雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
長らくお待たせしました。
ようやく時間ができたので投稿&生存報告。
あまり話が進まないけどすまぬ…
次回はなるべく今月内に更新します。
***
「…さぁて、行くぜお前ら」
確か、あれらの中心にいたのは…
「まさか……くっ! 銀城てめえ、あいつ等に何しやがった!!」
遠目で状況を垣間見た
「相変わらず鈍い野郎だぜ。てめえの能力を奪われたってのに、まだ俺の
「!」
瞠目する一護を嗤う銀城。そして疑問の答えを見せ付ける様に、男が背後で浮遊する仮面の少女の髪を掴んで突き出した。
「俺の能力【クロス・オブ・スキャッフォルド】の真価は、首飾りを大剣に変化させる事じゃねえ」
そして譲渡する能力だ!
***
「凄い凄い、流石! この力の為に二年も準備した甲斐はあったよ!」
一護と銀城の戦いから離れた森林の一角。新たな力で敵を撃破した
「な、何…? 何が起きたの…?」
「…くそ……やられた…ッ」
少女は重傷の
夏梨が倒したはずの
「アハハッ! 惜しかったねクソガキ共。空吾の奴には随分待たされたけど、これで僕達の勝ちだ!」
愛用の携帯ゲーム機を片手で握り、青筋を立てた笑顔で近付いてくる金髪の少年。感じる力も気配もまるで別人のよう。挙句にこちらがやっと当てた新技の傷も綺麗に癒えている。
…そしてその変容は雪緒一人だけではなかった。
「おお! これが一護サンの
「そんな…っ」
「悪いね、坊や。これも
「…どうやらその様だね」
「ったく銀城の奴、"要らない"ってあたし言ったのに…!」
「! 貴様…ッ」
諸手を挙げて歓迎する者。願いの成就に歓喜する者。複雑な感情に顔を顰める者。それぞれの想いを胸に、一護の仲間達の奮戦で劣勢に追いやられていた
一同が銀城空吾が与えた力を受け取り、更なる強敵として生まれ変わったのだ。
***
敵の思わぬ強化に仲間達が動揺している最中。一護は明かされた銀城の能力の異質さに動揺していた。
「───能力の譲渡…」
「そうだ。だが【クロス・オブ・スキャッフォルド】の最も優れた所はソコじゃねえ。手にした能力をまるでパイのように切り分け、その性質を意のままに振り分けられる事だ」
一護は緊張に喉を鳴らす。
力を"封じる"ならまだしも、"奪い"、そして自在に霊力や特性を"分配"するなど、あの崩玉と融合した藍染惣右介でさえできなかった事。
純粋な破壊力に長けている訳ではないが、この男も間違いなく化物の一人。超越者の領域に立つ者だった。
「クク、流石は霊界の英雄サマ……いや、"女神の加護"ってか? まさかこの俺でさえ完全に制御できない規模の力だったとはな。過剰分だけでもギリコ達を予想以上に強化できた」
顔に喜色を滲ませる男が体の調子を確かめる。奴の片手の中で、髪を掴まれ宙吊りになっている仮面の少女が弱弱しく喘いだ。
「ッ、やめろ! その人を離せ!」
だが怒声を飛ばす一護を、銀城は不気味に笑った。
「
「なっ…!?」
一護は暴行を甘受している少女へ縋るように目を向ける。その瞳孔は開ききり、とても意識があるようには思えない。
「嘘……だろ……」
愕然と呆ける青年。
まさか。
本当に全部、この男の言う通り。
大切な相棒が、"人"として殺されたというのか。
「────ふざ…けんな…!!」
そんな事、信じない。信じて堪るか。
頭の奥で何かが切れ、ゾワリと胸の奥で
逆上。
湧き上がる力はこの日最大。憎悪に呑まれ、微塵の躊躇いもなく、一護は霊圧を帯びた全身全霊の【月牙天衝】を銀城へ振り下ろした。
だが。黒崎一護の全力の斬撃は、仮面の少女が変化した光の鎖に触れた瞬間。
──幻のように消失した。
***
「なん……だと……」
何だ今のは。何が起きた。
