雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせしました。昨日投稿するつもりがどうしてこうなった…
キャラを大勢動かす大変さを身に染みたろぼとです(青息吐息

これでもかなり削ったんだけど文量長くて済まぬ

 


全部…激闘さんが居たからじゃないか…!

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 死神の力を取り戻した黒崎一護。

 放たれた【月牙天衝(げつがてんしょう)】を前にXCUTIONの陣が散開。だが無防備な彼らを一護達が追撃した直後、二人の完現術師(フルブリンガー)が行動を起こす。

 

「あーあ、熱くなっちゃって。君達ここが現世だって忘れてない?」

 

鳴木市(ここ)で騒がれたら肩身が狭くなるのよ、あたし達みたいな霊界のお尋ね者はね…ッ!」

 

 

インヴェイダーズ

マスト・ダイ

 

 

ドール・ハウス

 

 

 金髪の少年雪緒(ゆきお)・ハンス・フォラルルベルナと、赤髪の少女毒ヶ峰(どくがみね)リルカ。二人の"愛用品"を起点とした空間系完現術(フルブリング)が、敵味方双方を一瞬で異界へと吸い込んだ。

 

 かくして戦闘は個同士のぶつかり合いへと推移する。

 

 

「なっ!? 何だよここ…!」

 

「しまった! ウルル!」

 

「──戦いは弱軍を各個撃破が基本だよね」

 

 無鉄砲に突っ込んだ夏梨(かりん)たち"空座防衛隊"の三人は、雪緒の能力によって分断され…

 

 

「いいぜ雪緒、ジャンジャン俺の所に連れて来い! この【ジャックポット・ナックル】で一撃粉砕して──って、お、おお女ァ!!?」

 

「あ、ジン太君の友達と同じハゲ……親近感…」

 

 RPG風の謎の空間を彷徨う紬屋雨(つむぎやウルル)は、待ち構えていた坊主頭の学ラン少年獅子河原萌笑(ししがわらもえ)と対面。

 

 

「…すまない、バカの黒崎を銀城のような切れ者と二人きりにしたら面倒な事になりそうだ。女性相手に手荒な事は避けたかったけど許してほしい」

 

「──ふっ、ハイスクールの坊やにしては随分紳士的じゃない。でも遠くからチマチマ矢で攻撃する卑怯者種族に短期決戦は荷が重いと思うけど?」

 

 沼地のステージに放り込まれた石田雨竜を迎えたのは、惜しげもなくピカピカの革ブーツを泥濘に沈ませる色黒の女ジャッキー・トリスタン。

 

 

「──ああ、先程の銀城サンの霊圧…! あれこそが私の求めたもの! こんな小娘さっさと殺して一秒でも早くあの力を我が手に…!」

 

「黒崎くんの力は黒崎くんのものです! あなたのものになんかさせません!」

 

 六花のヘアピンに力を籠める井上織姫は、焦がれるような声で騒ぐ初老の男沓澤(くつざわ)ギリコの撃破を目指し…

 

 

「──どうやら本当に僕の能力が掻き消されたみたいだね。つくづく理不尽な存在だよ、あいつは」

 

「…あんたは危険すぎる。一護の下へは絶対に行かせない…!」

 

 因縁の相手にして恐るべき強敵月島秀九郎(つきしましゅうくろう)との一騎打ちの機会を与えられたのは、並ならぬ信念を抱く一護の親友、茶渡泰虎。

 

 そして。

 

 

 

「…"死神代行制度の始まり"だと?」

 

 女死神、朽木ルキアが語った昔話に一護は驚く。

 

「かつて尸魂界は、ある人間を死神の代行者として取り立てた。だが奴は突然、同じ町の死神を殺して行方を晦ませた。貴様が現れる遥か前の出来事だ」

 

「俺の前の死神代行…」

 

「そうだ、一護。その罪人こそ、尸魂界への復讐のために貴様を利用した」

 

 

──初代死神代行──     

銀 城(ぎんじょう) 空 吾(くうご)

 

 

 直後、一護の【月牙天衝】が爆ぜた上空の中心。晴れる白煙の奥から一人の男が姿を現した。

 

「──礼を言うぜ、黒崎。お前の能力(ちから)を貰ってなけりゃ今頃俺は消し飛んでたところだ」

 

「なっ…!」

 

 その男が身に纏っていたのは、白い髑髏の鎧。(ホロウ)の因子を孕んだ霊圧を漲らせる彼の姿を見て、一護は思わず硬化する。

 

