雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

117 / 145
 

おまたせ!

今回からオリ展開重点、備えよう。
現世メインの流れを読むに、恐らく師匠はこういう展開にしたかったんじゃないかと素直(?)に妄想。

 


全部…仲間さんが居たからじゃないか…!

***

 

 

 

 

 

──ありがとう、ルキア

 

 

 

「……ッ」

 

 胸が詰まるような苦しさに目が覚める。

 

 机に散らばる書類を見つめる事少し。深い溜息で肺の熱を追い出した彼女──朽木ルキアは、濡れた目元を拭い自嘲の笑みを零した。

 

「執務中にうたた寝か……私も焼きが回ったものだ…」

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)の中心、瀞霊廷(せいれいてい)。十三番隊隊首室で日々の業務を片付けていた女死神は、夢に現れた男の悲しげな笑顔を沈鬱な思いで振り払う。

 前の事変における虚圏(ウェコムンド)での功績により、晴れて副隊長に昇進したルキア。多忙な生活は、心悩む少女に仕事という逃げ道を与えてくれた。

 

 

 あの別れの日から早十七ヶ月。

 総隊長命令により接触が禁じられて以来、ルキアの耳にあのオレンジ頭の青年の名が届く事はなくなった。現世はかつての平穏を取り戻し、護廷十三隊の関心は専ら藍染の反乱の後始末と叫谷(きょうごく)勢力へ向いている。

 

 "霊界の英雄"とまで称された者に無関心であり続ける尸魂界は、傍目には薄情に見えるだろう。されどそれは魂魄の調停者たる我等死神が、人間である彼にしてやれる最大限の恩返し。少なくともルキアの周りにいる者達は皆そう自らに言い聞かせ、それぞれの気持ちを封じていた。

 

 …叶わぬ願いを毎夜の夢に託すのなら、己の心の弱さも許されよう。

 

 

 そんなルキアの秘めた想いは、出席した側臣会で突然下知された総隊長令により報われる。

 

 

──今度は我等が、    

  ()の者を救う番じゃ

 

 

 命の内容は、浦原喜助の用意した鬼道刀に霊圧を込める事。そしてそれを以て今一度、あのお人好し莫迦──黒崎一護(くろさきいちご)に死神の力を譲渡する事だった。

 

 逢える。

 またあいつと、一護と共に戦える。

 

 押さえ続けてきた感情が出口を見つけ、歓喜と安堵に涙ぐむルキア。だが話を持ってきた浦原喜助と作戦の詳細を詰めるにつれ、少女は事の深刻さを理解する。

 

 【過去改変】や【強制契約】などの恐るべき能力を持つ完現術師(フルブリンガー)の秘密結社。それを率いる銀城空吾(ぎんじょうくうご)の正体と、死神代行制度の後ろ暗い真実。

 

 そして、何より…

 

 

「──まさか一護と雛森(ひなもり)殿の間にそんな繋がりが…」

 

「黒崎サンの才能は全て藍染の研究に所以し、指揮していたのは"読書家"を名乗る雛森副隊長の別人格……正確には別魂魄と言うべき存在です。藍染が雛森サンに執着したのも、第二崩玉を埋め込んだのも、"読書家"という超常存在を彼女から独立させるためでした」

 

 それは副隊長の権限では知り得ない、大戦の隠れた側面だった。

 

 ルキアも浅からぬ縁がある霊術院の友人、雛森桃。彼女は大戦後、自分は藍染に恩があると沈痛に語った。

 浦原の情報はその"藍染の恩"の輪郭を描いているように思えた。

 

「まあ今回の問題は"読書家"と黒崎サンの関係っス。元母体の雛森サンは零番隊に囲われているので手出しができませんが、黒崎サンならまだアレの影響から逃れられる可能性があります」

 

 藍染という重石が消えた今、"読書家"の暴走は必至と浦原は言う。ルキアも、如何に友人の魂の一つとは言え、一護を玩具にされる事など許せなかった。

 

