雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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同人(誌でよく見る)ネタ

 


全部…少女さんが居たからじゃないか…!

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「────ははははははははははははは!!!」

 

 

 激痛が胸に走る。

 真っ赤な飛沫が宙を舞う。

 悪意に満ちた、調子外れな笑い声が耳を抉る。

 

 大切な家族友人達を襲った敵の拠点、古い洋館の屋上。ドサリと膝から崩れ落ちた黒崎一護は、直前に起きた出来事を理解するのに身を切るような葛藤を乗り越えなければならなかった。

 

銀城空吾(ぎんじょうくうご)に、斬られた。

 

「なんで…銀城………やっぱり…月島の能力で……」

 

 屋上の戦いに加勢に来てくれた、最後の仲間。だが井上の霊具に拘束された一護に注意が向いた一瞬、僅かな隙を突かれた銀城は月島の完現術(フルブリング)をその身に受けてしまった。

 

 何事もなかったかのように立ち上がったのは、こちらを騙し油断させる演技だったと言うのか。

 

「…そうだな、確かに月島の能力だ。…だが作用する順序が違うぜ」

 

「順…序…?」

 

 銀城が嗤う。真相は一護の思う最悪の、遥か果てにあった。

 

「俺が…いや、俺たちが月島に"挟まれた"のはこれで二度目だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…!?」

 

「解らねえか? 俺たちXCUTIONは、全員」

 

 

───最初から、    

  お前の敵だ

 

 

 頭を殴るような言葉だった。

 だが放心する体に反し、一護の胸の内にあったのは衝撃ではなく、得心。

 

 自分たちの力を、完現術(フルブリング)を捨て去るという組織の動機。一護が勧誘を受けた直後急かすかのように都合よく仲間が襲われた事。過剰なまでに尸魂界(ソウルソサエティ)や浦原さんを貶す台詞。修行時に銀城との手合わせで感じた違和感。

 これまでの出来事の徹頭徹尾が、一護を騙し、この場で裏切るために仕組まれたものだったのだ。

 

 …そして青年がその理由を問うより早く、彼の聡い仲間が怒声を上げた。

 

「何してる黒崎!! さっさと()()の実体化を解け!!」

 

 声の主は、月島に斬られ倒れている石田雨竜(いしだうりゅう)

 だが彼の指示の意味に一護が遅れて気付いた時…

 

「もう遅えよ」

 

「!?」

 

 脳裏に短い悲鳴が響き、苦痛の感情が胸奥に流れ込んだ。ハッと振り向いた一護は、そこで見た光景に体が凍った。

 

 屋上の中央に佇む銀城が、高々と。まるで勝ち誇るようにその首を宙吊りに掴み上げている。

 一護の新たな相棒、完現術(フルブリング)の化身にして恩人の現身──

 

 

仮面の少女を。

 

 

「まさかコイツがお前の完現術だったとはな。どうやら"守護女神"ってのはマジな話らしい」

 

「なっ、何を……やめろ! その人に触るな!!」

 

 苦しむ彼女を助けようにも胸元の太刀傷が深くて立ち上がれない。石田に言われた能力の解除も何故かできず、ただ一護の咆哮ばかりが周囲に木霊する。

 

「予想とはかなり違ったが悪くねえ。…いや、予想以上のウルトラレアだ。どれ程の力か楽しみでたまんねえぜ…!」

 

「ま、まさか…!」

 

 最悪の想像が頭に浮かぶ。

 連中の目的。完現術の受け渡し。そして銀城の台詞。

 

 …そうか、そうだったのか。

 

 ようやく銀城の、XCUTIONの真の思惑に気付いた一護は、させて堪るかと必死に体を奮い立たせ──

 

 

 

───止めろ銀城!!」

 

 

 

 張り裂けるような月島秀九郎(つきしましゅうくろう)の絶叫に思わず硬直した。

 

「何考えてるんだお前! 今すぐその手を放せ!! その女が『何』なのか何度も教えたはずだろ!?」

 

「…いつまでビビッてんだよ、月島。こいつの生い立ちに例の女が関わってんのは最初から解ってた事じゃねえか」

 

「いい加減にしろ銀城! お前のくだらない破滅願望にはうんざりだ!! お前の命はお前だけのものじゃないんだぞ!!」

 

 …なんだ、こいつ等。何で仲間割れをしてるんだ。何であの人の話がこいつ等の口から出てくる。

 訳が分からない一護は、されど二人の緊迫した空気に形容し難い悪寒を覚える。

 

 だが戸惑う最中、仮面の少女の体が突如光の鎖へと解れ始めた。その先端が吸い込まれていくのは一護ではない。銀城空吾だ。

 

「!? やめろ!! 何してんだてめえ!!」

 

「ダメだ銀城!! そいつを取り込んだら二度と取り返しがつかなくなる!!」

 

 一護と月島、奇しくも同じ喚声を上げる敵同士の二人。

 それでも少女の分解は止まらない。一護へ助けを求める様に伸ばされた彼女の腕も崩れていく。

 