「さあ、仕切り直しだ。お前が信じる死神共に貰ったその力と、俺が奪ったてめえの"女神の加護"。どっちが本当に黒崎一護を強くしてたのか…

 

 てめえの体に教えてやるぜ!!」

 

 

 陰謀渦巻く完現術師(フルブリンガー)結社XCUTIONとの頂上決戦。

 

 屈辱に臍を噛む一護は、あの馴染み深い()()()を操る銀城空吾と激突した。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「だーっちくしょー! どんだけ続くんだこの廊下! 男なら正々堂々勝負しろや!」

 

「どうせ正面から勝てる自信がない腰抜けなんでしょ。あんたも雑魚の攻撃に手間取ってないでさっさとあの子供探すの手伝えバカ!」

 

「てめえの分もあのヘンなミサイル撃ち落としてやってんだよ! そっちこそさっさと敵見つけろコラ!」

 

「何だと!?」

 

「ヤんのか、あァん!?」

 

 デジタル風の通路を騒がしく走る少年少女。飛来する遠隔攻撃を共に迎撃しながら敵を探す夏梨(かりん)とジン太は、されど仲間とは思えない犬猿の仲だった。

 

 そんな二人の無自覚な挑発に、この空間の主が反応する。

 

 

「──『勝てる自信が無い』だって?」

 

 

 突然の声。振り向くと、廊下の突き当りに小柄な子供が立っていた。

 

「僕さぁ…君達みたいな身の程知らずなクソガキ、大っ嫌いなんだよね。…殺したくなるくらい」

 

「! 避けろカリン!」

 

「うわっ!?」

 

 ドロリと通路の壁面が溶解し、無数の黒い粘液弾を射出する。間一髪で回避した二人が見たその正体は、凶悪な歯を揃えた不定形の化物達だった。

 

「あははっ、知ってる? スライムって卓ゲー(オリジナル)だと本当は防御も速度も高い強キャラなんだよ。くだらない先入観で相手の力量を見誤る君達にうってつけの処刑人だよね」

 

「チッ、モンスター使いかよ」

 

「しまった、退路が…」

 

 狭い空間で前後から取り囲まれた夏梨とジン太。多勢の不利に顔を歪める二人を、少年はふてぶてしい笑顔で嬲り始めた。

 

 

【ブラック・ウーズ が あらわれた!】 さあ、戦闘開始だよ。僕のダンジョンから生きて出られるといいね、ふふっ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「へぇ、やるじゃない!」

 

「そっちこそ! まさかそんなに力が上昇するとはね…!」

 

 場は雪緒のゲーム空間の一つ、沼地での戦いに移る。

 泥海の真上を【飛廉脚(ひれんきゃく)】で駆けながら、石田雨竜は敵の女性が操る能力について思考を巡らせていた。

 

(霊圧、速度、筋力が上昇し続けている。恐れる程ではないが…原理が不明なのは問題だな)

 

 完現術(フルブリング)がモノの魂を引き出して戦う霊術だという事は聞いている。ならば相手の術の起点となっている物品を破壊すれば、不必要に彼女を傷付けずに終わらせられるだろう。

 

「考え事ばかりでつれないねえ! そぉら!」

 

「──!」

 

 更に速度を上げた女の一撃を慌てて回避する雨竜。やはりいつもより体が重い。【乱装天傀(らんそうてんがい)】で誤魔化しているが、月島に斬られた傷は確実に青年の士気を削いでいた。

 

「あんたに女を傷付ける趣味がないように、生憎あたしもお子様を甚振る趣味はないの。手負いなら猶更ね?」

 

「ッ…それで? お互い戦うつもりがないなら他が終わるまで停戦でもしようって算段かい?」

 

 挑発を交わし油断なく向き合う両者。敵の分析の時間を稼ごうとする雨竜だったが、巧者のジャッキーはそれに律儀に付き合う素人ではなかった。

 

「はっ、本気で言ってるの?」

 

「! 更に霊圧が…!」

 

「この世は弱肉強食よ。獣の掟が支配するこのクソッたれた世界を生き抜く方法は、ただ一つ」

 

──喰らう獲物の前では   

  遊びも慈悲も捨てる事よ

 

 

ダーティ・ブーツ

 

 

 闇色のガーターストッキング。黒い半面ベールに制帽。白いファーマフラー。

 全力形態のジャッキー・トリスタンの神速の蹴撃が、驚く雨竜の脳天へ襲い掛かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 緊張を増していく両陣営の戦闘。しかし友人と弟分と分断された紬屋(ウルル)の戦場は、奇しくも他とは異なる気の抜けたものだった。