「…つまり貴様は銀城空吾の計画を利用し、一護の中からその悪しき"読書家"が施した怪しい力を取り除きたいのだな?」

 

「そうなんスけど、肝心の黒崎サンが"読書家"に篭絡されてましてね。なのでここは完現術師(フルブリンガー)達に彼の恨みを引き受けて貰ってから、悪~い女性とえんがちょした黒崎サンを我々尸魂界の味方に引き戻しましょ~」

 

 ヘラヘラと笑いながら陰湿な事をぬかす浦原。だが一護の苦痛を見過ごす嫌悪感に苛立つルキアへ、男は据わった目で言い放った。

 

「黒崎サンは今、かつてないほど疑心暗鬼になってるんスよ。そしてその最大の理由はアタシ達が魂魄法やご家族の想いを重視し彼との接触を断った事にある」

 

「…ッ」

 

「全てが終わった後で確と説明すれば、黒崎サンならば納得してくださるでしょう。ですが今の荒んだ彼が死神代行制度の闇を知った時、果たして尸魂界を味方と思ってくれるでしょうか? 恩人の"読書家"を危険視し、彼の完現術(フルブリング)をこちらで奪った場合、それでも黒崎サンは我々を仲間だと信じてくれるでしょうか?」

 

 

我々が彼の裏切りに備えた   

 隊長格達の存在をお忘れなく

 

 

 男の平坦な問いが、誰もが青褪める最悪の結末を突き付ける。ルキアはそれを静かに聞き、無言で顔を伏せた。

 

 無力に苦しんだ一護。石田達を傷付けられた彼は、何もできない己をさぞかし悔やんだ事だろう。そして月島(つきしま)の能力で親しい者達との絆を失い、縋った銀城空吾に裏切られた挙句、やっと取り戻した力をも奪われるのだ。その心を思うだけで胸が張り裂けそうになる。

 

 そんな一護に剣を突き付け、尸魂界への信を問う。如何な人格者だろうと関係回復は難しい。そう浦原は考えているのだ。

 

 

「…やはり、私は貴様を好かん」

 

 

 だが。目を開けたルキアは、その蒼い瞳に微塵の迷いも見せなかった。

 

「貴様は無駄に賢いせいで全てを自己完結している。そして我々他者が独自に起こす一切の行動を『邪魔』だと決めつけている」

 

「……」

 

「かつての冤罪を思うに致し方ない事だが、貴様は心の何処かで我々尸魂界を…いや、身内以外の者を信用していない。我々に伝える情報を自ら選別し、行動を制限させ、手駒として操ろうとする。私の義骸に崩玉を仕込んだように。一護達に私を救うよう唆したように」

 

 一護の信頼問題に隠れているが、浦原が真に論じているのは例の"読書家"の危険性だ。護廷十三隊が「零番隊案件」だと楽観視しているのに対し、何か良からぬ情報を掴んだ浦原は、青年の中から"読書家"の影響を排除する必要があると断じた。

 しかしそれは一護の猛反感を買う行為である。故に浦原は友好維持の為、いつものように何も説明せず、彼の夢と努力を踏み躙る事すら良しとして、あえて青年を銀城空吾の陰謀に巻き込ませた。

 

 成程、確かに全てが"必要な事"だ。

 

「…だがな、浦原。世の中には理屈だけでは心動かない者も居るのだ。不合理で、間違いだらけで、どうしようもなく頑固な莫迦者がな」

 

 もしくはそれをこちらに指摘させる事で自身が泥を被るつもりなのかもしれないが、生憎そんなまどろっこしい方法で責任を取らずとも、あの莫迦が導く答えは一つだけ。

 

 そして、私が信じる答えも同じく──最初から一つだけだ。

 

 

「見せてやる、浦原喜助。私がかつて一蓮托生と力を託した、あいつの……この命を救ってくれたあの()()()の」

 

