雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせしました
またあまり進まなかった…めんご♡
文字数増えすぎ病でワレキトク
 


全部…死神さんが居たからじゃないか…!

 

 

***

 

 

 

 

「……なっ!?」

 

 

 それは突然起きた。

 

 (ホロウ)へ堕ちる哀れな()()を救わんと、銀城空吾(ぎんじょうくうご)が振り下ろした大剣がその首を落とす寸前。青年──黒崎一護(くろさきいちご)の封じられている筈の右手が、男の慈悲の一撃を受け止めた。

 

「────ぐ…おォ…おおおッ!」

 

 封印の鎖に捕らわれている黒崎に抵抗できる術などない。だが感じる彼の霊圧は、封印の鎖を操る銀城すら怯ませる程の規模。

 

 

「銀城おおおおおおッッ!!」

 

 

 腹の底に響く咆哮と共に、巨大な光の渦が青年の体から噴出した。

 

「ッ、土壇場でいきなり覚醒すんのはてめえの持ち芸か? 完現術(フルブリング)の完成に続いて二度目となりゃァ"偶然"とは言えねえぞ…!」

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 咄嗟に距離を取ってしまった理由を誤魔化すように、銀城が軽口を叩く。

 繰り返される黒崎の、唐突で段階的な霊圧上昇。まるで抑え込んでいる蓋が一枚一枚外れていくかのような異常なそれが彼の力の底を推し量らせない。

 尸魂界(ソウルソサエティ)の隊長格達も、虚圏(ウェコムンド)十刃(エスパーダ)達も、そうやってこのガキに敗北したのだと銀城は部下の月島から訊いていた。

 

 それでも、男の目に浮かぶ余裕は未だ健在。

 

「…だが女神の封印(こいつ)を侮ったな、黒崎! てめえの力を抑え続けてたのは伊達じゃねえ! その場の感情の高ぶりで解けるような代物ならてめえはとっくに内なる虚に喰い尽くされてたんだからなァ!」

 

「ぐ、ううゥゥゥ…ッ!!」

 

 そう。あの月島秀九郎(つきしましゅうくろう)さえも震え上がらせ、恐らくこの世でただ一人黒崎一護の力を正確に把握しているであろう"守護女神"が、黒崎の力を封じる為に施した封印術。その札に偽りはない。

 

 

 そして今までそれに救われてきた一護自身も、あの"お守り"の力を身を以て理解させられていた。

 

 

「くそっ! 霊圧が抜けていく…ッ!」

 

『落ち着け、一護。此度の相手は力任せの戦いでは倒せんぞ…!』

 

 消えゆく仮面の少女への餞別、沈痛な覚悟を胸に戦意を取り戻した青年。だが彼の反撃は早々に躓いてしまう。

 

 斬月(ざんげつ)の忠告の通り、目の前の敵が操るのは、誰よりも一護を知り彼の身を案じ続けた少女の力。

 朽木白哉、ウルキオラ・シファー、そして藍染惣右介。これまでの強敵たちとの戦いを勝利に導いた切り札、内なる虚(ホワイト)の力では彼女の封印は破れない。

 

 そんな不利な状況を嘲笑うのは、その力の源たる白装束の男。

 

『クク、どうする王よ? このままじゃヤベェよなァ?』

 

「てめえ…ッ」

 

 鎖の拘束に足掻く一護は脳裏の相手に「状況わかってんのか」と噛みつく。対する答えは、実に奴らしいものだった。

 

『どのみち俺の力は姐さんの鎖に封じられて使えねえ。てめえも"一人前"になったんなら実力を証明してみせろ。俺の手助けナシのお前に何ができんのか…お手並み拝見と行こうじゃねえか!』

 

 愉しげにニヤニヤ嗤う(ホロウ)。彼の言う通り一護達はかつてない危機的状況にあった。

 

『…一護、お前も知っているだろう。【牙錠封印】は一度、崩玉により昇華したあの娘の調整を受けている。ただの死神ではなく、真の超越者と成った彼女のだ』

 

「!」

 

『気を付けろ。もし銀城空吾が奪った能力を完璧に制御できるのだとしたら、我々はあの藍染惣右介すら封じる程に強化された力を相手にしている事になる…!』

 

 斬月の言葉があの地獄の最終決戦を想起させ、一護は堪らず喉を鳴らす。

 

 それに、彼を捕らえる枷はもう一つ。

 

(感じる…あの人の気配を、まだ…!)