 最早敵の言い争いなど意識の外。青年は夥しい血潮を屋上にぶち撒けながら死に物狂いで立ち上がる。

 

「ふざけんな!! ちくしょうッ! 俺の完現術(フルブリング)だぞ!!」

 

「馬鹿野郎!! どうしてお前はいつも僕の忠告を聞かないんだ!!」

 

 【斬月】を失った時に似た、霊力が消えていくあの感覚が一護を襲う。

 

「…言ったろう、『もう遅い』と。お前もとっとと覚悟を決めろ、月島」

 

「くそおおおッ! 奪うな! 奪うなアアア!!」

 

「止めろオオオオオオ!!」

 

『銀城おおおおおおッ!!!』

 

 

 そして…

 

 

 

「貰うぜ、お前の完現術(フルブリング)

 

 

 

 

 須臾の一瞬。

 一護は割れた仮面の奥の、少女の素顔を垣間見る。

 

 

「あ────」

 

 

 ポタリと足元で跳ねた、舞い散る絶望の涙を残し。

 

 

 

 

黒崎一護の完現術(フルブリング)は    

 

 跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ははははははは!! 凄え…! 何だこの力! 霊圧が底無しに溢れて来やがる…!!」

 

 

 

 …嘘だろ。こんな事。

 

 何も感じない。

 目覚めてからずっと。胸の奥を満たしてくれた、力強くも優しい、あの人の温もりを。

 

「ハハハ! 喜べ月島! これ程の力があればお前の能力も大幅に強化できる! 二度と奴に後れを取る事も無え!」

 

「なんて事を………終わりだ…僕達は、何もかも…」

 

 勝ち誇る銀城の耳障りな笑い声も、項垂れる月島のぼやき声も、一護の耳には入らない。

 

 …なあ、頼むよ。返事をしてくれ。

 

 幾度呼び掛けようと、そこにあったはずの彼女の声は最早無く。凍えるような空虚さのみが青年の心に残っていた。

 その意味を何度も反芻し、否定し。そしてその度に胸奥の虚無感が彼を現実へと引き戻す。

 

「あ…」

 

 気付いてしまった。

 

「あ…あぁ……」

 

 解ってしまった。

 

 

 

俺の完現術(フルブリング)─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 焦がれた果てに取り戻した、皆を護れる力が。

 

 夢が、終わってしまったんだ…

 

 

 

 

 

 

 

「うぁぁあぁああぁぁ…」

 

 

 

 

 

 

 視界が滲む。水滴が頬を伝う。零れる嗚咽が止まらない。

 母を亡くして以来、二度と泣かないと誓ったはずの、自分が。

 

 

 力を取り戻したかった。だけどその方法は何一つ見つからなかった。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)からの便りもピタリとなくなり、お節介焼きな浦原さんも、俺が店の前を通る度に戸を閉ざしていた。

 

 死神も、虚も、ユウレイも。彼らが居た痕跡は全部消えていた。

 まるで全てが胡蝶の夢だったかのように。

 

 …耐えるしかなかった。無力に。十七ヶ月。

 

 

 そんな時、石田が斬られた。

 石田だけじゃない。浅野に水色も。仲間が、友達が、次々に襲われた。

 だけど俺は、俺だけが、何もできなくて。

 

 藁にも縋る思いで銀城の救いの手を握った。

 思わせぶりな台詞ばかり吐き、浦原さんや護廷十三隊など自分がこれまで築いた信頼関係にケチばかり付ける男。それでも銀城は同胞の完現術師(フルブリンガー)達を大切にする仲間思いな奴で、俺の事もずっと面倒を見てくれて、支えてくれた。月島の能力でみんながおかしくなった中、一人だけ俺と共に戦ってくれた。

 

 信じたいと思った。背中を預けたいと思った。

 

 なのに。

 

 

『貰うぜ、お前の完現術(フルブリング)

 

 

 ぽっかりと空いた心の穴。そこに居たはずの一人の少女の姿が、感情が、共に戦った思い出が次々と蘇る。

 

 梅雨の日、母が亡くなった河原で出会ったあの人の、大切な"お守り"。その彼女と初めて言葉を交わしたのは、尸魂界での卍解修行だった。

 

 ルキアの処刑が早まり、焦燥で無理が祟った俺の体を回復してくれた。

 虚化修行では内なる虚との主権争いを乗り切る活路を教えてくれた。

 藍染との戦いでは力を使い果たした俺に代わり、その身を削ってまで奴を抑え込んでくれた。

 

 そして…

 

 

──やっと、逢えた…っ

 

 

 再会を果たした少女は、完現術(フルブリング)として俺の新たな力になってくれた。

 

 かつての【斬月】とも【ホワイト】とも違う。優しくて、ちょっと抜けてて、同年代の女子みたいに感情豊かで親しみやすい新たな相棒。技一つ使うだけでぴょんぴょんはしゃぎ、虚一体倒すだけで大袈裟に褒めてくる彼女と過ごした日々は、気恥ずかしくも喜びと誇らしさに満ちていた。

 