 

 

 

──黒崎一護の気高い心を 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

††*

 

 

 

 

 

 

 

 …止まらない。

 

 何か、とても。

 とても、とても大事な事から、無理やり意識を逸らされているような、胸騒ぎが。

 

 

「……なんで」

 

 戦闘で荒れた洋館裏の雑木林。微かな霊圧を辿りながら、井上織姫(いのうえおりひめ)は突き刺すような胸の痛みに駆られて林の中を疾走していた。

 

「…おかしいよ……こんなの…」

 

 なんで親友同士の月島さんと黒崎君が戦ってるの?

 なんで銀城さんが黒崎君の力を奪うの?

 なんで石田君がおかしくなった黒崎君の味方をするの?

 なんで、あたし…

 

「……くん…」

 

 月島さんがあんなに落ち込んでるのに。あたしの一番大切な人が、あんなに辛そうに、悲しそうにしてるのに。

 なんで。

 

 なんで、あたしは…

 

 

 

「────黒崎くん…っ」

 

 

 

 口から零れるのは初恋の相手であるはずの大恩人ではなく、ただの仲間に過ぎないはずの、クラスメイトの名前。その事実が織姫の頭をぐちゃぐちゃにしていた。

 

 泣いてた。黒崎君が。

 戦う力を奪われて。

 

「…やだ……やだよ…」

 

 つらいよ。苦しいよ。

 あたまも、心臓も、お腹も。痛くて痛くて堪らないよ。

 

 

 月島秀九郎は、井上織姫にとってかけがえのない大切な想い人だ。黒崎一護に会うずっと前から彼は少女の側にいて、いつも守ってくれた。

 酷い家庭から連れ出して、十七年間も一人で自分の事を育ててくれた、優しい男性(ひと)。命の恩がある彼のためなら織姫は何でもしてあげられる。何でも犠牲にできる。そう思ってた。

 

 なのに。

 

 

──泣かないで、黒崎君

 

 

 グニャリと景色が歪む。膝が震え地べたに転ぶ。心の中の何かが罅割れていく。

 

 気付いてからは止まらなかった。

 あれ程キレイに見えた月島との思い出が。過去の宝物が。まるで名画を塗りつぶして描かれた贋作のように剥がれ落ちる。

 

 井上織姫というキャンバスそのものを、ボロボロに崩しながら。

 

「あ……ぅ……」

 

 割れるような激痛が頭に走る。意識がミキサーに攪拌されたように混濁していく。意識だけではない。記憶も、感情も、何もかも。

 

 

 自分が誰なのかもわからなくなった織姫は、かくして失意の果てに、一つだけ願いを神様に委ねた。

 

 愛々しくて、切なくて。

 恋する少女の、この世で最も美しいお願いを──

 

 

 

 

 

 

 

 

『──ヌッ!──』

 

 

 

 

 

 

 

 …果たしてそれが天に届いたのか、あるいは魔の類に見初められたのか。織姫にはわからない。

 

 だが堕ちゆく暗闇の頭上に、小さな桃色の星が輝いた直後。

 

 

 少女の世界は、息を吹き返した。

 

 

 

「───ッはっ…!?」

 

 

 新鮮な空気を求めて心臓が狂ったように早鐘を打つ。滝の如く流れる汗を拭い、織姫は混乱する頭で立ち上がった。

 

 脳裏の霞が晴れている。手足の震えが止まっている。生まれ変わったような気分に戸惑いながら、少女は星に祈った願いの通り、今一度その両足を前へと走らせた。

 

 視界の左右に消えていく木々。争いの跡が刻まれた地面。それらを過ぎ去り辿り着いた戦場の上空で…

 

 織姫は見た。

 

 

 懐かしい親友の朽木ルキア。

 傷を治療する石田雨竜。

 剣を構える銀城空吾。

 集まるリルカ達XCUTIONの面々。

 項垂れる()()()()()()()()()()