 

 

「──オラオラ刮目しやがれ!」

 

 

ジャックポット

ナックル

 

 

 ドゴン!と人間離れした破壊音が響き、足元に巨大なクレーターができる。

 

「どうだ女ァ! こいつが俺の完現術(フルブリング)! 殴ったものに"確定急所"の現象を引き起こすスーパーラッキーなパンチだぜ!」

 

 こちらから目を逸らしながら「怖えだろォ!?」と大声で訊いてくる同年代くらいの男の子。だが獅子河原と名乗った彼の拳に敵意は感じられず、その尊大な振舞の意図が読めないウルルはとりあえず相手を褒めることにした。

 

「…えっと…凄いね?」

 

「────はぅっ!?」

 

 ジン太の友達は喜んでいたので同じ台詞を口にしたが、どうやらこの少年は傷付いてしまったらしい。まるで狙撃されたかのように吹っ飛び倒れ伏す彼を眺めながら、やはり男子の心の機微は難しいと愁眉を見せる中学二年生のウルル少女。

 

「ッ、否! いやいや! お、俺は負けねえ! 月島さんが苦しんでるのに舎弟の俺が気張らねえでどうするよ!」

 

 しばらく地面で伸びていた少年が震える足で立ち上がった。それでも戦意は依然として低いまま。ウルルは別な所で戦うカリン達の事が心配だったが、なんだかんだでジン太を信頼している彼女はこのまま獅子河原某をここに拘束しておく方が味方の利となると判断する。

 

 少年自身はこんなだが、能力は十分みんなの脅威足り得るのだから。

 

「オ、オ、オウ女! い、痛い目みたくなけりゃさっさと降参して家に帰んな! 次はこいつがてめえの腹にズドンだぜ!」

 

「…? 心配してくれるの?」

 

「はぅぅぅっ! マ、マブ…い…」

 

 小首を傾げるだけで消耗していく相手に戸惑いつつ、このまま勝手に倒れてくれないかなと願うウルル。(ホロウ)でもない人間に暴力を振るう気のない心優しい彼女は、さりとて無自覚な男殺しになりつつあった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 荒々しい破壊音が響く白い通路。【インヴェイダーズ・マスト・ダイ】の最奥部での戦いは、空間の主の優勢で進んでいた。

 

「──ほらほら、そっちは行き止まりだよー? やっちゃえ"ブラック・ウーズ"!」

 

 金髪の少年、雪緒の軽口が遠く聞こえる。痙攣する膝を何とか支え、黒崎夏梨は振り回されるスライムの触手攻撃を辛うじて回避する。

 

「くそっ…キリがねえ…!」

 

「あんたが…っ、真っ先に突っ込んであのドロドロに武器吞み込まれたからでしょうが…!」

 

「う、うるせえ! てめえこそヘナちょこシュートばっかで傷一つ付けられてねえだろバーカ!」

 

「なんだとぉ…!」

 

 この期に及んでなお互いに悪態ばかり吐く少年少女。しかし苛立ちをぶつけ合う二人の隙を敵は見逃さない。

 

「どこ見てるのさ、そーれ!」

 

「うわっ!?」

 

「なっ、おいバカ夏梨ッ!」

 

 注意が逸れた少女へ黒い触手の鞭が振り下ろされる。寸前で転がり逃れるも、壁に追い込まれた彼女はスライム達の追撃に無防備となっていた。

 

「あははは! 追ーいつめたー!」

 

「! しまっ──」

 

 体勢を立て直す間などない。豪速で迫りくる破城槌の如き分厚い粘塊に怯み、夏梨は咄嗟にギュッと目を閉じる。

 

 …ところが身構えた衝撃がいくら待とうと来ない。そして恐る恐る顔を上げた彼女は、眼前に現れた人影を見て息を呑んだ。

 

 

「──ジン太!?」

 

 

 両手足を広げ、スライムの突進を受け止める赤毛の少年。いがみ合っていた自分を身を挺して庇ってくれた花刈ジン太がそこにいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 雪緒と双璧を成すXCUTIONの空間系完現術師(フルブリンガー)、毒ヶ峰リルカ。彼女の能力により用意された広いデコレーション箱の中では、縮んだ小人同士の二つの戦闘が行われていた。

 

 その一角で眩い霊圧の光が激突する。

 

 

「おねがい椿鬼(つばき)っ!」

 

──孤天斬盾(こてんざんしゅん)──

 

 衝撃の余波をものともしない二人の男女の戦いは、その体の小ささとは真逆の、人の身に過ぎた神の力の対決だった。

 