腕を下ろす事もできず、訳もわからないまま一護は強烈な脱力感に呑まれ立ち尽くした。
「言ったろう、間抜け。俺の能力は『相手の
「ぐあアッ!」
そんな隙だらけな彼を、銀城の無慈悲な一太刀が斬り伏せる。地面に倒れた青年を見下ろす男は、何かを振り返るように目を細め、不意にある話を語り出した。
「…ウチの
突然の"月島"の名に困惑する一護を余所に、男の話は続く。
「お前が空座町でヤミー・リヤルゴと戦った時。
「…ッ、何を…」
「実際こうしてお前の力を手にするまで確証は得られなかったが、俺は最初からある程度予想がついていた」
内なる
…それが、一護の【月牙天衝】が掻き消されたカラクリだった。
思えば前にも似たような事があった。藍染の命令で現世に現れた、もう一人の
【最後の月牙天衝】の会得修行で知った、己の斬魄刀と
「あ…」
そして、青年は気付く。
もし、そうなのだとしたら。先ほどからずっと胸の中で這い回っていた、この不穏な騒めきの正体は…
「────ぐッ!?」
その直後、一護は強烈な戦慄に襲われた。
「自覚した途端出やがったか」
「あ、ガ……まさ、か…ッ!」
体が硬直する。視界の端がじわじわと闇に浸食されていく。まるで自分自身が別のものに塗り替えられていくかの様な恐怖感。
…この感覚、忘れもしない。
「怒りで気付かなかったのか? 今のてめえが引き出してんのは斬魄刀の力じゃねえ。
「く、そっ…! なんで…ッ」
「『なんで』じゃねえよ。俺がてめえの中から封印を奪ったんだ。自由になった内なる
その言葉が一護の頭を殴る。今自分の身に起きているのは、かつてあの恩人の少女に言われた通りの事だった。
「ちく…しょう…! 返せ…ッ」
胸の中で暴れるナニカを必死に抑え、一護は銀城を睨む。
だが。
「らしくねえな、仲間の事より自分の心配かよ。…周りの状況から目ェ離してていいのか?」
「…!?」
「あいつ等────死ぬぜ?」
男の視線に促され背後を見渡した一護は、そこで繰り広げられていた戦闘に思わず青ざめた。
***
「──ホント油断したよ。あの黒崎一護の妹だもんね、そりゃ土壇場での隠し玉の一つや二つ持ってるだろうさ」
「く…あッ!」
負傷したジン太を庇って敵の攻撃に吹き飛ばされる黒崎夏梨。転がる二人を目当てに、復活した雪緒が悠然と近付いてくる。
「それにしても驚いたなぁ。まさか君の奥の手が
「ふる…ぶりんぐ…?」
全身の痛みに顔を歪めながら少女は問い返す。だが彼女がその単語の意味を知る間もなく、金髪の少年が大技の構えを見せた。
「だけどさ……僕達を舐めすぎなんだよお前らは!!」
「ぐっ!?」
「な、何コレ! 放せよっ!」
突然現れたピクセル状の黒い十字架に夏梨とジン太は拘束される。必死に足掻くもびくともしない。
「さっきはいい
雪緒の一声で、ゲーム内の多種多様なモンスターが現実に具現化し二人を取り囲んだ。
…そして少年の大技に呼応するように、彼の仲間達も続々と新たな能力を披露する──
「──丁度いい。新たな領域に至った我が時の神の力が如何程のものか、神の理から外れた貴女を相手に試させて貰いましょう」
「──多分あんたは一護の仲間の中でも別格に強いんでしょうけど、そう簡単に空吾の所に行けるなんて思わない事だね」
「──ゴメンね……なんか、こんなズルで終わらせるのヤだったんだけど」
ゲームボタンが刻まれた手袋状の操作端末。左右非対称の歪な装甲状の鎧。内燃機関をモチーフにしたファーコートとガーターブーツ。ハート型の手甲と胸甲…
それぞれの新形態の
戦局の天秤は、一気にひっくり返った。
***
「───しまっ…! お前ら!!」
状況を感知し、一護は吠える。だが内なる
「ハッ、情けねえなオイ!」
「がッ!?」
そして動けない一護へ銀城の追い打ちが襲い掛かる。