 

 そうだ。封印を破るとは即ち鎖を傷付け破壊する事。そんな事をすれば最悪、仮面の少女が消滅してしまう。

 別れの言葉一つ、言えないままに。

 

「ッ、このままじゃ…!」

 

 八方塞がりで身動き取れず、一護の胸内を絶望の炎が焦がしていく。

 

 …そして彼が手を拱いている間も、事態は更に悪化。

 

 

 

『──殺しはしないわ。終わるまでそこで寝てなさい』

 

「……くそっ」

 

 毒ヶ峰(どくがみね)リルカの不思議な術に霊圧を掻き乱され、無念に倒れ込む朽木ルキア。

 

 

 

「──時の神の力を纏う事とは即ち、この私自身が神になるも同然! さあ井上サン…時の神に代わり、この私が直接貴女に神罰を与えましょう!!」

 

「い、いやっ…!」

 

 全身を幻想的な劫火に包む沓澤(くつざわ)ギリコに腕を掴まれ、痛みに喘ぐ井上織姫(いのうえおりひめ)

 

 

 

「──おっと、言ったでしょ? そう簡単に仲間の所へは行かせないって…!」

 

「くっ、不味い…ッ!」

 

 速力に全てのリソースを注ぎ込み、妨害に徹するジャッキー・トリスタンから逃れられない石田雨竜(いしだうりゅう)

 

 

 

「──やっちゃえ、僕の【百鬼夜行(スタンピード)】! そのガキ共をめちゃくちゃのミンチにしてやるんだ!」

 

「ヤベぇ…!」

 

「ヒッ…!」

 

 雪緒(ゆきお)・ハンス・フォラルルベルナのモンスター軍勢に喰らい付かれる夏梨(かりん)とジン太。

 

 一護の視界の先には、遠くで戦う仲間達が傷付く光景が…

 

 

 

「お前ら…! 畜生ッ、放せ銀城!!」

 

 一護は動けぬ身で必死に叫ぶ。だが上げる咆哮も虚しく大気を震わせるだけ。

 

 最早一刻の猶予もない。一人前の証である筈の【牙錠封印】も越えられず。そうして自分は家族も仲間も護れずに、全てを失って──

 

 

 

「そろそろ目は覚めたか?」

 

 

 

 その時。

 不意に、嗤う銀城の声から嘲りの色が消えた。

 

「…馬鹿が。力を失った途端に捨てられたってのに、朽木ルキアや浦原喜助に一度助けられた程度ですぐ信頼しやがって。これだけの騒ぎが現世で起きてて、動いている勢力が俺達だけなのを少しは妙に思えよ」

 

「! な、に…?」

 

 どこか憐れむような奴の目を見て、焦燥に暴れる一護の心が一瞬、疑問符で埋まる。

 その僅かな隙間へ、続く銀城の言葉は驚くほど容易く入り込んだ。

 

「忘れたのか、黒崎? 現世におけるあらゆる霊的異変の対処に当たる筈の連中が誰なのか。本来守らなきゃなんねえ"人間"で、しかも藍染の一件で大恩のある"黒崎一護一派"を救わねえといけねえ、あの自称()()()調()()()共の事をよ」

 

「…!」

 

 瞠目する一護の前で、男が顔を憤怒に歪める。

 