「…なるほど。神の定めし領域を侵す貴女の能力と、神の定めし契約を遂げる私の能力。煩わしい弱者と侮っていましたが…実に興味深い勝負ですねェ」

 

 戦う片割れは沓澤ギリコ。月島から聞いていた相手の完現術(フルブリング)の詳細を思い出し、彼は微かな高揚感を覚えていた。

 対し敵の余裕に眉を顰めるのは井上織姫。この十七ヶ月の間に磨いた力で少女は再度の攻撃を敢行する。

 

「無駄だとお教えしたはずですよ? 井上サン」

 

「そんな…!」

 

 だが飛翔する彼女の霊光は男に命中すると同時に消滅した。

 

「先程、私の皮膚に『三十分の間に何らかの霊的脅威に晒された場合』その威力を0に減衰させる条件を"時の神"と交わしました。これより三十分間、貴女の攻撃は何一つとして私に届かない」

 

 誇らしげに自らの力を誇示する男に織姫は唇を噛む。

 

 沓澤ギリコの完現術(フルブリング)は、特定の制限時間を条件に対象へ様々な現象を引き起こさせるという凶悪な能力である。未知の力を前に少女は容易く相手の準備を許し、無敵の防御力を手にさせてしまった。

 

 しかし、彼女は諦めない。

 

「…この世に無敵なんてものはありません! あたしを舐めないで!」

 

「クク、無理に強い言葉を使って自らを鼓舞する。実に健気でいじらしい」

 

 そして勝利を確信した男が、愛用の懐中時計の時刻盤をもう一つ、その手に握る。自らの能力の起点たるそれが象る数字は、"6"。

 

 

「さて、どうやら神の力比べは私に軍配が上がったようですね。これ以上の時間の浪費は無意味。神の代弁者として、罰深き貴女を」

 

──時の炎による火刑で  

    葬って上げましょう

 

 

タイム・テルズ

ノー・ライズ

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……どうやらギリコの方も終わりみたいね」

 

 

 ファンシーな収納箱内にて続く、もう一つの戦い。

 遠くで戦う味方の霊圧から戦局を読み取った毒ヶ峰リルカは、知人の織姫の運命に胸を痛めながらも、努めて自分の敵へと意識を向ける。

 

「ま、最初からあの娘がギリコに勝てる可能性なんて万に一つもないケド……まさか死神のあんたまでこんな簡単に無力化できるなんてね──十三番隊副隊長の朽木ルキアさん?」

 

 そう嗤いながら見下ろす地に転がっているのは、小さな悪魔のぬいぐるみ。その口から零れる屈辱の声は先程まで彼女が戦っていた女死神のものだった。

 

「…くッ、おのれ…!」

 

「あら、かーわいっ。あたし達(フルブリンガー)をただの人間だと侮るからそうなんのよ」

 

 頑なに生者であるリルカへ剣を向けない相手に初見殺しの能力を回避する事など不可能。愛用の品に閉じ込めた無力な敵へ少女は勝ち誇る。

 

「…"ただの人間"か」

 

「何よ?」

 

「随分拘るのだな、己が普通ではない事に…」

 

 だが、女死神のその言葉にリルカは笑みを消す。

 

 

「…あたりまえでしょ」

 

 

 気付けば彼女は積年の鬱憤を敵へ吐露していた。

 

「あたしたちは"普通じゃない"から月島に出会えたし、"普通じゃない"から銀城に助けられた」

 

 それは完現術師(フルブリンガー)の真の姿。無力な大勢の"普通の人間"によって迫害された、弱肉。

 

 そう。彼女達は特別な力を持ちながら、喰われる立場にある者達だった。

 

「『弱肉強食』って言葉は、目くらましよ。『努力すれば強者になれる』って弱者に勘違いさせるためのね」

 

 その諺の本当の意味は個々人の能力的優劣による社会的勝敗ではない。何の才にも力にも恵まれなかった無能な"大多数"が、数を武器に特別な"少数"を食い殺す、真逆の意味なのだ。リルカはそう述べる。

 

 あたし達は、普通の人間ではない。

 

 

「家族も守れなかった自分の力になんの価値も見出せなかった奴」

 

磨き続けていたブーツは

 

 

 

弟の血で初めて汚れた 

 

 

 

「捨てられて、心も、力の使い方もねじ曲げてしまった奴」

 

親が我が子を     

「理想の子ではない」と

思う時        

 

(こども)あんた達(おや)を    

「理想の親ではない」と

思っている      

 

 

 