「せっかく死神の力を取り戻して、チャド達も月島の能力から解放されて一緒に戦ってくれてんのによ! 女神の加護が消えただけでこのザマだ! 仲間のピンチに駆け付ける事すら出来ねえ!」
「ぐああァァアアアァァッ!」
「理解できてるか、黒崎一護! 所詮てめえは藍染のオモチャだ! そうやって無様に俺にボコられてんのがてめえの本当の強さなんだよ!」
響き渡る敵の嗤い声が脳を揺さぶる。斬られる度に
だが嬲られる青年はしばらくして、ふと銀城の攻撃が止まっている事に気付く。
「……チッ、こんだけ追い込んでもダメか。このままじゃ本当に例の
小さく「お前は殺したくなかったんだがな」と呟く頭上の男。何かを振り払うように頭を左右に振った彼は、周囲で旋回する光の鎖を大きく操り、一護の全身へ巻き付かせた。
「あぐっ…!」
「これでお前の
能面のような表情を浮かべた銀城空吾が、得物の大剣を空へ擡げる。
逃げ場はなく、味方の助けもない、万事休す。
莫大な霊圧を纏うそれが自分の胸へ振り下ろされる様を、一護は茫然と見送った。
***
風が頬を撫でる。
袖を通した死覇装が翻る感触が手足を伝う。
痛みがない。衝撃もない。
…一体何が起きた?
戸惑いに急かされ、一護は眩い光の中で閉じていた瞼を開ける。
そして霞む視界一面に飛び込んできた光景に、青年は息を呑んだ。
「───久しぶりじゃねえか」
水平に聳える無数の蒼い摩天楼。その一つの壁面を足場に立つ一護の前に、いつぞやの真っ白な風体の青年がつまらなそうな顔で佇んでいた。
「どうした、"待望の瞬間"だぜ? もう少し嬉しそうな顔をしろよ」
相手の問いを無視し素早く辺りを見渡す一護。だがここに居る筈の他の二人は、やはり見当たらない。
彼にとってこの状況は二度目となる。自分が為さねばならない事を思い出し、一護は右手の斬魄刀を正眼に構えた。
「…あァ? 何のつもりだ?」
「惚けんじゃねえよ」
首を捻る白い自分へ、一護は静かな怒りをぶつける。
「斬月のおっさんがいないのも、今の俺の力がてめえ主導になったからだろ? なら前回の虚化修行の時と同じように、てめえを倒して、斬月のおっさんを復活させて……あの人を銀城から奪い返す!」
そうだ。俺には時間がない。
こんな鬱陶しい反逆者などさっさと倒して、苦戦する仲間達を、苦しんでいる相棒の少女を助けに行かなければならないのだ。
「………"助ける"?」
だがそう豪語する一護に対し、
「助けるって、誰をだ?」
「ふざけんじゃねえよ! 今までてめえを封印してくれてた俺の
そう吠えると、青年が呆れに鼻を鳴らした。
「なんだ。気付いてもねえのか」
「…ッ、何?」
「ったく、結局その鈍さは直らねえままかよ。相変わらずあの人はコイツに甘え…」
相手の反応にたじろぐ一護。それを見た当人が「あー…」と何かを諳んじるように開口した。
「剥き出しの本能で戦う俺と違い、てめえには心の力ってモンがあった。俺には理解できねえ代物だが…ソイツにこの俺を制御できる力があるのは事実。だからこそ、あの決戦前に俺の封印は一度だけ…あの人に解かれた」
「…お前…何言って…」
「てめえが生まれる前からてめえの力となる最強の
唐突に投げ掛けられたコイツらしくない肯定的な台詞に一護は益々困惑する。それはこの男自身の言葉と言うよりは、もう一人の住人の…
『────解らないか、一護』
その時。
白装束の青年の口から、懐かしい、低い男の声が響いた。
『…思い出せ、一護。彼女が何故、己の分身を"ここ"へ送り込んだのかを』
「!」
一護は息を呑む。そして驚く最中、相手の白死覇装の裾から黒い影が伸び…
あの決戦の瞬間に別れを交わした──黒ずくめの相棒がその姿を象った。
***
藍染惣右介を倒すべく編み出された最終奥義、【無月】。