「朽木ルキアと浦原喜助は、俺がお前の力を奪い、お前が無力に戻った直後に死神の力を渡した。俺には奴等のその…まるで『尸魂界(ソウルソサエティ)が恵んだ力で裏切り者(おれ)を倒せ』と言わんばかりの恩着せがましい傲慢な態度が──腹立たしくてなんねえ…ッ!」

 

 それは誰のものでもない、銀城自身の激情だった。

 

「……一護、目を覚ませ。尸魂界(ソウルソサエティ)がお前の死神の力を復活させたのは、お前への好意じゃねえ」

 

 

──目障りな死神代行(おれ)達を  

  共倒れさせてえからだ

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 初代死神代行・銀城空吾。

 

 始まりは善良な青年であった彼が、如何にして尸魂界(ソウルソサエティ)から"裏切り者"と呼ばれるまでに至ったか。この男の仲間思いな面を知る一護は、どこかで彼の豹変ぶりを疑問に思っていた。

 何故こいつはこんな事件を起こしたのか。尸魂界(ソウルソサエティ)をそんなに敵視しているのか。

 

 

「…皆…殺し…?」

 

 

 故に一護にとって、銀城の抱える闇は──仲間達の危機を目の当たりにして尚──唖然と立ち尽くしてしまうほど衝撃的なものだった。

 

「俺達に持たされたその代行証…『死神代行戦闘許可証』には、俺達とその周囲を監視し、盗聴し、霊圧を制限し分析する機能が仕込まれてる」

 

「!」

 

「ソイツを使われて、俺は尸魂界(ソウルソサエティ)にとって不都合な存在である完現術師(フルブリンガー)を一網打尽にする"撒き餌"に利用されたんだ」

 

 咄嗟に自分の懐から例の木彫り板を取り出す一護。以前、何の変哲もないソレから突如ルキアの声が聞こえた記憶が頭を過る。

 

「う、嘘だ…! そんな、虐殺なんて…あいつらがやるワケ…!」

 

「一護、俺達に代行証を渡した男は誰だ?」

 

「!!」

 

 絶句。

 その人物は一護が何度も親切にしてもらったルキアの上司で、柔和な笑顔の人格者。彼の地位は着こなす羽織が示す通り…

 

 

「──十三番隊隊長・浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)。この腐った死神代行制度を立案した責任者だ」

 

 

 それはかつての銀城と同じく、善良な青年である一護にとっても信じがたい話だった。

 

 男の怨嗟は止まらない。

 元より人間と死神には寿命と霊力の有無という隔絶した種族的差異がある。そのため尸魂界(ソウルソサエティ)の者達は本能的に人間を下に見る。

 故に──【死神代行】に限らず──そういった上下関係を脅かすイレギュラーには、妬嫉や侮蔑、恐怖を覚えるのが人の常。死神達の複雑な心境は、【死神代行】を現世のさまざまなトラブルに対応する現地戦力として重宝しつつも、組織的に管理しようとする警戒姿勢に強く現れていた。

 

「お前は藍染との戦いで協力してくれた死神共に恩を感じてるようだが、そもそもお前の仲間や家族が危険に晒された全責任は尸魂界(ソウルソサエティ)にあんだよ。連中がクソだから藍染は好き勝手暗躍し、浦原喜助は崩玉を生み出し、お前の母親は死に、妹達は危険に晒され、朽木ルキアは処刑されかけ、井上織姫は誘拐された」

 

「違う! てめえは藍染のヤバさを知らねえからそんな事言えるんだ!」

 

「そのヤベえ藍染も(ホロウ)も、普通に生きてりゃ絶対縁のないあの化け物共は、本来全部あいつら死神共が自分で対処しなきゃなんねえ敵だろうが。家族や仲間が居んならお前だけの命じゃあるまいに、連中の尻ぬぐいをさせられて何度死にかけたか忘れてんじゃねえよ」

 

 そう言い返され一護は押し黙る。

 だがそれでも必死に否定しようとする彼へ、銀城が平坦な声で問い掛けた。

 