 

 

 

 そして渦中に佇む一人の青年の姿を目にした少女は──溢れる愛しさに彼の名前を叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 眩い霊圧の暴風が収まっていく。

 

 握る右手に現れた懐かしい重さに戸惑いながら、霊子の足場に佇む一護は徐に背後へ振り返った。

 

 

「───久し振りだ、一護」

 

 

 記憶の奥底に仕舞ったはずの、男勝りな女の声が鼓膜を震わせる。目の前にいる仲間が夢や幻などではないのだと、一護は噛み締めるようにその名を呼んだ。

 

「ルキア…」

 

「な、なんだそのしみったれた切ない声は…っ! ゾワッとしたぞ、ゾワッと! 全く、私が見張っておらぬとすぐ腑抜けるな貴様は!」

 

 ぷりぷり「ああ情けない!」と怒る少女の姿に胸が熱くなる。毎度の子供っぽい茶化し合い。昔はいつもこうだった。

 

 鼻奥をツンと刺す痛みに浸っていると、頬の紅潮を落ち着かせたルキアが握る刀をこちらに翳した。

 

「…これは貴様のために、下にいる浦原が十七ヶ月かけて作り出した鬼道刀だ」

 

「浦原さんが…」

 

「癪だが腕は確かなようだ。こいつのお陰で、私は再び」

 

 

──貴様に死神の力を    

  渡す事ができたのだ

 

 

 彼女の言葉が魂に響く。右手に握る己の大刀を見つめ、一護は全身に漲る力の正体を、自分の身に起きた事をゆっくりと反芻した。

 

 胸に刺さった刀から流れ込んできたのは、親しんだ霊圧の大奔流。あの始まりの夜のように運命が巡り合い、青年はようやく取り戻したのだ。

 

 焦がれる程望んだ、死神としての自分を。

 

 

 

「……"死神の力が戻った"だと?」

 

 

 

 だがそんな一護の歓喜に水を差す者が現れた。

 

「馬鹿馬鹿しい。寝言は寝て言え、朽木ルキア」

 

「…貴様が例の…」

 

「二年前、お前が一度目の譲渡に成功したのは元から黒崎の中に死神の力が眠っていたからだ。二度目の成功はあり得ねえ。何故ならそいつの力は…俺が根こそぎ奪い取ってやったんだからな!」

 

 そう勝ち誇るのは銀城空吾(ぎんじょうくうご)。本性を晒したXCUTIONの親玉が自慢の大剣をルキアへ突き付ける。

 

 しかし、彼女は動じない。

 

「違うぞ、銀城空吾。貴様が奪ったのは一護の完現術(フルブリング)なる力だけだ。一護の内から湧き出る死神の力を、貴様如きが奪い尽くす事など毛頭できぬ…!」

 

 そう言い切るルキアの顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。訝しむ一護は、銀城と揃って彼女の視線の先を追う。

 

「一護、奴等は知らぬ。貴様がこれまでに乗り越えてきた絶望の数を。そして、その数だけ貴様が掴み取ってきた

 

心強い希望の光を!」

 

 そして、ルキアが見つめる宙へ振り向いた直後。

 

 一護の眼前に奇跡が舞い降りた。

 

 

 

一兄(いちにい)!!」

 

 

 

 風に黒髪のポニーテールを揺らす、一人の少女。緊張と苛立ちを顔に滲ませた大切な妹が、危うい霊子の足場で空中に立っていた。

 

夏梨(かりん)…!?」

 

「何なのよもう……何が起きてんだよ…! 夕方から記憶が飛んでるし……ワケわかんない…ッ!」

 

 何度も頭を振る彼女に一護は動揺する。

 何故ここに居る。いつ間にそんな霊子歩法を。まさか月島の指示で来てしまったのか。

 

 だがその問いを投げる直前。少女が信じられない事を口にした。

 

「…でも、一つだけわかる」

 

 

──あいつらが、     

  一兄の敵だって事が!