黒崎一護の内に眠るあらゆる霊能の才を純粋な霊圧へと変換させ、文字通り自分自身を一つの月牙として消費した"最後の月牙天衝"。だが奇しくも彼の未熟な霊圧制御が功となり、全ての霊力が投じられる事はなかった。
その後残された力の残滓は一護の
斬魄刀の精神世界において再会した【斬月】は、一護にそう語った。
『…だが我等が復活を果たすには、もう一つ。お前が乗り越えるべき大きな犠牲が必要だった』
「!」
『…いや、犠牲と言うのは語弊がある。
再会の喜びを噛み締める間も無い。唐突に突き付けられた言葉にまさかと青褪める青年へ、斬月が憐憫の感情に目を細める。
そのお守りを大事にしてね
それは幼い頃の思い出。一人悲しみの雨に打たれる子供の俺にくれた、この精神世界に居るべき仮面の相棒を俺に遣わしてくれた、不思議な少女のおまじない。
あの梅雨の日の光景が、斬月の言う"消え去る運命"の言葉が、一つに繋がった。
「だ、だけどあの人は…俺の
未練に駆られ、一護は咄嗟に反論しようと声を上げる。だが斬月は静かに首を振った。
『違う。赤子のお前が己の力で身を滅ぼさぬよう施されたそれは、お前の成長と共にその役目を終えたのだ』
「役目…」
そう放心する彼へ、今度は白死覇装の青年がぶっきらぼうに補足した。
「最初に言ったはずだぜ、"待望の瞬間"だってよ。ずっとここに居た姐さんが消えたって事は、てめえが漸く認められたって意味だ」
"一人前"の王によ
それが、一護が長らく待ち望み、されどその裏に度し難い代償が隠れていた、真実だった。
斬月は言う。
彼女が一護に施した【
だが…
『にも拘わらず、彼女は銀城空吾の企みを見逃した。未来を見通すとされる、あの娘が』
「それ…って…」
一護は息を呑む。
『そうだ、一護。あの仮面の少女が彼女と同じ姿をしていたのも、姉のようにお前を慕っていたのも、そして銀城空吾に奪われたのも、全て……お前の持つ彼女への甘えを捨てさせる、最後の愛の鞭なのだ』
深々と心に突き刺さる言葉だった。
一護の人生に大きな影響を与えた、"ご本が好きなおねえちゃん"を自称する謎多き人物。思えば母の死を乗り越えられたのも、卍解や虚化修行を潜り抜けられたのも、藍染と対等に戦えたのも、その裏には必ず彼女の支えがあった。そして自分は戸惑いつつもその優しい手を受け取り続けた。
それを"甘え"と言われ、否と答える事などできる筈がない。
『銀城空吾の能力は、あらゆる
「…そん…な……」
銀城に奪われる寸前。仮面の少女が見せた涙が頭を過り、一護は沈痛に顔を歪ませる。
彼女は知っていたのだろうか。自分がいずれ消えなくてはならない存在である事を。だからこそ完現術として俺と共に虚退治をしていた時、あんなに楽しそうな声ではしゃいでいたのだろうか。
近付く必然の別れの時までに、貴重な思い出を少しでも多く、心から楽しもうと…
『項垂れている暇はないぞ、一護』
その時、不意に斬月が青年の握る大刀に触れた。
『あの少女を取り戻す事はできない。だが彼女の心を救う事ならできる』
「…ッ!」
瞬間、一護は弾かれるように顔を上げる。
『あの娘は己の運命を覚悟していた。だが敵に使役され主に牙を剥くなど、お前を護るために生み出された彼女にとっては何よりの屈辱だろう』
屈辱、確かにそうかもしれない。少女がこれまで自分にくれた善意の数々を思い起こし、一護は拳を握り締める。
『立ち上がれ、我等を担う者よ! もし、物言わぬ道具と化した彼女の名誉を守れる者がいるとすれば、それは一護…』
強い、貫くような鼓舞が胸を打つ。かつて同じように永遠の別れを覚悟した斬月の言葉。その重さを知らない者はここにはいない。
顔を上げた青年の目には、あの決戦の場で藍染惣右介を感嘆させた──
悲しみを背負う、真の強者の光が輝いていた。
次回 :
??「藍染倒せるくらい鍛えた!」