「あいつ等は無力に苦しむお前をずっと捨て置いてきた。今だって俺達との戦いでお前らが死にそうになってるのに、元罪人の朽木ルキアを送っただけ。力を取り戻せたのも浦原喜助の懇願があったかららしいじゃねえか」

 

「…ッ」

 

「それが対等の仲間として見ている相手に対する誠意か? 世界を救った恩人に対する礼儀か? …わかってんのか、一護。お前はそういう連中を、共に戦った戦友だからと──盲目的に信じてるだけなんだよ」

 

 一護は答えられない。銀城の言葉が悪意に満ちたものだと理解して尚、それを否定する理性的根拠を持たない。

 

 そして、蒼白に俯く彼へ…銀城空吾は優しい声で、本心からの救いの手を差し出した。

 

 

 

「俺と組め、一護」

 

 

 

 ────は?

 

 一瞬、一護は何を言われたのか理解できなかった。あまりに突拍子もない言葉に思考が空白化する。

 

「…何……だって…?」

 

「お前は過去の俺だ。善意を死神共に付け込まれ、使い倒され、裏切られ、自分の弱さと間抜けさを呪って絶望する。まるで誰かに仕組まれたみてえに、俺達"死神代行"という人間は同じ運命を辿ろうとしてんだよ」

 

 痛ましげに溜息を吐く銀城。その目に先程までの敵意は無く、月島に皆が狂わされた中で一人だけ自分と共に戦ってくれた時の彼のような、仲間への強い思いが垣間見えた。

 

「銀城…お前…」

 

 困惑する一護。されど彼は男の真意を知って、同時に得心していた。

 

 以前から不思議に思っていた。戦闘中も妙にこちらを試し、惜しみ、案じるような事を呟いていた銀城空吾。「悪役は苦手なんだ」と零した完現術(フルブリング)修行後の彼の苦笑は未だ記憶に新しい。

 

「…一護、今ならまだ間に合う。お前が俺の復讐に協力してくれるなら、ギリコたちに攻撃を止めさせる。お前の妹達も、友達も、空座町も。俺達が無能な死神共に代わって守ってやる。勿論、お前の完現術(フルブリング)も…」

 

 

──あの仮面の女も  

   元に戻してやるよ

 

 

 それが甘い毒だと一護にはわかっていた。

 同時に、抗い難い希望だとも。仲間を、恩人を、家族を。護りたい者全てを護れる、巨大な罠だとも。

 

「気付け、一護。死神は…尸魂界(ソウルソサエティ)は俺たち完現術師(フルブリンガー)の存在を許さない。奴等の中で俺たち霊力を持つ人間は潜在的な敵だ」

 

 青年は目を伏せる。

 

 銀城空吾は悪人だ。月島に命じ、俺の大切な人達との絆を穢し、今も皆の命を奪おうとしている悪人。許し難い敵なのだ。

 

 だけど。

 

「…一護、共に行こう。俺達は分かり合える。痛みを分かち合えるはずなんだ」

 

 知ってしまった。

 納得してしまった。

 この孤独な男が何故、俺達と敵対しているのか。

 

 そして。黒崎一護という者は、一度でも心を通わせてしまった相手に情を抱いてしまう。そんな難儀で…

 

優しい男だった。

 

 

「俺は───」

 

 

 …だが。一護が銀城の誘いに答えを返そうとした、その瞬間。

 

 

 

 

 

───ったく、随分ベラベラ好き勝手   

 

     言ってくれやがったな

 

 

 

 

 

 二人の死神代行の間を別つように、業炎の巨壁が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「───あーあ、せっかくイイ所だったのにさ」

 

 

 強い熱風が肌をチリリと焦がす。

 雪緒(ゆきお)の不機嫌な声が耳へ届き、殺される寸前だった黒崎夏梨(くろさきかりん)は恐怖に閉じていた瞼を開けた。

 