「力を使ううちに、自分は神の代弁者だと錯覚するようになった奴」

 

神への願いを撤回し  

反動で片目を失った時 

 

私はこの能力が神への

『祈り』ではなく   

『契約』なのだと知った

 

 

 

「バカな使い方をして、自分で勝手に孤立した奴」

 

あたしの能力を    

あの人がバラしたら  

どうなるか      

 

なんて、       

考えもしなかった   

 

 

 

 リルカ達XCUTIONの皆は、稀有にして優れた能力を持って生まれた、バラバラの弱肉だったのだ。

 

 

「…そんなあたし達の前に現れた奴が、銀城空吾」

 

「!」

 

 あの出会いの光景と共に、少女は男の台詞を想起する。

 

 

──今度は、俺達が

食い尽くす番だ

 

 

「あいつはそう言って希望を示してくれた。数と声だけが大きい"ただの人間"に喰われそうになってた、あたし達完現術師(フルブリンガー)に」

 

 王家、武家。歴史において人類は常に少数の側によって支配されてきた。

 今の世の中が無能に寛容すぎるんだ。銀城のその言葉は、このまま弱肉に甘んじるより遥かに甘美に聞こえた。

 

「おわかりかしら? あんたの言う"ただの人間"ってのは、あたし達を喰らおうとしてる"敵"を指す言葉なの。断じてあたし達じゃないわ」

 

 少女は足元に転がる悪魔のぬいぐるみを睥睨する。

 

「あたし達は戦うわよ。生きるために。自分が強者だと示すために。そしてあたし達に"ただの人間"で…弱者で居てほしがってる、あんた達尸魂界(ソウルソサエティ)ともね」

 

 一護や石田など、雪緒が隔離した敵の中には一筋縄ではいかない奴等がいる。早く仲間達の援軍に向かった方がいいだろう。そう少女は逸る。

 

「サヨナラ死神さん。命までは奪わないから、全部終わるまでそこで寝てなさい」

 

 そんな勝利宣言を突き付け、毒ヶ峰リルカは見下ろす死神へ【ラブ・ガン】の銃口を向けた。

 

 

 

 

 

 だがその時。

 

「…(そめ)(まい)

 

 

── (つき) (しろ) ──

 

 

「なっ!?」

 

 少女は、突如足元から聳え立った氷の柱に左足を捕らわれた。

 

 注視した足元にあったのは女死神の斬魄刀。即席の罠に誘い込まれたと知り、リルカは己の迂闊さを呪う。

 

「…正直に言う。お前達の気持ち、理解できぬ訳ではない」

 

「あんた…ッ」

 

 女死神──朽木ルキアは、流魂街での貧しい日々を思いながら顔を伏せる。彼女もまた、霊力という選ばれた力を持つ強者でありながら弱肉の立場に追いやられた者だった。

 

 だが。

 

 

「お前達への同情を理由に、仲間を見捨てる訳にはいかぬ!」

 

 

 そうだ。相手が人間だろうが何だろうが、そんな事は些細な問題。

 ルキアは過ちを認め、ぬいぐるみの身で立ち上がる。

 

「貴様がそうであるように、私もこんな所で終わる気はない。体を元に戻して貰おうか」

 

「ッ、なるほどね。"死の神"なんて偉そうな名を名乗る傲慢な連中に『潔く諦めろ』って言う方が無茶だったわ…!」

 

 逆転した状況に意固地になっているのか、リルカが思考を硬直させている。

 

 …ならばまずはその誤解を解いてやろう。

 

「言った筈だ、完現術師(フルブリンガー)。私が…私達が貴様らと戦う理由は、弱肉強食だの霊界の秩序だの、そんな本能や理性が定めた掟ではない」

 

「…!」

 

 そして朽木ルキアは肺を熱で満たし、全身全霊の覚悟を言葉に込めた。

 

「私達が剣を振るう理由はただ一つ。己の魂に絆を誓った…」

 

 

──大切な仲間を   

   護るためだ!