 銀城との最後の修行の時。俺の体の負担を案じながらも、最後は想いに応えて全力を出させてくれた。

 月島に大切な人達との絆を穢された時。俺以上に怒り、そして胸を痛めてくれた。

 

 仮面で正体を隠していようと、共に心を通わせる一心同体の相棒として、俺達は確かに互いを慕い、認め合っていたのだ。

 

 

「……返せよ……俺の完現術を……あの人を返せ…」

 

 

 だけど、護れなかった。

 俺が安易に銀城を信じたから。仲間の石田を疑ったから。アホみたいに敵に斬られ、目の前で彼女を奪われた。

 

 いつか見せて欲しいと願ったあの人の素顔は、互いの大切な繋がりを引き裂かれる、絶望に歪んだ泣き顔だった。

 

 

「────"返せ"だと?」

 

 

 崩れ落ち項垂れる一護の耳奥に、「何言ってんだ」と銀城の失笑が木霊する。

 

「元々俺のお陰で覚醒した力だろうが。俺が貰って何が悪い」

 

「…ぅ…ぁ…」

 

「自由になれてよかったじゃねえか。藍染がお前に仕込んだ死神と虚の力も、女神サマの加護も失って。漸く望んだ文字通りの"ただの人間"になれたんだからよ」

 

 氷のような声が悪意を紡ぐ。あまりにも残酷で、悲愴な真実を。

 

「…ふざ…けんな……ッ」

 

 その力は一護の屈辱的な(さだ)めで、されど誇るべき幸運だった。

 彼は大勢の人達に救われて己の運命を乗り越えた。共に戦った仲間達、尸魂界の死神達、浦原商店や仮面の軍勢(ヴァイザード)、秘密を明かしてくれた親父、護るべき妹達。

 

 そして、未来を見通し、永遠の過去を映す叫谷(きょうごく)に住まう、星雲の翅の天女。

 

 

──ずっと、見守ってるから

 

 

 彼女が与えてくれた、運命を乗り越える力。藍染はその力を女神の加護だと言った。

 それこそが、普通の人間だった一護があらゆる理不尽を跳ね退け、強くなれた本当の理由だった。

 

「…銀城…」

 

 返せ。青年は死力を尽くし立ち上がる。

 

「銀城…ッ!」

 

 それは、それだけは渡さねえ。憎悪に染まった目で盗人を睨む。

 

 

「銀城おおおおおおおッ!!」

 

 

 そして自暴自棄に敵へ腕を伸ばした、その時。

 

 

 

 

「──────ッあ…」

 

 

 

 

 一護の胸を、一振りの刀が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 重い心臓の鼓動が体を震わせる。

 一護は胸元から飛び出る青白い刃をぼんやりと見つめ、何が起きたのかもわからないまま、ゆっくりと後ろへ首を向けた。

 

 バサッと大きな衣擦れの音が響く。真っ黒の布を取り払い現れたのは、二人の男。どちらも青年の味方であるはずの、頼れる大人たち。

 

 

「…親父……浦原さん…」

 

 

 実の父親、黒崎一心が。一番の協力者だった人、浦原喜助が。共に無言で佇みこちらを見つめていた。

 彼らの険しい顔を目にし、一護の中で最後の柱が罅割れる。

 

「…そうか……そうかよ…」

 

 決壊する堤。止めどなく溢れる感情。

 

 

「親父たちまで……そうなのかよ…」

 

 

 辛うじてしがみ付いていた崖の淵が、音を立てて崩れていく。堕ちる先は、底無しの絶望の谷底。

 

 これが、俺の終わりなのか。

 

 みんなを護る為に取り戻した力も、みんなと敵として戦うために使う事になって。その力も敵に奪われて。みんなを護ろうとすれば「狂ってる」と怒りをぶつけられ。終いには実の父親に刺されて、死ぬ。

 

 こんなのが、俺の…

 

 這い上がるための希望も、力も、あの人の加護も失った黒崎一護の魂の奥で、ナニカが蠢いた。

 

 

 

「────馬鹿野郎」

 

 

 だが、ソレが目覚める直前。一心が息子を叱咤した。

 

「よく見ろ、一護。お前を救うのは俺達じゃねえ」

 

「ぇ…?」

 

 

 

 その時。

 

 一護の両目に、黒が映った。

 

 

 

 

「お前にも()()()()()()()

 

 

その刀を握ってんのが    

 

       誰なのか──

 

 

 

 映る黒を辿り、視線を下げる。

 

 風に舞う黒髪。華奢な体を包む死覇装。凜とした深い蒼の瞳。

 

 信じられない相手との再会に、青年は茫然と彼女の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ルキ…ア…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貫く刀から迸る膨大な霊圧が辺りを吞み尽くす。

 

 渦巻く光の濁流の中。

 黒崎一護がその女死神の顔に見たのは、端正な唇が描く……慈愛の微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

ルキアさん、XCUTION(+悦森)の陰謀で歪みそうになったチャン一の性癖を即座に更正する準主人公兼ヒロインの鏡。

おかげで一護くんは精神ダメージ大幅回復!

なお月


次回:オリ展開(今更

 

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