「…え?」

 

 視界に飛び込んできた光景は、辺り一面に燃え盛る火の海。自分を磔にしていたピクセル状の十字架も消え、体が自由になっている。

 

 一体何が起きたのか。

 少女は焼け死ぬ敵のモンスター達の断末魔に怯みながら、背後から聞こえた二人の声の方へ恐る恐る振り向いた。

 

「おうおうパツキン坊主! ウチのきゃわいい末娘に何してくれんだ、あ"ァん?」

 

「いやァ~、子供の晴れ舞台に首を突っ込むヤボな真似は遠慮してたんスけどねえ」

 

 そこで彼女は、隣の花刈(はなかり)ジン太と共に唖然とする。

 

「…ヒゲ親父…!?」

 

「店長!?」

 

「応ともカリンちゃん! 我が黒崎家名物・モンスターペアレント一心(いっしん)様だぜ!」

 

「ダメっスよ、ジン太君。女の子のために大見得切って飛び出したなら、ちゃんと最後まで守ってあげないと~」

 

 豪快に「ワッハッハ!」と笑う父親と浦原商店店長のウザいおっさん二人。そんな日常の一コマを非日常の鉄火場で見た少女は目を白黒させるばかり。

 

 一兄(いちにい)の態度など断片的な情報から、このヒゲ親父が例の死神達と何か繋がりがあると察してはいた。しかし実際にあの"雪緒"とかいう強敵からあっさり自分達を救ってみせた彼の実力は流石の夏梨も容易く呑み込めない。

 

「あんた…なんで…」

 

 当然、夏梨にも眼前の父に問いたい事は山ほどあった。

 その右手の燃える日本刀は何なのか。浦原商店とはどういう関係なのか。そんなに強いなら何で今まで戦ってくれなかったのか。

 

 だが、彼女がそれらの問いを口にする事はなかった。

 

「…浦原、ここは頼む」

 

「いえいえ、今は息子さんが大事。"彼女"との接触はまたの機会を待ちますよ」

 

「……すまん」

 

 見た事もない父の真剣な顔に、息が詰まる。

 

 彼の意識の全てはこの場の上空。霊子の足場を駆使して敵の親玉と戦う、黒崎家のもう一人の問題児──

 

 

 

「俺の息子が随分世話になったな、銀城空吾…!」

 

 

 

 ──黒崎一護にあったのだから。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「親父…」

 

 炎の壁を通り抜けて現れたヒゲ面の男──黒崎一心(くろさきいっしん)を見て、一護は呆けた声を零す。藍染との一戦以来、いやあるいはそれ以前から長男の成長を陰ながら見守っていてくれた実の父が、動いた。

 

 一護はそこに確かな家族の絆を感じ、同時に放任主義の親が直接手を貸しに来るほど自分が非力で孤独に見えていた事実を恥じる。

 

 

「…なんだ、今頃出てきて救世主面か? ホントてめえら死神共はヒーローごっこが大好きだな」

 

 

 そんな青年の横で、銀城空吾が一心を鼻で嗤う。強力な敵の援軍に動揺の一つも見せない余裕は、彼の秘める手札の多さ故か。

 しかし、対する一心は男の失笑に頭をガシガシ掻き毟るのみ。

 

「うるせえ、こっちにも都合ってモンがあんだよ。()()()()()()()ヒーローってのは楽な仕事じゃねえんだ」

 

 渋面で「全部無駄になっちまったがな」と悪態吐くヒゲ男を、銀城が訝しむ。続きを顎で促す彼へ一心は絞り出すように語り始めた。

 

「…確かに一護が藍染の反乱に巻き込まれたのは俺達死神の責任だ。力を失ったこいつへの接触を断ったのも、その事でこいつが苦しんだのも、それを見て見ぬふりする事を決めたのもな」

 

「ほう?」

 