 

 

 その決意が紡がれた直後。

 

 まるで女死神の想いに応えるかの様に、二人が戦う収納箱の対角──井上織姫と沓澤ギリコの戦場から巨大な霊圧の奔流が噴出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「──ば、莫迦な…!」

 

 橙色に輝く光のドームに包まれた、栗毛の少女。満身創痍ながら確かに足で地を踏みしめる彼女を見て、沓澤ギリコは驚愕に声を裏返す。

 

「ありえない…! 時の神の怒りは絶対だ! 神罰の炎に焼き尽くされるはずの貴女が何故……何故生きている!?」

 

 同僚の完現術師(フルブリンガー)の能力すら支配下に置く【タイム・テルズ・ノー・ライズ】。その力が齎す最強にして最悪の効果は、契約破りによる存在の燃滅。

 だが全能の超常存在との厳格な契約を破って尚、目の前の女は五体満足で佇んでいた。

 

「…あなたは、大きな勘違いをしています」

 

「何だと…?」

 

 戦慄する男へ、少女──井上織姫は荒い息で答える。虚霊坤(ロスヴァリエス)での修行の成果か、全身を真っ黒に爛れさせた大火傷も一分足らずで掻き消えた。

 

「あなたはあたしとの戦いを…"神の力比べ"だと言いました。でもあたしの力はそんな神聖で、徳の高そうな力じゃありません」

 

 織姫はギリコへ語る。初めて自分の力の本質を知った、恐ろしい出会いの記憶を振り返りながら。

 

「…かつて、藍染という人があたしの能力をこう分析してました」

 

 

──神の領域を侵す力

 

 

 今もあの魔王との謁見を思い出す度に背筋が凍る。だが少女が得た情報はその恐怖に見合う対価だった。

 

「事象の拒絶。神の定めた事象の地平を乗り越える事。それがあたしの盾舜六花(しゅんしゅんりっか)の能力です」

 

「…まさか…!」

 

 主張の理屈を理解したのか、ギリコが怯える様に後退る。

 無論、藍染の崩姫(プリンセッサ)として多くの悲劇を経験した織姫に、彼を逃がす甘さも優しさも残っていない。

 

火無菊(ひなぎく)」 「梅厳(ばいごん)」 

「リリィ」 「椿鬼(つばき)

 

舜桜(しゅんおう)

 

 呼び掛けに応えてくれた髪留めの妖精たちが、膨大な霊圧の塊へと変じる。

 

「…ハ、ハッタリです! いくら攻撃の構えを見せようと、貴女が人間的に戦いを忌避してるのは調べが…ついて…」

 

 尻すぼみな男の声は織姫の覚悟の証。頭上に集結した五つの彗星が主の指示を待つ。

 

 かくして少女は、今までの弱く、護られるだけだった自分との決別を意味する特別な技を。

 想い人の敵へ叩きつけた。

 

「あなたが"時の神様"の力を遣うのなら…あたしは、その神様の定めた理を──拒絶します…ッ!」

 

 

── () (てん) (せん) (じゅん) ──

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 大地が砕け、霊圧が吹き荒れる。

 

 雪緒の完現術(フルブリング)空間内で行われている三つの戦闘。だがルキアの掛け声に応えるかのように、勝敗の天秤は一護の仲間達へと大きく傾きつつあった。

 

 

「──ご免なさい、ハゲの人。先を急ぎます」

 

「…マ、マブい……卑怯…な…」

 

 無機質な広間。争い跡が皆無な戦場にて、気の弱そうな美少女の不意打ちに無念にも膝を突くフェミニスト獅子河原。

 

 

「──どうやらその汚れたブーツが君の完現術(フルブリング)の依り代みたいだね」

 

「無傷…だって…!?」

 

 滝の如く降り注ぐ泥土の雨中。渾身の一撃を見舞ったジャッキーは、蹴られた場から微動だにしない青年の姿に目を見開いた。

 

「さて、滅却師(クインシー)が射程頼りの卑怯者…だったかい?」

 

「!」

 

 咄嗟に距離を取り、直後女は自身の短慮を悔やむ。後退する自分へ向け、敵が主力武器の霊弓を構えていた。

 

 そこに帯びる凄まじい霊圧を感じ、ジャッキー・トリスタンは敗北を悟らざるを得なかった。

 

「随分な評価だけど、本当の卑怯者ってのは

 黒崎(ひと)の心に付け込み、踏み躙る連中の事を言うものだよ」

 

 

── 神聖磔矢(ハイリッヒ・ヴェクター) ──

 

 

 

 

 …そして、彼らが戦うRPG風空間の中心部。主である雪緒・ハンス・フォラルルベルナが支配していた戦場も、予想を覆す展開へ。

 

 

「────ジン太っ!!」

 

 

 どす黒い血を口から零す赤毛の少年。スライムの攻撃から自分を庇ったフラフラの彼へ、黒崎夏梨は思わず縋りついた。

 

「ぐっ……か、ん違いすんな、暴力女…! てめえになんかあったら…テッサイの野郎がマジギレすんだよ…ッ」

 

「ジン太…あんた…」

 