 

 

 彼女が指差す先には、銀城空吾とXCUTIONの五人。

 そして…

 

「お前…月島の能力が…」

 

「"月島"ァ? 誰それ、あそこの偉そうにしてる革ジャンの奴?」

 

 そう首を捻る少女の両目に輝いていたのは、いつもと変わらぬ兄への愛情だった。

 

「…何だよ一兄。まさか危ないからあたしだけ引っ込んでろとか言うつもりじゃないよね?」

 

「な…ば、バカ! 危ねえに決まってるだろ! 大体お前に戦う力なんて──」

 

 だが妹の無茶を止めようとした一護の後ろから、突如喧しい怒声が飛んできた。

 

 

「──俺たち"空座防衛隊(カラクラスーパーヒーローズ)"に戦う力がないだって? 聞き捨てなんねえなぁ!」

 

 

 そこに居たのは金棒を片手にふんぞり返る学ランの少年と、巨大な筒を背負うブレザーの少女。一年半前の面影を残す花刈(はなかり)ジン太と紬屋雨(つむぎやウルル)が成長した霊圧を辺りに撒き散らしていた。

 

「浦原さんのトコのガキ共!? なんでこんな所に…!」

 

「ンなの店長に隠れてついて来たからに決まってんだろ! オマエん家の暴力女が抜け駆けしやがったからワザワザ出てきてやったんだ。感謝しろ!」

 

「…黒崎さん。私達がカリンちゃんに加勢します」

 

 三人が敵と対面する姿を見て、一護は息を呑む。

 拗ねながらも満更ではなさそうな夏梨と、彼女の左右に立つ浦原商店の少年少女。それはまるで自分とチャド達と同じ、仲間が共に強敵に挑む光景そのものだった。

 

 

「──僕もその子たちの力を保証するよ、黒崎」

 

 

 そこで、呆ける一護を新たな声が諭した。

 

「石田!? お前怪我は…」

 

滅却師(クインシー)はたとえ四肢が捥げようと戦える種族だ。君達が騒がしくしてくれたおかげで立て直す事ができたよ」

 

 霊弓を構えながら「君の短所も偶には役に立つ」と皮肉を吐くのは石田雨竜(いしだうりゅう)。あの青白い霊子糸の技で傷口を塞いだのか、この短時間で元の戦意を取り戻している。

 

 …そして最後に現れた二人の姿を目にし、一護は安堵と歓喜に頬が綻ぶのを堪えられなかった。

 

 

「黒崎くんっ!!」

 

 

 地上から宙へと駆け上がってくる栗毛の少女。

 数歩先の距離で感極まるように崩れ落ちた彼女──井上織姫(いのうえおりひめ)を一護は慌てて抱き支えた。

 

「あっぶねえ…! だっ、大丈夫か井上」

 

「よ"かった……黒崎くんが無事で…よがっだぁぁあぁ」

 

 胸元で号泣する仲間に思わずたじろぐ。だがそんな彼女の様子は、一護の心を奮い立たせる確かな希望だった。

 

 

「…一護、待たせた」

 

 

 そして、彼の希望はもう一つ。

 

「チャド…!」

 

「…すまない、ここしばらくの記憶が曖昧なんだ。言葉にし辛い…まるで自分が自分ではないような…」

 

 胸元を押さえ「あれが月島の能力か」と顔を歪めるのは、茶渡泰虎(さどやすとら)。正気を取り戻した親友が今一度、一護の背中を護る為に拳を握ってくれた。

 

「銀城……やはり一護を裏切ったんだな?」

 

 敵への怒りか、自身の不甲斐なさか。

 

「…黒崎くんの敵だったんだね、リルカちゃん」

 

 友を失う痛惜か、真っ直ぐな慕情か。

 