「"息子"ってのは意外と繊細なモンでな。特に一護(こいつ)は母親を目の前で失ってるからか人一倍『今度こそ俺がみんなを護る』っつーエゴが強え。自分のガキに平和で幸せな世で生きて欲しいって親の些細な願いすら伝わらん、バトルジャンキーの親不孝者なんだよ」

 

 二人の会話に思わず唇を噛む一護。隠していた本心を見抜かれていた事。親父なりに俺を思っていてくれた事。それらが十七ヶ月の無力の苦痛、完現術(フルブリング)を奪われた時の悲愴とせめぎ合い、ぐちゃぐちゃに混ざり合う。

 

 …そんな最中、一心の雰囲気が一変した。

 

 

「だがな、銀城空吾。お前は幾つかデケえ勘違いをしている」

 

 

 ピクリと眉を動かす大剣の完現術師(フルブリンガー)

 

「まず一つ。お前は尸魂界(ソウルソサエティ)が銀城空吾と黒崎一護の潰し合いを目論んでると考えてる様だが……悪いが今の上層部はお前みてえな過去の汚点に構っていられる余裕はねえんだ」

 

「…何だと?」

 

 しかめっ面の銀城へ、一心が一つずつ数えながら指を突き出す。

 

「二つ。護廷十三隊が動かねえのは、お前以上に重要な…つまり中央四十六室により多くの泥を塗った()()()()の尻尾を掴む為にずっと待機命令が下っていたからだ」

 

「…!」

 

 話が見えない一護は戸惑うも、相手の銀城は別。その意味に何か心当たりがあったのか男が徐々に目を見開いていく。

 

「んで三つ。お前の言う通り、本来護廷十三隊は四十六室の指示に忠実だ。どんな理由があろうと逆らう事は許されない」

 

 そう固い声で断言する一心。

 

 しかし不意に、彼が銀城から視線を隣へ移す。

 ニッと笑い掛けたのは、会話についていけない無垢な英雄。

 

「だが、その百万年の歴史を変えた奴がいる」

 

 

 

── お前だ、一護 ──

 

 

 

 父の微笑に、息子は思わずたじろいだ。

 

「俺の知る山本総隊長は、お前に死神の力を取り戻させる事を絶対に良しとしない。『人間への死神の力の譲渡』が尸魂界(ソウルソサエティ)における絶対の禁忌、人間と魂魄が別の世界で生きるようになった太古の昔からの"掟"だからだ」

 

 一護は以前戦ったルキアの義兄、朽木白哉の言葉を思い出す。妻の忘れ形見である義妹の死より優先せねばならない、絶対の法。

 

「お前はそれを変えたんだ。護廷十三隊の歴史そのものとまで称えられる最古の死神山本元柳斎重國(やまもとげんりゅうさいしげくに)の、何千年という護廷への忠義を、誇りを……黒崎一護という一人の人間がな」

 

 その言葉の重さを青年は知らない。だが一心の誇らしげに輝く瞳には何よりも強い実感が籠っているように見えた。

 

「模範にすべき全護廷隊隊長のトップが変わっちまったんなら、当然その下も変わるさ。あの頑固ジジイさえ掟に背いたんなら、俺達も……ってな?」

 

 そして、男の軽口が木霊した瞬間…

 

 

 

───大気が震えた。

 

 

 

「なっ!?」

 

「この霊圧の感じ…まさか…」

 

 一護も、石田ら仲間達も、XCUTIONの面々も。皆敵味方揃って暗い夜空の一点を見上げる。

 

 

 そこに浮かんで現れたのは、巨大な()()()()()

 

 

 そしてその奥にズラリと揃った死覇装の一団を見て、一心が勝気に笑った。

 

「そぅら、来たぜ? 『待機命令なんか知った事か』って…」

 

 

 

 

 

仲間との絆を疑われ   

  マジギレした馬鹿共が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

次回:月島さんのSAN値チェックその1

 
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