 息も絶え絶えに意地を張る姿が痛ましい。そんな彼を支えながら少女はただ茫然と立ち尽くす。

 

「はっ! 何ソレ、ガキが一丁前にナイト気取り? カッコ付けちゃってバカみたい」

 

「……ッ」

 

「ほんっっとムカつくなぁ。素敵なパパやママやお兄ちゃんに散々可愛がられて…家族に守られて生きてきた甘ったれ共がくだらない美談演じてんなよ。反吐が出る」

 

 コツコツと、死の足音が二人の下へと近付く。気に食わない腐れ縁の女のために己を犠牲にしたジン太を蔑みながら。

 

 だが、そんな敵の嘲笑が、ぐちゃぐちゃに暴れる少女の心に炎を灯した。

 

 

「────うるさい」

 

 

 ああ、全く。あたしもこいつも、らしくないにも程がある。

 

 憤懣が胸の内で渦を巻く。それに呼応するように体の奥から力が湧き上がる。

 

「…! なんだ、お前…?」

 

 そして敵の困惑声を耳にした時。夏梨は自らの全身から立ち上る、異様な気配の霊圧に気が付いた。

 

 不思議と戸惑いはない。まるで最初から自分の手足の一つであったかのように、その力が何であるのか少女には理解できた。

 

「…おいで」

 

「なっ!? お前、まさか」

 

 本能に導かれるように遠くへ呼びかけた直後、不意に虚空から一つの球体が現れる。

 ソレを両手で掴み、慣れ親しんだツルツルの感触を確かめた夏梨は、一息にその()()()()()を空高く放り上げた。

 

「……別にあんたがどんな人生送って来たとか知らないけどさ」

 

「なに…?」

 

「そりゃ子供なのにあんな怪しい連中とつるまないといけないあんたと比べたら、あたしなんてずっと恵まれたクソガキなんだろうなってのはわかるよ」

 

 金髪の少年の台詞を振り返り、ボソボソと呟く夏梨。そして狼狽する彼へ「でも」と前置いて、少女はゆっくりと…右足を振り上げた。

 

「あんたがどれだけ可哀そうな奴でも…

 ──人の仲間(ダチ)を笑っていい事にはなんねーんだよッ!!」

 

 

 

スター・オブ

ブレイズンリング

 

 

 

 そして落ちてきた、太陽のように燃える愛用のサッカーボールを。

 

 黒崎夏梨は敵のスカした面へ思いっきり蹴っ飛ばした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…な…何よこれ…!」

 

 突然起きた周囲の霊圧の異変を感知し、リルカは信じられない思いで動揺する。

 彼女の【ドール・ハウス】の中ではギリコが。外ではジャッキー、獅子河原、そして雪緒の気配が一気に弱まった。

 

 その意味は、長年連れ添ったXCUTIONメンバーの敗北。

 

 

「──諦めろ、完現術師(フルブリンガー)。お前達の負けだ」

 

 

 唖然とするリルカの耳に、女死神の声が届く。味方の奮闘を当然のように信じ、眉一つ動かさない朽木ルキア。

 そんな彼女の様子に、まるで見せつけるかのように自分達の絆の強さを誇示する敵に、リルカは気圧される。

 

 これが、一護の仲間…

 

 

「……ってんじゃないわよ」

 

 グツグツと憤怒が湧き上がる。

 

 ふざけるな。勝利しか、栄光しか知らない死神風情が。

 幸運に恵まれた"表"の連中が。

 

「調子乗ってんじゃないわよ!!」

 

 感情に呼応し膨れ上がる霊圧。長年の暗い生活で培った筋金入りの反骨心が体を突き動かし、リルカは敵の大技で凍り付いた左足首を──強引に叩き割った。

 

「!? 莫迦者、何を…ッ!」

 

「ぐ…ぅぅっ…!!」

 

 激痛を噛み殺し、自由になった少女は死神を睨み付ける。動揺する女に少しだけ溜飲が下がった。

 

「…知ってるわ…あんた達の事。尸魂界(ソウルソサエティ)での戦いも…藍染惣右介との戦いも……どれだけの苦楽を共にしてきたかを…っ」

 

「お前…」

 

 月島の能力が元に戻り思い出した、黒崎一護の英雄譚。輝かしい活躍、友情の証。なるほど、確かにこいつ等の絆は掛け替えのない大切なものなのだろう。

 

 でも。

 

「キレイな景色しか見た事ないクセに…! ハッピーエンドしか経験してないクセに…っ!」

 

 こんな、挫折も屈辱も知らず、常に勝者として自分の幸せを欲しいままにしてきた奴等が。

 