「これで不覚を取ったのは二度目だ。だけど三度目は無いと思え!」

 

 敗北の雪辱か、仲間への義憤か。

 茶渡が、井上が、石田が。一護を傷付けた敵へ静かな怒りの炎を叩き付ける。

 

 十七ヶ月の時を経て、かけがえのない仲間達が一堂に集ったのだ。

 

 

「────チッ、やってくれるぜ」

 

 

 ずらりと勢揃いした一護の援軍に、敵の首魁が悪態を吐く。

 

「術者が腑抜けたせいか……まさかブック・オブ・ジ・エンドが破られるとはな。こんな事は初めてだ」

 

「形勢逆転だな、銀城空吾」

 

 しかし石田の挑発を男の率いるXCUTIONは鼻で嗤った。

 

「…うわぁ、恥ずかしい。あいつら月島さん一人に壊滅したのもう忘れちゃってるよ」

 

「言ってはなりませんよ、雪緒さん。どのみち人も(ホロウ)も死神も、時の神の前では等しく無力なのですから」

 

「悪いね一護。あんた達の仲も深いんだろうけど、この程度の不利で崩れる程あたし達の絆も脆くないのよ」

 

「てめえらよくも月島さんを…! 許さねえ!!」

 

「…ふん」

 

 雪緒、沓澤ギリコ、ジャッキー、獅子河原、リルカ。一癖も二癖もある霊能力者集団が、一護達の前に立ち塞がる。

 

「……腹立つなあ…」

 

 そして、この男も。

 

「…何も知らないクセに"希望"だの"心の力"だの…揃いも揃ってバカな夢見やがって…」

 

「…ッ!」

 

 ゆらりと立ち上がった長身の青年。憔悴に目の隈をどす黒く染めた月島秀九郎(つきしましゅうくろう)が、息が詰まる程の殺意を放つ。

 仲間との絆を奪う悪夢を思い出し、思わず硬直する一護。

 

 

「──臆するな!」

 

 

 だがその時。身構える青年の背に、力強い声援が届いた。

 

「大丈夫だ。もう、やられはしない…!」

 

「そうだよ…この時のために力を磨いて来たんだから!」

 

「今度はあたしが護る番だ…っ!」

 

「死神として二年近いブランクがあるんだ。君は自分の心配をしろ」

 

 

 

「一護…!」

 

    「黒崎さん…っ」

 

 「黒崎くん!」

 

   「一兄っ!」

「黒崎…!」

 

 

 呼んでいる。家族が、仲間達が。俺の名前を…

 そこに込められた彼らの強い親愛を感じ、一護は感動に立ち尽くす。

 

「…そうだ、一護。たとえ何があろうと、お前が希望を捨てない限り──私達はいつだってお前と共にある!」

 

「ルキア…!」

 

 そして仕上げとばかりに、再会した相棒が渾身の言葉で青年の尻を引っ叩いた。

 

「奴等に見せてやれ、一護! 大切な者達の為に世界を救ってみせた、貴様の心の強さを!」

 

 

絶望では、貴様の足を   

 止められぬという事を!

 

 

 少女の鼓舞が胸を打つ。心が満ちる。力が溢れ出す。

 

 その背中にかつての覇気を取り戻した黒崎一護。

 斯くてもう一度。皆の想いに応えるため、青年は自らの力を振り下ろした。

 

「……ああ!」

 

 

 

 

── (げつ) () (てん) (しょう) ──

 

 

 

 

 右手の大刀を振るう彼の大きな後ろ姿は、その決意に相応しい…

 

 紛う事無き英雄そのものであった。

 

 

 

 

 




 

桃・梅・玉「ワクワク…ソワソワ…」

悦森陣営、各勢力のOSR値を調整中。
護廷十三隊の某一名とかこの巻のイキリ台詞から千年血戦篇での下落はんぱなかったからね…救済せねば(使命感

次回:バトルいっぱい

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。