一兄のものだった。

 それはつまり、兄が昔のような戦う力──"霊力"を取り戻した事を意味していて…

 

「…ッ」

 

 あの時一緒に居た黒人の女が兄を唆したのか、勝手な事をしやがって。夏梨は恐怖と悔しさに唇を噛み締める。

 

 また、一兄は巻き込まれてしまうのだろうか。死神の都合に。まだ見ぬ敵との過酷な戦いに。せっかく手にした安全と平穏を捨て去って。

 

 そうならない様、自分は今まで彼の代わりにこの町を虚から守ってきたのに…

 

 

「───カリンちゃん!」

 

 ガチャンと食器が鳴り、名を呼ばれた少女は思考の海から跳ね上がる。

 

「もうっ、カリンちゃんまであたしに隠し事してるじゃない! そんな暗い顔しちゃって」

 

「…え? あ、いや…」

 

「今日お家に帰って来てからずっと何かに悩んでるのバレバレなんだから! お兄ちゃんも何も話してくれないし…っ」

 

 頬を膨らませ「いつもあたしだけ除け者にして」と涙を浮かべる遊子。

 不味い、地雷を踏んだ。何とか誤魔化そうとするも逆効果で、しばしの言い合いの末、遂に姉の鬱憤が爆発した。

 

「ッ、カリンちゃんのバカ! もう知らないっ!」

 

「あっ、遊子…!」

 

 怒り、泣き、荒れながら二階の自室へ引っ込む彼女。あの感じは相当不満を溜め込んでいる。

 

 遊子はいつも、自分だけ霊が見えない事を嘆いていた。霊力を失った兄もそうだったが、やはり疎外感を感じてしまうのだろうか。申し訳ない思いで萎れる夏梨。

 

 あの子が落ち着いたらちゃんと謝ろうと決め、少女は一人苦い思いで冷めた食事に箸を伸ばす。

 

 

 ───ピンポーン

 

 

 その時、不意に玄関の呼び鈴が鳴った。

 

『あ、はーい! ほらカリンちゃん行って!』

 

「わかったよ……ったく、こんな時間に誰だよ」

 

 自室に籠る遊子の命令に渋々従い、夏梨は客人の正体と用事に首を捻りながらパタパタと土間へ向かう。

 

 

「えっ───」

 

 

 そしてドアを開けた玄関先で佇んでいた人物を見た時。少女は、自らの脳髄の奥底に眠っていた……()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「…久しぶりだね、夏梨(かりん)

 

 

 

 

 

 

───僕の事を覚えてるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

原作読み返すとかなり銀城周りの伏線張られてるんだなって感じる
ゲームの話とか

次回:月島さんの最後の輝き

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。