 

「あたし達に勝った気になってんじゃないわよ!!」

 

 

 長さの足りない左足で必死に立ち上がる。流れ出る血潮、跳びそうになる意識。それでもリルカは戦意を失わない。

 

 負けたくない。自分達の絆こそが最強の強さなのだと豪語するこいつなんかに、「降参しろ」などとあたし達の絆をバカにする死神なんかに。

 

 

 霊なる力は、人の魂、すなわち想いに宿る。朽木ルキアの健闘に彼女の仲間達が立ち上がれたように。たとえ戦う相手や場所が異なろうと、人の心は繋がっている。

 

 そしてそれは……少女達XCUTIONも同じであった。

 

 

 

 

 

よく言った、リルカ

 

 

 

 

 

 その声が彼女の頭に響くのと同時。

 毒ヶ峰リルカは、どこからか飛来した()()()に…

 

 

 

 ──胸を穿たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「──チッ、あいつ等やられやがったか…」

 

 

 雪緒が自身の完現術(フルブリング)で用意した五つの隔離ステージ。その中で最も力を投じ強固に作られた舞台にて、二つの巨大な気配が衝突していた。

 

「はああああああッ!!」

 

「おっと」

 

 攻め続ける片割れ、黒崎一護は何度も始解の斬魄刀を振り下ろす。浦原喜助と尸魂界のお陰で取り戻した死神の力だ。

 だが、その太刀筋にかつての鋭さはない。

 

「どうした黒崎? 仲間が勝ってんのに浮かねえ顔だな…!」

 

「ハッ、てめえこそ味方がやられてんのに随分薄情じゃねえか! ()に戻って仲間を大事にする気持ちまで忘れやがったのか?」

 

 激しい剣幕を受け流し防御に徹する敵、銀城空吾。そんな男の意外な姿勢に一護は眉を顰める。

 

 …おかしい、押しているのは自分のはず。傷も向こうの方が圧倒的に多い。なのに何故奴の顔から余裕の色が消えない。

 

 本能が奏でる警鐘を無視し、青年は全力の袈裟斬りを振り下ろす。

 

「返して貰うぜ…俺の完現術(フルブリング)!!」

 

 だが彼の一撃は、突如霊圧を増した銀城の大剣に容易く弾かれた。

 

「違うな、黒崎。今はもう"俺のモン"だ」

 

「!? てめえ急に…!」

 

「腑抜けが。光の鎖(こいつ)に攻撃したらあの仮面の化身サマが傷付くとでも思ったか? そういう未練や甘さがてめえが何度も騙される理由だって──言っただろ!!」

 

「ぐあァッ!」

 

 骸骨の鎧を装備した銀城が、受け身の態勢から一転。繰り出された反撃を受け流せず一護は地面に叩きつけられた。

 

 痛みに悶える青年を見下ろし、銀城が周囲に漂う鎖を引き寄せ、弄ぶ。

 

「にしても意思を持つ完現術(フルブリング)ってのは面白えモンだな。斬魄刀のように認めさせるか屈服させるまで主に力を貸してはくれねえらしい」

 

「くっ…やめろ…! その人に手を出すな!」

 

 これまで消極的にこちらの攻撃を捌くばかりだった銀城。その間、奴の注意と意識が一体"何"に向いていたのか。男の台詞から一護は最悪の展開を想像する。

 

 それは不運にも、間違いではなかった。

 

「…クク、いいぜ…! 散々中で抵抗してくれやがったが、ようやく大人しくなったみてえだな」

 

「!?」

 

 ゾワリと銀城の霊圧の質が一変する。

 

 次の瞬間、周囲に渦巻く光の鎖が四方八方へ射出された。それらが向かう方角は一護の仲間達が戦う地。

 

 そしてその直後。

 光の鎖が伸びる先から、幾つもの巨大な光の竜巻が巻き起こった。

 

「この霊圧…リルカ達の…! 銀城てめえ何しやがった!!」

 

 だが問い質そうと声を上げた青年は、瞬時に絶句する。

 

 異変は一目瞭然。

 残った幾房の鎖が、一護の視線の先。銀城の頭上に集結し…

 

「…そん…な……」

 

 

 虚ろな瞳で俯く、仮面の割れた素顔を晒した──あの本好きの人と瓜二つの少女がその姿を象った。

 

 

「さぁて。おねんねは終わりだぜ、XCUTION(お前ら)

 

 

 

 

反撃の時間だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

次回:章最後のオサレ値稼ぎフェイズ

 
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